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労働条件の不利益変更のデメリットと円滑に不利益変更する方法
労働条件の不利益変更は、労働者の生活に直接的な影響を与えます。
しかし、会社の経営状況の悪化などから、賃金の減給などといった労働条件の不利益変更を行わなければいけないケースも存在します。
今回は、
- 労働条件の不利益変更を行うことによるデメリット
- 円滑に労働条件の不利益変更を行う方法
を解説していきます。ご参考になれば幸いです。
1、労働条件の不利益変更とは?
福利厚生や労働者の勤務体系・給料体系などといった労働条件を、労働者にとって悪い方に変更することを、労働条件の不利益変更といいます。
労働契約法第9条に規定があるように、労働条件の不利益変更は、基本的に労使間の合意のもとで行われる行為です。
しかし、一定の要件を満たした場合には、労使間の「合意」がない場合でも、労働条件の不利益変更が認められるケースがあります。
2、労働条件の不利益変更の具体的事例
労働者の賃金を減額する、労働者の退職金を減らすなどの労働条件の変更は、不利益変更であることがわかりやすいケースです。
しかし、以下のようなことも、労働条件の不利益変更に該当するので注意が必要です。
- 賃金を変更せずに、所定労働時間数を延長
- 賃金の総支給額を変更せずに、一部を固定残業代とする
- 年功序列の賃金体系を、成果主義の賃金体系に変更
- 休日・休暇の日数や休憩時間を減らす
- 休職要件・復職要件を変更
- 突然、福利厚生を廃止
- 退職金の廃止
- 通勤手当や食事手当の不支給又は減額
以上、一例を挙げましたが、基本的に、労働条件の不利益変更は、個別具体的に判断することになります。
労働条件の不利益変更に関する判断は非常に難易度が高いため、自己判断せずに、専門家に相談することをお勧めします。
3、労働条件の不利益変更を行うことによるデメリット
労働条件の不利益変更を行うことによって生じる企業側のデメリットとは、どのようなことが挙げられるのでしょうか。
(1)労使紛争の原因
みちのく銀行事件(最高裁平成12年9月7日第一小法廷判決)
【判決要旨】
60歳定年制を採用していた銀行が、就業規則を変更し、55歳に達した行員を新設の専任職に発令するとともに、その基本給を55歳到達直前の額で凍結し、業績給を一律に50%減額し、管理職手当及び役職手当は支給せず、賞与の支給率を削減するなどという専任職制度を導入した場合において、就業規則の変更のうち賃金減額の効果を有する部分については、職務の軽減が図られていないにもかかわらず、変更により専任職に発令された行員の退職時までの賃金が3割前後も削減され、代償措置は不十分であり、変更後の賃金水準は高年層の事務職員のものとしては格別高いものとはいえず、他方、変更により中堅層の賃金は格段の改善がされ、人件費全体は逆に上昇しているのであって、変更は、中堅層の労働条件を改善する代わりに高年層の労働条件を一方的に引き下げたものといわざるを得ず、賃金水準切下げの差し迫った必要性に基づいてされたものではなく、執られた経過措置も高年層を適切に救済するものとはいえないなど判示の事情の下では、変更部分は、高度の必要性に基づいた合理的な内容のものであるということはできず、これに同意しない行員に対し効力を生じない。
【事案の概要】
Y銀行は、昭和61年5月、55歳以上の管理職をラインから外し、スタッフ的な専任職として、賃金額を平均約10%削減するとともに、55歳以上の行員の基本給の額を凍結するという第一次専任職制度を導入するため、第一次就業規則変更を行い、引き続き、同63年4月、原則として、55歳以上の者全員をラインから外して専任職とし、賞与を含む賃金額を専任職の発令のない場合と比べて、約30~50%程度削減する結果となる第二次専任職制度を導入するため、第二次就業規則変更を行った。専任職の発令を受けた55歳以上の行員であるXら6人が、各就業規則変更がXらに効力を及ぼさないと主張して、専任職制度が適用されなかった場合に得られたはずの賃金と実際に得た賃金との差額の支払を求めるほか、各種の確認を求めて、訴訟を提起した。
この事案では、労働条件の不利益変更を行うことに関して、労働者の73%が加入している労組の同意を得ていました。
しかし、少数組合の同意を得ないまま、就業規則の変更を実施しました。
訴えを起こしたXら6名は、就業規則の変更に同意をしていなかった少数組合の組合員で、いずれも当時55歳以上の管理職・監督職階でした。
このように、労働条件の不利益変更を行うことが、労使紛争の原因となり、裁判にまで発展してしまうといったリスクもあります。
(2)社員の士気の低下
労働条件の不利益変更が行われることで、社員の士気が低下し、生産性も低下してしまうといったリスクも存在します。
これでは、手間をかけて労働条件の不利益変更を行っても、業績が回復することはありません。
(3)企業イメージの低下
近年、少子高齢化の影響で、どの企業でも人手不足が常態化しています。
強引に労働条件の不利益変更を進めてしまうことで、「ブラック企業」とのレッテルを張られてしまい、求職者が激減、人手不足に陥ってしまうといったリスクも存在します。
見てきたように、労働条件の不利益変更の実施には大きなリスクが潜んでいることがわかります。
労働条件の不利益変更を行う場合は、慎重に変更内容を検討し、労働者の理解を得ることが重要であるといえます。
4、労働条件の不利益変更が許されるケースとは?
労働契約法第9条で規定されているように、労働条件の不利益変更は労働者との「合意」が必要になります。
しかし、一定の条件の下であれば、労働者との合意が得られていなくても、労働条件の不利益変更が許されるケースも存在します。
ここでは、労働条件の不利益変更が許される場合の要件をご説明してきます。
(1)労働条件の不利益変更が認められる2つのポイント
① 変更の合理性
労働契約法第10条では、以下の条件に照らし合理的なものであるときは、労働者との合意が得られていなくても、労働条件の不利益変更は可能であると規定しています。
≪労働条件の不利益変更の合理性の判断基準≫
- 就業規則の変更によって労働者が受ける不利益の程度
- 労働条件の変更の必要性
- 変更後の就業規則の内容の相当性
- 労働組合等との交渉の状況
- その他の就業規則の変更に係る事情
② 就業規則の周知
労働契約法第10条では、労働条件の不利益変更をする場合には、「変更後の就業規則を労働者に周知すること」が必要であると規定されています。
(2)「変更の合理性」の判断基準
「変更の合理性」の判断基準は、「変更の必要性」と「変更の内容」の比較衡量を基軸とし、加えて労働組合等との交渉の経緯や変更の社会的相当性を加味して、当該不利益の程度が相当かどうか、総合判断していきます。
①労働条件の変更の必要性
労働条件を変更する必要性があるかは、現実的でかつ具体的なものでなければいけません。
「規制緩和の時代だから…」などといった抽象的な理由では認められないので、注意が必要です。
また、過去の判例から、下記のような状況下では、労働条件の変更の必要性が認められやすい傾向にあります。
≪労働条件の変更の必要性が認められやすい事例≫
- 法律の要求に伴う変更の必要性
- 合併による労働条件統一に伴う変更の必要性
- 企業経営が破綻寸前である
② 変更後の就業規則の内容の相当性
変更後の就業規則の内容の相当性は、以下のような点を考慮しているケースがあります。
- 不公平な適用
一定の要件に該当する労働者にのみ適用されるような不公平な変更は、認められません。
- 移行措置
労働条件の変更に関して移行措置を設けると、労働条件の不利益変更が認められやすくなることもあります。
③ 労働組合等との交渉の状況
多数労働組合又は多数労働者と交渉するのはもちろんのこと、他の労働組合又は他の労働者に対しても十分な交渉・説明を行い、誠意を持って対応することが重要です。
④ その他の就業規則の変更に係る事情
自社の不利益変更内容が、同業他社に比べて厳しすぎるかなど、社会常識に照らして、不利益変更の内容が判断されます。
(3)就業規則の周知
労働条件の変更内容に関する周知がなされていると認められるためには、以下に例示するような方法で、労働条件の変更内容を周知し、労働者が知ろうと思えば、知ることのできる状態にしている必要があります。
- 労働条件の変更内容を常時作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付ける
- 労働条件の変更内容を書面で交付する
- 労働条件の変更内容を磁気ディスク等に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置
5、円滑に労働条件の不利益変更を行う方法~弁護士に相談を
労働条件の不利益変更は、労働者の同意が得られない場合、会社にとって大きな不利益をもたらす可能性の高い問題であるといえます。
また、労働条件の不利益変更が認められるケースは、個別具体的に判断しなければいけないため、非常に判断が難しい問題であるといえます。
労働条件の不利益変更をする場合には、事前に専門家である弁護士への相談は欠かせません。
専門家にアドバイスをもらいつつ、最新の法令に則った変更を行うことが労働条件の不利益変更を円滑に進めるための最善の策であるといえます。
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まとめ
今回は、労働条件の不利益変更を行うことによるデメリットと円滑に労働条件の不利益変更を行う方法を解説してきました。
労働条件の不利益変更は、労働者の生活に直接影響を与えるため、労使間のトラブルになりやすい事案であるといえます。
法律の専門家である弁護士に相談することが、円滑に労働条件の不利益変更を行うために必要であるということができます。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています