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パワハラ防止法の概要について弁護士が徹底解説

2021年12月7日
パワハラ防止法の概要について弁護士が徹底解説

パワハラ防止法が2020年6月から施行されました(中小企業は2022年4月施行)。

とはいえ、会社の人事担当者、管理職、一般の社員も内容を理解するのは容易ではありません。

パワハラ防止対策が事業主の義務になったというが、具体的にどんな内容なのか。
以前から言われている通り、教育指導等との兼ね合い等もよくわかりません。
そもそも、セクハラ、マタハラ、等々ハラスメントのオンパレードで、いささかうんざりしているというのが本音かもしれません。

今回は、そんなあなたのために、弁護士が知恵を絞って

  • 社内研修ですぐ使えるパワハラ防止法の概要

をまとめてみました。

ポイントを絞って理解すれば、パワハラ防止法は決して難しいものではありません。
「パワハラ対策」と考えるよりも、お互いに尊重しあって励まし合う職場づくりを目指す、そのような前向きの取り組みのきっかけにしていただくことを狙いとしています。ぜひご活用ください。

1、パワハラ防止法とは

社内研修ですぐ使える「パワハラ防止法」の概要〜社内周知でパワハラのない企業へ

(1)労働施策総合推進法等5本の法律が改正

2019年(令和元年)6月5日「女性の職業生活における活躍の推進等に関する法律等の一部を改正する法律」が公布されました。冒頭記載の通り、施行は2020年6月(中小企業は2022年4月)です。

パワーハラスメント対策が事業主の義務になります。

また、同時にセクハラ・マタハラも含めてハラスメント関係の対策の実効性向上が図られることとなりました。

改正ポイント、該当の法律、施行時期の概要は次の通りです。

改正ポイント

法律の名称

施行時期

パワーハラスメント対策の法制化

「労働施策総合推進法」の改正

労働者派遣法」の改正

(パワハラ防止措置について、派遣先事業主も派遣労働者を雇用する事業主とみなす。)

公布日から1年以内の政令で定める日(中小企業は公布日から3年以内の政令で定める日)

セクハラ等ハラスメント全体の防止対策の実効性向上

「男女雇用機会均等法」「育児・介護休業法」「労働施策総合推進法」の改正

公布日から1年以内の政令で定める日

(同時改正)

女性活躍推進のための行動計画の策定等義務企業の対象拡大(300人超→100人超)

「女性活躍推進法」

公布日から3年以内の政令で定める日

「えるぼし」の拡充(女性活躍の状況が優良な企業の認定制度)

「女性活躍推進法」

公布日から1年以内の政令で定める日

(2)パワハラ防止法の正式名称

「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」といわれます(以前の「雇用対策法」です。働き方改革法の中で名称が変更されました。)。

(3)パワハラ防止法の成立背景

パワハラの与える影響が極めて深刻だからです。

職場は、私たちが人生の多くの時間を過ごし、様々な人間関係を取り結ぶ場所です。
パワハラは、それを受ける人だけの問題にとどまりません。
パワハラを行った人、対応不十分だった企業などにも、大きな問題を生みます。
最近の過労死・過労自殺の事件などでも、その背景に深刻なパワハラがあったことが明らかになっています。

以下、パワハラが与える影響を、当事者ごとに簡単にまとめてみましょう。

①パワハラを受ける人

人格の尊厳が傷付けられ、仕事への意欲・自信を失う。心の健康の悪化、休職・退職、生きる希望すら失う。

②パワハラを行った人

社内の信用低下、懲戒処分・訴訟のリスク、社内の居場所を失う。

③企業

業績悪化、貴重な人材の損失、使用者としての責任、会社のイメージダウン。

2、パワーハラスメントとは〜指導との境界線を探る

社内研修ですぐ使える「パワハラ防止法」の概要〜社内周知でパワハラのない企業へ

パワハラについては、職場での業務上必要な指導等との境界線がよくわからない、ということが問題になります。

パワハラの要件、具体的な類型などをまとめました。これにより、指導との境界線を考えてみましょう。

(1)職場におけるパワーハラスメントの要件

次の3つすべてに当てはまるものです。

  1. 優越的な関係を背景とした
  2. 業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により
  3. 就業環境を害すること(身体的若しくは精神的な苦痛を与えること)

(注意1)「職場」とはそもそもどこ?
業務を遂行する場所です。通常の就業場所以外でも、「職場」に含まれることがあります。

(注意2)「優越的な関係」とは?
上司・部下の関係に限りません。ベテランの部下が業務経験の浅い上司をいじめるような場合も、「優越的な関係を背景としたハラスメント」になり得ます。

(2)「パワハラの6類型」と「業務上必要な指導との境界」

次のような6つの類型が典型的なものです。指導との境界についても一通り整理してみました。

ただし、パワハラは、これらの類型に限られるものではありません(後述「3」厚生労働省「職場におけるハラスメント関係指針」も参照)。

類型

内容

具体例

業務上必要な指導との境界

×:業務上必要な指導とは言えない。

△:業務上必要な指導と認められることもある。

①身体的な攻撃

蹴ったり、殴ったり、体に危害を加えるパワハラ

提案書を上司に提出したところ、「出来が悪い」と怒鳴られ、灰皿を投げつけられて、眉間を割る大けがをした。

×

このような行為に業務上の必要性は認められません。

②精神的な攻撃

侮辱、暴言など精神的な攻撃を加えるパワハラ

「やめてしまえ」など社員の地位を脅かす言葉、「小学生並みだな」、「無能」などの侮辱、名誉棄損に当たる言葉、「バカ」、「アホ」等の暴言等。

×

業務の指示の中で言われたとしても、業務遂行に必要な言葉とは通常考えられません。

③人間関係からの切り離し

仲間外れや無視など個人を疎外するパワハラ

一人だけ別室に席を離される、職場の忘年会や送別会に呼ばれない、話しかけても無視等。

×

無視や仲間外しをするのは、仕事を円滑に進めることに必要なことではありません。

④過大な要求

遂行不可能な業務を押し付けるパワハラ

業務上明らかに不要なこと、遂行不可能なことの強制や仕事の妨害。

業務上の些細なミスについて見せしめ的・懲罰的に就業規則の書き写しや始末書提出を求める。能力や経験を超える無理な指示で他の社員よりも著しく多い業務量を課す等

単に仕事の量が多いというだけではパワハラにはなりません。業務上の必要性が認められるかどうかで判断されます。

⑤過小な要求

本来の仕事を取り上げるパワハラ

営業職として採用された社員に営業の仕事を与えずに草むしりばかりさせる。お前はもう仕事をするなといって仕事を与えずに放置したりすること

どこからが「業務の適正な範囲」を超えるかは、行為の状況や継続性などでも左右されます。職場での認識をそろえて範囲を明確にすることが望まれます。

⑥個の侵害

個人のプライバシーを侵害するパワハラ

年休を取得して旅行に行こうとしたところ、上司から「誰と、どこへ行くのか、宿泊先はどこか」などと執拗に問われ、年休取得も認められなかった。

管理職は業務上必要なため休暇予定を聞いたり、休暇時期を変更してもらう必要があるかもしれません。

「業務の適正な範囲」を超えるかどうかは、行為の状況や継続性等でも左右されます。職場での認識をそろえて範囲を明確にすることが望まれます。

3、パワハラ防止法で企業に課される「防止措置義務」とは

社内研修ですぐ使える「パワハラ防止法」の概要〜社内周知でパワハラのない企業へ

職場のパワーハラスメントの定義や事業主(会社)がとるべき措置の内容は、このほど、指針で示されました。

現行のセクハラ・マタハラ等の防止措置義務の内容も踏まえ、これらと一体となった「総合的ハラスメント対策」とすることが求められます。

次のような内容になります。

(厚生労働省「職場におけるハラスメント関係指針」

(1)事業主の方針等の明確化、周知・啓発

  • パワーハラスメントの内容・方針の明確化、周知・啓発
    職場のパワハラの内容を定義し、パワハラはあってはならない旨の方針を明確化し、その旨を社内周知・啓発する。(社内報、パンフレット、社内ホームページ等への掲載や社内研修等)
  • 行為者への対処方針・対処内容の就業規則等への規定、周知・啓発
    行為者には厳正に対処する旨の方針、対処内容を就業規則等に規定し、社内に周知・啓発する。

(2)相談等に適切に対応するために必要な体制の整備

  • 相談窓口の設置、相談担当者による適切な相談対応
  • 他のハラスメントと一体的に対応できる体制の整備

(3)事後の迅速・適切な対応 

  • 事実関係の迅速・正確な確認
  • 被害者に対する配慮のための対応の適正な実施 
  • 行為者に対する対応の適正な実施
  • 再発防止に向けた対応の実施

(4)以上と併せて行う対応

  • 相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な対応、対応を周知
  • パワハラ相談・事実確認への協力等を理由とした不利益取扱いの禁止、禁止の周知・啓発 (二次被害の防止)

4、パワハラ防止法そのものに罰則がなくても、様々な責任が問われる

社内研修ですぐ使える「パワハラ防止法」の概要〜社内周知でパワハラのない企業へ

パワハラに限らず、セクハラ、マタハラなどハラスメント行為そのものの禁止規定の創設も議論されましたが、今回は見送られました。
業務上必要な指導との境界があいまいであり、企業の管理者等が不必要に萎縮してしまうことなども懸念されたようです。

罰則がないままで、パワハラ対策の実効性が得られるのでしょうか。
企業の防止対策が義務付けられましたが、従わなかったとしても、直接的な罰則はありません。
従わない企業には、厚生労働省が改善を求め、応じなければ、厚労省が企業名を公表する場合もある、とされているだけです。

とはいえ、行きすぎたパワハラなら、行為者にも会社にも民事上・刑事上の責任は現行でも問われます。

(1)行為者個人に問われる法的責任

  • 刑事責任:傷害、暴行、脅迫、強要、名誉毀損、侮辱等に該当すれば処罰されます。
  • 民事責任:不法行為(民法709条)に基づく損害賠償責任があり得ます。
  • 社内処分:就業規則等に基づく懲戒等の責任が問われます。

(2)企業に問われる法的責任

  • 債務不履行による損害賠償責任
    民法415条 労働契約法第5条:労働者への安全配慮義務違反による債務不履行)
  • 不法行為による損害賠償(民法709条)
  • 使用者等の責任(民法715条)など

(参考)
パワハラに関連する裁判例は多数あります。
これまでも様々な事例が積み重なり、今回の改正に至ったものです。
実際の裁判での主な特徴ごとに、「身体的な攻撃」型、「精神的な攻撃」型など、パワハラの6類型に分類された資料があります。
必要に応じて参照してください。

厚生労働省:あかるい職場応援団パワハラ基本情報裁判例を見てみよう

5、パワハラ防止法施行前〜いまパワハラがあったらすべきこととは

社内研修ですぐ使える「パワハラ防止法」の概要〜社内周知でパワハラのない企業へ

パワハラの被害を受けたときに限りません。
いわれもなくパワハラ加害者にされることもあるでしょう。

そんなとき、どうすればよいでしょうか。

(1)基本的な姿勢―会社の業務・職務等の特性をよく考えよう

そもそも、パワハラは業務上の必要な指導との境界が曖昧です。
行き過ぎた抑制は、かえって危険を生みかねません。

たとえば、業務上の危険行為をみかけたら、厳しく叱責してやめさせるのは、業務上必要な行為です。
絶対にパワハラではありません。

社員も管理者も1人で悩み込んではなりません。
勝手な思い込みで行動したり、行動を抑止することの方が問題を深刻化させます。

上記「2」(2)「パワハラの6類型」と「業務上必要な指導との境界」は、厚生労働省が一般の会社に広く当てはまる標準的な類型として考えているものです。

会社の業務内容や職務の特性などから、この基準に必ずしもぴったり当てはまらないケースもあると思います。
ベテラン社員への対応と若手社員への対応の仕方も違いがあって当たり前です。

社内の研修では、ぜひ、「自分の会社では、どんな場合がパワハラになるのか、ならないのか。」を具体的な事例を挙げてしっかり議論してください。
厚生労働省自身が「職場での認識をそろえて範囲を明確にすることが望まれます。」と述べています。

(2)社内相談窓口への相談

それぞれの会社で、セクハラ、マタハラなどの相談窓口が整っていることは多いと思います。
パワハラもハラスメントの一環です。
前述の通りセクハラ、マタハラなどを含めた一体的な社内体制構築が求められています。

防止法施行前であっても、まずは社内窓口に相談することを考えるべきでしょう。
これからのパワハラ対策を検討するための大事な試金石にもなるでしょう。

(3)公的機関への相談・弁護士との相談

社内相談で埒が明かないなら、都道府県労働局「総合労働相談コーナー等への相談が考えられます。
労働局は、会社と労働者との間に発生したトラブルについて、助言や解決の場の提供を行う機関です。
そのはじめの窓口が、総合労働相談コーナーです。

とはいえ、1人ではなかなか敷居が高いと思われます。
早めに人事労務管理に詳しい弁護士に相談することが有効でしょう。

6、人事労務での懸念や疑問は弁護士へ相談を

社内研修ですぐ使える「パワハラ防止法」の概要〜社内周知でパワハラのない企業へ

人事労務での懸念や疑問は、弁護士への相談をお勧めします。

とりわけパワハラは、現在詳しい基準の作成が進行中の問題です。
内容が固まってるわけではありません。

一方で、本当にパワハラがあったときには、深刻な問題が生じかねません。
前述の通り、パワハラを受けた人のみでなく、行為をした人にも、会社にも、重大な影響が生じます。
早め早めに、専門の弁護士との相談をお勧めします。

[nlink url=”https://best-legal.jp/what-is-the-general-counsel-1996″]

まとめ

「パワハラ対策」は、パワハラという特殊な事態への対処と考えるべきではありません。
むしろ、パワハラを学ぶことで、会社の中でお互いに尊重しあって励まし合う職場づくりを目指していくべきなのです。パワハラ対策をそのきっかけとして考えてください。

この記事が、あなたの会社を「あかるい職場」にしていただくために少しでも参考になれば幸いです。

【参考資料】
厚生労働省:あかるい職場応援団

パワハラ対策の総合情報サイトです。社内研修に役立つ資料もたくさん用意されています。
たとえば、「動画で学ぶパワハラ」等は、皆さんで視聴して意見交換をされてはいかがでしょう。
皆さんの職場にそのまま活用できるかどうかはわかりません。
むしろ、議論のきっかけにしていただくのが役に立つと思います。

※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

ベリーベスト 法律事務所弁護士編集部
ベリーべスト法律事務所に所属し、企業法務分野に注力している弁護士です。ベリーベスト法律事務所は、弁護士、税理士、弁理士、司法書士、社会保険労務士、中国弁護士(律師)、それぞれの専門分野を活かし、クオリティーの高いリーガルサービスの提供を全国に提供している専門家の集団。中国、ミャンマーをはじめとする海外拠点、世界各国の有力な専門家とのネットワークを生かしてボーダレスに問題解決を行うことができることも特徴のひとつ。依頼者様の抱える問題に応じて編成した専門家チームが、「お客様の最高のパートナーでありたい。」という理念を胸に、所員一丸となってひたむきにお客様の問題解決に取り組んでいる。
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