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退職代行を使われたときの流れとは?弁護士に相談するメリットを解説
近年、企業に雇用される従業員をターゲットにした退職代行サービスが普及しています。
「お世話になった会社に退職希望の話を言い出しにくい」など、退職希望の旨を直接伝えることができない労働者にとっては使い勝手が良いサービスです。
これに対して、雇用関係にあるはずの労働者本人と直接会話をする機会を設けることなく退職手続きに応じなければいけない会社側にとっては腑に落ちない点も少なくはないでしょう。
そこで今回は、従業員や部下に退職代行業者を使われた経営者や人事担当者の方のために、次の事項について分かりやすく解説します。
- 退職代行とは
- 退職代行を使われたときの企業側の対応
- 従業員に退職代行を使われたときの注意点
退職代行が介入した退職手続きには注意事項が少なくありません。
関係法令や就業規則等への違反を回避して円滑に退職代行業者へ対応するために、必ず労使紛争などの実績豊富な弁護士までご相談ください。
1. 退職代行とは
退職代行とは、「労働者本人に代わって勤務先に対して退職を希望する旨を伝えたり、退職に必要な事務処理手続きを担当する代行サービス・代行業者」のことです。
「会社に対して自分の口から直接退職意思を伝えるのが怖い」「労働者本人が退職しようとしても上司に引き止められてブラック企業から抜け出せずに困っている」など、退職意思を直接伝えにくいと感じる退職希望者のニーズを満たすために活用されます。
(1)退職代行の流れ
退職代行業者を利用されたときに会社側が履践すべき手続きの流れは以下の通りです。
- 退職代行業者の資格や身分を確認する
- 退職希望意思を示しているとされる従業員本人による依頼かを確認する
- 就業規則や関連法令、雇用契約書を確認したうえで、従業員の退職日を確定する
- 従業員側(退職代行)に退職届の提出を依頼する
- 退職届を受理する、貸与品を返還してもらう
使用者の中には、「雇用していた本人以外の退職申し出は信用できないから受理しない方が良いのではないか」「今までお世話になったのに自分自身で退職の話を持ち込まないのは納得できない」という方もいらっしゃるでしょう。
しかし、退職代行による退職の申入れが民法などの法令及び就業規則を遵守した適法な手段によって行われた場合には、会社としては原則として退職手続きに対応しなければいけません。
なぜなら、仮に正社員のような「期間の定めのない雇用契約」であったとしても、各当事者はいつでも雇用契約の解約申入れをできるとされているからです(民法第627条第1項本文)。
以上を踏まえると、会社側としては納得できないところがあるかもしれませんが、退職代行業者から連絡があったときには、法令及び就業規則の規定に違反しているか否かを精査したうえで、所定の退職手続きを履践する必要があると考えられます。
2. 退職代行を使われたときの企業側の対応
従業員に退職代行を使われたときに企業側が検討するべき対応は次の2つです。
- 退職代行への対応を弁護士に任せる
- 退職代行を使った従業員に対して法的措置を検討する
退職代行を経由した退職手続きにはさまざまな注意事項が存在します。
企業経営に支障が生じたり、退職手続き後に想定外のトラブルが発生したりすることを回避するためにも、会社側だけの独自判断で退職代行に対応するのは避けるべきでしょう。
(1)退職代行への対応を弁護士に任せる
退職代行業者から連絡があったとき、一方的に無視をしたり、逆に、何の疑いもなく退職代行業者側の申し出をそのまま受け入れてはいけません。
なぜなら、従業員の退職手続き(雇用契約の解約申入れ)にはさまざまな注意点が存在するからです。
例えば、労働者本人からの依頼に基づかずに勝手に代理人を装って退職代行業者が退職申込みをしてきたのに、これに気付くことなく退職手続きを勝手に進めてしまうと、企業側が後々損害賠償責任を問われかねません。
したがって、さまざまなリスクヘッジをしながら退職代行への円滑な対応を希望するなら、労使紛争・労働問題に強い弁護士に相談するべきでしょう。
(2)退職代行を使った従業員に対して法的措置を検討する
例えば、重大なプロジェクトの責任者などがいきなり退職代行を使って出勤を拒否したようなケースでは、企業側に経済的な損失が生じる可能性があります。
このような事案では、当該従業員に対して損害賠償請求をするなどの法的措置を実施するのも選択肢のひとつです。
ただし、企業側が被った経済的損失をたった1人の従業員に請求したところで確実に回収できるとは限りません。
そのため、最終的には民事訴訟や強制執行等の法的措置を視野に入れるとしても、最初は当該従業員や退職代行業者との話し合いからスタートして、常識的な妥協点を目指す必要があると考えられます。
退職意思を直接伝えようとしない退職希望者との間で会社側がいきなり直接的な交渉を進めようとしても応じてもらえる可能性は低いので、交渉・法的措置などについて幅広く対応できる弁護士までご相談ください。
3. 従業員に退職代行を使われたときの注意点
従業員に退職代行を使われたときには以下7点に注意が必要です。
- 委任状の有無を確認する
- 退職代行業者が弁護士資格を有するか確認する
- 雇用契約の内容に注意する
- 有給の取扱いに注意する
- 引き継ぎや備品の返却を求める
- 退職希望者本人に圧力をかけない
- 従業員が退職した後の業務体制を速やかに整える
このように、退職代行が介在する退職手続きにはさまざまな注意事項が存在するので、企業側独自の判断で勝手に対応するのではなく、必ず労使トラブルの経験豊富な法律事務所までお問い合わせください。
(1)委任状の有無を確認する
まずは、退職代行業者が従業員本人から退職代行について本当に代理権を付与されているかを確認する必要があります。
なぜなら、代理権を有さない退職代行業者の行う行為は「無権代理」に該当する違法行為だからです。
例えば、従業員本人の顕名が付された委任状や、従業員本人の運転免許証・社会保険証などのコピーなどを有しているかをご確認ください。
(2)退職代行業者が弁護士資格を有するか確認する
次に、退職代行業者が弁護士資格を有しているかを確認しなければいけません。
なぜなら、退職手続きを代理したり、残業代の処理・未消化の有給休暇の扱いについて会社側と交渉したりするには、弁護士資格が必要だからです。
弁護士資格未保有者によるこれらの代理行為は「非弁行為」に該当する違法行為です(弁護士法第72条)。
退職代行業者が非弁行為に手を染めて後に逮捕されると、会社側も事情聴取などへの対応に迫られます。
したがって、退職代行業者から連絡があったときには、当該業者のHPなどをチェックして弁護士資格を有する旨が掲載されているかを確認しましょう。
日本弁護士連合会のHPには、現在登録されているすべての弁護士の電話番号やFAX番号が記載されているので、当該業者が弁護士資格を有しているか確認できます。
(3)雇用契約の内容に注意する
退職代行側から提示された退職希望日を受け入れるかどうかを判断するにあたって、以下の事項を確認する必要があります。
- 退職希望者を雇用する際に締結した雇用契約・労働契約の内容
- 雇用契約について期間の定めがあるのか否か
- 就業規則における退職日の取扱い
- 当該従業員が現段階で退職することで通常業務が逼迫するか否か
例えば、就業規則において「退職の旨は2カ月前までに申告すること」と定めているのなら、就業規則の定めを根拠に当該従業員または退職代行業者との間で退職時期について交渉をするのも選択肢のひとつでしょう。
(4)有給の取扱いに注意する
未消化の有給休暇が残っている場合であり、かつ、退職希望者側が有給消化を希望しているときには、企業側は有休の取得を拒絶できません。
なぜなら、退職代行業者が介在するか否かにかかわらず、従業員には年次有休休暇を取得する権利が与えられているからです(労働基準法第39条各項)。
例えば、「退職代行に依頼するなんて許せない」と感情的になって有休分の賃金を支払わずに当該従業員を退職させてしまうと、後から未払い賃金について賠償請求を行われる危険性が。
(5)引き継ぎや備品の返却を求める
退職代行業者が代理人として登場したとしても、退職意向を受け入れるのならば通常通りの退職手続きを履践することになります。
例えば、引き継ぎ事項が存在するなら当該従業員に引き継ぎ業務を求めましょう。
引き継ぎ拒否によって会社に損害が生じた場合には、退職希望者に対して損害賠償請求することも可能です。
また、制服や社内マニュアル、その他貸し出した備品などがあるのなら、これらの返却も求めてください。
(6)退職希望者本人に圧力をかけない
弁護士資格を有する退職代行業者が各種法令を遵守しながら雇用契約の解約申入れをしてきたときには、原則として退職代行業者が交渉などの窓口になります。
退職代行業者が提示する書面には業者自身が連絡窓口になることや本人に対する直接連絡を避けて欲しいなどの旨が記載されているのが一般的です。
そのため、退職代行業者が介入した以上、業者を無視して退職希望者本人に執拗に電話連絡を入れたり、脅しとも受け取られかねないメッセージなどを送付するのは止めてください。
例えば、退職時期の交渉や引き継ぎに関する事務連絡等については、「まずは退職代行業者に連絡を入れたうえで、必要であれば本人と直接やり取りできるように打診を願い出る」などのステップを踏むようにしましょう。
(7)従業員が退職した後の業務体制を速やかに整える
退職代行サービスを使われると、突然人員が不足する事態に陥ることが多いです。
そのため、抜けた穴を埋めるために新しい人材を配置したり、取引先などに迷惑がかからないように業務体制を整える必要があります。
労使紛争や労働問題に力を入れている弁護士は、安定的な企業経営・業務体制を構築するノウハウを有しているので、業務効率化などの経営面についてのアドバイスも期待できるでしょう。
まとめ
従業員に退職代行サービスを使われたときには弁護士に相談することを強くおすすめします。
というのも、退職代行サービスが介入することで退職手続きの注意事項が増えるからです。
手続きに問題が存在すると、場合によっては退職手続きが完了した後に法的トラブルに発展しかねません。
当サイトでは、退職代行サービスへの対応に慣れた法律事務所を多数掲載しております。
特に、従業員の退職をめぐるトラブルは期限が迫っており、社内で話を留めておく余裕がないことが予想されるので、アクセスの良い法律事務所まで適宜速やかにお問い合わせください。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています