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法人破産をしたくてもできない?そんな4つのケースをご紹介
法人破産をしたくてもできない、そんな状況も存在します。
法人の自己破産は、経営に行き詰まり負債の返済ができなくなったときの最終的な解決方法です。
しかし、会社の破産は、会社の消滅にも直結し、債権者の権利にも大きな影響を与えることから経営者が「会社を破産させたい」と考えていても破産できないということもないわけではありません。
特に、コロナ禍の影響の大きい現在では、経営する法人の破産を考える経営者も多いと思いますので、「法人が破産できない場合」にはどのようなケースがあるのかについてまとめてみました。
法人の債務整理に関してはこちらの記事をご覧ください。
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1、法人破産できないケース1〜負債が返済不可能とはいえない場合
会社の経営者が法人を破産させたいと考えていても破産できない場合の典型例は、「負債が返済不可能とはいえない」という場合です。
ある個人や法人について破産手続が開始されるためには、破産法が定めている要件を満たしている必要がありますが、「負債が返済不可能とはいえない場合」にはこの要件を満たしているとはいえないからです。
破産法の規定によれば、「負債が返済不可能である」と認めてもらうためには、その法人が「支払不能」もしくは「債務超過」のいずれかの状態にある必要があるとされています(破産法15条および破産法16条)。
破産法15条
債務者が支払不能にあるときは、裁判所は、第三十条第一項の規定に基づき、申立てにより、決定で、破産手続を開始する。
2 債務者が支払を停止したときは、支払不能にあるものと推定する。
破産法16条
債務者が法人である場合に関する前条第一項の規定の適用については、同項中「支払不能」とあるのは、「支払不能又は債務超過(債務者が、その債務につき、その財産をもって完済することができない状態をいう。)」とする。
2 前項の規定は、存立中の合名会社及び合資会社には、適用しない。
(1)支払不能・支払停止とは?
破産法における支払不能とは、その者(個人・法人)が「抱えている負債を一般的・継続的に返済できない状態」のことを指す「法律用語」です。
したがって、支払不能の状態にあるといえるためには、その法人(の代表者)や個人が主観として「返済できない」と思っているだけでは足りず、第三者(裁判所)からみても、「客観的に返済は不可能であろう」と評価できるような状態に陥っていなければいけません。
たとえば、手元キャッシュが尽きてしまい直近の返済ができないという場合でも、多額の回収可能な売掛金がある場合には、必ずしも支払不能とはいえないわけです。
ところで、支払不能という要件は、「抽象的でわかりづらい要件」なので、破産法15条2項は、債務者が「支払停止」となった場合には、支払不能にあると推定するものと定めています。
この支払停止というのは、「返済が出来ないことを示す具体的な対応」のことで、実務の上では、次のような行為があった場合には支払停止の状態にあると評価されます。
- 弁護士による各債権者への「受任通知」が送付された場合(弁護士が支払停止を債権者に通告します)
- 2回目の不渡り手形による「銀行取引停止処分」があった場合
- 「営業の停止(閉店)」やいわゆる「夜逃げ」といった行為があった場合
なお、「支払停止」は、抽象的な支払不能の状態を具体化・明確化するために設けられた要件であるといえます。
したがって、「『特定の債権者にだけ』返済できていない」といった場合や「経営者が負債を返済しないと決めた(だけ)」といった程度の行為では、支払停止には当たらないといえることに注意する必要があります。
前者の場合には「一般的に返済できない状態」とはいえない可能性がありますし、後者の場合は「外部(債権者)への表示」がないからです。
(2)債務超過
債務超過とは、債務者の負債の総額が資産の総額を超える状態のことをいいます。
会計用語として用いられる債務超過と破産法上の債務超過は基本的に同義です。
したがって、債務超過にあるかどうかは法人の貸借対照表(バランスシート)で確認することができます。
一般論としては、債務超過は必ずしも支払不能の状態とはいえません。
したがって、法人の場合には、「個人の場合よりも早い段階」で破産手続を開始することが認められているというわけです。
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2、ケース2〜「不正な目的」で破産手続を利用する場合
破産手続は、どうしようもない場合の最終的な解決方法です。
特に、法人が破産した場合には、その法人は消滅してしまうため債権者の権利にも大きな影響が出てしまいます。
そのため、もっぱら債権者の権利を害することのみを目的とするような破産の申立てを認めることは、公平の見地から許されるべきではありません(破産法30条1項2号)。
たとえば、借入れから全く返済をすることなく、その負債を(いわば合法的に)踏み倒す目的だけで破産手続を申し立てるような「計画倒産(計画破産)」は詐欺的な破産申立ての典型であり認められません。
そのため、法人破産の際には、粉飾決算・財産隠し、不適正・不公平な財産売却の有無などについて、(個人の破産の場合よりも)かなり厳しい調査が行われることが一般的です。
近年では、経営破綻した旅行会社(とその経営者)の破産事件において巨額の資産隠しが発覚し経営者の逮捕につながった事例がよく知られています。
3、ケース3〜破産手続以外の債務整理手続が開始されている場合
破産手続は、「負債処理の最終手段」として位置づけられています。
そのため、破産手続に先行して他の手続が開始されている場合には、経営者が「法人を破産させたい」と考えていても破産手続を行うことはできません。
法人の場合には、破産手続以外の負債処理(債務整理)の手続として、「民事再生」、「会社更生」、「特別清算」の手続があります。
また、すでに破産手続が開始されている場合であっても、民事再生・会社更生の手続が申し立てられた場合には、裁判所の判断によって破産手続が中止となる場合があります(破産手続開始後に特別清算が申し立てられることは理論的にあり得ません)。
このようなケースは、手続を債権者に申し立てられたケースで生じる可能性が高いといえます。
債権者にとっては、債務者の負債を破産手続で処理するよりも、民事再生・会社更生で処理した方がより多くの配当(返済金)を得られる可能性が高くなるため、破産以外の手続きが優先されるのです。
なお、債権者によって債務整理の手続が申し立てられた例としては、最近では、阿波踊りでおなじみの徳島市観光協会(債権者である徳島市が破産手続を申請)のケースが有名ですが、つい先日も大手繊維メーカーのレナウンが子会社から民事再生法の債権者申立てを受けています。
【参考】
徳島市観光協会の破産手続き開始について(徳島市ウェブサイト)
民事再生手続開始等に関するお知らせ(レナウンウェブサイト)
4、ケース4〜破産手続の費用を捻出できない場合
破産手続を開始してもらうためには、裁判所に所定の手数料・予納金を支払う必要があります。
これらの費用が未納となっているときには、破産手続を行うことができません。
特に、法人破産の場合には「予納金の負担」が重くなることから、予納金の工面ができないことを理由に「法人を破産させたくてもできない」というケースは珍しくありません。
法人破産の場合の予納金の目安額は下記の表のとおりです(金額の詳細は、それぞれの裁判所の運用によって異なる場合があるのでそれぞれの地域の弁護士などに必ず確認してください)。
負債総額 |
予納金の額 |
5000万円未満 |
70万円 |
5000万円以上1億円未満 |
100万円 |
1億円以上5億円未満 |
200万円 |
5億円以上10億円未満 |
300万円 |
10億円以上50億円未満 |
400万円 |
50億円以上100億円未満 |
500万円 |
※少額管財の場合は最低20万円
なお、手元資金が乏しいという場合でも、予納金を工面したり、予納金を減額してもらえる方法がないわけではありません。
「何とかお金をかき集めなければ」と焦ってしまい、不適正な資産処分を行ったり、危険な融資・取引(違法な借り入れやリスクの高い取引)に手を出してしまえば、状況をさらに悪化させてしまう場合が多いといえます。
会社の破産では弁護士に相談し、早めにアドバイスを仰ぐことをお勧めします。
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まとめ
法人は、個人よりも数多くの取引関係を有していることが一般的です。
そのため、経営が行き詰まってしまったときには、対応しなければならないことが山ほど発生してしまい、経営者の精神的負担もかなり重たくなるといえます。
また、追い詰められた状況においては、誤った判断をしやすくなることも多く、そのことが原因で「破産もできない」という最悪の結果になってしまうことも考えられます。
他方、会社の負債を処理する方法は、破産手続だけではありません。
早期に対応することができれば、法人の経営権を失わずに、負債だけを圧縮して事業の立て直しを図れる場合も少なくないでしょう。
経営が苦しいと感じたときには、1日も早く弁護士などの専門家に相談してみることが大切です。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています