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法人破産で予納金が払えないときはどうしたらよい?対処法を解説
法人破産において予納金が払えないとお困りになっている方は少なくないかもしれません。
会社を破産させるときの費用は自ら負担しなければなりません。
とはいえ、破産という状況に追い込まれた会社には、ほとんど現金が残っていないという場合も珍しくなく費用負担は破産申立ての大きな障害になることがあります。
特に、法人破産では、予納金が高額になってしまい、その工面に右往左往したり、破産申立てを諦めるということもあるかもしれません。
そこで、今回は、破産の予納金が支払えないときに注意すべきポイントや予納金の負担を減らすことのできる方法についてまとめてみました。
法人の債務整理に関してはこちらの記事をご覧ください。
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1、破産手続における予納金とは?法人破産における予納金について
まずは、破産手続における予納金の基本について確認しておきましょう。
(1)2種類の予納金
予納金とは、その文字で示されるとおり、手続実施に先立ってあらかじめ納めるお金(費用)のことです。
破産手続における予納金には、次の2つの種類があります。
- 官報に公告するための費用(裁判所予納金)
- 破産管財人の報酬(引継予納金)
①官報公告費用
破産手続においては、破産手続に関する情報(手続が開始されたことや債権者集会の開催日時など)を広く債権者に知らせる目的で、官報において情報公開(公告)が行われます。
官報というのは、国が発行している広報誌のようなもので、自己破産関係以外にも新しく公布された法令や入札情報といった情報が掲載されています。
官報への情報掲載には手数料(掲載料)がかかるため、破産手続では申立人がその費用を負担する必要があります。
官報掲載費用は(細かな金額は裁判所ごとに異なりますが)15000円前後が目安の金額といえます。
②破産管財人の報酬(引継予納金)
もうひとつの予納金は、破産管財人の報酬です。
破産手続の大部分(財産などの調査・処分・債権者への報告・配当など)は、裁判所によって選任された破産管財人が行います。
その報酬は、基本的には、破産者(破産させる会社)の資産を売却して得た金銭から支払われるべきですが、「会社に資産が全くない」というケースもあり得るので、その引き当てとして予納金が必要となるというわけです。
次の(3)で解説するように、破産管財人報酬は、破産手続に必要となる費用のうちで最も高額になることもあり、「予納金が支払えない(破産の費用が支払えない)」というケースは、基本的にこの破産管財人の報酬相当額が工面できない場合を指します。
※以下、この記事において「予納金」という言葉を用いるときは、基本的にこの破産管財人の報酬に充てる費用を指します。
(2)予納金(破産管財人報酬)の決まり方
破産管財人の報酬は、その業務の程度に応じて決まるのが最も公平といえます。
実務上も、担当した破産事件の破産法人の事務所数・負債額・債権者の数、所有する財産の量・範囲、処理しなければならない法律関係といったさまざまな要素から公平な報酬額が決められます。
とはいえ、予納金は手続の開始前に納める必要がありますから、細かな条件を精査して金額を決めるというのは適当ではない場合もありえます。
そこで、通常管財手続の予納金額は、下の表のように、破産者(破産させる会社)の負債額に応じて決まるものとされています。
負債総額 |
予納金の額 |
5000万円未満 |
70万円 |
5000万円以上1億円未満 |
100万円 |
1億円以上5億円未満 |
200万円 |
5億円以上10億円未満 |
300万円 |
10億円以上50億円未満 |
400万円 |
50億円以上100億円未満 |
500万円 |
(3)予納金の支払い方法
予納金の支払いは、自己破産の申立て後、裁判所が金額を決定した後に支払うことになります(官報公告費用は破産審尋の際に支払うのが一般的です)。
支払いの方法は、裁判所の窓口(出納課など)で現金納付するか、銀行振込みによって行うことになるのが一般的です。
なお、裁判所は、予納金が納付されない限り、その事件について手続を開始する(破産手続開始決定を出す)ことができません。
最近では、予納金の納期限を厳しく定めない裁判所が増えているといわれますが、納付できない状況が長くなってしまったときには、「申立てを取り下げて欲しい」と裁判所から連絡がくる場合があります(それでもなお、納付しないときには、理屈の上では「申立てを却下する決定」を出すことになります)。
2、予納金を支払えないときに注意すべき3つの対応
会社を破産させる状況では、会社に「現金がほとんどない」ということも珍しくないといえます。
そのような状況で、100万円を超えるような予納金を工面することは、中小企業などでは簡単ではない場合も多いでしょう。
実際にも、「会社を破産させたいが予納金を支払えない」というケースは珍しいことではなく、経営者がさまざまな金策をして予納金を工面しているようです。
しかし、次の方法で金策する際には慎重に対応する必要があります。
(1)法人代表者(社長)のポケットマネーから法人の予納金を工面する
「法人の代表者の個人資産(ポケットマネー)」は、法人破産の予納金を工面する際に最初に考えられる方法といえます。
しかし、(特に中小企業のケースでは)法人を破産させる際には、その代表者も同時に自己破産するケースが多い点に注意する必要があります。
なぜなら、法人破産の予納金を代表者の個人資産で支弁することは、代表者の債権者の権利を害する行為として評価される可能性があるからです。
たとえば、代表者のポケットマネーから法人破産の予納金として100万円を支払ったというケースでは、その分だけ代表者の破産手続における債権者への配当が減ってしまうことになるからです(これと逆のケースになる社長の破産予納金を会社の現金で工面した場合も同様です)。
(2)予納金を工面するために法人の財産などを処分する
会社の破産に必要な予納金を工面できない場合には、次のような方法で現金を用意することが一般的です。
- 売掛金の回収
- 事業譲渡
- 資産売却
このうち、事業譲渡・資産売却で予納金を工面する際には、「適正な金額で売却しなければならない」ということに注意する必要があります。
たとえば、1000万円の価値のある会社資産を「現金化を急ぐ」という理由があるからと「500万円で売却してしまう」ことは問題があるといえます。
なぜなら、その分だけ債権者の権利が侵害されていると考えることができるからです。このような不適正な資産売却が行われた場合には、破産管財人によって売却行為それ自体が否定される(否認権が行使される)こともあり、取引の相手方に迷惑をかけることになってしまう場合もあります。
また、これらの方法で得た現金の使い道にも注意する必要があります。
たとえば、予納金として必要な金額を差し引いた残額を債権者への個別返済に充ててしまったような場合も、上のケースと同様に、破産管財人による否認権行使の対象となる可能性が高いです。
(3)法人破産では法テラスは利用できない
法テラスは、低所得者が法手続きを利用する際の心強い存在です。
特に、個人の債務整理では、法テラスの費用立替えが利用されるケースも少なくありません。
しかし、法テラスの立替払い(民事法律扶助)は、法人の案件で利用することはできないので注意が必要です。
※個人の自己破産で利用するケースでも、「予納金」は立替払いの対象とはならないのが原則です(予納金も立て替えてもらえるのは生活保護受給者などのケースに限られます)。
3、法人破産の予納金を減額できる方法
予納金を工面できるアテが全くないという場合でも「破産できない」と諦める必要はありません。
実務の上では、予納金の減額を認めてもらえるケースがあるからです(上で紹介した予納金の額は、ひとつの目安であって、最終的にはそれぞれの事案ごとに裁判所が決めるというのが原則です)。
(1)廃止事件となる可能性の高い事案
予納金(破産管財人報酬)が、破産会社の負債額に応じて決まるのは、負債額が大きいほど破産管財人業務の負担も大きくなるといえるからです。
このことを逆にいえば、破産管財人の負担が通常の事件よりも小さいといえる事情があるときには、予納金の額を減額する余地があるともいえます。
たとえば、破産を申し立てた会社の負債関係が複雑ではない(債権者数が少ない)ケースでは、破産管財人の調査業務などの負担は小さいといえますし、さらに会社保有の財産もほとんどないようなケースでは、法人の破産手続であっても、配当までに至らず手続を途中でやめる(異時廃止)こともあります。
裁判所によっては、そのようなケースでは予納金を減額するという対応をとっているところもあるようです(※すべての裁判所でそのような取り扱いがあるというわけではありません)。
【参考】破産手続開始申立事件に関する予納金等基準表(高松地方裁判所:平成31年4月現在)
(2)いわゆる「少額管財」を利用できる3つの場合
少額管財というのは、予納金が通常よりも少額となる管財事件(破産管財人を選任する事件)の総称です。
裁判所によっては、他の呼称が用いられているところもあり、東京地裁では、(少額管財に該当する事件が圧倒的に多いことから)少額管財のことを「管財事件」とよび、通常の予納金が必要な管財事件を「特定管財」とよんでいます。
申し立てた破産事件を少額管財として取り扱ってもらえれば、予納金は20万円(以上)となるため、破産にかかる費用を50万円以上節約できる可能性があることになります。
少額管財は、元々は、個人の自己破産事件において採用された運用ですが、次の3つの場合には、会社の破産事件でも少額管財として取り扱ってもらえる可能性があります。
①小規模の法人が代表者と一緒に自己破産を申し立てる場合(法人併存型)
たとえば、個人事業主が法人成りした場合のように、会社の規模が小さく実質的に個人(代表者)と同一視できる場合には、法人と代表者と同時に自己破産を申し立てることで少額管財の利用が認められる場合があります。
この場合には、会社と代表者の破産手続を実質的に1つの手続として取り扱うことになるため、管財人も1人で済むので、予納金も20万円(以上)となるのが一般的です。
なお、裁判所によっては、(形式的には手続が2件であることから)2件分の予納金が必要となるところもあるようです。
ただし、この場合でも2件の予納金の単純合算よりは低い金額となります。
②ほとんど資産のない会社が法人のみで破産する場合(法人単独型)
事務所も設備のほとんどが賃貸・リースといった場合のように、ほとんど資産のない(小規模の)会社が単独で自己破産する場合にも、少額管財を利用できる場合があります。
たとえば、代表者の個人保証がないケースなどでは、会社を清算(破産)できれば、代表者の自己破産は不要というケースもあるでしょう。
この場合も(個人の規模に準ずる)法人の破産手続が1つだけですから、予納金は1件分(20万円以上)です。
③予納金の納付は厳しいが、複雑な事件ではない場合(法人清算型)
個人と同一視するのが難しい規模の法人であっても、事案がさほど複雑ではない場合には、予納金の納付が難しいといえる事情がある場合に限り、「例外的に」少額管財の利用を認めてもらえる場合があります。
費用が工面できないことを理由に、破産手続に踏み切れない(で夜逃げしてしまう)ケースが生じることは、社会的にも大きな問題(裁判所も本意ではない)といえますから、最近では柔軟対応をしてくれる裁判所も増えているようです。
なお、①~③のいずれの場合であっても、少額管財の利用には、手続きを弁護士に依頼することが必須条件となります。
弁護士代理人の就いていない案件では、破産管財人の業務を軽減することは不可能といえるからです。
つまり、少額管財というのは、申立代理人が破産管財人の業務の一部を事実上肩代わりすることを条件に、予納金の金額を安くする仕組みというわけです。
したがって、申請に至るまでの代理人の業務の質によっては、似たようなケースでも少額管財利用の可否について裁判所の結論が分かれるということも考えられます。
まとめ ~「無料相談の活用」がポイント
会社の破産には多額の予納金が必要となるケースが少なくありません。
そのため、いざ会社を破産させたいと考えたときには、「お金がなければ会社を潰すこともできないのか」と途方に暮れてしまう経営者の方も多いかもしれません。
しかし、本文中で解説したように、予納金は減額してもらうことも不可能ではありませんし、手持ち資金が少ない場合でも工面できる方法がないわけではありません。
あわてて不適切な対応をしてしまえば、状況がさらに悪化するだけでなく、破産手続が長期化してしまう原因にもなりかねません。
「予納金の支払いに不安がある」というケースでは、「無料相談」を上手に活用してできるだけ早い段階で弁護士からのアドバイスを受けておくことが大切といえます。
弁護士のサポートがあれば、売掛金の回収などもスムーズに進む可能性も高くなるので、相談をしたことで予納金が工面できたということもあるかもしれません。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています