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執行役員制度とは|導入時の留意点6つを弁護士が解説
執行役員制度についてご存知ですか?
執行役員(しっこうやくいん)とは、使用人の一形態です。
使用人とは、いわゆる従業員のことです。
企業の中で働く人たちは、法律上、その立場が2つに分かれます。
1つは、「役員」と呼ばれ、会社の「機関」となる人々。代表取締役、取締役などがこれにあたります。
もう1つが「使用人」です。部長や課長、役職のない平社員などがこれにあたります。
執行役員は、使用人でありながら「役員」と名付けられており、実際、会社の中でも重要な位置にいるのではないでしょうか。
今回は、そんな微妙な立ち位置の「執行役員」の制度について、
- 執行役員制度の概要
- 昨今の執行役員制度を取り巻く問題
- 執行役員制度の導入について
具体例を交えながら、わかりやすく解説していきます。
執行役員制度について、概要を知りたい方、執行役員制度の導入を検討している方などの参考になれば幸いです。
1、執行役員制度|執行役員とは何か?
執行役員とは、会社でどのような立場なのでしょうか。
(1)執行役員は各事業部門のトップとして、担当する業務の運営責任を負うポスト
執行役員とは、会社法上の正式な役員の地位ではなく、経営責任を有する取締役あるいは取締役会から、ある事業部門について一定の包括的な代理権限などを付与されている社内的な役職です。
日本の会社では、取締役として役員の地位にある者が、ある事業部門の運営の責任者であることを示すために「取締役執行役員」という肩書きを与えられていることも少なくありません。
執行役員は、会社の事業部門のトップとして事実上の業務の運営責任を負うポストであり、約7割の上場企業で執行役員という役職が定められているという調査結果もあります。
(2)会社法の役員とは異なる
「役員」と付いていますが、執行役員は、会社法で定められている役員とは異なります。
会社法で定められている役員の一つである取締役への就任は株主総会の承認を必要としますが、執行役員の任用に株主総会の承認は必要ありません。
執行役員の選任・解任は、取締役、あるいは取締役会において、従業員の中から適宜、任命し、解任します。
さらに、執行役員が経営に従事する場合は「みなし役員」となり、一般の従業員とは退職金などの扱いも変わってきます。
2、執行役員制度はなぜ置かれているのか?
執行役員制度が、日本の上場企業を中心に広まっていった背景を紐解いていきます。
(1)執行役員は、企業経営における監督と執行の分離を目的として導入
執行役員制度の目的は、企業経営において、取締役・取締役会は会社の重要な方針決定と監督を担当し、執行役員は業務執行に関することを担当するという、「監督と執行の分離」にあります。
会社の規模が大きくなると、1人または複数人の代表取締役だけで業務執行を十分に行うことが難しくなります。
したがって、代表取締役以外の取締役も、監督業務と並行しながら、業務執行の役割も担う業務執行取締役、あるいは使用人兼務取締役として、二足のわらじを履かざるを得ません。
その打開策として、取締役・取締役会の機能とは別に、業務執行に関する権限を持たせた「執行役員」を置くことにより、取締役会や会社全体の活性化を図るために導入されたのが「執行役員制度」なのです。
(2)執行役員制度は、米国型企業統治モデルに倣った制度
執行役員制度は昔からあったのではなく、日本では割と最近になって普及した制度です。
日本で執行役員制度を初めて導入した企業はソニーで、1997年当時に話題となりました。
米国型企業統治モデルに倣い、業務執行にあたる執行役員、それを監視する取締役を分離、さらに、取締役会内部に社外取締役が過半数を占める3つの委員会の設置、それに伴う監査役制度を廃止したことがその特徴です。
(3)近年のコーポレートガバナンスの強化の流れを汲んで広がった
コーポレートガバナンスとは、ステークホルダー(経営活動に関わる利害関係者)によって企業を統制し、監視する仕組みのことです。
近年の執行役員制度が普及した背景には、特定の業務の責任者が、業務執行に専念できる体制を整備、経営の健全性や透明性の向上、および業務執行の迅速化・効率化によってコーポレートガバナンスを強化する狙いがあります。
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3、執行役員制度の問題点
執行役員制度には、考慮すべき問題点もあります。
(1)執行役員の地位が不安定である
執行役員は、その地位について法律で定められていないため、実質的な選任・解任は、取締役や取締役会に委ねられており、その地位が非常に不安定という問題があります。
(2)部長や本部長などの役職との違いがわかりづらい
企業の部長や本部長が執行実務を取り仕切る場合、執行役員とこれら役職者の差が曖昧になり、現場の混乱を招きやすいということが懸念されます。
(3)形骸化しやすい
執行役員は、会社法で定められた役員ではないため、形骸化してしまうおそれがあります。
たとえば、新たなポストとして執行役員を置いたにもかかわらず、執行役員のポストに就いた者が取締役を兼任するケースは、執行役員制度の目的であるはずの「監督と執行の分離」から乖離しています。
さらに、執行役員を置いても、引き続き取締役が業務執行を継続して行ってしまうため、経営に集中できないなどのケースが発生することもあります。
4、執行役員制度を廃止した最近の動き
最近になって、執行役員制度を一度は導入しながら、その権限の曖昧さから廃止へと動く企業が増加傾向にあります。
執行役員制度を廃止した企業の事例を紹介します。
(1)リクシル(2016年)
建築材料・住宅設備機器業界最大手の株式会社リクシルは、効率的でシンプルな組織を構築することを目的として、2016年に従来の執行役員制度を廃止、新しい経営管理体制に移行しました。
参考:https://www.lixil.com/jp/news/pdf/20160609_New%20Exec%20Mgmt%20System_J.pdf
(2)ロート製薬(2016年)
大手製薬メーカーのロート製薬株式会社は、2016年に執行役員制度を廃止しました。
その目的は、取締役の責任と権限を明確にするため、経営の効率化と意思決定の迅速化を図るため、執行役員という枠にこだわらず、全管理職が責任をもって機動的な業務執行を進めるためとしています。
参考:https://www.rohto.co.jp/~/media/cojp/files/pdf/ir/news/ir160513.pdf
(3)クスリのアオキ(2018年)
クスリのアオキホールディングスは、2018年に執行役員制度を廃止、トップを軸にしたシンプルな新体制により、経営の意思決定を速めるとしました。
参考:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO31227280R30C18A5LB0000/
5、執行役員制度を導入する方法と留意点
執行役員制度を導入するにあたって、設置する方法と留意点について解説します。
(1)導入方法
執行役員は、取締役会によって、執行役員の社内規程等を定めることで導入できます。
社内規程には
- 執行役員制度導入の目的
- 執行役員の意義
- 選任・解任の手続
- 退任事由
- 職務分担
- 待遇
- 法令遵守規定
などを定めます。
他の役員と異なり、定款に盛り込む必要はありませんが、株主総会において株主への説明および承認を得ておく方が、株主権の保護の観点からも合理的と考えられています。
(2)留意点
執行役員制度を導入する場合、取締役会の機能との線引きがあいまいでは執行役員の権限がずるずると広がってしまい、現場のマネジメントが混乱してしまうおそれがあります。
導入の際は、取締役会規程を見直し、その線引きの明確化を図ることが重要です。
6、執行役員制度をふまえて|会社の体制整備については弁護士に相談を
会社に執行役員を設置するかどうか、具体的な場面が発生して、初めて考えることでしょう。
従業員の多い会社は、特に、部署の乱立などもあり、統制がきいていないケースもあります。
コーポレートガバナンス、内部統制の観点からも、会社の内部体制の整備は不可欠です。
どのような機関設定がその会社にとってスマートなのか、弁護士が他社事例も踏まえて、共に検討します。
お困りの際は、お気軽に弁護士にご相談ください。
まとめ
執行役員制度の概要と導入時の留意点について解説してきました。
執行役員制度は未だ会社法上認められた制度ではないことから、課題も多く、その権限があいまいになりがちです。
業務の責任者が業務執行に専念できる体制を整えるために、執行役員制度を採用したものの、却って業務の非効率化を招いているという事例も散見されるため、導入に際しては慎重に検討する必要があります。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています