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業務委託により労働力を確保する際の労働基準法を中心とした注意点②

2021年2月21日
業務委託により労働力を確保する際の労働基準法を中心とした注意点②

前回の記事では、業務委託により労働力を確保する際に生じる問題点と労働基準法等の適用条件を概説いたしました。
本記事では、労働基準法等が適用される条件に焦点を当てて、実際の裁判例を見ながら、労働者性が問題となりやすい運送業関係、芸能事務所、リラクゼーション業界、建設業、ソフトフェア・システム開発事業、風俗関連事業の注意点を解説します。

1.労働基準法上の労働者性の判断基準について

前回の記事で確認したとおり、労働基準法上の労働者にあたるかは、一般的には、次の基準によって判断されます。
そして、一般的には、業務依頼等に対する諾否の自由、業務遂行上の指揮監督、拘束性が重要な要素とされています。

1.使用従属性に関する判断基準 2.労働者性の判断を補強する要素
(1)指揮監督下の労働

①業務依頼等に対する諾否の自由の有無

②業務遂行上の指揮監督の有無

③拘束性の程度

④代替性の有無

(2)報酬の労務対償性

(1)事業者性の有無

①機械、器具の負担関係

②報酬の額

(2)専属性の程度

(3)その他

①採用時の選考過程

②給与所得としての源泉徴収

③労働保険の適用、服務規律、退職金制度、福利厚生の適用状況等

2.業種ごとの運用

それでは、労働者性が問題となりやすいいくつかの業種ごとに、実際の運用を見ていきます。

(1)運送業

昭和60年労働省(現厚生労働省)「労働基準研究会報告(労働基準法の「労働者」の判断基準について)」においては、自動車持ち込み運転手の労働者性の検討例があげられています。
また、近年、諸外国では、仲介業者(プラットフォーム事業者)が行う自動車運転手と自動車利用者のマッチングサービスが問題視され、雇用と扱う司法的措置・立法的措置がとられるなどの状況に至っています。
運送業務は、従来より、労働者性が特に問題となりやすい業界の一つといえるでしょう。

① 運送事業者が委託をするケース

貨物自動車運送事業や利用貨物運送事業を営む企業が個人経営の貨物自動車運送事業者に運送業務をさらに委託するというケースの裁判例を見てみると、運転手自身が自動車を所有していない場合には、労働者性が肯定される傾向にあるといえます(静岡地判平25.8.9労働判例ジャーナル20号15頁、大阪地判平26.2.28LEX/DB文献番号25503158)。

他方で、運転手自身が貨物自動車の所有者であるときには、基本的には、労働者性が否定される傾向にあるといえます(大阪地判平27.3.18LEX/DB文献番号25540304、大阪地判平25.11.8労働判例ジャーナル23号20頁)。

以上の裁判例から、自動車の所有が大きな分岐点であると考えられます。

② 非運送事業者が委託をするケース

ただし、非運送事業者が、業務に必要な車を所有する運転手に自社の業務に必要な運送を業務委託したケースでは、一部労働者性が肯定されています(肯定例:金沢地判昭62.11.27判時1268号143頁、大阪地決昭63.2.17労判513号23頁、名古屋高判平26.5.29裁判所HP参照、否定例:最一小判平8.11.28集民180号857頁)。

労働者性が認められた金沢地裁の裁判例では、一月ごとの就労日数は決まっておらず、報酬も出来高払い(概ね月収80万以上)制で、ダンプカーという高価な自動車を運転手が保有していた事例でした。
通常であれば、高い事業者性が認められそうですが、判決文では、契約内容が一方的に決定されていたこと、就労日には所定の時間拘束されていたこと、違法な過積載の指示に従う必要があったこと、実際の労働日数が概ね月23~25日程度であったこと、経費を含めると収入は10万~30万程度であったことなどを理由に、労働者性が認められています。
違法行為の指示をしていたという点が他の事例にない特徴といえるでしょう。

また、名古屋高裁の裁判例では、具体的な指揮監督状況からは労働者性を認定できないとしつつも、制服の着用義務があったことや、新年会に参加していたこと、運転手が自動車運送業の登録をしていなかったこと、配送業務が専属的で継続的であったこと、兼業が禁止されていたこと、社会保険に加入していたことなどから労働者性を肯定しています。自動車運送業の登録をしておらず、兼業もできなかったという事業者性を否定する要素が他の事例にない特徴といえます。

上記の裁判例は、運送事業者間での業務委託に関するものではないですが、運送事業者間の業務委託でもこれらの裁判例で重視されていた事項は、労働者性を肯定する要素となりえるため、注意が必要です。

③ 通達に関して

新聞配達員に関しては、労働者に該当するという通達が(昭22.11.27基発400号)、バイク便に関しては、一定の条件の下では、労働者に該当するという通達が存在します(平19.9.27基発0927004号)。

(2)芸能事務所

芸能人というと、一般的には個人事業主というイメージが強いですが、労働者であると判断した裁判例も多数存在します(東京地判平6.9.8判タ883号193頁、東京地判平19.3.27LLI/DB判例番号LO6231410、東京地判平25.3.8労判1075号77頁、東京地判平28.3.31判タ1438号164頁、東京地判平28.7.7労判1148号69頁等)。

① 労働者性が肯定された事例

東京地裁の平成25年3月8日判決は、レッスンは無料で受けられていたものの、芸能事務所が出演料をはじめ一切の報酬を払わなかった(契約書上には「別紙報酬約定のとおり支払う」旨記載されていましたが、別紙報酬約定は交付されていませんでした。)ため、芸能人が芸能事務所に対して推定賃金又は最低賃金による給与の支払い等を求めた事例です。
判決では、芸能事務所を通じてしか活動ができないこと、著作物・芸名に関する権利は全て芸能事務所側に帰属すること、仕事の拒絶自体は可能だったものの、数回を除き全て仕事を受けていたこと、出演料は芸能事務所側が受領していたことなどから、労働者性が認められています。
また、同裁判例では、芸能活動という役務の性質上、使用者の具体的な指揮命令になじまないが、このことによって、一般的な指揮命令関係を否定することにはならない旨判断したことが注目されます。

東京地裁の平成28年3月31日判決は、歌手に関する事案です。
同事例では、報酬は出来高払いであったものの、芸能事務所を通じてしか活動ができず、著作権や芸名等の権利も事務所側に帰属することなどから、労働者性が認められています。

上記の裁判例からすると、日本の芸能業界で主流の専属マネジメント契約に関しては、一般的には、労働者性が認められやすい傾向にあるといえます。

② 通達に関して

もっとも、一定の条件下で労働者性を否定する通達も存在します(昭63.7.30基収355号)。
この通達では、(a)当人の提供する歌唱、演技等が基本的に他人によって代替できず、芸術性、人気等当人の個性が重要な要素となっており、(b)当人に対する報酬は、稼働時間に応じて定められるものではなく、(c)リハーサル、出演時間等スケジュールの関係から時間が制約されることはあっても、事務所等との関係では時間的に拘束されることはなく、かつ、(d)契約形態が雇用契約でないときには、労働基準法の適用はないとされています。

東京地裁の平成28年7月7日判決では、この通達に関する判断がされています。
この事件は、10数名のアイドルグループのアイドルに関するものですが、歌唱とダンスを集団で行うライブ活動について、「他人によって代替できないほどの芸術性を有し、同人の人気などの個性がタレント活動としての重要な要素となっていると認めるに足りる証拠はない」とされています。
この裁判例からすると、労働者性が否定される程度の芸術性や個性の水準は高いものといえるでしょう。

③ 労働者性が否定された事例

他方で、著名なタレントの移籍が問題となった事例において、詳細な理由は示されていませんが、「タレント所属契約は、雇用、準委任又は請負などと類似する側面を有するものの、そのいずれとも異なる非典型契約の一種というべきである」として、労働基準法の適用を否定した裁判例も存在します(東京地判平28.9.2判時2355号13頁)。

レッスン費用等の回収のために、専属マネジメント契約にせざるを得ない場合については、芸能人側とレッスン費用等の負担や専属条項について十分に協議した上で、その交渉経緯を記録に残すなどの対策を講じるべきでしょう。
このような対策は、同時に、独占禁止法の観点からの対策にもなります。

(3)リラクゼーション業界

厚生労働省が令和元年6月28日に公表した「雇用類似の働き方に係る論点整理等に関する検討会 中間整理」においても、リラクゼーション業界では、業務委託が主体となっているとされており、業務委託形式で業務を行うことが多いかと思われます。

リラクゼーション業界でも、労働者性を認めた裁判例(大阪地判令1.10.24労働判例ジャーナル95号24頁)、労働者性を否定した裁判例(東京地判平27.1.16労経速2237号11頁)があります。

① 労働者性が否定された事例

労働者性が否定された裁判例では、シフトを提出して、自由に出勤日を選択できたこと、シフト時間内であっても、指名予約がなければ、外出をすることができたこと、完全出来高払いの報酬制度となっていたこと、消耗品の費用はセラピストの負担となっていたことなどから、労働者性が否定されています。

② 労働者性が肯定された事例

労働者性が認められた裁判例では、1日8時間から10時間程度と目安の勤務時間が契約書に記載されていたこと、10分前出勤が必要であったこと、休憩は8時間で1時間とされ、休憩中でも来客があれば施術をする必要があったこと、シフト制ではあったものの、休日の希望が重なった場合、誰かが業務に従事する必要があったこと、毎日、出退勤時間や売り上げを報告していたこと、歩合制ではあったものの、1日あたりの最低報酬額が存在したこと、勤務時間が8時間に満たない場合には報酬が減額されていたこと、消耗品を会社側が用意していたことなどを理由に、労働者性が肯定されています。

リラクゼーション業界で業務委託をする際には、必然的に場所的な拘束の程度が大きくなる上、業務委託先が高額な機器を負担することはないため、労働者性を否定するためには、時間的な拘束は極力すべきではないといえるでしょう。

(4)建設業(建築工事、電気工事等)

建設業では、一人親方を下請けとすることも多いかと思います。
しかし、令和2年6月、国土交通省が、「建設業の一人親方問題に関する検討会」を設置したとのプレスリリースを出しました。
これにより、今後、一人親方への下請けが偽装請負であるとして、強く規制されることが予想され、一人親方への下請けについては、入念に検討する必要があると言えるでしょう。

これまでの裁判例を見てみると、労働者性を認めた裁判例(東京地判平6.2.25労判656号84頁、神戸地判平22.9.17労判1015号34頁、刑事事件:東京高判昭56.8.11高裁刑集34巻3号374頁)と認められなかった裁判例(最一小判平19.6.28判タ1250号73頁、浦和地判平10.3.30訟月45巻3号503頁、東京地判平16.7.15労判880号100頁)があります。

① 労働者性が肯定された事例

労働者性が認められた東京高裁の刑事事件判決は、労働時間の管理もされず、報酬は出来高払いという事例でした。この事実だけであれば、労働者性は否定されやすいでしょう。
しかし、大工が会社から継続的に仕事を受けていたことや、会社が大工のことを会社所属の作業員として登録していたこと、会社の作業着が支給されていたこと、会社側で工事に必要な資材を提供していたこと、個々の工事ごとに請負契約書等の書面を取り交わしていなかったこと、毎朝会社の店舗に出社して、工事担当者から作業の進め方や機械の使用方法、危険防止等について具体的な指示を受けていたこと、仕事がない時には、報酬を前渡ししていたことなどを理由に労働者性が認められています。

また、同じく労働者性が認められた東京地裁の事例では、会社が「大工募集」、「1日に2時間の休みを入れてゆったりとした会社」という雇用の募集であるかのように見える広告を出していたこと、会社に雇用されている大工と同様の作業をしていたこと、勤務時間の指定はなかったものの、毎朝7時30分に出社してミーティングに参加する必要があり、概ね午後5時30分頃まで勤務していたこと、現場監督を通じて、現場の作業員が会社に監督されていたこと、会社側で工事に必要な資材を提供していたこと、報酬は日給制で、残業代も支給されていたことなどを理由に労働者性が認められています。

② 労働者性が否定された事例

他方で、労働者性の認められなかった最高裁の事例では、寸法や仕様について細かな指示を受けており、所定の作業時間が存在していたという労働者性を肯定する事情もありましたが、寸法等の指定は、仕上がりの画一性確保のために過ぎず、大工自身で工法や作業手順を選択できたこと、所定の作業時間は、作業の安全確保や騒音防止のためであって、各大工は所定時間前に帰宅することができたこと、会社側が、優秀な大工を確保するために、実入りの良い仕事を優先的に回しており諾否の自由があったといえること、報酬は出来高払いが中心であったこと、勤務を開始して8か月程度に過ぎず専属性が低いことなどを理由に労働者性を否定しています(具体的な事実評価は、第一審判決理由によります)。

建築業の業務委託の場合、請負人が高額な費用を負担することは稀であるため、事業主性は必ずしも高いものではありません。
請負人に継続的に業務を委託している場合には、業務の委託方法や契約内容について、慎重に検討をする必要があると言えます。

(5)システム開発業・ソフトウェア開発業

平成22年厚生労働省「個人請負型就業者に関する研究会報告書」においても言及がなされているとおり、システムエンジニア(SE)等の技術者は個人請負として勤務をすることが多い業界です。
そのため、システム開発・ソフトフェア開発を準委任や請負の形式で外部に発注している企業も多いかと思われますが、プログラマー、SEを特定の就業スペースで作業させた場合には、労働者性を争われることがあります。

裁判例では、労働者性が認められた裁判例(東京地判平9.9.26労経速1658号16頁、東京地判平21.1.14LLI/DB判例番号LO6430837)、認められなかった裁判例(東京地判平25.10.16LEX/DB文献番号25502225、東京地判平26.9.26労働判例ジャナーナル34号43頁)が双方存在します。

① 労働者性が肯定された事例

東京地裁平成9年9月26日判決の事例では、プログラマーを自社内で勤務させゲーム制作をした事案ですが、契約書が作成されていませんでした。
この事例に関しては、プログラマーは、契約社員、アルバイト募集の求人広告を見て応募したこと、概ね10時から18時30分までの稼働時間と合意したこと、タイムカードで管理されていたこと、業務報告書の提出が毎月なされていたこと、給与明細が作成されたこと、企業からプログラマーに対して、署名捺印のない雇用契約書という題名の書面が交付されたこと等の事情により、労働者性が肯定されています。雇用であるか業務委託であるかが曖昧な事例では、業務委託契約書がなければ、労働者に当たらないと主張することは極めて困難でしょう。

東京地裁平成21年1月14日判決の事例は、企業側が派遣先にSEを派遣するために労働者派遣契約を締結していたのですが、この事例でも企業側はSEとは契約書を作成しておらず、企業側とSEとの契約の性質が争われました。
この事例では、企業側が派遣先と労働者派遣契約を締結していたこと、派遣先から指示を受け、派遣先によって就業場所、終業時間、休日が定められていたこと、月給制で残業代も支払われていたことから、労働者であると認定されています。労働者であるか否かは、派遣先との契約内容にも影響されるため、派遣先との契約内容についても留意をすべきです。

② 労働者性が否定された事例

労働者性が否定された前記の裁判例は、いずれも、元請の会社内でSEを作業させていた事例です。

東京地裁平成25年10月16日判決では、当初月55万円という請負代金が交渉の結果、60万円に上昇したという経緯や、プログラミングという業務の性質上、作業場所が指定されるのは必然であって、指揮監督のために指定されていたのではないことなどが考慮されています。

また、東京地裁平成26年9月26日判決は、ハローワーク求人票に「正社員」という広告がなされており、採用時には元請先と面接の上、元請先の了承を得て採用されたという事案でしたが、入社時にSE側の強い要望で雇用ではなく業務委託になったことが重視されています。
業務委託先が、雇用という選択肢を放棄して、積極的に業務委託という選択をしたという事情は、他の事業分野においても、重視されるでしょう。

プログラマー、SEの就業場所が指定されている場合、場所的拘束性が高いため、就業場所を指定する必要性や、賃金額、現場での監督状況などを慎重に検討する必要があるといえます。

③ 労働者派遣との関係

なお、他社の従業員であるプログラマーやSEを自社内で作業させるというケースも多く見られますが、その際に、自社と他社の従業員との間に指揮監督関係が存在した場合には、労働者派遣法に違反することになり、実際に、労働者派遣であると認定された裁判例もあります(東京高判平29.3.31高裁刑集70巻1号10頁(派遣されたSEによる営業秘密漏洩について、不正競争防止法違反に問われた事件))。
このようなケースでは、「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(昭和61年労働省告示第37号、最終改正平成24年厚生労働省告示第518号)が参考になります。

(6)風俗関連事業

COVID-19(新型コロナウイルス感染症)による休業の関係で、雇用調整助成金が風俗関連事業者を対象外としていたことに批判が浴びせられ、特例措置として、風俗関連事業者も支給対象に追加されたことが記憶に新しいです。
しかし、ホストクラブやキャバクラ、高級クラブといった接待飲食営業や性風俗関連特殊営業で勤務するキャストについては、業務委託という形式で勤務させていることが多いことと思われます。
では、このようなキャストは、労働者に当たってしまうのでしょうか。

① 接待飲食営業

接待飲食営業の分野では、労働者性を否定する裁判例と(ホスト:東京地判平28.3.25判タ1431号202頁、ホステス:東京地判平27.11.5判時2300号121頁)、労働者性を肯定する裁判例があります(ホスト:東京地判平27.7.14労働判例ジャーナル44頁28号、ホステス:東京地判平7.11.7労判689号61頁、大阪地判平17.8.26労判903頁83号、東京簡判平20.7.8裁判所WEBサイト参照、東京地判平22.3.9労判1010号65頁)。
また、このような業界では、キャストが客の飲食費を保証するということがあり、この保証契約の有効性も労働者性と合わせて争われることがあります。

労働者性が否定された東京地裁平成28年3月25日判決では、1日の最低報酬額が設けられていたこと、他のホストのヘルプに入り、ヘルプの手当を受け取ることができたこと、出勤時間が決まっていたことなど、労働者性を肯定する事情も存在しました。
しかし、最低報酬額は3000円と低額であり、基本的には報酬は売上比例とされていたこと、出勤時間よりも客の都合が優先され、柔軟に変更が可能であったこと、ヘルプの手当は4名までしかもらえず、5名以上ヘルプが入った場合には、指名ホストから手当が払われていたことなどを理由に、労働者性が否定されています。

また、同じく労働者性が否定された東京地裁平成27年11月5日判決では、他のホステスの働き方と異なり、出勤は自由で、自身がこれまで獲得してきた顧客からの売上比例でしか報酬が出ず、仮に時給換算すると、時給2万円超と高額であったという事例です。

他方で、労働者性が肯定された東京地裁平成27年7月14日判決では、指示された接客を断ったことがなかったことや、業務の中にヘルプ業務が含まれていたこと、タイムカードにより出退勤時刻を管理し、遅刻には罰金制度があったことなどを理由に労働者性が肯定されています。
判決では事実として認定されていませんが、日当として7000円が支払われていた事案でした。
なお、同事例では、ホストクラブで多く採用されるホストに売掛金を負担させる保証制度について無効であると判断しています。

同じく労働者性が肯定された大阪地裁の判決は、口座制(係制)が採用されている高級クラブの事案でした。
本判決では、週3日の出席義務や同伴義務があったことから業務の諾否の自由があったとは認められないとされています。
月一の点呼の際に、顧客情報の提供や交換があったことをもって、指揮監督がなされていたとしています。
また、報酬についても、日給と歩合があわさっていたものの、3万円の日給が報酬の主体となっているとして、労務対償性を認めています。

労働者性の肯定された東京地裁の平成22年3月9日判決も、係制の高級クラブの事案です。
本件も、労働者性が肯定されていますが、売掛金保証契約を有効と判断したこと、欠勤時の罰金については、懲戒処分として扱い月額報酬10%の範囲までは有効であると判断したことが注目されます。

接待飲食営業の分野では、勤務場所が固定されており、衣装代を除き、高額な器具の負担もないため、一般的な労働者の範囲の固定給が設けられている場合や、勤務時間の拘束が強い場合には、労働者性が認められやすいといえるでしょう。

② 性風俗関連特殊営業

また、性風俗関連特殊営業に関して、労働者性を否定する裁判例(東京地判平28.1.26LLI/DBLO7130335)があります。
この事例は、店舗型性風俗特殊営業のケースですが、決められたシフトに遅刻をしても罰金がないことや、固定給が存在せず、完全な歩合制度となっていることに特徴があります。

まとめ

以上に見てきた通り、労働者性の判断基準の適用は、諾否の自由、業務遂行上の指揮監督、拘束性を中心的な考慮事情としながらも、特定の事業分野では、これらの事項が重視されないなどの特徴がありました。
また、条件交渉や業務委託先の希望などといった契約締結に至る経緯など、労働基準法研究会報告で言及されていない点についても重視されることが分かるかと思います。

雇用によらず業務委託によって労働力を確保する場合においては、類似する業種の運用も参考にしながら、契約の内容は当然として、契約締結前の事情から、契約締結後の実際の運用に至るまで、幅広く留意する必要があるといえるでしょう。

自社の業務委託契約が、雇用契約になってしまうのではないかと少しでも不安に感じた場合には、労働分野に詳しい弁護士に相談されることをお勧めします。

※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

ベリーベスト 法律事務所弁護士編集部
ベリーべスト法律事務所に所属し、企業法務分野に注力している弁護士です。ベリーベスト法律事務所は、弁護士、税理士、弁理士、司法書士、社会保険労務士、中国弁護士(律師)、それぞれの専門分野を活かし、クオリティーの高いリーガルサービスの提供を全国に提供している専門家の集団。中国、ミャンマーをはじめとする海外拠点、世界各国の有力な専門家とのネットワークを生かしてボーダレスに問題解決を行うことができることも特徴のひとつ。依頼者様の抱える問題に応じて編成した専門家チームが、「お客様の最高のパートナーでありたい。」という理念を胸に、所員一丸となってひたむきにお客様の問題解決に取り組んでいる。
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