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現物出資とはお金以外による出資|魅力とリスクを7つ解説
現物出資をご存じでしょうか?
株式会社を設立するときには、資本金額の決定および資本金の払込が必要ですが、現物出資とは、その払込(出資金)を金銭以外のものですることをいいます。
車や不動産など、資産として認められる財産を出資することを現物出資と言い、会社の資本金として充てることができます。
今回は現物出資について
- 現物出資の基礎知識
- 現物出資で会社の資本金を設定する流れ
- 現物出資のメリットとデメリット
以上について、解説します。
これから会社設立を検討されている方や、資本金に充てられる現金が足りずにお悩みの方は、ぜひ本記事をご参考になさってください。
1、現物出資とは?
会社における出資とは株式を取得することですが、会社設立時に金銭以外の財産で出資することを「現物出資」と言います。
(1)現物出資の概要
株式会社の設立は1円以上の金銭出資が原則ですが、不動産や車など、現金以外の財産も出資にあてることができます。
現物出資は、手持ちの現金が不足している場合や会社成立後の事業遂行を円滑にしたい場合に行われます。
なお、一切の現金を出資せずに現物のみでも会社設立は可能です。
(2)出資者は発起人のみ
中小企業の多くは、設立時に発行される株式の全部を発起人が引き受ける「発起設立」の方法によって会社を設立しています。
現物出資ができるのは、会社設立のための手続きを行う代表者たる発起人に限られます。
発起人以外の者から株式を引き受ける者を募集する「募集設立」の場合、募集株式の引受人は現物出資ができません。
(3)対象となる資産
基本的に、貸借対照表に資産として計上できるものが現物出資の対象となります。
たとえば、次のような資産が現物出資の対象に挙げられます。
【現物出資の例】
- ローンを支払い終えた車
- パソコンやOA機器
- 有価証券や債権
- ゴルフ会員権やリゾート会員権
- 土地や建物などの不動産
上記に該当するものは現物出資の対象となりますが、品目が多いと会社設立後の資産計上業務が煩雑になってしまうため、10万円以上の資産であることが一つの目安となるでしょう。
(4)現物出資をするには、原則、裁判所に検査役の選任を申立てることが必要
出資は、その額に相応する株式を取得することができるものです。
ですので、もし10万円相当の物を出資したならば10万円相当の株式が割り当てられるべきです。
ここで、もし1万円くらいの価値しかない物を出資したにもかかわらず、10万円相当の株式を割り当てられたとしたらどうでしょうか?
違法性があることは明確かと思います。
このようなズルを許さないために、現物出資をするには、原則として、裁判所に検査役の選任を申し立てる必要があります。
検査役は、弁護士や公認会計士から選任され、現物出資された資産の価格調査を行います。
ただし、会社法第33条に基づく、次のようなケースでは検査役による調査が不要です。
- 定款に記載され、または記録された価額の総額が500万円を超えない場合
- 市場価格のある有価証券について定款に記載され、または記録された価額が市場価格を超えない場合
- 定款に記載され、または記録された価額が相当であることについて弁護士、公認会計士、税理士等の証明を受けている場合
実務では、検査役を立てずに済ませるため、「500万円を超えない」範囲で現物出資を行うことが大半です。
2、現物出資で会社の資本金を設定する流れ
実際に現物出資で会社を設立する場合の流れを、検査役の選任が不要なケースで解説します。
(1)現物の価値を調査
現物出資しようとしている資産の価格が適切かどうか、購入時の価格ではなく時価(市場価格)を参考に調査します。
(2)定款に記載
定款に、出資する資産、価格、出資者の氏名を記載します。
ここで注意すべきは、現物出資の場合、会社法第28条に基づき、「変態設立事項」として定款に記載しなければ効力を生じません。
(3)調査報告書を作成
現物出資における調査報告書とは、設立時取締役が、現物出資された財産価額の調査結果をまとめた書類を指します。
調査報告書は、株式会社設立登記申請書に添付して、管轄の法務局に提出します。
(4)財産引継書を作成
財産引継書とは、現物出資された資産が出資者から会社側にわたったことを示す書類を指します。
こちらも、株式会社設立登記申請書に添付して管轄の法務局に提出します。
3、現物出資で会社を設立するミリョクとリスク
現物出資で会社を設立した場合のミリョクとリスク(デメリット)を紹介します。
会社設立を現物出資で行うことが妥当かどうかの参考になさってください。
(1)ミリョク
①資本金を大きくできる
発起人の手元に現金が少ない場合でも、すでに保有している土地などを現物出資することで資本金を大きくすることができます。
金額の大きい現物出資は検査役の検査が必要にはなりますが、設立時において、資本金は会社の信用力を示す唯一の指標と言っても過言ではありません。
資本金が大きいということは、取引や借入等で有利になります。
②現物は経費計上できる
現物出資をした資産が建物や自動車など減価償却資産の場合、数年間にわたって減価償却による損金の計上が可能です。
つまり、経費として計上できるため節税対策になります。
③手持ちが少なくても発起人となれる
複数が発起人となって会社を設立する場合、同額の出資をして責任分担を平等にすることが一般的です。
会社設立のために出資をしたいが手持ちが少ないために発起人になれないという人でも、現物出資なら発起人となれる可能性があります。
たとえば、「同額の現金の出資はできないが、不動産なら出資できる」という人は、不動産を現物出資して現金出資した人と責任分担を平等にすることが可能です。
④備品調達が容易
会社設立時に必要な備品を現物出資で代替すれば、備品購入に必要であった費用を他のことに使うことができます。
(2)リスク(デメリット)
①資金として充てにできない
現物出資は、運転資金として使える現金が増えるわけではありません。
たとえば、資本金500万円のうち現物出資が400万円だと、売上が入るまで運転資金として使えるお金は100万円です。
②手続きに手間と費用がかかる
発起人の資産を会社の資産とするための名義変更や所有権移転登記で、現金出資以上の手間と費用がかかります。
たとえば、500万円以下の不動産を現物出資する場合、前述した調査報告書の作成に加え、個人から法人への名義変更手続き、所有権移転登記などが必要です。
さらに、登録免許税などの費用もかかります。
③税金がかかる場合も
現物出資をした資産の種類によって、出資した人と出資を受けた会社の両方に次のような税金が課せられる可能性があります。
- 所得税
- 不動産取得税
- 消費税
さらに、現物出資した資産の時価総額も含めて、資本金の合計額が1,000万円を超えてしまうと、会社設立2年間の非課税事業者の特典も使えなくなるため、注意が必要です。
4、現物出資その他会社設立の際は、弁護士へご相談を
手元の現金が少ないときに物品を出資して、会社の資本金を大きくすることができるというのが現物出資の大きなミリョクです。
しかし、会社設立前はもちろん、会社設立後も、現物出資ではさまざまな手続き等の手間がかかります。
会社設立時の忙しいタイミングですので、現物出資による会社設立については弁護士に相談されることをおすすめします。
検査役の選任は弁護士による価格証明の場合も不要になりますので、500万円以上の物を出資したいときもご相談ください。
まとめ
会社設立前後には、出資金に関わること以外にも、定款の作成や認証、登記書類の作成と申請、税務署への届け出など、さまざまな手続きが必要となります。
なるべく煩雑な手続きを回避したいという方は、現物出資や会社設立について弁護士に依頼するという方法を選択してみてはいかがでしょうか?
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