企業法務のご相談も受付中。お気軽にお問合わせください。
Severability Clause(可分性条項)
1. Severability Clause(可分性条項)って何?
日本法人や日本人間で日本語で作成する契約書ではほとんど見ない条項で、英文契約書(ここではビジネスでよく準拠法となるニューヨーク州やイングランド法を準拠法として英文で書かれた契約書をいいます)で一般的に入っている条項として、Severability Clause(可分性条項)があります。
一般条項の一つですので、大抵、分厚い契約書の最後のその他/一般条項(other provisions, miscellaneous, general provisions)の章にForce Majeure (不可抗力条項)等と一緒にちんまりと収まっています。
基本的にボイラープレート条項ですが、もちろん、具体的な文言は短いものから比較的長いものまでバリエーションがあります。
しかし、大まかな意味は同じです。
すなわち、「本契約のいずれかの条項が無効とされても、他の条項には影響を及ぼさない」として、契約書の一つの条項の無効により契約全体が無効とされてしまうことを防ぐものです。短い文例としては、例えば以下のように書かれます。
“In case any provision in this Agreement shall be held invalid, illegal or unenforceable, the validity, legality,
and enforceability of the remaining provisions shall not in any way be affected or impaired thereby.
2. なぜSeverability Clauseが置かれるの?
当事者は、もちろん、最初に契約書を作成するときには、時には弁護士を雇って、自己のリスクを減らすよう慎重に契約書の内容を詰めていきます。
しかし、契約書の全ての条項がいつまでも、どこの国や地域でも有効であるとは限りません。具体的には、以下のような場合があります。
(1)契約締結後の法令や判例の変更
契約締結後、法令等の変化により、契約書のある条項が無効になることが起こるかもしれません。
例としては、軍事転用可能な技術に関する契約で対象とされた事項が当事者国の法令で制限されることになったり、各国間の競争が問題となる物を対象とする契約において社会の変化に伴い当事者国の政府が政策を変更することになったりすることがイメージしやすいのではないでしょうか。
(2)契約が無効となっても存続すべき条項の存在
他に考えられる例としては、契約が無効となっても残しておきたい条項、例えば、賠償額の予定や守秘義務に関する規定などの存在です。
契約が履行不能になって終了した場合の処理を定めた規定(今話題になっている新型コロナウィルスのような例でイベントが中止になったような場合にいくらかの手数料を払って終了できるなどの規定が契約書にきちんと書いてあった場合など)や、契約当事者が契約に関する事項を秘密にしておきたいために置いた守秘義務規定は、むしろ、契約の他の条項が何らかの理由で消滅した場合にこそ生きていてほしい規定といえるでしょう。
(3)各国・地域の法令や判例の相違
複数の国の会社を相手方とするなど、広く海外との取引をしている会社が各国の相手方に対する共通の約款的な契約を用意しておきたいという場合、たとえ私的な当事者間で合意して契約を締結したとしても、そうした私的な当事者間の合意内容に優先する強行的な法規制が各国ごとに異なる内容で行われている可能性があり、ある国では有効だった条項も、他の国では無効とされることも考えられます。
そのような場合、国ごとの規制にあった個別の契約内容に修正し、個々に契約を締結していくことはもちろん可能ですが、あらかじめSeverability Clauseを入れておいて、最低限のリスクヘッジをしておくことも考えられます。
上記のような問題に対する考慮から、契約のある一部が無効とされた場合に、契約全体がドミノ倒しのように無効になることを防ぐため、ひとつひとつの条項は独立したものであり、ある条項が無効になっても他の条項には影響を及ぼさないようにするためにSeverability Clauseが置かれます。
3. Severability Clauseがないとどうなるの?
もし、公序違反等様々な理由で無効となった契約条項に係る事項が法令(民法等)で規定されている場合には、無効となった契約条項に代替して、該当する法令の原則が適用になる場合があるかもしれません。
しかし、英文契約を結ぶ場合は、相手方は外国法人(又はその日本の子会社等)・外国人であることが多いでしょう。そうすると、複数の国の法令が問題となってきますので、準拠法の規定の有無等によってはどこの国の法令の原則が適用になるのかが明白ではないことが予想されます。
無効となった契約条項がどちらかの当事者を債権者とする(又はどちらかの当事者に有利である)条項で、かつ、その契約条項が重要な契約条項の一つであるような場合には、この条項が無効とされることにより不利益を被る当事者は、これを好機と、契約全体の無効を主張してくるかもしれません。
このような場合に、いずれかの法令で違法、無効、又は強制不能とされた条項があっても他の条項は生き続けるというSeverability Clauseがあれば、その他の条項の有効性は維持されます。
4. 当事者の意思、裁判所の解釈
これまでは、契約書にseverability clauseを置くことを前提に話を進めてきました。
しかし、当事者の意思により、severability clauseを置かずに契約全体を一体として解釈したい場合もあります。
このような場合にはseverability clauseを置かないという選択をすることになります。
有名な例が、金融業関係者の多くがご存じであろうISDA Master Agreement(International Swaps and Derivatives
Association Master Agreement)です。
これは、デリバティブ取引に係るマスター契約で、デリバティブ取引を行う当事者間の多くがこのマスター契約を締結し、実際の取引をconfirmation(取引確認書)で規定するということをしていると思われます。
マスター契約の冒頭に、マスター契約と取引確認書は一体として一つの契約を構成すると規定されています。
デリバティブ契約では取引の現在価値が重要であり、一方当事者がデフォルトした場合には、契約全体を解除し、当事者間の全取引を時価で一括清算します。
両当事者にとって契約の一体性が重要であるという意思があるため、severability clauseは置かれていません。
わずかに、契約の終了後も債務は存続するという規定があるだけです。
また、契約の一体性に関する裁判所のアプローチもニューヨーク州と英国では異なるようです。
ニューヨーク州の裁判所は当事者の意思を重視し、severability clauseの有無をその判断要素の一つとするのに対し、英国の裁判所の場合には、当事者の意思にかかわらず、無効とされた条項を削除した場合に契約全体の意味に影響がなければ他の条項を有効とするが、契約全体の意味に影響する場合には契約全体を無効と判断する傾向があります。
国際スワップ・デリパティブ協会(ISDA)が作成した基本契約です。
既に取引がクローズしたものは当然含みません。
5. より良いSeverability Clauseの作成のために
上記1.では、もっともシンプルなSeverability Clauseの文例を挙げました。
Severability Clauseは、最初に触れたように、英文契約の一般条項ですので、英文契約を自分で作成する方々の中には、なかば惰性として、上記1.で文例として挙げたSeverability Clauseを含む英文契約の一般条項を他の英文契約書等からコピーペーストしておられるかも知れません。
しかし、契約書には様々なSeverability Clauseのバリエーションがあります。
契約内容や当事者の利益状況が複雑な場合には、シンプルで一般的なSeverability Clauseで足りるかどうかを具体的に考え、どのような文言とするのがベストかをその契約書の背景事実に合わせて決める必要があります。
シンプルで一般的なSeverability Clauseを規定した結果、自分の側に有利な条項が無効となり、他方当事者に有利な条項が生き残ってしまうということもあり得るのです。
そこで、たとえば、シンプルで一般的なSeverability Clauseのあとに続けて、「もし、ある条項の無効等が無効等により不利益を受ける当事者の責に帰すべき事由によらない場合には、その当事者は、他方当事者に対して、当該条項の無効等により生じる損害について請求することができる」といった条件の文言を置くことなども考えられます。
また、無効と判断された条項がその契約にとって重要な条項である場合には、Severabilityの例外として契約全体が無効となる旨を規定することもあります。
その場合、後日の紛争回避の為、残したい条項があれば条項数を明記しておくべきです。
更に、英米の裁判所は契約書のある条項を無効と判断する場合、多くは単に無効と判断するだけです。
従って、契約書のある条項が裁判所や仲裁機関で無効とされた場合、適法となるように当事者間で協議して修正する、あるいは、削除する、など、その後の条項の対処を規定しておくことも重要です。
ただし、その後の対処を規定しておいた規定がagreement to agree(合意することの合意)とみなされると、その規定も無効とされる可能性がありますので、書きぶりには注意が必要です。 agreement to agreeとは、日本の契約書ではよく見られる「~の場合には当事者間で誠実に協議する」等といった条項ですが、英文契約ではほとんど見られません。
何か紛争が起こったときには当事者は必要であれば自発的に両者で協議をするわけですし、そもそも協議では解決できない事項であれば法的手続等を執る必要があるわけで、英米の裁判所ではこのような条項は意味のないものとして無効とされる場合があるからです。
このように、一般条項であるseverability clause一つについても様々な考慮要素が含まれています。
契約の内容は千差万別ですから、Severability Clauseは一般条項だから他の契約書や英文契約の解説書の例文をそのまま引いてくればいいとは思わずに、その取引の性質にふさわしいSeverability Clauseの規定となっているかを考えるようにしてください。
弁護士等の専門家にご相談いただければ、これら専門家の豊富な経験から、severability clauseを置くことのメリット・デメリットを含め、両当事者の利益状況を考慮した規定をアドバイスしてくれるはずです。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています