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コロナ不況で解雇するなら絶対に知っておくべき3つのルール
コロナ不況によって従業員の解雇を検討したいという経営者もいらっしゃるのではないでしょうか。
しかし、日本において、解雇はかなり慎重に行わなければなりません。
そこで今回は
- コロナ不況を理由とした解雇の事例
- コロナ不況で解雇するときの3つの基本ルール
等について、ご説明したいと思います。ご参考になれば幸いです。
整理解雇の手順について知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
[nlink url=”https://best-legal.jp/understanding-procedure-22597/”]
1、コロナ不況による解雇ケース|あるタクシー会社の事例
まずは、実際に生じた解雇事例について紹介したいと思います。
すでに、各種の報道などで紹介されているケースなので、見聞きしたことのある人も多いと思いますが、東京に本社を置くあるタクシー会社のケースです。
タクシー事業は、コロナウイルスによって、売上が大きく減少した業界のひとつといえます。
タクシー会社の賃金体系は、(法律が求めている)最低賃金+完全歩合となっているケースが大半です。
したがって、タクシー1台あたりの売上が激減すれば、タクシーを稼働させるだけ、会社の損失(赤字)も多くなってしまいます。
今回のタクシー会社のケースでは、新型コロナウイルスの感染が拡大したことによって、タクシー1台あたりの売上が7~8割ほど減ってしまい、「タクシーを稼働させるほど、赤字が増える」状況に陥ってしまったようです。
稼働台数を減らすにしても、「会社の都合で乗務できない運転手」には、休業手当として一定の賃金を補償する必要がありますので、それに伴う会社の負担は小さくありません。
そこで、本件タクシー会社が選択したのは、「タクシー乗務員全員の一斉解雇」という方法でした。
この際に、本件タクシー会社が
- 稼働調整による休業手当よりも、解雇した上で失業手当(雇用保険)を受け取った方が従業員にとって有利
- コロナの影響が落ち着いたら、希望者は全員再雇用する
という趣旨の説明を行っていたことが、大きな話題となったものです。
(1)外国での類似ケース
実は、上で紹介した手法は、外国においても同様の解雇事例があり、日本でも大きく話題となったものでした。
世界的に有名なサーカス団である「シルク・ドゥ・ソレイユ(Cirque du Soleil)」は、2020年3月19日に、「全従業員の95%を一時解雇する(公演再開の目処がたてば、希望者全員を優先的に再雇用する)」旨の発表をしています。
世界各地で予定されていた今後の公演のほとんどすべてが、新型コロナウイルスのパンデミックを理由にキャンセルとなり、今後の公演見通しが全くたたなくなったためです。
このシルク・ドゥ・ソレイユのレイオフ(一時解雇)報道は、「従業員は解雇されたことによって失業保険を受け取ったり、他の仕事に就くことで、収入を得ることが可能になる」ので、Win-Winの解決方法であると好意的なものが多かったようです。
【参考】感染あおりで従業員9割超一時解雇 サーカス集団「シルク・ドゥ・ソレイユ」(時事ドットコム)
(2)外国のケースと日本の仕組みの違い
本件タクシー会社の一斉解雇は、シルク・ドゥ・ソレイユのケースを引き合いにだし、日本においても、有効なWin-Winの解決方法であると感じている人もいるかもしれません。実際に、この件について報道された当初は、好意的な意見等もよせられていたようです。
しかし、本件タクシー会社のケースでは、シルク・ドゥ・ソレイユのケースとは、細かい事情に、かなりの違いがあることに注意しておく必要がありますし、労働法の解釈として、問題がないとも言い切れない部分があります。
①レイオフ(一時解雇)と通常の解雇との違い
シルク・ドゥ・ソレイユが行った従業員の解雇は、レイオフとよばれる外国ではよく行われる「一時解雇」の手法です。
通常の解雇と一時解雇との一番の違いは、「再雇用を前提としている」ことにあります。
実際、シルク・ドゥ・ソレイユ側は、レイオフの対象とした従業員全員について、「今後の公演見通しがたった場合には、希望者は全員再雇用する」旨を発表しています。
シルク・ドゥ・ソレイユは、世界的にも有名なサーカス団であり、従業員の誰かが「他の同業者」に流出することは「売り物である演目の流出」にもつながるため、非常に大きな痛手といえます。
その意味では、公演再開の目処が立ったときに、「従業員が元通りに戻ってくれる」環境をきちんと整えておきたいという思惑もあろうかと思います。
実際、シルク・ドゥ・ソレイユのレイオフにおいては、レイオフ対象になった従業員の健康保険等も、シルク・ドゥ・ソレイユ側が負担し続けるなどの手当も施されているようですから、「会社の負担を減らすため」だけに行われた措置というわけでもなく、シルク・ドゥ・ソレイユ側には、「従業員が生活していくサポートを全力でする」という考えがあることがわかります。
②一時解雇における失業手当(雇用保険における失業給付)
本件タクシー会社の解雇のケースでは、シルク・ドゥ・ソレイユのケースと同様に、「希望者の再就職には応じる」という説明もあったとの報道もあります。実際に、同様の手法を考えている中小企業の経営者の人にも、「業務が元通りになれば、従業員にも元通りに戻ってもらいたい」と考えている人は多いと思います。
しかし、日本において、「再雇用の確約」をした上で一時的な解雇をした場合には、「一時解雇された従業員に対して、失業手当が給付されない可能性がある」ことに注意しておく必要があります。
日本の雇用保険における失業手当は、「再就職のための就職活動をする意思」のないケースでは、支給対象外となるからです。
特に、コロナ禍の状況下においては、解雇された従業員側にも、「事態収束後の再雇用が保障されているなら、事態が落ち着くまでは、再就職活動を控えたい」と考える可能性も高いといえます(下記リンク先の厚生労働省の回答も参照してください)。
したがって、本件タクシー会社にどのような認識があったのかはわからないのですが、「休業手当の代わりに失業手当で生活してもらおう」という本件タクシー会社のもくろみは、うまくいかない可能性もあります。
【参考】新型コロナウイルスに関するQ&A(厚生労働省ウェブサイト)
③健康保険・年金等の取扱い
本件タクシー会社のケースでは、「勤務先からの休業手当か、国からの失業手当か」ということばかりがクローズアップされるきらいがありますが、勤務先からの解雇は、
- 健康保険
- 年金
といった制度にも影響を与えます。
たとえば、解雇による離職となった場合には、国民健康保険・国民年金への加入手続を(解雇された)従業員自身の手で行わなければなりません。
また、解雇後の社会保険料は、全額を自分で負担しなければなりません。
また、第1号被保険者への切り替えが原因となり、将来の受け取り年金額(特に報酬比例部分)が減ってしまう可能性もあります。
2、コロナ禍で会社の都合により解雇するときの基本ルール
新型コロナウイルス感染拡大による業績不振は、経営者に責任のある業績不振とはいえないものです。
しかし、それでもコロナウイルスによる業績不信や資金繰りの悪化を理由に、従業員を解雇することは、「会社の都合による整理解雇」に該当すると考えられます。
そこで、以下では、会社都合による整理解雇を行う際の基本ルールについて、確認しておきたいと思います。
(1)整理解雇の4要件
日本の労働法は、会社の都合による解雇に厳しい立場をとっています。
最高裁判例では、会社の都合による一方的な整理解雇(いわゆるリストラ)が、法的に有効とされるためには、次の要件を満たす必要があるとされています。
- 人員整理(解雇)を行う必要性がある
- 解雇を回避するための可能な限りの努力が尽くされている
- 解雇対象者の選定基準及び選定が合理的である
- 労働組合との協議や従業員への説明が行われている
また、有期労働契約の従業員の解雇(契約期間中の契約解消)の有効性は、期間の定めのない雇用契約を結んでいる従業員の解雇よりも、さらに厳しく判断されることになります(労働契約法17条1項)ので、注意しておく必要があるでしょう。
[nlink url=”https://best-legal.jp/layoffs-3587″]
(2)整理解雇を行う際の会社の義務
会社による整理解雇が行われるときには、上の4要件を満たさなければならないだけでなく、会社には、次のような義務が生じることにも、注意しておく必要があります。
①解雇予告通知・解雇予告手当
この点は、よく知られていると思いますが、会社が従業員を解雇する際には、
- 解雇の30日前に予告を行うか
- 30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)
を支払う必要 があります(労働基準法20条)。
したがって、「コロナ不況が原因で、資金繰りが行き詰まり、今月の給料が支払えない」ときには、解雇によって会社の負担を減らせるわけではありません。
[nlink url=”https://best-legal.jp/dismissal-notice-15027″]
②離職する従業員の再就職支援
また、解雇を行う会社には、解雇によって離職を強いられる従業員の再就職を援助する努力義務があります。
さらに、本件タクシー会社のケースのように、多くの人員が解雇される場合には、最初の離職が発生する1か月前までに、ハローワークにおいて、所定の手続(再就職援助計画の認定と大量雇用変動の届け出)を経ておく必要があります(労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律24条1項・3項および27条1項)。
(3)本件タクシー会社の大量解雇のケースの問題点
冒頭で紹介した本件タクシー会社の解雇事例は、すでに報道されている事実関係に基づく限りは、「法的には問題のある解雇」と評価される可能性があるかもしれません。
以下、本件タクシー会社のケースにおける問題点と考えられる箇所を、簡単に整理しておきましょう。
①整理解雇の4要件を満たしているか?
本件タクシー会社のケースは、整理解雇の4要件を満たしていないために、不当解雇と評価される可能性があるといえます。
まず、本件タクシー会社が、解雇回避のための努力義務を尽くしたかどうかについて、「努力義務を尽くしていない」と評価されてしまうかもしれません。
特に、今回のコロナ禍においては、会社が休業手当を支払う負担は、国からの助成金で補填することが可能と行政は判断しているため、解雇の当否について、裁判所が判断する際には、「解雇の必要性」について、会社にとって、かなり厳しい判断がなされる可能性を考えておく必要があるといえます。
②解雇予告手当の不払い
本件タクシー会社のケースでは、
- 30日前の解雇予告
- 解雇予告手当の支払い
がきちんと行われていたか?についても考える必要があります。
たしかに、会社と従業員との合意による退職であれば、解雇予告手当の支払いは不要です。
本件タクシー会社のケースでも、従業員に対して、「合意退職書」への署名を求めていたようです。
解雇という報道がされていましたが、本件タクシー会社が、わざわざ「合意退職」という形をとったのは、1か月分の賃金相当額の支払いを削減するためであった可能性があります。
また、本件タクシー会社のケースで、従業員の合意退職の前提に、「会社からの休業手当よりも、国からの失業手当の方が有利」という認識があったのだとすれば、その前提には重大な誤りがあるといえます。
上でも解説したように、「再雇用を前提」としたケースでは、失業手当が給付されない可能性があるからです。
そのため、本件タクシー会社が各従業員と締結した「合意退職」は、従業員の自由な意思に基づく合意なのか、疑問の余地があります。
3、コロナウイルスによる経営難は公的支援の活用を!
コロナ不況を理由にした従業員の解雇は、非常に難しい問題です。
コロナウイルスの感染拡大による業績不振は、会社に落ち度のないことですし、体力に余裕のない中小企業にとっては、「営業再開の目処がたたないまま休業手当を(いつまでも)支払い続ける」ことは現実的でない場合も多いといえます。
また、法律も、今回のケースを十分に想定していたわけではありませんので、既存の制度だけでは対応しきれていない部分も多々あります。
実際には、さまざまなケースにおいて、「特例」としての例外措置を講じる必要もでてくると思われます。
本件タクシー会社のケースは、報道当初は、「よい解決策に踏み切った」と好意的な声も多く寄せられていましたが、一転して、「ブラック企業」のレッテルすら貼られかねない可能性がでてきました。
このことが、新型コロナウイルス終息後の営業再開に、悪い影響を与える可能性も否定できません。それは、かなり不幸な出来事といえます。
このような最悪の展開にならないためには、事前に、
- 行政機関
- 弁護士等の専門家
に相談することが、とにかく大切です。
本件タクシー会社のケースも、事前に弁護士への相談があれば、ここまでの大きな騒動になることなく、本件タクシー会社にとっても、従業員にとっても、よりよい別の解決策を見つけられた可能性も十分にあったといえるでしょう。
コロナウイルスによる経営難を原因とする労働問題は、急速に増加しています。
全国の労働局等では、これらについての相談窓口を設置しています。
下記サイトに窓口の一覧が示されていますので、参考にしてみてください。
【参考】新型コロナウイルス感染症に関する特別労働相談窓口一覧(厚生労働省ウェブサイト)
まとめ
コロナウイルスの感染拡大は、収まる見通しの立たない状況が続いています。
内部留保に余裕のない中小企業では、「明日の運転資金も苦しい」というケースも多いかもしれません。
しかし、会社には、「雇用をできる限り維持する法律上の義務」があります。
このような状況下では、会社の社会的責任として、これらの義務は厳しく解釈されることが一般的です。
記事中で紹介した本件タクシー会社のケースのような「安易な対応」は、後の経営にも大きな悪影響を与えることにもなりかねないので、注意する必要があるでしょう。
とはいえ、現実問題として、「お金がない」というケースも多々あろうかと思われます。
新型コロナウイルス感染拡大を原因とする諸問題は、まだまだ十分な手当のなされていない問題で、手当が追いつかないケースも多々あります。
東日本大震災の場合には、「離職をしていないが、休業状態にある従業員に、失業手当を支給できる特定措置」が設けられたこともあるので、今後新しい公的支援策が検討される可能性も十分にあります。
まずは、行政機関の窓口や弁護士に相談することをお勧め致します。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています