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法人破産の初動②

2020年10月12日
法人破産の初動②

1.はじめに

本稿は、「法人破産の初動①」の続きです。

「法人破産の初動①」では、法人の債務整理手続の選択から受任通知までをご説明いたしましたので、本稿では、その先の手続である受任通知後から裁判所への破産開始の申立てに至るまでをご説明いたします。

2.受任通知から破産申立までの動き

受任通知から破産申立までの動き

(1)債権者・利害関係人からの問い合せ対応

破産者の債権者などの利害関係人は、受任通知により当該法人がいわゆる危機時期(財産状態が悪化し、全ての債権者を満足させることができなくなった段階にあることをいいます。)にあることを知らされますが、これを知った場合にはそれぞれが自己の権利を実現しようと行動します。

このような抜け駆け的な行動が起こらないようにするには、破産者としても、債権者を公平・平等に扱うことを、債権者に対して態度で示す必要があります。

その手段として、「債権者説明会」等の説明会を早期に開き、財産状態を詳らかにして、今後は債権者を公平・平等に扱う旨を宣言することが考えられます。

破産者として、必ずこうした説明会を開催しなければならないということではありませんが、受任通知を受け取った債権者らから説明を求められることも多く、そのような場合には、債権者らに対して状況をある程度説明しておくべきでしょう。
また、債権者にもそれぞれに主張(相殺や商事留置権の主張等)がある場合がありますので、申立代理人としては,これを聴取しておく必要があります。

また、債権者の中には、法人が財産を隠しているのではないか、一部の債権者だけが得をしているのではないかといった不安を抱えている者もいるため、申立代理人は、そのような問い合わせに対して適切に破産手続の概要等を説明します。

(2)賃借物件の処理

詳しくは「3.賃貸物件からの退去」の項で後述しますが、破産者の事業所や倉庫、工場などが自社の所有物件なのか賃借物件なのかを確認する必要があり、賃借物件の場合は明渡しを行うか否かを検討する必要があります。

(3)売掛金の回収・その他財産の換価

一般的な法人の取引では、売掛先からの支払サイトは翌月払いや翌々月払いとなっていますので、事業を停止して受任通知を送付した後も、売掛金が残っていることは少なくありません。

しかし、受任通知によってその売掛金が入金される口座が凍結されてしまうと、入金された売掛金を引き出すことができず、申立てのための十分な資金を確保できないということにもなりかねません。
また、売掛金が引き出せない間に、公租公課庁(課税庁のほか、地方税及び国民健康保険等を主管する地方自治体を含みます。)の滞納処分により差押えがされる可能性もあります。

そこで、通常、受任通知後には、売掛先に対して申立代理人の管理口座に売掛金の振込先を変更する旨を連絡します。

売掛金以外の財産の回収についても、申立代理人は、財産を保全し、迅速かつ適切に破産管財人に引き継ぐべきですので、在庫等の法人財産については原則として処分すべきではありません。
しかし、時間の経過により在庫の換価価値が減少する場合や、申立費用等の確保の必要性がある場合等やむを得ない場合には、法人財産の必要最小限度の処分を行うことも考えます。
但し、その場合でも、否認対象行為と疑われないように、相見積を2か所以上から取得する等、適正な売却価格で処分したことが後から検証できるように留意しておく必要があります。

3.賃貸物件からの退去

賃貸物件からの退去

(1)破産手続における賃貸借契約の整理(双方未履行双務契約(破産法53条1項))

破産者の事業者が賃借物件であった場合、これをどのように処理するか、ということがしばしば問題となります。

賃貸借契約は、一方で賃貸人の側には賃借人に対して目的物を使用させる義務及びその他の付随義務があり、他方で賃借人の側には賃料支払の義務やその他の付随義務があります(民法1601条、616条、597条等)ので、破産手続開始決定のときにこれが継続している場合には、双方未履行の双務契約とみることができます。

ここで、破産法53条1項は、「双務契約について破産者及びその相手方が破産手続開始の時において共にまだその履行を完了していないときは、破産管財人は、契約の解除をし、又は破産者の債務を履行して相手方の債務の履行を請求することができる。」と定めています。

そこで、賃借権の譲渡が可能な場合や事業継続等の理由から契約を維持する必要がある場合を除き、通常、破産管財人は、賃料債務が発生し続けることを避けるため、早急に解除を選択します(破産手続開始後の賃料は財団債権(破産法148条1項1号)となり、破産財団から優先的に弁済されてしまいます。)。

破産手続開始後にこのような処理がなされることを前提として、破産申立代理人としても、破産手続開始決定前に賃貸借契約を整理し明渡しを完了させるか否かを検討する必要があります。

(2)申立代理人が事業用賃借物件を明け渡す場合

ア 目的

既述のとおり、賃貸借契約については双方未履行の双務契約として破産手続開始決定後に破産管財人においてこれを解除するか否かの権限が認められていますので、申立費用が捻出できるのであれば、申立代理人は明渡し未了のままで迅速に破産手続開始の申立てを行うことが望ましく、この場合には、賃貸借契約の解除については破産管財人の手に委ねられることになります。

他方で、申立費用を直ちに捻出することができない場合には、申立代理人が破産手続開始の申立ての前に事業用賃借物件を明け渡すことがありますが、その目的は以下のとおりです。

(ア)申立費用の捻出

事業用物件の賃貸借契約においては、ある程度高額な敷金や保証金を差し入れていることが多いため、差し入れた敷金・保証金の額が明渡費用及び原状回復費用を上回る場合には、事業用賃借物件の明渡しを行うことによって、敷金・保証金の残額の返還を求めることで、これを申立費用に充てることができます。

(イ)新たな債務負担の回避

差し入れた敷金・保証金の額が明渡費用及び原状回復費用を上回る場合でなくても、申立費用の捻出ができないために直ちに破産手続開始の申立てを行うことができない場合に賃貸借契約を放置しておくと、明渡しを行うまで新たな賃料債務が発生し続けることになりますので、これを抑えなければなりません。

しかし、賃貸人が、賃借人が原状回復をしないままに事業用賃借物件の明渡しをすることを認めない場合があります。

この場合、申立代理人は、賃貸人に対し、破産管財人が破産法53条1項に基づき賃貸借契約を解除することが可能であるところ、このとき、原状回復請求権は破産債権であるという見解が有力であり、このような見解を前提とすれば、敷金・保証金の範囲を超えて原状回復費用を支払うことは偏頗行為(破産法162条)に該当し得る旨等を説明して原状回復義務を免除してもらうことを交渉する必要があります(ただし、東京地方裁判所の運用では、原状回復請求権が財団債権になると扱われている点に留意する必要があります。)。

イ 明渡しにおける注意点

(ア)財産及び重要書類の確保

事業用賃借物件の明渡し前には、まず、事業所内の現金、受取手形・小切手、預金通帳、印鑑を回収し、その他印紙、郵券等交換価値のあるものが残置されないよう確認して引き揚げ、これらは申立代理人において保管する必要があります。

また、破産手続開始決定後に破産管財人に対して引き継ぐ必要がある重要書類(総勘定元帳・月次試算表・現金出納帳・売掛張等の会計帳簿類・決算書・附属明細書、契約書、請求書・領収書の控え、従業員名簿、賃金台帳、就業規則・賃金規程・退職金規程、タイムカード、日報・出勤表等)を確保し、申立代理人において保管します。

(イ)在庫品の売却

事業用賃借物件内の在庫品については、代表者の自宅などに移動させて、破産手続開始決定後に破産管財人に引き継ぎます。

在庫品を移動させることが困難な場合や、在庫品の価値が時間の経過によって急激に毀損されてしまうような場合、又は申立費用捻出のためにやむを得ない場合には、申立代理人において在庫品を処分して換価することがあります。

このような場合には、前述した財産の換価の場合(前記2.⑶)と同様に、適正価格で在庫品を処分したことを裁判所や破産管財人に説明できるよう、相見積をとるなどの工夫が必要です。

(ウ)合意書の作成

事業用賃借物件の明渡しができたときには、賃貸人との間で、賃貸借契約終了の確認条項、目的物件を明渡済みであることの確認条項及び明渡日の翌日から賃料又は賃料相当損害金が発生しない旨の確認条項などを盛り込んだ合意書を作成しておきます。

4.資産・財産の保全

資産・財産の保全

(1)資産・財産の保全の意義

破産者が破産手続開始の時に有している財産は、原則として破産財団を構成します(破産法34条1項)。
破産手続開始決定後、破産財団に属する財産の管理処分権は破産管財人に専属し(同法78条1項)、破産管財人によって、その換価等がされ、最終的には配当財団として、破産債権者に対する配当原資となります。

また、破産管財人は、就任後ただちに破産財団に属する財産の管理に着手しなければならないとされています(同法79条)。

その前段階で破産者の財産に関与することとなる申立代理人は、破産管財人に対して破産者の財産を散逸などさせることなく引き渡す職責がありますので(これを「財産散逸防止義務」ということがあります。)、破産財団となるべき財産が毀損されないように、適切にこれを保全した上で、破産管財人が就任後直ちに破産財団を管理して換価に取り掛かれるように管理しておく必要があります。

(2)預金の保全

受任通知を発送した場合、受任通知が到達した後に債務者の預金口座に入金があっても、債権者たる金融機関は支払停止後に預金返還義務を負担したことになるため、金融機関による相殺は制限されます(破産法71条1項3号)が、通常、相殺の危険を避けるため受任通知発送前に預金口座から預金を引き出した上で申立代理人の口座に移動させ、また、金融機関が支払停止の事実を知っていたことの立証のために受任通知と同時に金融機関への相殺禁止・自動引落停止依頼書等を送付します。

また、金融機関が受任通知を受け取ると、通常は口座が凍結され、新たに入金があっても、その資金は破産申立の準備や残務処理に利用できなくなります。そこで、売掛金等の入金が予定されている場合は、予め入金口座を相殺の危険がない口座に変更する必要があります。

(3)売掛金の回収

売掛金については、まず、売掛台帳や請求書等によって正確な金額を把握しなければなりません。

その後、売掛先に対し、振込先変更依頼書を送付し、申立代理人の預り金口座等に売掛金を入金するよう依頼します。

問題なく売掛金を回収できれば良いのですが、ときには、売掛先が、売掛金の発生原因を争い、相殺等の抗弁を主張し、あるいは単に資金不足を理由に売掛金の支払拒絶や金額の減免要請をしてくる場合があります。

このような場合、当然根拠のない支払拒絶に応じる必要はありませんが、通常破産手続開始の申立を準備している時には売掛先に対して訴訟を提起してまで売掛金を回収する時間的余裕はありませんから、売掛先の主張の妥当性を検討し、場合によってはやむを得ず和解的処理をして売掛金の一部減額に応じてこれを回収する場合もあり得るかと思います。

もちろん、早期に破産手続開始の申立てを行い、売掛金の回収を破産管財人に委ねることもありますが、その場合でも、申立代理人は、破産管財人から売掛金の回収に協力するよう要請を受けることが通例です。

(4)その他資産の換価行為

上記のほか、受取手形・小切手、在庫品、貸付金、不動産、機械・工具類、什器・備品、自動車、電話加入権、有価証券、敷金・保証金返還請求権、保険解約返戻金、知的財産権等破産財団を構成し得る財産につき調査し、これが毀損されないよう個々の財産に応じて適切に保全し又は換価することが考えられます。

(5)申立費用の捻出

申立代理人の報酬は、申立ての為に最低限必要な申立費用といえ、財団債権であると考えられていますので、保全・回収した財産の中から支払に充てることは可能です。

もっとも、申立代理人の報酬は、破産財団となる予定の破産者の財産から支払われる以上、その金額が適正かつ妥当な範囲を超えて高額である場合には、債権者を害することになります。
したがって、申立人の報酬の金額が客観的な役務の内容と合理的均衡を欠く場合には、否認(破産法160条)の対象となることがあります。

また、法人の代表者も破産手続開始の申立を行う場合の代表者の申立費用については、法人と代表者はあくまで別人格であることから、法人の保全財産等から支出することは原則的に許されないことに注意が必要です。

5.裁判所への申立て、開始決定

裁判所への申立て、開始決定

(1)裁判所への申立て及び破産手続開始決定

破産者の財産(債務も含みます。)に関する調査や、取り急ぎ対応が必要な事項の処理が完了し、破産手続開始申立ての準備が整いましたら、申立代理人において管轄裁判所に対し破産申立書その他の必要書類を提出する方法で破産手続開始申立を行います(破産法20条)。

その後、裁判所において破産手続開始の原因となる事実があると認めるときは、破産手続開始の決定がなされます(同法30条)。

(2)破産手続開始の効果

破産手続が開始されると種々の効果が生じますが、ここではそのいくつかをご説明します。

ア 破産者である法人に対する効果

解散前の法人に対して破産手続開始決定がされると、破産手続開始は法人の解散事由であるため、法人は解散しますが、解散後は清算手続を行わず、破産手続が清算手続に代置されます。

そのため、破産手続開始決定を受けた法人は、解散の前後を問わず破産手続による清算の範囲で破産手続が終了するまで存続します(破産法35条)。

イ 財産の管理処分権の移転

破産手続開始の決定があった場合には、破産財団に属する財産の管理及び処分をする権利は、裁判所が選任した破産管財人に専属し(破産法78条)、破産管財人は、就任後直ちに破産財団に属する財産の管理に着手しなければならないとされています(同法79条)。

ウ 住居の制限

破産者は、その申立てにより裁判所の許可を得なければ、その居住地を離れることができなくなります(破産法37条1項)。
これは、破産者には後述のとおり説明義務が課せられているため、その義務を尽くさせるために破産裁判所は破産者の所在を把握していることが必要であるという考えに基づいています。

この義務は、法人にはあまり関係がありませんが、代表者が法人と併せて破産手続開始の申立てをした際には留意しておく必要があります。

エ 説明義務と重要財産開示義務

破産者やその代理人、破産法人の理事・取締役・執行役・監事・監査役・清算人、破産者の従業員は、破産管財人、債権者委員会、債権者集会の決議に基づく請求があったときは、破産に関して必要な説明をしなければなりません(破産法40条1項)。

この「破産に関する必要な説明」とは、資産・負債の状況、破産に至った事情など破産手続を遂行するために必要な事実に関する説明であるとされています。

この説明義務を強化するため、破産者は、破産手続開始決定後遅滞なく、その所有する不動産、現金、有価証券、預貯金その他裁判所が指定する財産の内容を記載した書面を裁判所に提出しなければならないとされ(同法41条)、これを重要財産開示義務といいます。

もっとも、通常は、破産申立代理人によって破産手続開始の申立時に破産申立書とともにこれら書面が提出されます。

オ 破産債権の弁済禁止効

破産債権は、破産手続が開始されると、法定の除外事由がない限り、破産手続によらなければ、行使することができないとされています(破産法100条1項)。

カ 個別的権利行使の禁止と手続の失効

破産手続が開始されると、①破産財団に属する財産に対する強制執行・仮差押え、仮処分、②一般の先取特権の実行、企業担保権の実行、③民事執行法上の財産開示手続ができなくなります。

①及び③は、破産債権に基づくもの以外にも財団債権に基づくものであっても禁止され、②も、被担保債権が破産債権である場合はもちろん、財団債権である場合も禁止されます(破産法42条1項、同条6項)。

また、これらの手続が破産手続開始時に既になされている場合は、破産手続開始によって①及び②の手続は、破産管財人が続行を有利と認めてこれを続行させる場合を除いて効力を失い、③の手続は失効します(同法42条2項、同条6項)。

キ 破産者を当事者とする訴訟手続

破産者を当事者とする破産財団に関する訴訟は、破産手続の開始によって、財産の管理処分権を失い当事者適格を喪失するため、中断します(破産法44条1項)。

(ア)破産債権に関する訴訟

破産債権に関する訴訟の相手方が、破産債権の届出をし、当該債権が確定したときは、中断した訴訟は当然に終了します。
他方で、破産管財人が届け出られた破産債権を認めず、あるいは他の破産債権者から異議が述べられたときは、債権の確定を求める訴訟の相手方は異議等があった調査期間の末日又は期日から1か月以内に異議者等の全員を相手に中断した訴訟の受継の申立てをしなければならないとされています(破産法127条)。

(イ)破産債権に関係しない訴訟

破産債権に関係しないものであっても、破産財団に関する訴訟であれば中断します。
この場合は、破産管財人は中断したその訴訟を中断することができ、訴訟の相手方も受継の申立てをすることができます(破産法44条2項)。

(ウ)破産財団に関係しない訴訟

破産者を当事者とする離婚訴訟等、破産財団に関係しない訴訟手続は中断しません。

6.おわりに

本稿では、法人破産手続の初動について、破産手続開始決定までご説明しましたが、ここでご説明したことは、あくまで一般的な内容にすぎません。
一口に法人といっても、その実情は多種多様であるため、破産手続の進め方については個別具体的な検討が求められます。

代表的な法人といえば会社ですが、会社などの経営について、今後との見通しがつかないといったお悩みやご不安を抱えている場合には、適切な手段を選択して準備するためにも、できるだけお早めに弁護士に相談することをお勧めいたします。

なお、弁護士には法律に基づいて守秘義務が課せられているため、相談をしても事情が第三者に知られることはありませんので、ご安心ください。

※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

ベリーベスト 法律事務所弁護士編集部
ベリーべスト法律事務所に所属し、企業法務分野に注力している弁護士です。ベリーベスト法律事務所は、弁護士、税理士、弁理士、司法書士、社会保険労務士、中国弁護士(律師)、それぞれの専門分野を活かし、クオリティーの高いリーガルサービスの提供を全国に提供している専門家の集団。中国、ミャンマーをはじめとする海外拠点、世界各国の有力な専門家とのネットワークを生かしてボーダレスに問題解決を行うことができることも特徴のひとつ。依頼者様の抱える問題に応じて編成した専門家チームが、「お客様の最高のパートナーでありたい。」という理念を胸に、所員一丸となってひたむきにお客様の問題解決に取り組んでいる。
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