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コーポレートガバナンスとは?知っておくべき8つのことを簡単に解説!
コーポレートガバナンスとは、「企業統治」を意味します。
中小企業にもコーポレートガバナンスを求められる機会が増えており、「企業統治」とは具体的にどのようなことをすれば良いのか気になっている経営者の方も多いのではないでしょうか?
今回は、
- コーポレートガバナンスとは何か
- コーポレートガバナンスについて知っておきたい8つのこと
をわかりやすく解説します。ご参考になれば幸いです。
1、コーポレートガバナンスとは
(1)コーポレートガバナンスとは
日大の不祥事などもあり、ニュースでも注目されている「ガバナンス」ですが、具体的にはどのような意味なのでしょうか?
ガバナンス(governance)の意味は「統治」です。
コーポレートは企業を指しますから、コーポレートガバナンスは「企業統治」を意味します。
つまり、「どのようにして企業をコントロールするか」ということであり、より具体的にいうと「企業内の不正を防ぐ仕組み」「企業が効率的に業務遂行するための仕組み」です。
株式会社では、経営者や役員が株主のために企業経営を進めているので、コーポレートガバナンスは、「経営陣が本当に株主のために企業経営を進めているかを監視する仕組み」と言えます。
(2)コーポレートガバナンスの根拠となる法律は?
コーポレートガバナンスの根拠となる法律はあるのでしょうか?
「コーポレートガバナンスを構築しなければなりません。しない場合ば罰則です」というような直接明記された法律はありません。
しかし、この概念については、会社法に根拠を求めることができるでしょう。
会社法では、株式会社の設立要件や取締役会や監査役会の構成や決議事項、株主総会の決議事項や決議方法、招集方法、取締役の解任など、さまざまな会社統治の方法を具体的に定めているからです。
さらに、金融商品取引法や有価証券上場規程などもコーポレートガバナンスに関わってきます。
2、コーポレートガバナンスが注目された背景
そもそもコーポレートガバナンスは、どのような背景の元に注目されるようになったのでしょうか?
時代を追ってみてみましょう。
(1)バブル崩壊以前
過去、バブルが崩壊する以前は、もともと平社員だった生え抜き従業員が取締役となり、監査役も会社に密接に関連する人で株主は「物言わぬ株主」の状態でした。
メインバンクによって監視はされていたとはいえ「経営陣が株主のために企業経営を行っているかどうか」を監視する仕組みはほとんど機能していませんでした。
(2)90年代
バブル崩壊以降 その後企業の資金調達方法が、それまでの銀行借り入れから社債へと変化し、銀行の立場が弱くなりました。
バブルが崩壊して不祥事も相次ぎ、さらには株主構成で「機関投資家」のシェアが急拡大しました。
このことにより、日本企業のあり方に変化を迫られて適正な企業統治の要請が高まり、コーポレートガバナンスの考え方が注目されるようになったのです。
3、コーポレートガバナンスって何のためにあるの?
次に、コーポレートガバナンスは何のためにあるのか、見てみます。
(1)不祥事を防ぐため
まずは企業の不祥事を防ぐ目的があります。
適切な方法で企業経営が行われ、それに対する監視が働いていたら企業が不正を働くこともなく、不祥事を防ぐことができます。
(2)企業価値、株主の利益を増やすため
次に、企業価値を高める目的があります。
企業が適正に統治されて健全経営が行われていたら、社会における企業への評価が高まり結果的に営業利益も上がりやすくなって、ひいては企業を所有する株主の利益につながるという考え方です。
4、コーポレートガバナンスのメリットとデメリット
コーポレートガバナンスには、以下のようなメリットとデメリットがあります。
(1)メリット
まずは、企業が適正に統治されて健全経営が行われることにより、株主が安心して投資することができることが挙げられます。
コーポレートガバナンスが働いていたら、企業の私物化や不正が行われるおそれが小さくなります。
また、企業を適正に監視することにより、営利主義に傾きすぎることを防いで企業理念を貫かせることができる効果もあります。
内部における腐敗や組織間のきしみを減らし、企業経営を円滑化させることも期待できます。
(2)デメリット
デメリットとしては、企業活動がスピーディに行えなくなる可能性があることです。
経営陣が迅速に行動しようとしても、監視機能が働いてストップをかけてしまうので、チャンスを逸することがあります。
また、企業を監視するステークホルダー自身が目先の利益を追い求めると、企業が短期的な利益に走らざるを得なくなり、かえって長期的な成長が難しくなってしまうケースもあります。
5、中小企業にコーポレートガバナンスは必要か?
(1)コーポレートガバナンスは上場企業では必須
上場企業の場合、「コーポレートガバナンス等に関する報告書」の提出が必要であり、「コーポレートガバナンス・コード」を遵守する必要がありますので、企業統治体制を整えていることが必須です。
(2)非上場の中小企業にとってのコーポレートガバナンス
これに対し、非上場の中小企業の場合、コーポレートガバナンスの必要性は小さいかもしれません。
経営者=株主(オーナー社長のケース)や株主が経営者の一族などである場合が多く、証券取引所による監視も及ばないためです。
ただ、一族以外の少数株主がいる場合もありますし、ファミリー企業であったとしても、不祥事を防いで社会内での信用を高めておかないと、これからの時代を生き残るのは難しくなるでしょう。
近年では企業に対する社会の目が厳しくなり、求められるものも大きくなってきているので、適切に企業統治を進めてこれらの要請に応える必要があります。
何より、ガバナンスが効いていることが取引上の会社の信用を上げ、ひいては利益を増幅させる原点かもしれません。
6、上場企業のコーポレートガバナンスはどうなっている?
上場企業では、以下のようにコーポレートガバナンスが実施されています。
(1)上場企業におけるコーポレートガバナンス強化方法
以下のような方法をとるケースが多いです。
- 社外取締役、社外監査役、委員会制度、執行役員制度の導入
- CEOを外した取締役会を開催する
- 社内行動規範や倫理規定を作成して、社内に周知する
- 違法行為や背任行為を防ぐための仕組みを作成する
- 内部通報の窓口を設置する
(2)上場企業ではコーポレートガバナンス・コードを基準にしている
上場企業には「コーポレートガバナンス・コード」が適用されます。
これは、利害関係者(ステークホルダー)による企業に対する統治・監視を行うためのルールをまとめたもので、2015年に、東証と金融庁が中心となって策定しました。
5つの基本原則、30個の原則、38個の補充原則、計73原則によって構成されます。
これを基準に行動するので、上場企業にはかなり厳しいコーポレートガバナンスが適用されます。
(3)上場企業におけるコーポレートガバナンス事例
たとえば、伊藤忠商事株式会社では、「豊かさを担う責任(Committed to the Global Good)」という企業理念にもとづいてコーポレートガバナンスに取り組んでいます。
コーポレートガバナンス・コードへの対応、社外取締役の増加、取締役会評価制度、執行役員制度の導入をしましたし、2017年には社外取締役比率を3分の1以上として取締役の非兼任を実現しています。
パナソニック株式会社では「カンパニー制」を採用しています。
4つの会社(カンパニー)がそれぞれ独立して経営体制を敷き、グループ全体の企業価値向上を目指して「コーポレート戦略本社」を作っています。
コーポレートガバナンス・コードはすべて実行していますし、取締役会や執行役員制度を確立、「指名・報酬諮問委員会」を設置し、グループ戦略会議を実施して、情報開示も徹底しています。
株式会社ツムラでは、2017年にそれまでの「監査役会設置会社」から「監査等委員会設置会社」に移行しました。
新体制では、複数の社外取締役によって経営陣への監査を強めています。
(4)コーポレートガバナンスが損なわれないよう注意すべきこと
コーポレートガバナンスを損なわないためには、以下のようなことが起こらないように注意が必要です。
- 経営者が私利私欲に走る
- 営業利益のみを追い求めて遵法意識が欠如する
- 組織間で情報が分断される
- 企業理念が形骸化する
- 不祥事をもみ消そうという雰囲気の蔓延
7、コーポレードガバナンスに関する相談先
コーポレートガバナンス体制を確立しようとしても、自社のみでは何から始めて良いかわからないことが多いでしょう。
弁護士に相談すると、会社法、金融商品取引法などの法律や各種の情報開示や書類作成などについてのアドバイスを受けられます。
また、弁護士が相談企業に対し、会社の実態に沿った内部統制システムの構築方法を検討して提案しますし、不祥事対応や各種調査に対する対応方法などについても助言します。
事業の立ち上げやその後の運営方法、取締役会等の組織設計や運営、決議内容についてのアドバイスも受けられるので、コーポレートガバナンスについて迷いがあるならば、まずは弁護士に相談すると良いでしょう。
8、これだけは知っておこう!内部統制・コンプライアンス…似てる言葉との違い
最後に、内部統制システムなど、コーポレートガバナンスと似た言葉についても理解しておきましょう。
(1)内部統制システム
内部統制システムは、会社を適正に活動させるための「社内の」仕組みです。
たとえば 財務報告の信頼性を確保すること、従業員が事業活動において法令遵守していること、資産を保全していることなどを目的にするのが内部統制です。
コーポレートガバナンスが株主や債権者などのステークホルダーによる「経営管理統制」をいうのに対し、内部統制は会社資産や従業員の「社内管理統制」を指すと考えるとわかりやすいでしょう。
(2)コンプライアンス
コンプライアンスは「法令遵守」のことですが、近年では法令のみならず社内規範や社会規範を守ることもその内容としています。
ガバナンスは広く法令を遵守させるための統治体制作りですから、コンプライアンスはコーポレートガバナンスに含まれるとも考えられます。
(3)リスクマネジメント
リスクマネジメントは、企業が危機に陥ったときに回避したりダメージを最小限にとどめたりするための準備や措置のことです。
これもコーポレートガバナンスに含まれます。
(4)CSR
CSRは、「企業の社会的責任」です。
企業は利益追求だけではなく、社会の一員として地域社会や従業員、取引先や利害関係者へ貢献し、地球環境へも配慮するなど社会的責任をまっとうすべきという考え方です。
ただ、最近ではCSRを行わないことによって企業に対する評価の低下などのリスクが発生するのでCSRとコンプライアンスやリスクマネジメントが近づいています。
このようなことからすると、CSRも広い意味でコーポレートガバナンスに含まれるとも考えられます。
まとめ
以上のように、これから日本社会で生き残っていくためには、たとえ中小企業であってもコーポレートガバナンス体制を敷くことが必要です。
まずは何から始めて良いかわからない場合、適切な統治機構の策定を進めたい場合など、まずは一度、弁護士までご相談下さい。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています