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長時間労働(残業、休日出勤)が改善されない理由と対策法
皆様の職場で「長時間労働を改善するための対策」は実施されているでしょうか。
長時間労働で失うものは、「健康な心身」かもしれません。
長時間労働を原因とした慢性化した睡眠不足、うつ病の発症、自殺、過労死・・・。
そして、プライベートも失います。家族、友人、趣味、余暇・・・。
さらに、仕事の効率も下がることでしょう。
会社内でもさまざまな対策を立てている企業は多いはず。
しかし、現状は改善されていない職場も多くあるでしょう。
ここでは、
- 長時間労働が改善されない理由と対策
をご紹介します。
企業を適正な労働時間体制にするための知識を身につけ、職場の労働環境を改善していきましょう。
1、長時間労働の対策について知る前に|日本における長時間労働の現状
引用:平成 29 年版 ―イノベーションの促進とワーク・ライフ・バランスの実現に向けた課題― 〔 要約版 〕 平成 29 年9月 厚 生 労 働 省 労働経済の分析
日本における週60時間以上働く人の割合は、2016年においては1割を超えています。
このような深刻な状況は各企業でも問題視されはじめ、平成29年度版労働経済の分析によると92.6%の企業が長時間労働対策を実施しています。
その中で実際に労働時間が短縮されたとしている企業は52.8%です。
現在、日本の労働環境は、各企業がその改善対策を模索している最中だということです。
2、そもそも長時間労働の定義とは?
(1)長時間労働とは何時間以上?
そもそも長時間労働とは何時間以上の労働のことを指すのでしょうか。
長時間労働が何時間以上の労働のことを指すのかについては、法律上の定義はありません。
人によって、長時間に感じる時間はまちまちでしょう。
少しの残業でも長時間に感じる人もいれば、超過勤務に慣れてしまい身体を壊すまで長時間労働をしていたことに気がつかない人もいるかもしれません。
(2)残業時間に上限はないの?
そもそも使用者は、原則として、労働基準法上の上限時間(1日8時間、週40時間)を超えて、労働者に労働をさせてはいけません(労働基準法第32条)。
そして、使用者は、36協定という労使協定を締結しない限り、労働者に残業(時間外労働)をさせることはできません。
厚生労働省では、この協定での残業時間の決め方について「時間外労働の限度に関する基準」を出しているので、具体的にはこの基準の範囲で時間外労働はなされるべきです。
しかし、この基準以上の時間外労働をしたところで、なんら罰則はありません。
そのため、長時間労働が横行してしまう現状にあるのです。
そこで、働き方改革の一環で、この基準が法律に格上げされることになりました。
詳しくは「5」(2)でご説明します。
(3)健康を害する可能性のある長時間労働はどの程度?
①時間外労働・休日労働が月100時間以上
時間外労働や休日労働が1ヶ月に100時間以上のケースまたは2〜6ヶ月の平均超過労働が80時間を超えたケースでは健康を害するリスクが高くなるとして医学的に証明されています。
②医師の面接実施義務が発生するケースも
労働安全衛生法では、時間外労働が100時間を超えて労働者に疲労の蓄積が認められ、本人の申し出があった場合には、医師による面接指導の対象と定められています。
医師の面談指導が必要な状態とは健康を害するリスクが相当高い状態です。
使用者および労働者は、そうなる前にこれを改善していく必要があるでしょう。
3、長時間労働が発生する原因ランキング
では、日本の会社における長時間労働が発生する原因をランキングで見ていきましょう。
納得できる理由が見つかるはずです。
(1)マネジメント不足
ランキング第一位はマネジメント不足です。
部下の長時間労働を見て見ぬ振りをする管理職の多さや、改善するための対策を考えない管理職が原因で長時間労働を課せられていることが多いのが現状です。
部下に対する配慮と上層部への問題提起ができれば長時間労働対策は現実的になるのかもしれません。
(2)人手不足が原因の業務過多
深刻な人手不足も長時間労働の原因で第2位です。
どの年代どの職種においても一定数の人手不足が見られます。
人手不足を長時間労働で補うのではなく,人手の補充で改善を図るべきです。
(3)従業員の意識・取り組み不足
問題なのは第3位の従業員の意識・取り組み不足です。
会社としては長時間労働対策を実施していても当の従業員の意識が低く、業務効率化などの取り組みを実現していなければ、長時間労働は改善されないことでしょう。
心のどこかで残業は当たり前だという風潮があるのかもしれません。
日本の会社の深刻な問題といえるでしょう。
4、最悪の場合は過労死も…長時間労働のリスク
長時間労働はどうして社会問題になっているのでしょうか。
それは、最悪の場合には長時間労働が過労死を引き起こすリスクがあるからです。
不慮の事故なども考慮しなければいけません。
(1)過労死|過労死ラインについて
月の超過勤務が80時間以上になってしまうと、過労死の危険性が高くなっていきます。
ニュースなどを見ていても過労死疑惑のニュースが後を絶ちません。
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(2)社員の体調不良
長時間労働は心身ともに疲弊を引き起こします。正常な判断能力も鈍くなってしまうでしょう。
自動車の運転などでも、長時間労働が交通事故を引き起こした可能性があるというニュースも耳にします。
経営者にとっては深刻な問題になるでしょう。
長時間労働は社員の体調不良を引き起こし、入院治療が必要なケースも発生してしまいます。
最悪のケースでは長時間労働が引き金となりうつ病などを発病し、自殺の危険性も高くなるでしょう。
(3)やる気・生産性の低下
長時間労働は社員のやる気を削ぐことも問題になっています。
いくら働いても減らない仕事…。従業員のモチベーションは低下していく一方です。
その結果やる気をなくした社員の業務効率が落ちてしまい、生産性の低下を引き起こしていきます。
(4)離職率の増加
長時間労働が続くことで従業員の離職率が高くなる傾向があります。
やる気をなくした社員は次々と退職を検討することになるでしょう。
そして企業側は退職者の穴を埋めようと新規雇用を検討します。
さらに企業の生産性が低下する結果につながるでしょう。
5、長時間労働にまつわる法律について
(1)現行法では
労働時間に関する現行法での仕組みは、簡単には次の通りです。
- 使用者は、一定の労働時間以上働かせてはならない(労基法第32条)
- 使用者は、36協定を締結すれば、時間外労働をさせることができる(労基法第36条第1項)
- 36協定では「特別条項」(労使の合意さえあれば、どんな長時間の延長時間でも定めることが可能)が認められており、結局青天井の労働時間が許容されている
(2)働き方改革で変わる!
そこで政府は、「働き方改革関連法」を成立させ、2019年4月1日からは次の規定に即した働き方をしなければいけなくなりました。
ただし中小企業での適用は2020年からです。
この規定では36協定の特別条項を含めて遵守しなければいけない法律となり、違反すれば罰則の対象になります。
- 原則として時間外労働の時間は一ヶ月に45時間、年に360時間以内とする。
- 臨時的な特別な事情がある場合でも時間外労働は一年間に720時間以内、2〜6ヶ月間の平均で80時間以内、1ヶ月は100時間未満。
- 原則の一ヶ月45時間を超えて時間外労働をさせることができるのは年間6回までとする。
6、長時間労働の対策
このように、法律でも今後は長時間労働の対策が順次施行されていきます。
その中で、使用者はどのような対策ができるのかを見ていきましょう。
(1)労働時間の適正な把握
最初に、雇用者側は労働者の労働時間を適正に把握する必要があるでしょう。
自己申告だけに頼っていては、気がつかないうちに長時間労働になりがちです。
長時間労働の主な原因がマネジメント不足といわれています。
適正な把握こそが最初にやるべきことです。
適正に労働時間を把握するためには、タイムカードや勤怠管理システムなどで自分の部下や社員、アルバイトなどの労働時間を目視でチェックしましょう。
自己申告制にする場合には、申告された時間と実際の勤務記録を照合し、著しく乖離している場合には実態調査を行わなければいけません。
そして大事なことは、自己申告できる超勤時間に上限値を定めるなどの適正な自己申告を阻害する規則などは設けないことです。
それでは長時間労働の実態の把握が難しくなってしまうでしょう。改善も見込めません。
(2)有給休暇の取得を促進する
有給休暇の取得を積極的に促進することも重要です。
長時間労働が認められた場合には、早めに有給休暇を取得してもらうことで、勤務時間の減少が見込めます。結果的に労働者の健康状態が回復し気持ちの上でもリフレッシュできることでしょう。モチベーションの向上にもつながります。
しかし会社によっては、個人に依存した業務があることも事実。
そのため、有給休暇の取得が困難なケースも存在します。
使用者は個人に依存した業務を作らず、他の人でも対応できるようにする仕事のやり方を心がけるようにしましょう。
(3)給与制度の見直し
長時間労働をする労働者は、有給休暇を取得せずに休日も顧みずに業務に専念してしまうケースがあります。
たくさん働けばその分多くの収入を得られる風土を変えていく必要があるでしょう。
短時間で効率よく成果をあげた社員を高く評価し給与をアップするような制度を用いることで、長時間労働が改善する場合もあるかもしれません。
(4)テレワーク・裁量労働制やフレックスタイム制の導入
遠隔地からでも自由に仕事ができるテレワークの導入で、時間にとらわれない柔軟な働き方ができるでしょう。
これによって労働者は自由に働くことができるようになり、過労死などのリスクは低減できる可能性があります。
また、みなしの勤務時間で契約を行う裁量労働制の導入も長時間労働対策の一つになるでしょう。
働いた分だけ給与になるわけではないため、労働者はできる限り業務の効率化を図る結果につながります。
しかし、正しく勤怠状況を把握しておかなければ余計に長時間労働に陥る可能性があるでしょう。
フレックスタイム制を取り入れることも長時間労働の対策です。
前日遅くまで勤務していた場合には、フレックスタイムを利用して遅い時間に出勤することができます。
そしてコアタイムを設けることで1日8時間に縛られることなく退勤もできるでしょう。
業務の忙しさによってその日の就業時間を自分で決められる制度を設けることで長時間労働は減少できるかもしれません。
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(5)意識・取り組みを変えるための研修を行う
使用者がいくら長時間労働をやめさせようとしても、根付いた労働者の意識改革を行わなければ長時間労働はなくなりません。
長く働き賃金を得るのではなく効率化を行い成果を出していくこと。
その方が会社としても労働者側にも利益があるのだと研修などで意識改革を行なっていきましょう。
そしてマネジメント層の意識改革も必要になってきます。
研修ではマネジメント層の長時間労働に関する改善意識を促し、適切な部下の勤怠状況の管理ができるように指導していきましょう。
そしてマネジメント層は、一人一人の業務について、一人一人としっかり話し合うことが必要です。
1年目の社員と10年目の社員では効率化の仕方は異なりますし、業務の内容によっても丁寧に行うべきところと効率を重視するところは異なってきます。
社員一人一人に「自分は仕事が遅いので自主的に残業をしている」という気持ちさせないこと。
厳しい入社試験や面接をくぐり抜けて入社した社員たちの能力を認めた上で雇用しているのであれば、「自分は仕事が遅いから」という必要以上に謙遜した感情を持たせても良いことはありません。
それでは長時間労働から抜け出すことは難しいでしょう。
7、長時間労働削減推進本部が設けられ、国全体で対策に乗り出している
長時間労働による過労死や事故が相次いでいることから、政府でも国として対応に乗り出しています。
(1)「過労死等ゼロ」緊急対策の発表
政府は2016年12月28日に「過労死等ゼロ」緊急対策について発表しています。
詳細を見てみましょう。
①違法な長時間労働を許さない取組の強化
(1) 新ガイドラインによる労働時間の適正把握の徹底
企業向けに新たなガイドラインを定め、労働時間の適正把握を徹底する。
(2) 長時間労働等に係る企業本社に対する指導
違法な長時間労働等を複数の事業場で行うなどの企業に対して、全社的な是正指導を行う。
(3) 是正指導段階での企業名公表制度の強化
過労死等事案も要件に含めるとともに、一定要件を満たす事業場が2事業場生じた場合も公表の対象とする
など対象を拡大する。
(4) 36協定未締結事業場に対する監督指導の徹底 ②メンタルヘルス・パワハラ防止対策のための取組の強化
引用:「過労死等ゼロ」緊急対策
②メンタルヘルス・パワハラ防止対策のための取組の強化
(1) メンタルヘルス対策に係る企業本社に対する特別指導
複数の精神障害の労災認定があった場合には、企業本社に対して、パワハラ対策も含め個別指導を行う。
(2) パワハラ防止に向けた周知啓発の徹底
メンタルヘルス対策に係る企業や事業場への個別指導等の際に、「パワハラ対策導入マニュアル」等を活用し、
パワハラ対策の必要性、予防・解決のために必要な取組等も含め指導を行う。
(3) ハイリスクな方を見逃さない取組の徹底
長時間労働者に関する情報等の産業医への提供を義務付ける。
引用:「過労死等ゼロ」緊急対策
③社会全体で過労死等ゼロを目指す取組の強化
(1) 事業主団体に対する労働時間の適正把握等について緊急要請
(2) 労働者に対する相談窓口の充実
労働者から、夜間・休日に相談を受け付ける「労働条件相談ほっとライン」の開設日を増加し、毎日開設するな
ど相談窓口を充実させる。
(3) 労働基準法等の法令違反で公表した事案のホームページへの掲載
引用:「過労死等ゼロ」緊急対策
(2)働き方改革推進本部の設置
政府は長時間労働削減推進本部を2016年9月30日に設置しました。
その中には働き方改革推進プロジェクトチームも設置されています。
長時間労働削減推進本部では厚生労働大臣が本部長を務めることになっています。
政府は国として長時間労働に危機感を感じ改善するために取り組みを開始しています。
まとめ|改善されない長時間労働がある場合は相談を!
長時間労働が改善されない理由は長時間労働に対する意識の低さが原因です。
会社のトップ、そしてマネジメント層の意識から、労働者の意識まで会社として真剣に取り組まない限り長時間労働はなくならないでしょう。
国として取り組みを開始しているので、今後の職場環境の改善には期待が持てる状況です。
企業の労務管理について困ったことがあるときは、どうぞ弁護士にご相談ください。
豊富な経験に基づき、あなたの会社に最適なアドバイスをご提案できることでしょう。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています