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企業が外国人を雇用する上での法的留意点

2021年9月15日
企業が外国人を雇用する上での法的留意点

1.今後減少していく労働力人口~外国人材活用の必要性~

労働力の確保に関する話題は、毎年ニュースになっています。
定年の引き上げによる高齢者の雇用維持や、女性の社会進出の促進も、国家による労働政策という観点で言えば、労働力の確保が目的です。
そして、そのような政策の結果として、少なくとも2020年代前半までは、労働力人口の増加が続くとも予測されていました。
しかし、直近の総務省による労働力調査によれば、既に労働力人口の減少も確認されています。

https://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/nen/ft/pdf/index1.pdf

このように、日本では、今後更に、人材の確保が難しくなっていきます。
その主たる要因である日本人の少子化も、容易には改善されないでしょう。
そのため、日本が外国人材を必要とし、その受け入れを国として促進する(というよりも、促進せざるを得ない)傾向は、コロナ禍のような問題が生じても、大きく変わらないと予測できます。

したがって、事業主が外国人材を活用する必要性も高まり続けます。
今回は、事業を営む方々が、外国人を雇用するに際して問題となりうる要素について、概観してみたいと思います。

なお、労働関係法規は日本人・外国人等しく適用されるため、日本人の雇用時に考慮すべき点が外国人雇用時にも重要であるのは、当然の前提です。

2.不法就労~雇用主も罪に問われうる~

外国人を雇用する上で、第一に注意しなければならないのは、その人が適法に日本に在留しているかです。
外国人は、それぞれ在留資格に基づき日本に滞在しており、その資格で認められた範囲でしか、仕事もしてはいけません。
このように、在留資格に反して仕事をすることを不法就労と言います。
そして、この不法就労は、働いてしまった外国人だけでなく、働かせた人も処罰する規定が、出入国管理及び難民認定法(いわゆる「入管法」)73条の2に存在しています。

第七十三条の二 次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

一 事業活動に関し、外国人に不法就労活動をさせた者

二 外国人に不法就労活動をさせるためにこれを自己の支配下に置いた者

三 業として、外国人に不法就労活動をさせる行為又は前号の行為に関しあつせんした者

2 前項各号に該当する行為をした者は、次の各号のいずれかに該当することを知らないことを理由として、同項の規定による処罰を免れることができない。ただし、過失のないときは、この限りでない。

一 当該外国人の活動が当該外国人の在留資格に応じた活動に属しない収入を伴う事業を運営する活動又は報酬を受ける活動であること。

二 当該外国人が当該外国人の活動を行うに当たり第十九条第二項の許可を受けていないこと。

三 当該外国人が第七十条第一項第一号、第二号、第三号から第三号の三まで、第五号、第七号から第七号の三まで又は第八号の二から第八号の四までに掲げる者であること。

法定刑が、「3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金」とあり、決して軽い処罰ではないです。
また、2項においては、「知らないことを理由として~処罰を免れることができない」「ただし、過失のないときは、この限りでない」としており、本来は自ら認識して行ったことでなければ処罰できないという刑事法の原則を変えて、無過失でなければ処罰を受けてしまいます。

このようなトラブルを避けるためにも、まずは在留カードで、雇用する外国人の在留資格を確認することが重要です。
なお、外国人の雇入れ時に、その氏名や在留資格を確認してハローワークに届け出ることは、労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律28条によってほとんどの事業者に課された義務でもあり、この義務不履行にも刑罰が存在するため(同法40条1項2号)、そのような確認がされているのが通常です。しかし、たとえば労働者を日雇いにするような事業などにおいては、確認を怠ってしまう事例もあるようです。

外国人の在留資格を確認したとしても、注意は必要です。
なぜなら、前記のように、資格で認められた仕事以外をしても違反になるからです。
たとえば、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格を有する外国人は多いですが、単にその母国語を話すというだけでは、その在留資格に適合した仕事とは言えなかったりします。
このように、厳密な該当性については、法的評価を含むため、弁護士に確認をとる方が、リスク回避に資するでしょう。

なお、仮に不法在留の労働者を雇用してしまった場合でも、労働者として労働法規による保護を受ける点に変わりありません。
雇用主側が前記のようなリスクを負うだけなので、そのような事態は避けるべきです。

3.契約書の作成及び締結をする上の留意点

 

契約書の作成及び締結をする上の留意点
Close-up of silver pen on contract.

(1)実質を伴った契約書を作成することの重要性

2.でも言及したように、そもそも外国人の日本における在留資格は、当人の仕事の内容と密接していることが多いです。
そのため、どのような仕事をしているかを示すため、在留資格認定証明書を交付申請し、あるいは在留期間の更新を申請する時に、出入国管理庁に雇用契約書を提出するのが通常になります。
この際、通常は十分な書面を作成していないような事業においては、在留資格取得のための、実態とは異なる形式的な「紙」を作成してしまう事例もあるようです。
しかし、そのような契約書は、雇用関係の実情を反映していないと、後で効力が否定されるリスクがあります(裁判例でも、このような判断をしたものが存在します。)。
また、そうでなくとも、これから述べるように、契約時に適切に対応しておくことで、後々の問題発生時に不利益の発生を防止できる点もあるため、雇用契約書を実態に即した形で作成することを、強く推奨します。

なお、外国人に限らず労働者に対しては、労働基準法15条1項により、労働基準法施行規則5条1項に規定された事項について、労働者に明示しなければならないとされています。
その中でも特に、1号から4号までに掲げる事項(昇給に関する事項を除く)として、契約の期間や賃金の決め方・支払方法、就業の場所及び従事すべき業務に関する事項などは、原則として、その明示は書面の交付によるともされています(同規則3項、4項)。
このように法令順守の観点からも、契約書の作成は本来必須とも言えるため、どうせ作成するならばより実質的な意味があるものを目指すべきと考えます。

(2)紛争になった時の裁判所とルール決め

外国人との法律問題においては、常にどこの裁判所で、どこの法律で結論を出すかという問題が生じます。
どこの裁判所でという問題を「国際裁判管轄」、どこの法律でという問題を「準拠法」と呼びます。
これらについて契約に定めておくことで、紛争時の予測ができるようになります。
一方で、雇用に関する場合、労働者保護のために一部、双方の合意に委ねない内容も設けており、契約書に定めるだけでは、将来のリスク予想として足りていない場合もあります。
以下で、もう少し詳しく見てみましょう。

① 国際裁判管轄

国際裁判管轄に関しては、民事訴訟法3条の7第6項に、労働関係民事紛争における特例が定めてあります。

第三条の七

1 当事者は、合意により、いずれの国の裁判所に訴えを提起することができるかについて定めることができる。

2~5 (略)

6 将来において生ずる個別労働関係民事紛争を対象とする第一項の合意は、次に掲げる場合に限り、その効力を有する。

一 労働契約の終了の時にされた合意であって、その時における労務の提供の地がある国の裁判所に訴えを提起することができる旨を定めたもの(その国の裁判所にのみ訴えを提起することができる旨の合意については、次号に掲げる場合を除き、その国以外の国の裁判所にも訴えを提起することを妨げない旨の合意とみなす。)であるとき。

二 労働者が当該合意に基づき合意された国の裁判所に訴えを提起したとき、又は事業主が日本若しくは外国の裁判所に訴えを提起した場合において、労働者が当該合意を援用したとき。

この規定を整理すると、労働者が意思に反した場所での裁判を強いられないためのルールということになります。
事前に約束していた場合でも、労働者が望み、あるいは、応じていなければ認められず(6項2号)、また、最後に働いていた場所での裁判を受けたいのが労働者の合理的意思と考えられるので、やめる時にそれに反した合意をしていてもそれに従わないことができます(同項1号)。

このように、労働者の意思が最終的に重視されるのですが、とはいえ事前に契約書合意をしておかないと、雇用主側が望む国の裁判所を、国際裁判管轄の対象にすることすらできなくなってしまうため、事前に合意しておいた上で、合意の内容によってはその通りにいかない可能性も、留意しておく必要があるでしょう。

②準拠法

準拠法に関しては、まず双方の合意があれば法の適用に関する通則法7条により、その合意した国の法律が適用されます。
したがって、ここでのアドバイスとしては、合意しておくべきということになります。
ただし、同法12条に、労働契約に関する特例が定められています。

第十二条 労働契約の成立及び効力について第七条又は第九条の規定による選択又は変更により適用すべき法が当該労働契約に最も密接な関係がある地の法以外の法である場合であっても、労働者が当該労働契約に最も密接な関係がある地の法中の特定の強行規定を適用すべき旨の意思を使用者に対し表示したときは、当該労働契約の成立及び効力に関しその強行規定の定める事項については、その強行規定をも適用する。

2 前項の規定の適用に当たっては、当該労働契約において労務を提供すべき地の法(その労務を提供すべき地を特定することができない場合にあっては、当該労働者を雇い入れた事業所の所在地の法。次項において同じ。)を当該労働契約に最も密接な関係がある地の法と推定する。

この規定を整理すると、準拠法について合意をしていても、最後に働いていた地における「強行法規」を適用したいと労働者が言えば、その法律は適用されるということになります。
「強行法規」については、国際私法の解釈にもとづく評価が伴うため弁護士への相談をすべきですが、労働関連法規は強行法規性を有するものが多いので、注意が必要です。

このように、国際裁判管轄と同様、あらかじめ契約書で定めておく方が良いのは間違いないですが、合意の内容によってその通りにいかない可能性も、留意しておく必要があります。

③小括

以上を整理すると、日本の裁判所や日本法を管轄・準拠法としたい場合は、あまり問題にはなりにくいです。
一方で、外国に本拠を置きながら日本でも事業を行っているような場合に、その外国の裁判所や法律を使いたいという場合、雇用契約書に明記していたとしても、前記②で述べたような修正ルールがあることについて、注意が必要です。

(3)あらかじめ定めておくべき条件

一般的に、職種や地位を特定して雇用することにより、能力不足や成績不良による解雇が有効に認められやすい傾向が、裁判例からも見てとれます。
労働者が雇用時に想定したパフォーマンスを発揮できなかった場合に、どこまで対処できるかは一概に言えませんが、少なくとも事前に雇用主側が想定し、労働者に求める条件を契約に入れ込んでおくことが有益なのは間違いありません。

日本で働く外国人の場合、日本語力の程度は、仕事上のパフォーマンスにも大きく影響します。
そのため、一定の客観的指標に基づく日本語力を契約の前提条件としておくことは有益です。
日本語能力試験(JLTP)はN1からN5までのレベル別の認定を行っており、用いやすいでしょう。

なお、想定した能力を有していなかった場合にも、外国人だと業務内容の変更が容易でない場合があります。
なぜなら、前述したように、外国人の業務内容は在留資格と密接に関連しているからです。
雇用主側が不法就労をさせてしまうリスクを負わないためにも、契約書上の業務内容については、後で変更できないものと意識して定めるべきでしょう。
なお、資格外への配置転換を拒否したことを理由とした解雇有効事例なども、裁判例としては存在していますが、事案特有の事情が考慮されているなど、かなり専門的な評価を伴っているため、そのようなケースに直面している場合は、弁護士と相談する方が安全です。

当初より、通常の在留資格分野ほど専門性を伴わない業務分野への従事を期待する場合は、後述する特定技能枠の利用も検討すべきです。

(4)契約を締結する場面で注意すべき点

以上のような様々な内容を、契約書として定めておくのは当然望ましいです。
一方で、ただ法律文書化していただけでは、母国語でない言語なので誤解があったとして後々に紛争化するリスクがあり、実際に錯誤や公序良俗違反による無効を裁判で主張されてもいます。
どれだけコストをかけられるかという悩ましい問題もあるかもしれませんが、条項の内容確定やその内容についての理解の部分でも、日本人以上に丁寧さが求められることには、留意しておくべきでしょう。

4.特定技能の活用

特定技能の外国人を雇用できるのは、出入国管理及び難民認定法別表第一の二の表の特定技能の項の下欄に規定する産業上の分野等を定める省令に列挙された、14分野の事業主になります。
具体的には、以下の通りです。

一 介護分野

二 ビルクリーニング分野

三 素形材産業分野

四 産業機械製造業分野

五 電気・電子情報関連産業分野

六 建設分野

七 造船・舶用工業分野

八 自動車整備分野

九 航空分野

十 宿泊分野

十一 農業分野

十二 漁業分野

十三 飲食料品製造業分野

十四 外食業分野

なお、特定技能には1号・2号という区別がありますが、2号分野を雇用できるのは建設分野と造船・船用工業分野に限られ、技能試験によって「熟した技能」の証明が必要など条件も多く、特定技能資格で日本に在留する外国人の大半は、特定技能1号資格になります。

このような特定技能の資格により雇用する場合、業務分野において前述した「技術・人文知識・国際業務」資格のような制約がなくなり、事業主側はより柔軟に人的資源を活用することができるようになり、メリットも大きいです。
一方で、新たに拡大された在留資格であることから、通常とは異なる規定も存在しています。

たとえば、特定技能1号だと、在留期間は5年を超えられないとされています。
そのため長期的には、人材の流動性を高めて新たな労働力を確保し続ける必要なども生じます。
また、外国人をそのような不安定な地位に置くことから、特定技能雇用契約及び一号特定技能外国人支援計画の基準等を定める省令において、雇用契約において具体的に遵守すべき基準を設けており、意識すべき法令が多くなります。
たとえば、労働時間や報酬における差別を禁止する規定や、一時帰国を希望する者には休暇をとらせることなどの規定があります。
省令に適合する雇用契約書は、弁護士に相談して作成する方が無難でしょう。

なお、特定技能においてはより具体的な基準が省令にありますが、通常の外国人を雇用する場合にも、労働基準法3条より、国籍や社会的身分を理由とした労働条件の差別的取り扱いは禁止されており、特定技能ほど省令における具体的な記載がなくとも、禁止されていると解されている事項は存在するため、注意が必要です。

5.それでも外国人材の活用は必要である

これまで述べてきたところからすると、外国人を雇用する上で意識すべき点は多岐にわたります。
しかし、冒頭でも述べたように、事業を行っていく上で外国人材を活用することが避けられない社会になっており、しかもその傾向が強まっていくのも事実です。

法的リスクを回避しつつ、労働力の確保を適切に行っていく上でも、弁護士の活用を検討いただければ幸いです。

※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

弁護士杉山 大介
幼少期に約8年間ベルギーで過ごす。慶應義塾大学では学問としての法学にも惹かれ、論文『集合動産譲渡担保と詐害行為取消のリエゾン』執筆、法律学研究に掲載。傍らで、パリ政治学院にてEU政治、オックスフォード大学にてシェイクスピア演劇なども学ぶ。東京大学法科大学院進学後は、オーソドックスな法律の傍ら、日欧米の競争法や、欧米式litigationについても学ぶ。特にプレゼンテーションの技法も多分に含んだ、陪審員などを意識した法廷技術には強い感銘を受け、日本においてその要素を強く含んでいる刑事裁判を一度は専門に選び、弁護士としては刑事専門の事務所でキャリアをスタート。ベリーベスト法律事務所に移籍後の現在は、刑事に限らず民事でも法廷に立つ案件を積極的に手掛け、外国語対応を要する案件にも対応している。慶應義塾大学を200単位近く取得して卒業しているなど、元より雑食な気質をしており、社会科学・ビジネス的な関心も広く、今でも上場企業の適時開示資料などのチェックを日課にしている。
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