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職務発明とは?特許や権利など職務発明の基本ポイント4つ
職務発明とは、会社の事業の展開の中で生じた発明のことを意味します。
発明というと、最先端の研究をしている大企業・大学の世界の話と考える人もいるかもしれませんが、実際には、そうでもありません。日本でも、毎日のように多数の発明がなされ、その多くは、企業の通常の事業活動を通じて行われています。
たとえば、多くの人が楽しんでいるスマホのゲーム等は、発明(プログラム特許)の集合体のようなものです。
しかし、中小企業・スタートアップ企業では、職務発明に対するケアが不十分な場合も少なくないようです。
そこで、今回は、職務発明について、最も基本的な4つのポイントをわかりやすくまとめてみました。
ご参考になれば幸いです。
1、職務発明とは?
「職務発明」とは、会社や大学に所属している従業員、研究員、教職員等が、会社等の事業に関して(会社からの指示に基づいて)行った発明のことです。
職務発明についての細かなルールは、特許法(35条以下)に定められています。
なお、正社員以外のアルバイト研究員、非正規雇用(契約社員・派遣社員)が行った職務発明も、権利承継の対象とすることが可能です。
職務発明に対比されるものとしては、雇用先の事業に基づかないで発明された「自由発明」があります。
会社員や大学教授の発明であっても、会社の事業や大学での研究と全く関係ないところでなされた(個人的な領域での)発明は、自由発明となります。
2、職務発明の事例|青色発光ダイオード事件
近年において、職務発明が最も注目されたのは、平成16年のいわゆる「青色発光ダイオード事件」です。
後に、ノーベル物理学賞を受賞したことでも知られる中村修二さんが、当時在籍していた日亜化学工業に対し、多額の発明の対価を請求し、第一審の東京地方裁判所が、会社側に対し約200億円の支払いを命じる判決を言い渡したことで、大きな話題となりました。
この事件は、最終的には会社側が中村氏に約8億円の和解金を支払うことで解決するに至りましたが、それでも、1社員が会社から受け取った金額としては、破格の金額といえます。
3、職務発明を会社の権利として受け継ぐための方法
職務発明がなされた場合であっても、会社側は、その従業員等から、「特許を受ける権利を承継」しない限りは、その発明にかかる権利は、従業員等である発明者個人のものとなります。
たとえば、会社側が特許権の承継をしなければ、従業員等に対し、特許の申請に協力させることができないだけでなく、発明者である従業員等が、ライバル会社等に特許権を売却することや、使用許諾を与えることも阻止できません。
会社等の組織が、従業員等から職務発明の権利を受け継ぐためには、別途の対応が必要です。
つまり、「『会社の事業で行った発明なのだから、当然その権利は会社にある』にはならない」ということです。
会社が従業員等である発明者から職務発明の権利を受け継ぐための方法としては、次の3つの方法があります。
- 発明者と個別に契約を交わす
- 就業規則に必要な定めを設ける
- 職務発明規程を設ける
それぞれの方法には、一長一短があります。
個別の契約での対応は、ケースごとに柔軟な対応ができる利点があるのに対し、その都度、契約書等を起案しなければならない手間があります。
また、契約の締結を従業員に強要することもできないので、契約交渉が決裂するリスクも抱えます。
さらに、発明がなされる前に、一定の契約がない(予約承継がない)場合には、発明者がその発明をどう処分しようが自由となってしまうというリスクも抱えることになってしまいます。
その点、会社と従業員との間の就業条件を定めた就業規則に、職務発明についての規程を設けることは、個別対応のデメリットを克服できる方法といえます。
ただ、職務発明に関する事項は、就業規則に盛り込む一般的な事項ではないので、従業員が確実に認知してくれるかどうかわからないというデメリットがあります。
就業規則の周知方法によっては、せっかく定めた該当事項の効力が(裁判では)有効と認められない、ということもあるかもしれません。
そこで、一般的には、特別の職務発明規程を社内ルールとして定めた上で、関係する従業員に対して十分に周知させ、必要が生じたときには、さらに個別の契約を交わすことによってカバーするという対応をとることが一般的です。
4、職務発明を承継するためには、発明者に「相当の利益」を与えなければならない
職務発明規程等によって、会社による権利の承継が予め定められていた(予約承継)としても、会社等は、従業員等のなした職務発明の権利を「無条件」で引き継げるわけではありません。
会社のサポートや研究開発の費用負担がなければ実現しなかった発明であったとしても、その発明は、発明者自身のアイデア・知識・経験もなければ実現しなかったわけですから、発明から得られた利益は、当然、発明者にも一定の配分をすべきだからです。
(1)「相当の利益」に含まれるもの
会社が発明者に与える「相当の利益」の典型例は、金銭です。
経済産業省が定めている職務発明についてのガイドラインにおいては、金銭以外の次の方法によって、相当の利益を発明者に与えることも認められています。
- 会社の費用負担による留学機会の付与
- ストックオプションの付与
- 昇給等を伴う昇進・昇格による利益の付与
- 追加の有給休暇付与
- 職務発明を利用する権利の付与
ただし、昇進・昇格、有給休暇等の方法で相当の利益を与える場合には、発明によって生じた利益に応じたものであるかどうかを、きちんとチェックすることが重要です。
形式的には昇進・昇格していても、昇給がほとんどなく、実態がないのでは、相当の利益を与えたとはいえないからです。
特許法第35条第6項の指針(特許庁ウェブサイト)
(2)相当の利益を確定するための手続
会社が従業員等である発明者に与える「相当の利益」は、次の手続に沿って定められる必要があります。
現行法の下では、必ず「発明者となり得る従業員等との協議」が必要となっているので、会社側が、「相当の利益」を一方的に決めることはできません。
基準案の策定 ↓ 基準案の協議:算定の基準についても従業員等(代表者)との話し合いが必要 ↓ 基準の確定 ↓ 基準の開示:発明を行う従業員等がいつでも基準を閲覧できる態勢を整える ↓ 相当の利益の決定:個別のケースにおいて、相当の利益を決定する際にも その発明者の意見を聴取する必要がある |
(3)相当の利益の算定
相当の利益は、当該発明から得られる利益の大きさに相応して算定されるべきものです。したがって、「発明1件〇〇円」のような決め方は不適切ですし、相場額のようなものがあるわけでもありません。
したがって、実際に相当の利益が算定されるときには、「いわゆる歩合制(売上高や使用許諾量の〇%という決め方)」や、「利益額に比例した固定額(利益が〇円までは△円、☓円以上は◇円といった具合)」で定める場合が多いといえます。
金銭以外の形で、「相当の利益」を与える場合にも、同様の配慮が必要といえます。
職務発明の対応になれていない中小企業やスタートアップ企業では、会社側も発明者側も利益算定についての知識・ノウハウがないために、「後になって損をした」と感じるような内容を定めてしまうリスクもあります。
不安があるときには、職務発明の問題に詳しい弁理士・弁護士といった専門家に相談した方がよいでしょう。
(4)職務発明を営業秘密として保持する場合の注意点
職務発明は、すべてが特許申請されるというわけではありません。
特許の申請は、「保護してもらえる保障(法的メリット)」と「技術が他社(者)への公開されるビジネスリスク」のトレードオフとなるからです。
実際にも、「どこにも公開せずに秘匿しておく」というビジネス上のメリットを優先させて、いわゆる「営業秘密」として、社内に留保しておくケースも少なくありません。
職務発明を営業秘密扱いにした場合であっても、発明者へは、相当の利益を与える必要があります。
この場合には、「使用許諾料の〇%」というような客観的に公平さを保ちやすい基準は用いることができないため、慎重な基準作りが必要となります。
5、職務発明の対応についてわからないことあるときには弁理士・弁護士に相談
特に、中小企業・スタートアップ企業では、目前にある事業を遂行するだけで手一杯になり、事業の周辺領域への配慮が疎かになりがちな傾向があります。
事業に関して生じるさまざまな知的財産権を適切に取り扱っていくことは、事業の継続性や事業の発展・展開といった中長期の視点で考えたときには、短期スパンでの収益性と同程度に重要な問題です。
たとえば、きちんとした制度設計ができなければ、優秀な技術者が、他社に流出するリスクも大きくなりますし、ライバル企業が技術を模倣して、先に特許を取得し、市場における優位性を失ってしまうこともあるかもしれません。
しかし、中小企業等にとっては、法務部等の専門部署を立ち上げて、職務発明に適宜対応させることは、費用対効果の観点で、割に合わない場合が多いことも事実です。
そのような場合には、弁理士・弁護士といった外部の専門家を上手に活用することで、コストを抑えながら、事業周辺の法務事項について、適切な対処をしていくことが可能となります。
まとめ
職務発明は、大企業だけに生じる問題ではありません。
中小企業等でも、特許等の知的財産権を取得できる可能性のある開発・研究事業を展開しているのであれば、職務発明に適切に対応できる環境を整えておく必要があります。
特に、IT関係のベンダー、ゲーム開発会社等は、どんなに規模の小さい会社であっても、職務発明への対応は必須といえるでしょう。
いまの人材では対応しきれないというときには、外部専門家の支援を受けることで、コストを節約できる場合も少なくありません。ぜひ、弁理士・弁護士にご相談ください。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています