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在宅勤務の労働時間管理を成功させる3つのカギを解説
在宅勤務の労働時間管理の方法をご存知ですか?
新型コロナウイルスで、突然始めざるを得なかった在宅勤務。労働時間をどう管理するか、よく考えていなかった。
管理者の目が行き届かないまま、家事・育児で、業務効率の低下が懸念される。
一方で、際限のない長時間労働に陥る可能性等も指摘されている。
どこから手をつけて、的確な管理をしていけばよいのか。課題が多くある。
うろたえている人事担当者のあなたのために、弁護士が、厚生労働省のガイドラインと実務の視点も踏まえて、すっきりと整理します。
なお、在宅勤務は、テレワークの一つの形態であり、これ以外にも、モバイルワークやサテライトオフィス勤務等の形態があります。
しかし、労働時間管理が、特に問題になるのは在宅勤務です。
新型コロナウィス関連で、在宅勤務が急増したこともあり、本稿では、在宅勤務の労働時間管理に的を絞って、ご説明します。
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1、在宅勤務での労働時間管理が必要な理由
(1)会社(使用者)には、労働時間適正把握義務がある
会社は、労働者の労働時間を、適正に把握する義務を有しています(労働安全衛生法第66条の8の3)。
割増賃金の計算のために必要というだけでなく、労働者の健康や安全を守るためです。
従って、「管理監督者」や「裁量労働制」の適用労働者も含めて、労働時間の把握が義務化されています(例外は、「高度プロフェッショナル制度」の対象者のみ)。
厚生労働省の「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」(以下「ガイドライン」)で明記されているように、在宅勤務等のテレワークでも、当然、労働基準法をはじめとする労働基準関係法令が適用されます。
労働安全衛生法第66条の8の3
事業者は、第六十六条の八第一項又は前条第一項の規定による面接指導を実施するため、厚生労働省令で定める方法により、労働者(次条第一項に規定する者(筆者注:高度プロフェッショナル制度該当者)を除く。)の労働時間の状況を把握しなければならない。
(2)会社には安全配慮義務がある
しかも、会社は、労働者に対する安全配慮義務を有しています(労働契約法第5条)。
快適な職場環境を提供し、安全と健康を確保できるように配慮する必要があります。
在宅勤務で、会社から離れた場所での業務ですから、物理的な時間制限が難しくなります。
出社していれば、ビルの鍵が閉まる時間、終電の時間等、環境による一定の制限が出てくるものですが、在宅勤務では、これがないのです。
これは、労働者の長時間労働を生じさせかねないことです。
労働契約法第5条(労働者の安全への配慮)
使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
テレワークは、「働き方改革実行計画」のメニューの一つですが、「働き方改革実行計画」の中でも、テレワークにおける労働時間管理の重要性が明確に記載されています(実行計画本文「5.柔軟な働き方がしやすい環境整備」柱書)。
「テレワークは、時間や空間の制約にとらわれることなく働くことができるため、子育て、介護と仕事の両立の手段となり、多様な人材の能力発揮が可能となる。(中略)
我が国の場合、テレワークの利用者(中略)は、いまだ極めて少なく、その普及を図っていくことは重要である。
他方、これらの普及が長時間労働を招いては本末転倒である。
労働時間管理をどうしていくかも整理する必要がある。ガイドラインの制定など実効性のある政策手段を講じて、普及を加速させていく。」
(3)適正な賃金を支払うため
そもそも労働契約とは、労働者が、労働力を提供し、会社が、それに対して賃金を払う、という契約です。
適正な賃金を支払うためには、会社としては、どれだけの時間の労働力を提供してもらったのかを把握するのは、当たり前のことです。
2、在宅勤務の種類と労働時間の管理
在宅勤務については、通常のオフィス勤務と同様に、通常の労働時間制度はもちろん、法定労働時間を柔軟化した様々な制度(フレックスタイム制等)も適用することが可能です。
各ケースにおいて、ルールを明確にし、就業規則等で定めておく必要があります。
(1)通常の労働時間制度における労働時間管理上の注意点
1日8時間、週40時間という法定労働時間を適用し、始業・終業時刻等もオフィス勤務と同じにするやり方です。
在宅勤務における労働時間管理上、特に注意すべき点は、いわゆる「中抜け時間」や「始業・終業時間の柔軟な取り扱い」についてでしょう。
家事・育児介護等のために、労働者が、業務時間中でも、一定の時間、業務から離れることがあります。
また、始業・終業時刻をプライベートな事情で変更したい、ということもあるでしょう。
このような時間帯について、
- 報告の方法
- 賃金発生の有無
等について、きちんとルール化しておくことが大切です。
(2)法定労働時間を柔軟化した場合における労働時間管理上の注意点
通常の労働時間制度ではなく、様々な柔軟な制度があります。整理すると、次の通りです。
【法定労働時間柔軟化の制度の比較】
大分類 |
内容 |
制度名称 |
法定労働時間の枠の特則 |
法定労働時間「1日8時間・週40時間」を、一定期間の枠内で柔軟化した制度です。 期間内の法定労働時間の「合計」は変わりません。これを超えた実労働時間分の時間外手当は支払われます。 |
フレックスタイム制(個々人が始業・終業時刻を自ら決定できる。) |
変形労働時間制(事業場ごとの法定労働時間を一定の期間の枠内で変形させる。) |
||
法定労働時間算定の特則 |
実労働時間にかかわらず、一定時間働いたものとみなします。時間外手当もみなし時間に基づいて支払われます。 |
裁量労働制(専門業務型・ 企画業務型) |
事業場外労働みなし労働時間制(外回り営業等) |
これらの制度で勤務されている労働者を管理する場合、一定の「自由」があることから、
- 必要時間数の労働をしているか
- 働き過ぎはないか
のチェックシステムを、特に整える必要があるでしょう。
また、早朝や深夜に労働することを認めるかどうかも、取り決めが必要です。
一般的には、深夜に及ぶ場合、時間外労働となっているケースが多いと思いますが、時間外労働になっていなくても、深夜労働は、深夜手当を出さなければならないからです(労働基準法第37条第4項)。
労働基準法第37条第4項
使用者が、午後10時から午前5時まで(厚生労働大臣が必要であると認める場合においては、その定める地域又は期間については午後11時から午前6時まで)の間において労働させた場合においては、その時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の2割5分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
3、在宅勤務で、特に配慮すべきこと
中抜け時間や始業・終業時刻の柔軟化等のほか、労働時間管理に関して、注意すべき点を取り上げます。
(1)休憩時間
休憩時間は、原則として、一斉に付与することとされています(労働基準法第34条)。
しかし、在宅勤務であれば、労働者のそれぞれの事情で、休憩を取るのが現実的でしょう。
労使協定により、一斉付与を適用除外にできます。
労働者の個々の事情を考慮して、柔軟に対応すれば良いと思います。
(2)時間外・休日・深夜労働の労働時間
実際の労働時間が法定労働時間を超える場合には、36協定を締結し、割増賃金を支払う必要があります。
オフィス勤務でも、在宅勤務でも、変わりありません。
実務の立場では、時間外・休日・深夜労働等は、正確に申告することを、まず徹底しましょう。
そもそも、在宅勤務では、様々な勤怠管理アプリ等で、労働時間が把握できるはずです。
実態の正確な把握は、人事労務管理の基本です。
4、在宅勤務の時間管理の方法とツール等
在宅勤務の時間管理については、様々なアプリやツール等が用意されています。
これを積極的に活用しましょう。
(1)労働時間管理アプリ・ツールの種類
①勤怠管理
始業・終業時刻の報告、記録の方法です。パソコンと連動した勤怠管理ツールが様々用意されています。
②プレゼンス管理
労働者の在席状況や業務状況をリアルタイムで把握するツールです。
勤怠管理システムと一体になっているものもあります。
管理者にとっては、部下の業務が見える化されますし、部下も、在席状況が自動的に報告されることになります。
③業務管理
テレワーク実施者の業務遂行状況を的確に把握するツールです。
これも、勤怠管理やプレゼンス管理と一体化されている等、様々なパターンがあります。
(2)ツールなどの検索資料
日本テレワーク協会の次の資料で、様々なツールを検索できます。
こちらは、中堅・中小企業向けにおすすめツールが紹介されています。
勤怠、プレゼンス管理については、7~8頁に、簡潔にまとめられています。
5、長時間労働を抑制する方法
テレワークは、適切に運営すれば、業務が効率化されて、時間外労働の削減につながることが期待されています。
しかし、一方では、労働者が、会社と離れた場所で勤務をするため、管理者の目が行き届かず、長時間労働を招くおそれもあります。
長時間労働の抑制策として、次のような方法が考えられます。
(1)メール送付の抑制
役職者等から、時間外、休日又は深夜におけるメールを送付することを制限することです。
(2)システムへのアクセス制限
外部のパソコン等から、深夜・休日にアクセスできないよう設定することです。
(3)時間外・休日・深夜業の原則禁止や許可制
時間外・休日・深夜労働を原則禁止とすること、又は管理者等による許可制とすることです。
(4)労働者への注意喚起
長時間労働が生じるおそれのある労働者や、休日・深夜労働が生じた労働者に、労働時間の記録や、労務管理システムを活用して、注意喚起を行うことです。
(参考)
情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン(平成30年).pdf
6、育児・介護中等の労働者への考え方
在宅勤務の本来のメリットは、働き方改革実行計画に記載の通りです。
「時間や空間の制約にとらわれることなく働くことができるため、子育て、介護と仕事の両立の手段となり、多様な人材の能力発揮が可能となる。」
自宅での仕事であれば、育児・介護以外にも、食事の準備、買い物、洗濯、掃除等、家事による中抜けも当然の前提となります。
ある企業では、「ファミリーケア制度」として、希望者に対し、1〜2時間/日について、無申告で、家事に費やすことができるとする制度を設けています。
労働者の個々の状況に応じて、的確なルールを作って、運営すると良いでしょう。
なお、労働基準法、その他の労働法制が適用される以上、例えば、育児中であれば、次のような制度も、該当する労働者が希望すれば、適用されます。
これらと、中抜け、その他の制度とをどのように適合させて活用していくかは、会社と労働者でしっかり話し合って、決めていくべきでしょう。
(1)3歳未満のお子さんを育てる労働者
1.短時間勤務:所定労働時間を原則として1日6時間(正確には、5時間45分~6時間)に制限できます。
有期契約の労働者でも、利用できます。
2.所定時間外労働の制限:所定時間外労働(残業)を制限できます。
ただし、事業の正常な運営に支障のある場合を除きます。
(2)小学校就学までのお子さんを育てる労働者
1.時間外労働の制限:時間外労働を1か月について24時間、1年について150時間以内に制限できます。
ただし、事業の正常な運営に支障のある場合を除きます。
2.深夜業の制限:深夜(午後10時から午前5時)に労働しないことができます。
ただし、事業の正常な運営に支障のある場合を除きます。
3.看護休暇:小学校就学前の子どもが1人の場合は1年度に5日まで、2人以上の場合は10日まで、子どものための看護休暇を1日又は半日単位(所定労働時間の2分の1)で取ることができます。
(参考)
厚生労働省「両立支援のひろば」>「働く方々へのお役立ち情報」
→「妊娠・出産」Q1赤ちゃんができたら?(妊娠がわかった場合))
育児のため、所定労働時間の短縮措置(短時間勤務制度)を利用したい場合
7、在宅勤務制度を成功させる3つの鍵
最後に、在宅勤務制度を成功させる鍵・心構えをいくつか挙げます。
(1)労働者への信頼
一番の鍵は、会社・管理者から労働者に対する信頼です。
さぼっているのではないか等として、細かな業務内容をチェックしていると、お互いの不信感が募るだけです。
報告・連絡・相談のルールをちゃんと取り決めておけば良いのです。
例えば、毎日、定期的に話し合う時間を設けるとか、困りごとを管理者や同僚も含めて検討するミーティングを設ける等です。お互いを信頼し合い、支えあうことが重要です。
(2)それぞれの業務の明確化・成果測定の明確化
誰が、どの仕事を、いつまでに達成するか、明確になっているでしょうか。
必要な準備が何か、はっきりしているしょうか。
さらに、業務の進捗に合わせて、どのタイミングで中間的なチェックをするか、といった業務の進捗管理が行われているでしょうか。
このようなことが明確になっていれば、同じオフィスで顔を合わせていなくても、離れた場所でも、支障なく仕事ができます。
これは、適切な人事評価にもつながります。例えば、長時間労働しているとか、脇目もふらず仕事しているから仕事熱心だ、そんな程度のことで、評価していなかったでしょうか。
これからは、業務の成果をどのようにして評価するかを明確にすることが重要です。
そして、業務進捗の過程で、スケジュールの遅延とか想定外の事態が起こったりすれば、管理者のマネジメントのもと、チーム全員で助け合えばよいのです。
(3)長時間労働の元凶は粗雑な成果主義
「成果主義」という言葉には、様々な誤解がつきまとっています。
テレワーク導入を機に、「時間ではなく、成果で評価すべきだ。」といった議論も見受けられます。
しかし、時間(労働時間)は、労働投入量というインプットです。
そして、成果は、アウトプットです。
少ないインプットで、大きなアウトプットをあげるのがマネジメントです。
労働時間管理の本質は、インプットを適切に測定することです。
「成果」というアウトプットだけを重視していると、労働投入量(労働時間)がコントロールされず、ヤミ残業、過重労働、長時間労働につながりかねません。
予想外に労働時間の投入が多く、成果が上がらないのであれば、業務分担を見直したり、業務プロセスを見直すことが必要であり、それがマネージャーの仕事なのです。
そのベースにあるのが、適切な労働時間管理です。
次のような報道がされています。新型コロナによる急な在宅勤務で、労働時間管理という重要なポイントが、ないがしろにされているようです。
(参考記事)朝日新聞6月24日朝刊
テレワーク残業「申告せず」65% 「認められず」56% 連合調査
8、在宅勤務導入における会社の制度作りは弁護士へ相談を
以上は、在宅勤務についての勘所をお話したものです。
イメージは掴んでいただけたと思いますが、実際に在宅勤務を導入するには、労働法制に詳しい弁護士のアドバイスが必須です。
まとめ
在宅勤務は、新しい働き方・新しい生き方を可能にするものです。
新型コロナ騒動の3密対策で、やむなく導入したとしても、その中で、様々な可能性に気が付いた方も多いと思います。
労使で話し合って、会社の新しい未来、労働者の新しい仕事の仕方、生活のあり方を検討されてみてはいかがでしょうか。
災い転じて福となす。
この記事がそのためにお役に立てれば幸いです。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています