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『最高人民法院による民事訴訟証拠に関する若干の規定』の改正についての紹介

2020年6月16日
『最高人民法院による民事訴訟証拠に関する若干の規定』の改正についての紹介

1.はじめに

最高人民法院は、2002年に公布されました「最高人民法院による民事訴訟証拠に関する若干の規定」(以下、「証拠規則」という。)を2020年5月1日に改正施行することを12月26日付けで公示しました(法釈〔2019〕19号)。
証拠規則は、2001年に最高人民法院審判委員会第1201回会議で制定され、2019年10月14日の第1777会議で改正が承認されたものです。

今回改正された証拠規則(以下、「本改正」という。)においては、当事者立証、証拠の調査収集と保全、立証期限と証拠の交換、証人尋問、証拠の審査認定等に関する内容が改正されています。
今回は、本改正の主な内容を説明します。

2.「書証提出命令」制度について

中国における民事裁判活動は、事件の事実調査を行うことで、客観的な事実を判明させることを目標としています。
ところで、当事者の証拠収集能力が不足している、又は収集ルートが限られている場合には、当該目標の達成を阻害する重大な要因となります。
本改正は、「最高人民法院による民事訴訟法律に関する解釈」に基づき、「証拠書類提出命令」(以下、「書証提出命令」という。)の申請条件、審査手続き、書証提出義務範囲及び書証提出命令を遵守しない場合の措置について規定し、「書証提出命令」制度を完備しました。同時に、録音録画等の資料及び電子データを「書証提出命令」の適用範囲に入れました。

「書類提出命令」とは、書類の証拠が相手方当事者の支配下にある場合、立証責任を負う当事者が立証期間満了前に書面にて裁判所に申立てを行うことができ、申立理由が成立する場合には、裁判所が相手方当事者に証拠提出を求める命令を下すこといいます。

本改正第95条により、一方の当事者が証拠を保有しているにもかかわらず、正当な理由なく証拠の提出を拒否した場合には、事実についての立証責任を負う当事者は、当該証拠の内容が相手の当事者に不利に働くことを主張すれば、裁判官は当該事実の存在を推定することができます。

3. 当事者の認容のルールについて

当事者の認容について、民事訴訟に関連する規定により、以下の内容が法定されました。

民事訴訟の過程において、一方当事者が他方当事者の陳述した事件の事実について明確に認めた場合、他方当事者は当該事実の立証を必要するがなくなりました。
但し、身分関係に係る事件は、この限りではありません。
一方当事者の陳述した事実について、他方当事者が肯定も否定もせず、裁判官から十分に説明、尋問された後も、依然として認否を明確にしなかった場合、当該事実を認めたとみなされます。

当事者が訴訟代理人を立てた場合、代理人の認否は当事者の認否とみなされます。
但し、特別授権を受けていない代理人による事実の認否が相手方の訴訟上の請求を直接認容してしまう場合には、この限りではありません。
当事者が訴訟に立ち会っていながら代理人が認否を示さなかった場合は、当事者が認容したとみなされます。

当事者が法廷で口頭弁論終結前に相手方当事者の同意を得たか、又はその認容が脅迫を受け或いは重大な錯誤によりなされたものであり、かつ事実に合致しないことを証明する十分な証拠を当事者が提出できた場合には、当事者は認容を撤回することができます。

上記の上で、本改正は当事者の認容のルールを以下のように補充しています。

本改正第5条により、訴訟代理人による認容について、訴訟代理人が特別授権を得ているか否かにかかわらず、委任状にて明確に除外されている事項を除き、訴訟代理人による認容を当事者本人による認容とみなします。
但し、当事者が法廷に立ち会い訴訟代理人の認容を明示的に否定する場合、当事者本人の認容とはみなされません。

本改正第7条により、当事者のいずれかが、相手方当事者に不利である事実を主張した時、その事実又は承認の追加条件に制限がある場合には、裁判官は事件を総合的に考慮して当該当事者の承認を認容とするかどうかを決定します。

つまり、裁判官が自由裁量権により、当該当事者の承認を認容とするかどうかを決定できますが、一方で、相手の当事者は、その決定に異議を申し立てるかもしれません。

本改正第9条により、当事者による認容撤回の条件を適宜緩和し、当事者は脅迫を受け又は重大な錯誤によりなした認容に対して、認容の内容を取り消すことができます。

4. 誓約制度について

本改正は、当事者、証人による誓約書、鑑定人による誓約制度、当事者や証人による虚偽の陳述及び鑑定人による虚偽の鑑定に対する制裁措置を整備し、民事訴訟における信義誠実の原則を徹底させることとしました。

本改正第65条により、裁判官は、当事者に尋問する前に、当該当事者に誓約書に署名させ、かつ、誓約書を朗読するよう命じるものとしています。
当該誓約書には、真実を陳述することを誓約する旨を明確に記載するものとし、虚偽、隠蔽、歪曲、誇張等の陳述がある場合についても処罰することを明確に記載するものとしています。
当事者は、当該誓約書に署名、捺印するものとし、当事者が正当な理由により誓約書を朗読することができない場合には、法廷の記録係りが誓約書の内容を朗読し、かつ説明するものとしています。

本改正第71条により、裁判官は証人に尋問する前に、当該証人に誓約書に署名させ、かつ、誓約書を朗読するよう命じるものとしています。
証人が誓約書に署名し又は誓約書を朗読することを拒否した場合には、証人に尋問を行うことはできず、当事者は関連費用を負担しなければなりません。

本改正第33条により、裁判官は鑑定人に質問する前に、当該鑑定人に誓約書に署名するよう命じるものとしています。
当該誓約書は、鑑定人が鑑定結果の客観性、公正性、真実性を保証すること及び出廷して証言する旨を明確に記載するものとし、虚偽の鑑定結果があった場合についての処罰も明確に記載するものとしています。

民事訴訟における信義誠実の原則を徹底させるために、本改正は、当事者、証人が故意に虚偽の陳述を行った場合及や鑑定人が故意に虚偽の鑑定を行った場合に対する処罰措置を定めていえます。

5. 電子データについて

本改正は、電子データの範囲、電子データの当事者による提供方法及び裁判所による調査収集方法、保全方法、電子データの審査判断規則等について定めています。

本改正第14条により、電子データには、ウェブページ、ブログ、マイクロブログ等インターネットプラットフォームで発信された情報、携帯電話のショートメッセージ、電子メール、インスタントメッセージ、グループ通信等ウェブアプリケーションサービスを介した通信情報、ユーザー登録情報、本人認証情報、電子取引記録、通信記録、ログイン履歴等の情報、ファイル、写真、オーディオ、ビデオ、デジタル証明書、コンピュータープログラム等電子文書、その他デジタル形式で保存、処理、伝達された事実を証明できる情報が含まれます。

本改正第16条により、当事者が録音録画等の資料を証拠とする場合、当該資料を格納する原記録媒体を提供しなければならない。
当事者が電子データを証拠とする場合、原本を提供しなければならない。
電子データの作成者が作成した原本と一致する副本または電子データから直接派生した印刷物または表示・識別できるその他の出力媒体は、電子データの原本とみなすことができます。

裁判官は、電子データの真実性に対して、電子データの保存、処理、伝達の際に依拠したコンピューターシステムのハードウェア、ソフトウェアの環境が完全であったか、信頼できるものであるか等7つの要素を踏まえて総合的に判断するものとしています。
電子データの内容について公証機関による公証認証手続きを経ている場合には、裁判官はその真実性を認めることとするが、反証によって覆すことができます。

6.まとめ

中国における民事訴訟において、当事者にとっては証拠をどうやって収集、提出するか、裁判官にとっては証拠をどうやって判断するかは、結論を左右する大切なポイントだといえる。
今回の改正は、裁判所による事件事実の正確な認定、民事事件の公正・適切な審理を保証し、当事者の裁判権を保障し、かつ審理の円滑化を実現するために、「中華人民共和国民事訴訟法」などの関係法律の規定により、民事裁判の経験及び現状を踏まえ、証拠について規定したものです。

日本企業のような外国企業も、中国において公正な裁判を受けることができることが、法的に明確になったといえます。
例えば、当事者が裁判所に提出する証拠が中華人民共和国域外で形成されたものである場合、当該証拠は、所在国の公認機関による認証を経て、かつ、当該国における中華人民共和国大使館・領事館の認証を得たか又は中華人民共和国と当該所在国との間に締結された関係条約に定めた証明手続きを履行しなければなりません。
当事者が裁判所に外国語の書証又は外国語の説明資料を提出する場合には、中国語の訳文を添えなければなりません。

※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

ベリーベスト 法律事務所弁護士編集部
ベリーべスト法律事務所に所属し、企業法務分野に注力している弁護士です。ベリーベスト法律事務所は、弁護士、税理士、弁理士、司法書士、社会保険労務士、中国弁護士(律師)、それぞれの専門分野を活かし、クオリティーの高いリーガルサービスの提供を全国に提供している専門家の集団。中国、ミャンマーをはじめとする海外拠点、世界各国の有力な専門家とのネットワークを生かしてボーダレスに問題解決を行うことができることも特徴のひとつ。依頼者様の抱える問題に応じて編成した専門家チームが、「お客様の最高のパートナーでありたい。」という理念を胸に、所員一丸となってひたむきにお客様の問題解決に取り組んでいる。
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