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カスタマーハラスメントから従業員を守る4つの知恵を解説

2021年12月7日
カスタマーハラスメントから従業員を守る4つの知恵を解説

カスタマーハラスメント(カスハラ)が深刻な問題になっています。

ハラスメントの加害者は顧客です。
それだけに、会社での組織的な対応ができず、職場に負担を押し付けていないでしょうか。
現場の従業員を苦情により疲弊させ、離職や精神障害、さらに自殺といった重大な影響をおよぼしている例も少なくありません。

本稿では、カスハラの実態を取りまとめ、大きく3つの知恵を解説します。

  • その1:カスハラ顧客の種類
  • その2:企業のリスクの確認
  • その3:具体的な対策

です。

「その3:具体的な対策」では、

  • 方針の明示
  • 組織的対応
  • 顧客類型ごとの対応の仕方
  • 外部資源の活用

の4つについて解説します。

カスハラへの対応は、会社の顧客への向き合い方、従業員への向き合い方を端的に示します。
すなわち、会社の基本的な姿勢や品格を現すものです。

この記事が、働く人にも、会社の管理者、経営者にも、大切なヒントとなることを願っています。

1、カスタマーハラスメントの実例

カスタマーハラスメントの実例

(1)UAゼンセンの調査より

UAゼンセンは、国民生活関連の多様な産業で働く労働者の組合です。
2019年9月現在で、2,333組合、1,793,050名と、日本最大の産業別労働組合です。
業種は、繊維・衣料、医薬・化粧品、化学・エネルギー、窯業・建材、食品、流通、印刷、レジャー・サービス、福祉・医療産業、派遣業・業務請負まで様々です。

2018年9月に、顧客の悪質クレーム対策アンケート調査結果を公表しています。

業務中に、来店客からの迷惑行為に遭遇したことがある人は、回答者の7割にも達します。

①暴言

一番多いのは暴言です。
迷惑行為を受けた人の66%が遭遇しています。

“ブス” “ババア”といったセクハラ、“バカ” “アホ” “低能”といった人格否定、さらには“殺してやる” “車で轢くぞ”、“土下座しろ”などまで様々です。

②違法行為

「金品の要求」、「暴力行為」、「土下座の強要」といった直接的な違法行為の遭遇率は、順に8%から4%程度ですが、強いストレスとなり、精神疾患につながるものも多く見られます。

(2)NHK「クローズアップ現代+」より

この番組では、2018年11月、2019年5月にカスハラ問題を取り上げ、2019年8月に、これらに基づいた「カスハラ モンスター化する「お客様」たち」という著作を発行しています(以下この本を、「NHKカスハラ」と略します)。

その中から、以下ご紹介します。

①スーパーのゴネ得顧客

中年女性が、カーディガンをレジに持ち込み、笑顔で「もう少し安くならない?」と聞いてきました。
ベテラン店員さんが、何度断っても、繰り返し20分ぐらい要求してきました。
すると、突然、大声でわめき散らし、「これ不良品よ」と言い出します。
「不良品なら、お売りできません。」と、店員さんが手を出して引き取ろうとすると、いきなりその手をバーンと弾いてきました。
店員さんが、「暴力はやめてください。」と言うと、「治療費でも何でも請求しなさい。」と騒ぎ立て、他のお客もびっくりです。
上司が出てきて、ひたすら謝って何とか収まりましたが、「こんな不良社員には、お宅も苦労するわね。」とまで放言しました。

このお客は、頻繁にクレームをつけては値引きを迫る「常連客」でした。
お店は、これまでも渋々値引きに応じたことがあり、味をしめて繰り返していたようです。

このベテラン店員さんは、自分の仕事に誇りを持っていただけに、「不良社員」呼ばわりされたのが、一番傷ついたそうです。

②コンビニ店で慰謝料を強要する顧客

若い男性が、コンビニ店長に、「商品の袋への入れ方がおかしい」、「謝り方がおかしい」と、半年くらいにわたり様々な難癖をつけ、ついに、「今までこの店で使った金を返せ。100万円払え。」と言い出しました。

その後、来店はしなくなりましたが、毎日欠かさず電話をして、半年ほどもクレームを繰り返します。

警察やコンビニチェーンの本部にも相談し、弁護士から警告を発してもらって、ようやく治まりました。
その間、店長は心労で体重が3キロ痩せたそうです。

その若い客が、何を目的にして、こんな理不尽な通りそうもない要求を繰り返すのか、店長には理解できませんでした。
本当に、これで根本的な解決になったのか、いまだに疑問に思っているそうです。

2、カスハラの深刻な現状

カスハラの深刻な現状

(1)離職者・自殺者までもでる深刻な影響

厚生労働省の調査では、顧客や取引先からのクレームによる精神障害が仕事に起因したとして、労災認定された人が過去10年間で78人、うち24人が自殺していたとされます。

危機管理の専門事業者である株式会社エス・ピー・ネットワークが、2019年にインターネットアンケート調査を行っています。
全国の20代から60代の様々な職種で、クレーム対応を行った経験のある会社員1,030人が対象です。
半数以上が、「直近3年間で、カスタマーハラスメントが増えている」と回答しています。
クレーム対応の結果、約9割がストレスが増加、約8割が「仕事意欲の低下」を感じ、約7割は体調不良リスクがあると回答。
さらに、約半数以上に休職・退職の危険性もある、とされています。放置できない深刻さが、うかがわれます。

(2)近時の特徴として、SNSを活用したハラスメントが急拡大

近時のカスハラの特徴は、SNS等の活用です。
NHKカスハラには、次の事例も載っています。

タクシードライバーが、雨の日に、若い乗客との対応で、一悶着ありました。
「トランクを開けるだけでなく、荷物をしまうのを手伝え」といわれたのです。
目的地に到着したわずか数時間後、ネット上に、「サービスが悪い運転手」として、名前と顔写真までアップされました。
スマホの撮影機能で、顔写真と名前つき乗務員証をきれいに撮影され、「この会社のタクシーには乗るな」と書き込まれました。

運転手さんは、会社で事情聴取を受け、出勤停止処分の後、退職せざるを得なくなりました。
会社の上司が、書き込みをした乗客にお詫びに行きました。
運転手さんも同行を希望したのに、叶えられませんでした。
中流のごく普通のご家庭の若者でした。

会社としては、「あの運転手はやめさせました。」と言って、丸く収めようとしたように思われます。

このネット記事のために、運転手さんは、他のタクシー会社への再就職もできなくなりました。
生涯の仕事を棒に振ってしまったのです。

(3)対応を決めている企業が少ない

①顧客対応マニュアルがない

株式会社エス・ピー・ネットワークの調査では、従業員を守る顧客対応マニュアルを作成している会社は、わずか3割。半数以上は、「作成予定もなし」でした。
現場任せで、問題が深刻化している状況がうかがわれます。

前述のNHKカスハラでも、顧客の不当なクレームに対して、上司がかばってくれず、「君の対応が悪い。」と切り捨てられたケースも紹介されています。
担当者が悪かったことにして、その場を丸く収めようとした、と思われます。

カスハラに対応する担当者が一番辛いのは、カスハラ顧客そのものではなく、上司や本部等、会社が守ってくれない、と感じたときだ、とも言われています。(会社の対応のあり方については、後述します。)

②厚生労働省指針を待たず、即行動が必要

カスタマーハラスメントの深刻な影響は、厚生労働省も問題視しており、この春をめどに、指針を作る方針とされています。

しかし、前述のように深刻な問題が発生しています。

会社としては、指針等を待たずに、自社の状況を把握して、対応を考えるべきでしょう。

3、カスハラ顧客には2種類ある

カスハラ顧客には2種類ある

カスハラ顧客には、どんな特徴があるのでしょうか。

ざっくりと2種類の類型があると考えれば、わかりやすいでしょう。

(1)不当要求顧客:意図的に利益を求める不当要求顧客

類型のひとつは、経済的な利益や愉快犯的な自己満足を求めて、不当な要求を行う顧客です。

ある意味で、対応は簡単です。
結論を言えば、反社会的勢力への対応と変わりません。

自らが不当な要求だと知りつつ行動しています。
利害得失を計算して、行動しているのですから、「会社として要求に応じられない。」と明確に伝えれば、概ね解決します。

そもそも顧客とは、「会社・事業者として利便を図り、守るべき人」のことです。
意図的に不当要求を繰り返す人は、その意味で「顧客」とはいえません。
そのように明確に考えれば、反社会的勢力への対応と同様に、しっかりと拒絶すべきです。

なお、反社会的勢力の本質を確認しておきましょう。

反社会的勢力とは、「経済的な利益を求めて統制された威迫力(脅しの力)を利用する者」です。
彼らの目的は、経済的な利益であり、威迫や暴力行為は、経済的な利益を得る手段として、しっかりコントロールして、利用しています。
従って、威迫なり、暴力等を用いても、目的が達成できないとわかれば、行動はやみます(「この店ではだめだ」とわかれば、手を引いて、「別の店を脅してやろう」といった行動に切り替えます)。
意図的な不当要求顧客は、本質的には、反社会的勢力と変わりがない、と理解いただけるでしょう。

[nlink url=”https://best-legal.jp/antisocial-forces-13843″]

(2)自分で自分をコントロールできない重症のカスハラ

これが、近時のカスハラの特徴と言われています。
人より優位に立つ自己満足感、自己肯定感を求めて暴走しています。
利害得失を計算して、行動しているのではありません。
反社会的勢力との大きな違いです。

高齢化の時代であり、会社をリタイアした高齢男性が多数います。
一流企業の役員等で活躍していた人が、退職後に、自分の存在感を喪失し、存在感を回復するために、クレームに至る。
場合によっては、「若い者にちゃんと教えてやる」といった社会貢献等と錯覚して、カスハラにいたるのです。

例えば、会社のOB等が、自分の会社の顧客対応に難癖をつけてくる、といった問題がよく見られます。
会社としても、一番厄介な顧客として頭を抱えています。

自分は正しいことをしていると思い込んでいます。
それだけに、問題が深刻で、話をしても通じないのです。
下手な対応は、火に油を注ぐことになりかねません。

4、カスハラから受ける企業の大きなリスクとを知ろう

カスハラから受ける企業の大きなリスクとを知ろう

カスハラは、企業に大きなリスクをもたらします。

「お客様は神様です。」のスローガンに、惑わされないようにしてください。
神様には、疫病神も貧乏神もいます。
そして、カスハラ顧客だけが顧客ではないのです。

さらに、企業の責任として、従業員をしっかり守らなければいけません。

これらのことを考慮しつつ、カスハラへの対応を誤れば、どんなリスクが生ずるかを整理してみましょう。

(1)従業員の疲弊、精神疾患、離職・自殺までも

これについては、「1」、「2」で詳しく述べました。
従業員に、深刻な影響をもたらしていることを、改めて確認してください。

従業員は、職業人・プロフェッショナルとしての誇りを傷付けられます。
会社が、事なかれ主義で顧客に謝り続けたり、曖昧な対応をしていると、従業員は、「会社が自分を守ってくれない。」として、会社への信頼を失ってしまいます。

被害を受けた従業員だけでなく、その様子を見ていた周りの従業員も、会社への信頼を失っていきます。

(2)会社としての損害賠償責任の発生

会社は、「働く人が生命、身体等の安全を確保しつつ労働できるよう、必要な配慮をする」という義務を負っています(安全配慮義務:労働契約法第5条)。

深刻なカスハラについて、会社が適切な対応をせず、従業員が精神や肉体の不調をきたしたり、いわんや自殺等をした場合には、会社は、安全配慮義務違反として、債務不履行による損害賠償責任を負いかねません。
また、「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者」として、不法行為による損害賠償責任(民法709条)を負うことにもなりかねません。

(3)一般の顧客に、大きな迷惑をかけることによる企業価値の低下

カスハラ顧客への対応によって、一般の顧客にも大きな迷惑がかかります。
本来、一般の顧客に向けられるべき時間や費用を、ごく一部の問題顧客のために無駄に使い、一般顧客をないがしろにしているのです。

また、そのような問題顧客にしっかり対応できないような会社は、顧客や社会の信用を失います。
企業価値の低下に繋がっていきます。

5、カスハラに対する具体的な対策

カスハラに対する具体的な対策

カスハラに対する具体的な対策を考えてみましょう。

基本的な考え方は、「現場任せにしてはいけない。
会社全体で明確なルールを定めて、組織的に対応する。」ということです。

(1)会社としての方針の明示

まず、組織全体として、一貫した方針で臨むことが必要であり、そのための方針を明確に定めます。
顧客の理不尽な要求には応じないこと、従業員を守ることを、はっきり宣言すべきです。
経営者が、この姿勢を明確にし、社内外に周知します。

カスハラ対応は、現場の知恵で解決できる問題ではありません。
繰り返しですが、「お客様は神様です。」として謝り続けることなどは、問題の解決には役立ちません。
顧客の正当な要求ならば、適切に対応すべきですが、上に述べたような不当な要求、理不尽な要求については、会社として応ずる義務はありません。

(2)組織的な対応

組織的な対応とは、現場の知恵で解決するのではなく、会社としての明確なルールを定めて、会社全体で対応することです。
概ね、次のような項目です。

  1. カスハラ対策の担当者・責任者を明確に定める
  2. 問題がおこれば、本部で対応する
  3. 具体的な手順マニュアルを整備する

この手順については、各会社の実態に応じて、様々だと思います。

例えば、次のようなことです。
行動の基準を具体的・客観的に明確にします。

顧客に説明をして理解を求めたにもかかわらず、○分以上たって解決しないのであれば、すぐ上司に引き継ぐ。

上司の説明でも理解を得られないのであれば、「本部の担当者からご説明させます。ご説明に伺います。」などと言う。

それでも顧客が退去しないなら、躊躇せず警察に連絡する(不退去罪に該当します)。

顧客が、暴力等の危険行為におよぶなら、なおさらです。
躊躇せず警察に連絡しなければなりません。
顧客の暴力を止めることができなかったら、会社自体が、従業員から安全配慮義務違反や不法行為責任を問われることになります。

④研修を含めた周知徹底

以上のような行動の手順を、研修等で全社に周知します。
例えば、現場の管理者等が独自の方針で、お客様を神様扱いするようなことは防ぐべきだからです。

⑤事例の集積と手順の見直し

実際のカスハラ対応が生じた場合、その事実関係をできる限り正確に記録して、社内で共有します。
これらも参考にして、前述の手順マニュアルを定期的に見直していきます。

(3)顧客の類型ごとの対応の仕方

前述「3」で、カスハラ顧客には2種類の類型があると申し上げました。
この類型ごとの対応方針を整理してみましょう。

①不当要求顧客への対応

これは、反社会的勢力への対応と変わるところはありません。
できないものはできない、不当な要求には応じないとして、毅然と対応します。顧客の理解と納得を得る必要などありません。

また、不当な要求に、現場管理者等が恐怖のあまり、屈してしまう可能性も考えられます。
決定権限を持つもの(店長等)には対応させず、次席以下の管理者で対応します。
例え、顧客が「店長を出せ」と言っても、「私が応対の責任者です。」と言って、毅然と対応します。

②自己コントロールができない重症のカスハラ顧客

このような顧客は、利害得失を考えて行動しているのではありません。
会社での対応には限界があることを、まず認識しておく必要があります。

不退去や粗暴な行為には、直ちに警察に通報するなど、外部の力を借りるしかありません。
その後の交渉でも、弁護士等の専門家の力を借りるべきでしょう。

もとより、この2類型の顧客を現場で峻別できるわけではありません。
まずは、単なる不当要求顧客として応対し、ある段階で重症のカスハラ顧客の懸念が感じられたら、直ちに外部の力を借りる、といった手順も定めておくべきです。

(4)万一に備えた社外資源の整備・活用

前述の通り、会社だけの対応では限界があります。
警察や弁護士等を活用しましょう。

顧客と接する会社なら、本部のクレーム担当責任者や現場店舗等の責任者は、地元の警察署等に挨拶に伺って、万一のカスハラ顧客対応の場合に、支援を求めることを依頼しておくべきです。
これは、反社会的勢力への対応と同様であり、反社対応・カスハラ対応含めて、地元警察に助言や支援を仰ぐべきでしょう。

また、弁護士については、SNS対策の問題もあります。
SNS対策は、一般の企業で簡単にできる事ではありません。
次の記事も参考にしてください。

[nlink url=”https://best-legal.jp/slander-4610″]

まとめ

冒頭でも述べましたが、カスハラ顧客への対応は、会社としての姿勢や品格が端的に現れます。
事なかれ主義の無責任な会社か、従業員を大切に守り、一般顧客を守る真の顧客本位の会社なのか、それが問われています。
会社として、自社や他社のカスハラの実態を調べ上げて、自社に合った方針を固め、覚悟をもって対応すべきです。

自社だけでは対応に限界があるでしょう。
ぜひ、必要に応じて弁護士等の専門家のアドバイスも受けてください。

※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

ベリーベスト 法律事務所弁護士編集部
ベリーべスト法律事務所に所属し、企業法務分野に注力している弁護士です。ベリーベスト法律事務所は、弁護士、税理士、弁理士、司法書士、社会保険労務士、中国弁護士(律師)、それぞれの専門分野を活かし、クオリティーの高いリーガルサービスの提供を全国に提供している専門家の集団。中国、ミャンマーをはじめとする海外拠点、世界各国の有力な専門家とのネットワークを生かしてボーダレスに問題解決を行うことができることも特徴のひとつ。依頼者様の抱える問題に応じて編成した専門家チームが、「お客様の最高のパートナーでありたい。」という理念を胸に、所員一丸となってひたむきにお客様の問題解決に取り組んでいる。
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