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株主の権利とは?起業前に把握しておくべき7つのこと
株主の権利とは、いったいどこまで認められるのでしょうか。株式会社を起業・設立する際には出資者を募りますが、出資者は今後、会社の「株主」となるため、企業前に必ず確認しておくべきことの一つです。
「お金を出す以上、口も出す」
これが世の常ですが、株主も同様。株主総会で物申してきたり、会社の主要部分を決定する、その実は会社の王様的存在です。
そんな株主たちに具体的にどんな権利が発生するのか、株式会社を起業する際は、その内容について必ず押さえておきたいところ。また、それらの権利行使における株数との関係についても知っておきましょう。
今回は、
- 株主に認められる権利には、どのようなものがあるのか?
についてお伝えします。この記事がご参考になれば幸いです。
1、株主の権利とは
法律上、株主の権利には、大きく分けて次の2つがあります。
- 自益権
- 共益権
それぞれの株主の権利内容について、法律上のルールがどうなっているのかをくわしく見ていきましょう。(株主の権利は、主に「会社法」という法律で決まっています)
(1)会社法上の規定:自益権とは?
自益権とは、簡単にいえば「株主が会社からお金を受け取る権利」のことをいいます。
株主が会社からお金を受け取ることができる場面としては、配当を受け取るときと、会社が解散するときに会社に残っている財産を受け取るときの、2つの場面があります。
- 剰余金配当請求権:会社が利益を出したときに、その一部を分配してもらう権利
- 残余財産分配請求権:会社が解散するときに、会社に残っている財産の分配を受ける権利
(2)会社法上の規定:共益権とは?
共益権とは「株主が、会社の経営に参加する権利」のことをいいます。
法律上、株主が会社の経営に参加する方法としては、株主総会で議決権を行使することがあります。
株主総会では、会社の経営を誰に任せるのかや会社の合併や利益の配当といった重要なテーマについて、多数決で意思決定を行います。
株主総会では、ほとんどのケースで、「株式総数の過半数(半分以上)」で採決をとりますから、会社の株式の過半数を所有している株主は、その株主1人で会社の意思決定に重要な影響を及ぼすということになります。
2、自益権の「剰余金配当請求権」とは
株主に認められている権利のうち剰余金配当請求権は、もっとも重要な権利の一つです。
「会社にお金を投資して、会社が利益を出したときには、投資したお金の金額に応じて利益の一部を配当として受け取る」というのは株式会社という仕組みの根本ですから、利益の配当を受ける権利はもっとも基本的な株主の権利といえます。
以下では、配当におけるルールと、株価の変動という側面から見た配当の意味について説明します。
(1)配当の仕組み
配当とは、簡単にいえば「会社が出した利益のうち、一部を株主の取り分として分配してもらうこと」をいいます。
配当を受ける権利は株主の権利(自益権)ですから、会社が配当を行うときには、株主は保有する株式数に応じた配当を受け取ることができます。
もっとも、会社が利益出したときに同時に配当も出すかは、その都度株主総会で決めることになっています。
ある程度の利益が出ていたとしても、そのすべてを配当として株主に分配してしまうと、最悪の場合には、会社にお金が無くなって倒産ということにもなりかねません。
そのため、利益を出している会社であっても、そのときの経営環境によっては配当を出さない(無配といいます)こともあり得ます。
(2)権利確定日
株主が、会社から配当を受けたり株主優待を受けたりするためには、一定の期日において、その会社の株主となっていることが求められます。
ここでいう「一定の期日」のことを、権利確定日といいます。
権利確定日とは、配当を受ける権利や株主優待を受ける権利が確定する日を言います。
権利確定日において株主となっている人は、会社の株主名簿に記載されます。
会社は、この株主名簿に基づいて、配当や株主優待を行う人を決めるというわけです。
3、共益権は単独株主権と少数株主権に分かれる
会社経営に参加する権利である共益権は、1株でも有していれば行使できる権利と、一定数有していなければ行使できない権利に分かれます。
なぜかというと、すべての会社経営に関する権利行使について、1株でも有していれば行使できるとしてしまうと、会社の経営に混乱をきたす可能性があるからです。
例えば、株主に認められる権利の一つである「株主総会の招集権」を考えてみてください。
すべての株主が株主総会を招集できるとしてしまうと、頻繁に株主総会が開催されて大変そうかな⁈ということは、想像に難くないのではないでしょうか。
①単独株主権
単独株主権とは、1株でも有していれば行使できる権利です。
具体例は以下の通りです。
- 株主総会における議決権
- 株主代表訴訟を提起する権利
- 取締役の違法行為を差し止め請求する権利
- 会社が新規に株式を発行するのを差し止め請求する権利
- 株主総会で行なわれた決議の取り消しの訴えを提起する権利
②少数株主権
少数株主権とは、一定割合または一定の株式数を有する株主のみが行使しうる権利です。
具体例は以下の通りです。
- 議題提案権(株主総会で議題を提案する権利):議決権の100分の1または株式数300以上
- 議案通知請求権(株主総会で提出する予定の議案を、別の株主に通知するよう要求する権利):議決権の100分の1または株式数300以上
- 株主総会の招集手続きについて検査役を選任するよう求める権利:議決権の100分の1
- 会社の業務執行に関して検査役の選任を要求する権利:議決権の100分の3
- 会社の会計帳簿を閲覧させるよう要求する権利:議決権の100分の3
- 株主総会を招集するよう要求する権利:議決権の100分の3
- 会社の役員を解任する訴えを提起する権利:議決権の100分の3
- 会社解散の訴えを提起する権利:議決権の100分の10
4、株主平等原則
以上でご説明した自益権と共益権は、どの株主にもある権利です。
これを「株主平等原則」と言います。
しかし、これは「普通株式」の場合です。
株式には「普通株式」と「種類株式」があり、種類株式とは、普通株式の株主の権利がアレンジされた株式です。
つまり、種類株式では、例えば「議決権がない」というような株式も発行できるというわけです。
種類株式の主な種類は、以下の通りです。
- 優先株、劣後株、混合株
剰余金の配当、残余財産の分配について、普通株式と比べて、優先的取り扱いを受ける株式を優先株、劣後的扱いを受ける株式を劣後株といいます。
ある点では優先的取扱いであるが、他の点では劣後的取扱いを受ける株式を、混合株といいます。
- 議決権制限株式
株主総会において、議決権を行使できる事項について、一定の制限が課されている株式です。
種類株式は、定款に定めることにより、発行することができます。
5、株主の権利行使を具体例で解説〜取締役が違法行為をしたとき
ここでは、「取締役が違法行為をしたとき」を例にあげ、この時の株主の具体的権利はどのようなものがあるのか1つずつみてみましょう。
(1)株主代表訴訟
まずは、単独株主権として定められている株主代表訴訟です。
取締役は法令、定款の定めに従う義務がありますが、これらに反して会社に損害が生じたときは、損害賠償責任を負います。
本来は、会社が、違法行為を行った取締役に対して損害賠償請求をすべきですが、馴れ合いや不正隠しなどにより請求しない場合、会社に代わって、株主は、当該取締役に対して責任追及することができるのです。
(2)解任請求
そして、少数株主権として定められている解任請求です。
取締役は、株主総会の普通決議で解任することは可能ですが、多数派の株主が賛同しなければ解任することはできません。
このような場合、以下の一定の少数株主は、裁判所に解任の請求をすることができます。
- 6ヶ月前から引き続き総株主の議決権の100分の3以上の議決権を有する株主
- 6ヶ月前から引き続き会社の発行済株式の100分の3以上に当たる株式を有する株主
なお、裁判所への請求は、株主総会で否決された日から30日以内にしなければなりません。
(3)差止請求
差止請求は、会社に損害が発生する前に、取締役の違法行為をやめさせることです。
単独株主権ではありますが、6ヶ月前から引き続き保有する株主に限られています。
(4)その他
株主としての権利ではありませんが、取締役の行為が背任罪や横領罪に該当する場合は、刑事告訴・告発することもできます。
6、株主優待とは
投資家の人気を集めるために、株主優待制度を取り入れる企業も多いでしょう。
以下では、株主優待の意味について解説いたします。
(1)株主優待とは
株主優待とは、長期間にわたって株式を保有している株主に対して、企業が感謝の気持ちを込めて自社商品やサービスを無償で提供する制度です。
企業側としては、株式の購入を通して会社に出資してくれる株主は非常にありがたい存在ですから、株主優待を提供することによって、さらに多くの株主を確保したいという考えがあります。
(2)株主優待は実質的な配当ではないの?
会社のサービス券や商品券などの形で受け取る株主優待は、「実質に見て配当と同じなのではないか?」と疑問を感じる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、配当は、会計上の利益が発生した際に行うものである一方、株主優待は、このようなこととは無関係に行うものである点において異なります。
よって、配当と株主優待は、完全に別物と考えてください。
7、株主の権利行使その他お困りの際は、弁護士へ相談を
株主は、資本金を入れてくれるという立場から、企業にとって重要なステークホルダーです。
株主とは良好な関係を築くことが大切です。
株主が有する権利をきちんと把握し、株主と良い関係を築きながら、健全な会社運営を行いましょう。
株主からの権利行使や種類株式の発行、株主との間でトラブルが発生した際は、ぜひ弁護士にご相談ください。
法律上の問題点を明確にして、今後の運用の仕方を的確にアドバイスしてくれるでしょう。
まとめ
今回は、株主に認められる権利の内容について解説いたしました。
株主は、企業運営において日常的に関係する存在ではないので、注意が向きづらいところがあるかもしれません。
しかし、「資金を入れてくれる」という側面だけではなく、株主の権利の基本を理解することにより、自ずとどのように関係していくべきかが見えてくるのではないでしょうか。
初めて起業される方も、すでに経営を進められている方も、今後より一層株主と良い関係を築きながら企業を発展していかれますよう、この記事がお役に立てれば幸いです。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています