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MBOとは?行われるケースと5つのメリット・デメリット
MBOについて検討したいという方もいらっしゃるのではないでしょうか。
しかし「MBOのメリットやデメリット」が分からないとお困りのこともあるかと思います。
そこで今回は
- MBOの概要
- MBOが行われるケース
- MBOのメリット/デメリット
等について、ご説明したいと思います。ご参考になれば幸いです。
1、MBOとは?
MBOとは、マネジメント・バイ・アウトのそれぞれの頭文字を取った略語です。
わかりやすく説明すれば、会社の経営に関与している人による会社(株式)の買取りのことをいいます。
一般的には、グループ内での(子)会社の整理や、経営再建、敵対的買収の予防・阻止といった目的で行われることが多いですが、近年では、中小企業の事業承継の場面でもMBOが行われるケースが増えてきました。
ところで、M&Aの用語に不慣れな人には、TOBとの区別がよくわからないという人もいるかもしれません。
TOBとは「テイク・オーバー・ビット」の略称で、買主が提示した条件の下で、金融商品取引所を通さずに、株式を買い付ける方法のことをいいます。
いずれも、企業買収のための手法である点、金融商品取引所を介さずに、株式を取得する方法である点では共通していますが、MBOは、その会社の経営者が株式の購入者、TOBは、外部の人間が株式の購入者となる点で大きく異なります。
2、MBOが行われるのはどんな場合か?
実際に行われるMBOは、次のような目的のために実施される場合が多いです。
- 経営体制の見直し(会社のグループ再編)
- 経営再建策の実施、大幅な事業転換
- 上場廃止によるメリットの享受
(1)経営体制の見直し(グループ再編)の手法としてのMBO
東証一部上場企業等の大きな会社が行うMBOは、自社グループの経営体制の見直しを目的とする場合が多いといえます。
たとえば、親会社が事業を進めていく中で、本業とは関連性の薄い事業部門が生じてしまった際には、MBOを利用することで、シナジー効果の低い事業部門を独立させることがあります。
これによって、親会社は、MBOで得られた資金等の経営リソースを本業に集中投下できるようになります。
2010年に行われたU-NextのMBO、2017年に行われた日立工機のMBOなどは、このタイプのMBOに分類することができます。
(2)経営再建策の実施、大幅な事業転換を行うためのMBO
MBOを実施すれば、会社に出資をしている人と会社を経営する人が同一になります。
そのため、会社経営者の意向を、より強固・迅速に、会社経営に反映させることができます。
MBOによって、株主総会で反対に合うリスクがなくなるからです。
そのため、経営者(創業家)主導による経営再建、株主に反対されるリスクのある大幅な事業方針の転換に先だって、MBOが実施されるケースも少なくありません。
2011年のアートコーポレーション(アート引越センター)が行ったMBO、2006年のすかいらーく(外食チェーン)のMBOが、経営者主導による事業再建を目的とした近年のMBOの例としては有名です。
(3)上場廃止自体が目的となるケース
MBOは、全ての発行済み株式の買取りを前提とする場合がほとんどですから、成功した場合には、その会社は上場廃止になります。
株式の上場が廃止されれば、資金調達方法が減るなどの一定のデメリットが生じますが、それぞれの企業がおかれた状況によっては、上場廃止によって得られるメリットが、デメリットを上回る場合があります。
たとえば、企業が上場廃止を選択することによって得られるメリットには、次のようなものがあります。
- 株価・上場を維持するためのコストを減らすことができる
- 株主からの解放(中長期的視点での経営戦略の実現)
①上場廃止によるコスト減
株式の上場は、株式市場によって、幅広い投資家から資金を集めることができる代わりに、上場企業にとって、さまざまなコスト負担が生じます。
たとえば、株式上場には、非上場企業よりも厳しいルールの遵守が法令上求められます。
いわゆる内部統制の仕組みは、上場企業に求められる法令上の義務の典型例といえるでしょう。
また、上場企業は、非上場企業に比べて、社会的な使命・責任も大きくなります。
近年は、営利企業である会社の社会貢献を重視する風潮が強くなっているので、企業価値(イメージ)を維持するために、採算性の悪い事業を行わなければならないこともあるかもしれません。
さらには、株価維持のために、投資家向けの広報(IR)も充実させる必要があります。
これらの負担は、時として、会社の収益を押し下げてしまうこともあるわけです。
MBOによって上場廃止を選択することで、これらの負担を軽減することができれば、それによって生じたリソースを本業に集中投下することが可能となります。
2010年に実施された幻冬舎のMBOは、リソースの集中化を目的としたMBOであるといわれています。
②株主からの解放
株式会社は、「株主の利益の最大化」に努める義務があります。
株式会社は、原則として、「出資者である株主のため」に事業を行う存在であると考えられているからです(コーポレートガバナンスの基本的な考え方)。
株式会社の株主に対する最大の還元は、毎期ごとの配当です。
数年前には、いわゆるハゲタカファンドなどを代表とする「物言う株主」の存在が特に注目されましたが、株主への配当を重視すれば、短期スパンで高い収益を上げられる事業を重視せざるを得なくなります。
しかし、会社の経営判断としては、四半期ごとの利益(配当)よりも、中長期的な視点で事業を展開したいというケースもあり、主要株主と真っ向から対立することもあるかもしれません。
また、会社の経営方針を巡って、経営陣と株主との間に対立関係が生じれば、取締役の選任議案が否決される、株主寄りの取締役を選任するような株主提案や、経営陣に反対する株主グループによる敵対的買収(他社との合併提案等)がなされることも考えられます。
MBOを実施すれば、その会社は、「出資者=経営者」となるので、株主との利害衝突が起きるリスクからも解放されます。
2011年にホリプロが行ったMBOは、株主から解放されることを目的としたMBOであるといわれています。
3、MBOのメリット・デメリット
MBOという手法によって株式会社(の全株式)を自社経営陣で買い取ることのメリット・デメリットについて確認しておきましょう。
(1)MBOのメリット
MBOのメリットには、主に以下の5つが挙げられます。
- 経営トップダウンの強化
- 会社のスリム化
- 買収リスクの回避
- 企業秘密の保持
- 円滑な事業承継の実現
①経営のトップダウンを強化できる
多くのMBOは、経営トップダウンを強化する目的で行われる場合が多いといえます。
MBOをすれば、出資者と経営者が同一になるので、経営者の意向をストレートに会社経営に反映できるようになるからです。
また、経営陣が全株式を取得することで、非上場(閉鎖会社)となれば、株主総会の実施等もかなり円滑に行えるようになり、経営の効率・迅速化をはかれるようにもなりますし、「株主からの反対(株主代表訴訟のリスク)」を考えずに、思い切った経営戦略を採用しやすくなります。
②会社のスリム化
「会社のスリム化」は、グループ企業の整理・再編等を目的とする場合のMBOなどで期待されるメリットです。
たとえば、グループの中でシナジー効果(グループ間企業の協働による相乗効果)の薄い子会社を、MBOの手法によって独立させるようなケースでは、MBOがグループ本体・切り離された子会社双方ともに、「本業に専念しやすい」環境を整えるきっかけとなります。
また、会社の規模それ自体が小さくなることで、人員・経費の削減といった事業の効率化が促進されることもあるでしょうし、経営陣と従業員との距離が小さくなることで、会社に一体感が生まれることもあります。
③買収リスクの回避
株式を上場していれば、常に予期しない他者による(敵対的)買収のリスクがあります。
たとえば、TOB(株式公開買付)は、相手方の同意なしに会社を強行的に買収するための方法として、よく知られています。
かつては、取引関係のある会社が、相互に株式を持ち合うことで、外敵からの買収に備えることが一般的でしたが、近年では、「株の持ち合い」それ自体に対する批判も強くなったこともあり、持ち合い株自体を減らす(整理する)傾向にあります。
MBOによる閉鎖会社化(上場の廃止)は、株の持ち合いが難しい現在における敵対的買収の予防策としてとても効果的です。
④企業秘密を保持できる
株式を上場していれば、自社についてのさまざまな情報を株主等に公開する必要があります。
たとえば、金融証券取引法では、企業の情報開示(ディスクロージャー)が義務づけられていますし、自社の株価を維持するためには、効果的なIR(投資家向け広報)活動も必要となります。
また、株主総会では、会社の企業秘密・ノウハウに接する情報を開示しなければならないこともあるかもしれません。
MBOを実施すれば、これらの情報開示に関する義務のほとんどから免れることができるため、企業秘密の保持が簡単になります。
⑤円滑な事業承継の実現
中小企業で行われるMBOのほとんどは、事業承継が目的です。特に、近年では、親族に後継者がいないために、自社の幹部従業員等に、会社を譲渡する際にMBOが用いられることが増えています。
MBOであれば、買い手と売り手との間に、すでに信頼関係があるため、交渉もスムーズに進みやすく、営業ノウハウなどの外部流出を回避でき、その他の従業員の理解も得やすい(反発されない)といった点で、メリットがあるといえます。
(2)MBOのデメリット
MBOのデメリット・リスクとしては、次の点を挙げることができます。
- 少数の反対で失敗するリスク
- 経営の監視機能の減少
- 資金調達手段が減る
- グループ離脱による売上げ減少
- 買収費用を返済できないリスク
①少数の反対で失敗するリスク
MBOは、全ての発行済み株式を取得して、上場を廃止することをゴールにすることが一般的です。
そのため、ほんの少数の既存株主の反対によって、失敗してしまうリスクがあります。
また、創業家から幹部従業員への事業承継型のMBOを実施する場合でも、創業家側に相続等が発生すれば、保有株式が創業家内で分散し、意見がまとまらないということもあるかもしれません。
②経営の監視機能が減少する
MBOを行えば、出資者(株主)と経営者(取締役)とが一致することになるので、会社経営の状況をチェックする機能が当然弱くなります。
この点は、トップダウン強化というメリットの裏返しといえます。
③資金調達の選択肢が減る
MBOによって、上場が廃止されれば、株式による外部からの資金調達ができなくなります。
そのため、MBO実施後の資金調達は、金融機関やクラウドファンディングの手法等からの借り入れか、オーナー経営者による増資が原則となります。
したがって、MBOを実施する際には、今後の業務展開における資金確保の見通しをきちんと立てることが重要といえます。
特に、有利子負債が多い会社をMBOする際には、注意する必要があるでしょう。
④グループ離脱による売上げ減少
親会社からの独立型のMBOでは、親会社グループから離脱したことで、売上げが不安定になる・減少する可能性も生じます。
不採算事業やシナジー効果の低い部門の切り離しを目的にMBOが行われた場合には、「親会社から独立して自由な経営ができる余地が拡がる」メリットと引き替えに、「経営の安定」を失うリスクを抱えるということです。
また、大きなグループ会社から離脱したことで、金融機関等の外部企業からの評価が下がるリスクを抱えることもあるでしょう。
上でも解説したように、MBO実施後の資金調達は、金融機関等からの借入がメインとなる点との関係でも注意が必要です。
⑤買収費用を返済できないリスク
MBOを実施するためには、全ての発行済み株式を取得できるだけの資金が必要です。
特に、事業承継型MBOの場合には、株式取得に必要な資金の大半を、銀行やファンドなどの外部資金で調達することが多いでしょう。
MBO実施後は、この有利子負債を返済していかなければならないということを念頭に、事業計画・資金計画を立てていく必要があります。
まとめ
大企業でMBOが実施されるほとんどのケースでは、M&Aについての専門的知見に長けた専門スタッフや弁護士によるサポートがなされています。
M&Aを実施する際には、さまざまなステークホルダーの利害を調査・調整しなければならないからです。
場合によっては、株主総会での猛烈な信任争い、訴訟での決着まで覚悟することもあります。
他方、中小企業の事業承継型MBOの場合には、大企業のMBOと比べステークホルダーとの調整・交渉が必要となる場面は多くないかもしれません。
しかし、企業価値の算定や、秘密保持契約の締結など、専門知識を有する第三者、法律家の支援を必要とする場面は少なくありません。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています