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労働者の健康と安全を守るために事業者がすべきこととは~労働時間の把握義務と医師による面接指導について~

2020年2月20日
労働者の健康と安全を守るために事業者がすべきこととは~労働時間の把握義務と医師による面接指導について~

働き方改革の一環として、労働安全衛生法(以下「安衛法」といいます。)が改正され(平成31年4月1日施行)、長時間労働やメンタルヘルス不調などにより健康リスクが高い状況にある労働者を見逃さないため、医師による面接指導が確実に実施されるようにすることで、労働者の健康管理が強化されました。
その前提として、事業者には労働時間の状況の把握が義務付けられました(改正安衛法第66条の8の3)。

事業者が労働者の労働時間を把握することは、これにより長時間労働を防止でき残業代の支払を抑えられるのみならず、労働者の労働時間を適切に管理することで、長時間労働による労働者の健康被害を防止することに加え、業務効率の向上や突然の休職や退職による人手不足の防止も期待できます。
また、長時間労働により労働者の健康が害された場合、労働者の疾病が労務災害として認定されるおそれがあるだけでなく、労働者の労働時間の管理を怠っていたことが安全配慮義務に違反するとして、事業者は、労働者から損害賠償を請求されるおそれもあります。

このように、労働者の労働時間を把握することは、企業価値の増大やリスクの軽減につながるという意義もあるものですので、事業者としては、積極的に取り組むべき問題といえます。
その前提として、改正法によって義務付けられた内容を押さえておく必要があるでしょう。

本稿では、改正安衛法で義務付けられた「労働時間の状況の把握」義務とはどのようなものか、また医師による面接指導について、その実施要件や実施方法、実施にかかる留意事項などについて解説いたします。

1.労働時間の把握義務について

従前から、労基法上は事業者に対して労働者の労働時間の把握が義務付けられていましたが、今回の改正安衛法により労働時間の状況の把握が新たに明文上義務付けられました。
この労働時間の状況の把握義務とはどのようなものなのでしょうか。
労基法上の把握義務との違いに着目して解説いたします。

(1)労基法上の労働時間の把握義務について

労基法上、労働時間の把握を義務付ける明文規定はありませんが、賃金台帳に労働者ごとに時間外労働時間を記入しなければならないこと(労基法第108条、同施行規則第54条)、労働時間規制があること(労基法第32条~35条)などから、事業者は、労働者の労働時間を把握する義務があると解されています。
この労基法上の労働時間の把握義務は、割増賃金の適正な支払を担保することを目的とするものです。

(2)安衛法上の労働時間の状況把握義務について

これに対し、改正安衛法第66条の8の3において明記された、事業者が労働者の労働時間の状況を把握する義務は、事業者が、労働契約に伴う義務として労働者に対して負っている安全配慮義務ないし健康管理義務(労働契約法第5条)に基づき負うと判例上認められていた義務を明文化したもので、労働者の健康管理を目的とするものであることから、労基法上の労働時間の把握義務とはその目的が異なります。

すなわち、安衛法上の労働時間の状況把握義務は、労働者の健康管理が目的であるため、高度プロフェッショナル制度適用者(以下「高プロ適用者」といいます。)を除く[i]全ての労働者が対象となる点に特徴があります。

また、安衛法上義務付けられる「労働時間の状況」の把握とは、「労働者の健康確保措置を適切に実施する観点から、労働者がいかなる時間帯にどの程度の時間、労務を提供し得る状態にあったかを把握するものである。」(平成30年12月28日基発1228第16号)とされています。
この「労務を提供し得る状態にあった」時間とは、在社時間を超えて労働時間が発生することは通常多くないと考えられることから、在社時間とするのが適切と考えられています。

なお、労基法上の労働時間管理をしている通常の労働者については、賃金台帳(労基法施行規則第54条1項5号)に記入した労働時間数をもって代替できることとされています。

2.労働時間の状況の把握をするための具体的方法について

ここからは、労働時間の状況を把握するために、具体的にどのようなことをすればよいかについて解説します。

(1)原則―客観的な方法

事業者は、原則として、タイムカード、パーソナルコンピュータ等の電子計算機の使用時間(ログインからログアウトまでの時間)の記録、事業者(事業者から労働時間の状況を管理する権限を委譲された者を含む。)の現認等の客観的な方法に基づき、労働者の労働日ごとの出退勤時刻や入退室時刻等を把握しなければならないとされています。

なお、パーソナルコンピュータ等の電子計算機の使用時間(ログインからログアウトまでの時間)の記録については、紙媒体により出力する記録のほか、磁気テープ、磁気ディスクその他これに準ずるものに記録・保存することでも差し支えないとされています。

(2)例外―その他の適切な方法

例外として、「やむを得ず客観的な方法により把握し難い場合」において、「その他の適切な方法」による把握が認められています(改正安衛規則第52条の7の3第1項)。

① 「やむを得ず客観的な方法により把握し難い場合」とは

例えば、労働者が職場外において行う業務に直行する又は同所から直帰する場合など、事業者の現認を含め、労働時間の状況を客観的に把握する手段がない場合があります。

ただし、直行又は直帰する場合でも、例えば、職場外から社内システムにアクセスすることが可能であり、客観的な方法による労働時間の状況を把握できる場合もあるため、直行又は直帰であることのみを理由として、自己申告により労働時間の状況を把握することは認められません。

また、タイムカードによる出退勤時刻や入退室時刻の記録やパーソナルコンピュータの使用時間の記録等のデータを有する場合や、事業者の現認により労働時間を把握できる場合にもかかわらず、自己申告のみにより把握することは認められません。

このように、「やむを得ず客観的な方法により把握し難い場合」にあたるといえるかは、労働者の働き方の実態や法の趣旨を踏まえ、個別に判断する必要があります。

② 「その他の適切な方法」とは

「やむを得ず客観的な方法により把握し難い場合」にあたる場合、「その他の適切な方法」による把握として、労働者の自己申告による把握が考えられていますが、その場合、事業者は、次の(ア)から(オ)までの措置を全て講じる必要があるとされています。

(ア)自己申告制の対象となる労働者に対して、適正に自己申告を行うことなどについて十分に説明を行うこと(イ)労働時間の状況を管理する者に対して、自己申告制の適正な運用を含め、講ずべき措置について十分な説明を行うこと。
(ウ)自己申告により把握した労働時間の状況と実際の労働時間の状況が合致しているか否かについて、必要に応じて実態調査を実施し、所要の労働時間の状況の補正をすること。
(エ)自己申告した労働時間の状況を超えて労働者が事業場内にいる時間や事業場外において労務を提供し得る状態であった時間について、その理由等を労働者に報告させる場合には、その報告が適正に行われているかについて確認すること。
(オ)事業者は、労働者が自己申告できる労働時間の状況に上限を設け、上限を超える申告を認めないなど、労働者による労働時間の状況の適正な申告を阻害する措置を講じてはならないこと。

自己申告制は、労働者による適正な申告を前提として成り立つものですので、自己申告制により労働時間の状況の把握義務が形骸化しないよう、上記のとおり厳格な運用が求められています。

3.改正安衛法第66条の8の3が新設されたことによる影響(違反の効果)

事業者が労働時間の状況の把握義務を怠っていた場合、どのような影響があるのでしょうか。

改正安衛法が施行される前について、事業者が労働時間の状況の把握義務を怠っていたことを理由の一つに挙げて安全配慮義務違反を認めた裁判例はこれまでもありました。
改正安衛法が施行された現在においては、業者が労働時間の状況の把握義務を怠っていた場合、改正安衛法第66条の8の3も根拠の一つとして安全配慮義務違反や健康管理義務違反があると判断され民事上の損害賠償責任を負う可能性があるので、注意が必要です。

4.医師による面接指導について

上記のような労働時間の状況の把握を行った結果、長時間労働の危険等により健康リスクが高い状況にある労働者が判明した場合、その労働者に対して医師による面接指導が確実に実施されるよう、改正安衛法において面接指導の実施要件が厳格化されました。

(1)対象となる労働者の要件

通常の労働者(研究開発業務に従事する労働者、高プロ適用者を除く労働者)に対する面接指導の要件である1月あたりの時間外・休日労働時間が、改正前の100時間超から80時間超に厳格化されました。
すなわち、通常の労働者について、時間外・休日労働時間が1月あたり80時間を超え、かつ、疲労の蓄積が認められた者が、面接指導を申し出た場合には、事業者はその者に対し、医師による面接指導をしなければなりません(改正安衛法第66条の8第1項、改正安衛規則第52条の2第1項、同第52条の3第1項)。

なお、「疲労の蓄積」は、通常、他者には認知しにくい自覚症状として現れるものであることから、面接指導の申し出をした労働者については、「疲労の蓄積があると認められる者」として取り扱うものとされています(平成18年2月24日基発第0224003号)。

また、時間外・休日労働時間が1月あたり100時間を超えた研究開発業務従事者や、健康管理時間が1月当たり100時間を超えた高プロ適用者については、労働者からの申し出を要件とせず、面接指導義務の対象となります。

【医師の面接指導が必要となる場合について労働者ごとの要件】

時間外・休日労働時間 申し出の要否 罰則
通常の労働者 月80時間超 必要
研究開発業務従事者

 

月100時間超 不要
月80時間超 必要
高プロ適用者 月100時間(健康管理時間) 不要

(2)労働者が医師による面接指導に応じない場合の効果

① 罰則等

上記のとおり、時間外・休日労働時間が1月当たり100時間を超える研究開発業務従事者、健康管理時間が1月当たり100時間を超える高プロ適用者については、面接指導義務に違反した場合、50万円以下の罰金が規定されていますので(改正安衛法第66条の8の4、第120条1号)、対象者が面接指導に応じない場合に、事業者に罰則が科せられる可能性があるため、注意が必要です。

また、通常の労働者や、時間外・休日労働時間が1月当たり80時間超の研究開発業務従事者について罰則規定はありませんが、労基署から面接指導義務違反に対して何らかの措置がとられる可能性もので、事業者としては、面接指導義務を適切に履行する必要があります。

② 事業者としてすべきこと

(ア)労働者への労働時間に関する情報の通知
事業者は、時間外・休日労働時間の算定を行ったときは、当該超えた時間が1月当たり80時間を超えた労働者本人に対して、速やかに当該超えた時間に関する情報を通知しなければなりません(改正安衛規則第52条の2第3項)。

この通知については、高プロ適用者を除き、管理監督者、事業場外労働のみなし労働時間制の適用者を含めた全ての労働者に適用されます。

この通知は、労働者の面接指導の申し出を促すためのものであるため、労働者からの申し出がなくとも面接指導の対象となる高プロ適用者は適用外となっています。また、このような趣旨から、この通知を行う際は、労働時間に関する情報のほか、面接指導の実施方法・時期等の案内を併せて行うことが望ましいとされています(※時間外・休日労働時間が1月当たり100時間を超えた研究開発業務従事者については、申し出なしに面接指導を行わなければならないため、事業者は、労働時間に関する情報を、面接指導の案内と併せて通知する必要があります。)。

 

(イ)労働時間に関する情報の通知の方法・時期
事業者は、1月当たりの時間外・休日労働時間の算定を毎月1回以上、一定の期日を定めて行う必要があり、時間外・休日労働時間が1月当たり80時間を超えた労働者に対して、その超えた時間を書面や電子メール等により通知する方法が適当です。
なお、給与明細に時間外・休日労働時間数が記載されている場合には、これをもって労働時間に関する情報の通知としても差し支えないとされています。

 

(ウ)労働者が面接指導を拒否する場合
事業者が労働者に対して労働時間に関する情報の通知や面接指導の案内をしたにもかかわらず、面接指導の要件にあてはまる労働者が面接指導を拒否する場合、事業者としてはどうすればよいのでしょうか。

その場合でも、事業者が当該労働者に面接指導を受けさせる義務があることには変わりなく、労働者が単に拒否したことをもって義務の不履行が正当化されるわけではありません。

そこで、事業者としては、当該労働者に対して面接指導を受ける必要があることを説明し、その機会を設けることはもちろんですが、それでも労働者が応じない場合には、業務命令として医師による面接指導を受けることを命じることが考えられます。
それでもなおこれに応じない場合には、業務命令違反として就業規則に基づいて懲戒処分を検討することとなりますが、労働者が業務多忙により面接指導の時間をとることができない事情などがないかについて、事業者としても確認し、適切に面接指導を受けられる環境を整えることが重要です。

5.まとめ

労働者の健康管理は、労働者自身にとってはもちろんのこと、事業者にとっても重要な課題です。
コンプライアンスが重視される現在の社会において事業者が成長していくためにも、上記のような点に留意して、労働者の健康管理体制を社内で構築していくことが重要です。

[i] 高度プロフェッショナル制度は、高度の専門的知識等を有し、職務の範囲が明確で一定の年収要件を満たす労働者を対象として、労使委員会の決議及び労働者本人の同意を前提として、健康・福祉確保措置等を講ずることにより、労基法に定められた労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定を適用しない制度です。つまり、高プロ適用者については、安衛法上の労働時間の状況把握義務とは別に、健康管理時間の把握が義務付けられているため(労基法41条の2第1項3号)、安衛法上の労働時間の状況把握義務の対象外となっています。

 

※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

ベリーベスト 法律事務所弁護士編集部
ベリーべスト法律事務所に所属し、企業法務分野に注力している弁護士です。ベリーベスト法律事務所は、弁護士、税理士、弁理士、司法書士、社会保険労務士、中国弁護士(律師)、それぞれの専門分野を活かし、クオリティーの高いリーガルサービスの提供を全国に提供している専門家の集団。中国、ミャンマーをはじめとする海外拠点、世界各国の有力な専門家とのネットワークを生かしてボーダレスに問題解決を行うことができることも特徴のひとつ。依頼者様の抱える問題に応じて編成した専門家チームが、「お客様の最高のパートナーでありたい。」という理念を胸に、所員一丸となってひたむきにお客様の問題解決に取り組んでいる。
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