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事業承継でM&Aを活用するために知っておくべき6つのこと

2021年12月15日
事業承継でM&Aを活用するために知っておくべき6つのこと

事業承継にM&Aを活用してみませんか?

「息子には継がせたくない」、「自分の代限りだ」・・・。

経営者の高齢化、後継者難、成長意欲の鈍化等、中小企業の事業承継は、困難さを増しています。
全国約4000の中小企業の経営者へのインターネット調査では、60歳以上の経営者の50%が廃業を予定していますが、そのうち4割を超える企業が、「今後10年間は事業の維持、成長が可能」と回答しているのです。
事業は継続できるのに、後継者の確保ができずに廃業せざるを得ない、ということを表しています。
廃業すれば、これまで培ってきた貴重な経営資源が失われてしまいますので、大変もったいないことです。

もう一度考え直してみてください。
あなたの会社の事業は、この国を支えてきたのです。

後継者として、ご家族や役職員等、身近な方のことだけを考えておられませんか。
M&Aを用いて、外部の素晴らしい後継者に引き継ぐ事ができるかもしれません。

この記事では、事業承継にM&Aを活用する方法を、弁護士がわかりやすくご紹介します。
お役に立てれば幸いです。

1、事業承継とは|M&Aの活用方法を知る前に

「事業承継」とは何か

「事業承継」とは、そもそもなんでしょうか。簡単に確認しておきましょう。

(1)事業承継は3つの資産の承継

会社を引き継ぐといっても、具体的には、三つの経営資源の承継です。

  • 「人」… 経営権
  • 「資産」…  株式、事業用資産(設備・不動産)、資金
  • 「知的資産」…  ノウハウ、取引先との人脈、顧客情報、知的財産権 

「事業」というのは、これらの「経営資源」を用いて、生産活動を行っていることです。

【図1】事業承継のイメージ

(出典:中小機構「中小企業経営者のための事業承継対策」)

事業承継は、相続税対策と見られがちですが、相続税対策は事業承継の取り組みの一部に過ぎません。後述します。

(2)事業承継先3つのパターン

事業承継は、その相手先により、3つに分類されます。
親族、会社関係者(従業員等)、それ以外、の3つです。

以下、簡単な比較表を掲げました。

承継の相手先

メリット

デメリット・注意点

①親族内承継

(全体の55%)

社内外の関係者の理解を得やすい。後継者を早期決定し、準備できる。他の方法と比べて、所有と経営の分離を回避できる可能性が高い。

親族内に、ふさわしい人がいるとは限らない。複数の相続人がいたときには、紛争に発展するリスク等がある。後継者が別の会社等に就職してるとき等、早めに本人の了解を取り付けることが重要。

②親族外承継

(従業員等)

(全体の19%)

親族内に適任者がなくても、候補者を確保しやすい。

業務に精通しており、他の従業員等の理解を得やすい。

親族内承継と比べて、関係者の心情的理解が得にくい。

候補者に株式取得等の資金がない、個人債務保証の引継ぎが困難等。

候補者に、経営者としての覚悟を持たせるため、早期のアナウンスと本人の了解が重要。

③親族外承継

(社外第三者)

(全体の17%)

身近に適任者がなくても、広く候補者を求めることができる。

現オーナーが、会社売却の利益を確保できる。

希望の条件に合った候補者を探すことが困難(例:従業員の雇用、売却価格等)。

先延ばしせず、早め早めに専門家に相談すること。

事業承継した経営者と後継者の関係

出典:中小機構「中小企業経営者のための事業承継対策」。
原資料:みずほ総研平成30年度中小企業・小規模事業者の次世代への承継及び経営者の引退に関する調査に係る委託事業(中小企業・小規模企業を引退した方へのアンケート調査。5000件弱の回答中の事業承継約2600件を分析したもの)。

このように、親族外承継(≠従業員等)は、事業承継全体の17%程度にものぼっており、今では、ごく当たり前の選択肢と言えます。
親族外承継(≠従業員等)の多くは、M&Aにより行われます。

以下、 事業承継におけるM&Aについて、みていきましょう。

2、事業承継におけるM&Aの種類

事業承継におけるM&Aの種類

事業承継におけるM&Aの手法には、おおむね3つの種類が挙げられます。
現実には、「株式譲渡」が一番簡便であり、よく用いられます。

 

内容

メリット・デメリット等

①株式譲渡

譲渡側の会社オーナーが所有している株式を、譲受側に売却することで、譲受会社の支配下に入る(子会社になる)。

もっとも簡便な手法で、株主・経営者が変わるだけ。

従業員や社外の関係は変更なし。

会社の債権・債務、特許・許認可等も原則存続。

会社をそのまま存続させたいとき、オーナーの持つ株式を現金化したいときに向いています。

②事業譲渡

譲渡側が、その事業の全部または一部を譲受側に売却する。

債権・債務、契約関係、雇用関係等について、1つ1つ相手方の同意を取り付けて、譲渡する必要があり、手続が煩雑。

ただし、複数の事業のうち、一部を売却し、その他の事業は残したい、というときには便利。

③吸収合併

譲渡側のすべての資産や負債、従業員等を譲受側が吸収し、譲渡会社は消滅するもの。

もとの会社が消滅する。

譲受側での雇用条件の調整や事務処理手続の統一が難しくなりうる。

 

(このほか、一部事業を譲渡する場合に「吸収分割」という方法もあります。それほど広く用いられていませんので、説明は省略します。)

[nlink url=”https://best-legal.jp/transfer-company-split-business-3083″]

3、事業承継M&Aの準備

事業承継M&Aの準備

以下、どのようなプロセスを経て、M&Aが成立するのかを説明します。

(1)現状の把握

まず、会社の現状を把握しましょう。

具体的には、図1で示した3つの資産、すなわち、「ヒト」、「資産」、「目に見えにくい経営資源(強み)」の把握です。
「ヒト」の承継は、後継者をみつけることなので、会社の現状把握としては、「資産」と「目に見えにくい経営資源(強み)」の2つを把握することになります。

①資産の把握

まずは、資産内容、つまり、現金や自社株式、不動産、その他動産等を一覧にするなどして、まとめましょう。

次に、それら資産をどのように回しているのか、社内体制や決算処理方法を点検等します。
どんぶり勘定をしているのか、公正な会計慣行に従った会計処理を行っているのか。

また、適切な会計処理が行える社内体制となっているか、を点検します。
会計担当者に任せきりで、経営者が実態を把握していなかった、逆に、経営者が1人で会計処理をしていて、誰もチェックしていなかった、などは中小企業にありがちです。

より大切なのは「会社と経営者の関係の把握」です。
具体的には、会社の資産や負債、経費等に関して、会社と経営者との貸借等があれば、その関係を明確にします。
決算書の詳細な吟味も必要です。

(参考:中小企業庁「事業引継ぎガイドライン~M&A等を活用した事業承継の手続き~」13頁以降のチェックリスト等を参照)

②目に見えにくい経営資源(強み)の把握

事業承継の後継者が一番苦労するのは、図1の「目に見えにくい経営資源(強み)」の把握と承継です。
「経営力の発揮」、「取引先との関係の維持」、「一般従業員との関係の維持」等、広い意味での知的財産・無形財産・ノウハウというべきものです。

(2)磨き上げ

「資産」と「強み」を把握したら、問題点が自ずと見えてくるでしょう。
「磨き上げ」とは、第三者からも評価を得られるよう、これらの問題点を解決し、会社の体裁を整えていく作業です。
あなたの会社は、魅力ある状態だと思いますが、独自に築いてきた事業は、やや荒削りな部分もあることでしょう。

例えば、商標権等の権利確保をしていなければ、確保していく、常連(有力・優良な顧客)等がついているのであれば、経営者が変わっても、客離れが生じにくいシステムを構築していく、同業他者との違いを明確にまとめておくなどです。

そして、会社内部について、ガバナンスを構築することも大切です。
独自に経営をしてきた場合、どうしても、独自の進め方になっている部分も出てきていることでしょう。
就業規則等の会社規則・業務規程を整理する、部署を確定し、業務分担を明確にする、人事管理システムを明確にしておくなど、第三者が見て、すぐわかるような内部管理体制にしておくことが必要です。
一言で言えば、トップが変っても、これまでと同様に、会社が運営されるような体制を整えることです。

(3)秘密保持の重要性を理解する

これは全体の肝です。
うっかり秘密情報を漏らしたら、社内外に、この会社は大丈夫なのか、という疑心暗鬼を産みかねません。

4、M&Aによる事業承継の進め方(その1―専門業者に依頼する方法)

M&Aによる事業承継の進め方(その1―専門業者に依頼する方法)

では、M&Aによる事業承継の進め方を、具体的に見ていきましょう。

概要を表形式で示しました。
譲渡側として、やるべきことの流れ、イメージは、以下の通りです。それぞれのステップで、注意点があります。

項目・留意点

概要

全般にわたる注意:

秘密保持の重要性(おろそかにすると、M&Aは潰れる。)

M&Aで最も大切なことは、秘密保持・情報漏洩防止です。社外はもちろん、親族・友人、社内の役職員に対しても、開示すべき内容や開示時期について、慎重な注意が必要です。経営者の不用意な発言で、M&Aが破談となることもありえます。

①専門家の探し方

(専門業者等を活用しよう)

中小企業・小規模事業者のM&Aを専門に手がける民間業者や金融機関の一部、士業等専門家の一部で扱っています。

譲渡側と譲受側の双方と仲介契約を結ぶ「仲介者」、どちらか一方のアドバイザリーとなる場合があります(以下「仲介者等」と呼びます。)。

②仲介者等の選択

(仲介者等は様々。場合により、セカンド・オピニオンを)

仲介者等の得意分野・業務範囲・報酬体系等は異なります。過去の実績や利用者の声等を十分調査して、信頼できる先を選択します。必要に応じて、他の仲介者等からも意見を求め(セカンド・オピニオン)、比較検討することも大切です。

(M&Aの進捗中でも、進め方等について疑問があれば、他の仲介者等のセカンド・オピニオンを求めましょう。)

③マッチング候補先を探す(譲渡側の要望を明確に伝えること)

仲介者等には、買収を検討している会社が多数登録されています。譲渡側は、仲介者等に、「譲りたい相手先、譲りたくない相手先」といった希望をはっきりと伝えます。仲介者等は、譲渡側の希望を基に、譲渡会社名を伏せて、概要を要約した情報(ノンネーム情報)をマッチングしそうな買収希望会社に提供します。

④事業評価

(ありのまま隠さず、ごまかさず)

マッチング先選定と並行して、譲渡会社の事業評価が行われます。事業評価は、譲渡を希望する会社の事業を、他社が買収する値打ちがあるか、どれくらいの価値があるか、判断するプロセスです。仲介者等のヒアリングや資料の提出に応じます。隠さず、ありのままに現状を伝えます。ここで隠したり、ごまかしたりすると、後のデューディリジェンス(事業調査)で問題が発覚し、M&Aが破談になる可能性があります。

⑤マッチング開始

(交渉の順番について、希望を明示)

仲介者等から、複数の候補先が示されることがあります。

譲渡側としては、自分の希望をはっきり伝えて、交渉の順番を決定します。たとえば、「業績の良い会社に譲りたい」、「地元に事業基盤のある会社が望ましい」等が考えられます。

⑥トップ会談

(M&Aの肝:双方の経営理念・人間性の確認)

いよいよトップ会談です。

トップ会談は、譲渡側、譲受側双方の経営理念や人間性を確認し合うものです。M&Aの成否を決める肝ともいえます。自分の考えをしっかり伝えられるよう、事前に十分準備してください。会談の場では、M&A後の事業展開や経営方針について、しっかり話し合ってください。

⑦交渉

(譲れるところ、譲れないところを明確に)

①譲渡価格、②今後の事業展開や経営方針、③社名や従業員の待遇等について、仲介者等の担当者が両者にヒアリングを行い、擦り合せます。その中で、互いに歩みより、両者が合意できる妥協点を見つけます。大切なのは、要求項目に一定の優先順位をつけ、譲れるところ、譲れないところを明確にしておくことです。

⑧基本合意書の作成

(M&A合意の確認)

基本合意書は、これまでの話し合いで合意した内容を確認するためのものです。双方が概ね合意に達した事項(譲渡価格、経営者・役職員の処遇、最終契約までのスケジュール等)を盛り込みます。

⑨デューディリジェンス(事業調査)

(専門家の調査に素直に答えること)

譲渡側の企業の価値を譲受側の企業が調査します。 譲受側の専門家(税理士、公認会計士、弁護士等)が、譲渡側の会社を訪れて調査します。譲渡側で、事前に提供した財務・法務・不動産・事業の資料をチェックして、基本合意書の内容と合っているか等を確認していきます。また、不良在庫や債務状況等の確認も行われます。

重要なのは、隠し立てしないで、すべての情報を開示することです。M&Aは、両者の信頼関係の上に成り立つものです。

⑩最終契約の締結

遂に最終契約に至りました。基本合意書の内容をベースに、必要な修正を加えたり、基本合意書締結後の合意事項等を反映させて作成します。 譲渡価格、譲渡対象、決済方法、その他合意事項(役職員の処遇等)が記載されます。また、例えば、買収後も、譲渡側の経営者が、顧問として一定期間、会社に残る場合は、顧問契約等を締結します。

【それぞれのステップにおける注意点】

①事業承継のM&Aの専門家を探す:専門家には、専門業者、金融機関、専門士業者等があります。

②仲介者の選択:得手・不得手もありますので、しっかり選択しましょう。

③マッチング候補先の選定:ポイントは、譲渡側の希望をはっきり言うことです。

④事業評価を受ける:「隠さず、ごまかさず」が一番大切です。

⑤マッチング開始:有力候補から順番に実施していきます。

⑥トップ会談:信頼関係の構築。事業承継の胸突き八丁です。

⑦交渉のうえ、⑧基本合意書の締結です。

⑨デューディリジェンス(事業調査):専門家の調査に素直に答えることが大切です。

⑩最終契約の締結:最後まで気を抜かずに。

5、M&Aによる事業承継の進め方(その2―事業引継ぎ支援センターを活用する方法)

M&Aによる事業承継の進め方(その2―事業引継ぎ支援センターを活用する方法)

(1)事業引継ぎ支援センターとは

事業引継ぎ支援センター(以下「センター」といいます。)は、後継者のいない中小企業・小規模事業者の「事業引継ぎ(※)」を支援する国の事業を実施する機関です。中小機構が運営しています。
事業引継ぎ支援センターでは、事業引継ぎにまつわる、あらゆる相談を無料で受けています。民間機関を活用してM&Aを実行する際のセカンド・オピニオンとしても活用できます。
平成25年度から平成30年度までの累計で相談社数36,000社超、事業引継ぎ件数2,400社という高い実績をもち、譲渡側企業の約7割が小規模事業者という独自性を持っています。

(※)「事業引継ぎ」:会社をM&Aによって、外部の会社に譲渡することのほか、事業を個人に譲渡することも支援しており、合わせて「事業引継ぎ」と呼んでいます。

(2)センターによるM&A支援

①センターでの相談

センターでは、譲渡側と譲受側、双方の相談を受け付けています。
相談案件がM&Aにつながるとセンターが判断した場合は、その案件を登録機関等(センターに登録した仲介業者等)に橋渡ししてくれます。
また、マッチング相手がすでに決まっている場合等は、センター自らM&A支援を行ってくれます。

②データベースの活用

センターのデータベースには、譲渡側と譲受側の全国の会社情報が数多く、登録されており、全国のセンター間及び各センターの登録機関等(登録機関等は、相談者の同意がある場合に限ります。)で共有されています。
登録を行ったセンターと全国本部以外は、個社を特定できない形に加工された情報(ノンネーム情報)として閲覧され、秘密保持が徹底されています。
これを活用して、マッチング相手を見つけることが可能です。

③「後継者人材バンク」の活用

センターでは、後継者人材バンクも運営しています。
後継者人材バンクは、後継者のいない小規模事業者(個人事業主が多い)と起業を志す個人起業家をマッチングする事業です。
地域に必要な事業を存続させ、意欲ある起業家の創業も支援する取組です。

6、弁護士との緊密な連携が決め手

弁護士との緊密な連携が決めて

以上、M&Aで、ご自分の事業を第三者に承継する対応の概要です。
M&Aは、基本的に、多くの法律が絡み合う大変複雑な取引です。
そのため、ミスなくスムーズに行うためには、弁護士との連携が必須と言えます。

事業承継M&Aを専門に受け付ける弁護士も増えてきていますので、どうぞお気軽に法律事務所へ足を運んでみてください。
初回の相談で、あなたがこれからすべきこと、そして、あなたの会社がどうなるのか、今と未来が一気に開けてくることでしょう。

M&Aによる事業承継とは、ご自身が一生をかけた仕事を、いわば最後の総仕上げとして、信頼できる第三者を見つけて引き継ぐことです。
検討段階から信頼できる弁護士とコンタクトを取って、相談していくことが望まれます。

まとめ

事業承継については、もはや親族や自社の役職員への承継だけを考えているわけには行かない時代になってきました。
ご家族、ご親族にも、役職員にも、それぞれの考え方と生活があります。
経営者が高齢化して、行き詰まってから慌てて、ご家族に譲ろうとしても、失敗しかねません。

中小企業経営者にとって、ご自分が手塩にかけて育て上げた事業こそ、信頼できる相手に引き継ぐことが望まれます。
ぜひ、M&Aによる事業承継を計画的に検討してみてください。

適切な事業承継こそが、経営者としての最後の仕事であり、未来に向けて果たすべき責任なのです。

※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

ベリーベスト 法律事務所弁護士編集部
ベリーべスト法律事務所に所属し、企業法務分野に注力している弁護士です。ベリーベスト法律事務所は、弁護士、税理士、弁理士、司法書士、社会保険労務士、中国弁護士(律師)、それぞれの専門分野を活かし、クオリティーの高いリーガルサービスの提供を全国に提供している専門家の集団。中国、ミャンマーをはじめとする海外拠点、世界各国の有力な専門家とのネットワークを生かしてボーダレスに問題解決を行うことができることも特徴のひとつ。依頼者様の抱える問題に応じて編成した専門家チームが、「お客様の最高のパートナーでありたい。」という理念を胸に、所員一丸となってひたむきにお客様の問題解決に取り組んでいる。
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