ベリーベスト法律事務所がお届けする企業法務に関する法律情報メディア

お問い合わせ

【公式】リーガルモールビズ|ベリーベスト法律事務所がお届けする企業法務メディア人事労務起業家になろう~はじめての雇用における労働法上のポイント~
月額たった3,980円〜 顧問契約!
ベリーベスト法律事務所の弁護士・税理士等からのサポートが受けられます。
企業法務のご相談も受付中。お気軽にお問合わせください。
電話受付時間:平日9:30〜21:00・土日祝9:30〜18:00

起業家になろう~はじめての雇用における労働法上のポイント~

2021年9月28日
起業家になろう~はじめての雇用における労働法上のポイント~

「ミドリムシでロケットを飛ばす」

私が昔、東京大学でミドリムシのクッキーを購入したころには、もうユーグレナ社が述べていたと記憶しています。今年、2021年、ミドリムシ燃料でジェット機が飛びました。後10年もすれば、当初の計画通り、本当にロケットも飛ばしていそうです。

ユーグレナ社には、革新的な技術がありました。しかし、起業は決して特別な技術を持った人だけのものではありません。大金を持っている人だけのものでもありません。100万円くらい用意すれば、開始できる事業は存在します。近年では、小規模M&Aといった、既存の事業を引き継ぐ手段も増えています。事業を始めようと思う人たちが、事業を始める機会は、皆さんが思っているより多いのです。

今回は、そのような自ら事業に携わりたい人を対象に、初めて人を雇う時に意識すべき法的視点を解説します。特に、労働法制を意識した適切な人事労務体制を築けているかは、上場審査においても重要な審査要素になっています。事業の当面のゴールとしてIPOを目指す人は当然、そうでなくとも思わぬ法的リスクによってせっかくの事業に支障が生じないようにするために、人を雇う時に意識すべき法的視点をチェックしておくことは有益でしょう。

1.試用期間の活用と限界

試用期間の活用と限界

(1)不安の多い新しいメンバー

事業を起こした人が、初めて人を雇う場面をイメージしてみます。

事業主は、最初、全て一人で、エネルギッシュに自身の事業を推進してきたかもしれません。あるいは、家族や共同経営者といった、信頼関係が強く、事業にも共に責任を負うような立場の人たちと仕事をしてきたかもしれません。しかしあるタイミングで、事業の拡大のために、指示して働いてもらう従業員を新たに雇う必要が生じてきます。もっとも、新しい事業のノウハウや技術もあるため、後々まで働いてくれる従業員を選びたいです。

そこで、採用する人間の資質を見極めるために試用期間を設けることが考えられます。実際に試用期間を設けている企業も多いようです。ただ、この試用期間というものについて、法律上の理解と、一般的な認識には齟齬があるところも見受けられます。

(2)労働法上の試用期間の位置づけ~実は簡単に拒否できない本採用~

試用期間を設けた労働契約は、労働法上、解雇権留保付労働契約であると言われています。そして、解雇権が留保されていたとしても、労働契約法16条による解雇規制、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、…無効とする。」というルールが適用されることに、変わりはありません。もちろん、解雇権留保付である以上、一般論として解雇権が留保されていない場合よりも解雇が認められやすいのは確かです。しかし、原則として解雇規制が適用されるという時点で、「試用期間」という日本語から受ける印象とは異なっています。実際、裁判例を見ても、採用時に申告されたスキルが全く備わっていなかったなどの事例では、さすがに本採用拒否が認められましたが、能力が期待していたほど高くなかった程度では、本採用拒否を認めていません。そのため、「試用期間」は、一般に皆さまが考えるほど、お試し感が高くないことに注意が必要です。

(3)有期契約は解決策となるか?

試用期間満了での解雇が有効と認められる基準が、思ったより高いことから、企業側でも一工夫を加え、期間満了で一旦は労働契約が終了する有期契約(以下「有期契約」といいます。)を活用する例も見られます。有期契約の活用を推奨する実務家もいるようです。

しかし、この点についても、私は安易に有期契約を用いてしまうと、思わぬリスクを負ってしまうと考えます。なぜなら、契約の性質が解雇権留保付雇用である試用期間のある期間の定めのない労働契約(以下「無期契約」といいます。)か、期間満了で終了する有期契約であるかは、あくまでその合意の実質から判断されるからです。契約書に有期契約として記載していたとしても、その通りに認められるとは限りません。リーディングケースとなる神戸弘陵学園事件(最判平成2年6月5日民集44巻4号668頁)は、以下のように述べて、有期契約であることを否定しました。

「雇用契約に期間を設けた場合において、その設けた趣旨・目的が労働者の適性を評価・判断するためのものであるときは、右期間の満了により右雇用契約が当然に終了する旨の明確な合意が当事者間に成立しているなどの特段の事情が認められる場合を除き、右期間は契約の存続期間ではなく、試用期間であると解するのが相当」

この判決からすると、あくまでその人を「お試し採用」し、良ければそのまま働いてもらおうと考えているなら、それは試用期間のある無期契約であり、有期契約ではないということになります。

有期契約であることが認められたロイタージャパン事件判決(東京地判平成11年1月29日労判760号54頁)も、詳しく見てみると、同時に採用された中で原告のみ雇用通知書に期間を明記していた、同社において契約社員の正社員採用は極めて例外的であったなど、企業側の想定として、当初より既定の期間で契約を終了することになっていたから、有期契約だと認められています。

このような先例の状況からすると、限られたリソースの中で、今後も働いて欲しいと一旦考えた人について、様子見をする期間を設けたい場合、その契約は論理的必然として試用期間のある無期契約になってしまうと考えられます。たとえば、新事業の関係で一時的に特殊な能力の人材が必要であるとか、新プロジェクト限定で一時的に人員を増やす必要があるなどの事業プランの際には、有期契約を積極的に活用すべきです。しかし、あくまで試用期間を設けたい場合に、有期契約によってその実効性が高まるかのように用いるのは、有期契約の有効性が争われた場合に法律上有効とは認められない、つまり、無期契約と認められてしまい、当初想定していた期間で契約を終了させられないリスクが非常に高いと認識しておくべきでしょう。

(4)業務委託契約は解決策となるか?

期間満了による契約終了が認められやすい契約形態として、労働法の適用がなくなる業務委託契約を活用する例もあり、やはり推奨する実務家もいるようです。私も、こちらの方が有期契約よりは用いやすいと考えます。ただし、こちらも合意の実質から判断される点は変わらず、契約書に業務委託と記せばそれで足りるわけではない点は、同様です。実務上参照されることも多い労働基準法研究会報告(昭和60年12月19日)によれば、仕事を拒否できる、具体的な指揮命令を受けない、勤務場所や勤務時間が管理されていない、労働基準法(以下「労基法」といいます。)11条に記載のあるような対価を得て働いているわけではない、副業への制約がないといった要素があると、業務委託契約だと認められやすくなります。したがって、このような各要素を意識すれば、業務委託契約にすることは可能なのですが、一方、それは同時に十分なコントロールを及ぼせない人間を内側に入れるということにもなります。試しに数日ずつ出勤してもらうといった形でお試し期間を作ることは可能ですが、メリットばかりではないことは留意しておくべきでしょう。

(5)お試し雇用も、よく準備して

以上の通り法律上、試用期間に関する制度設計は、様々なハードルがあります。試用期間満了による解雇後、当該解雇の有効性が争われ、当該解雇が無効と判断された場合、その人が働いていなかった一定期間の給料も払わなければならなくなるため、経済的にも企業にとって大きなリスクとなりえます。また、そのような紛議の可能性自体が、財務状況に疑いを持たせるものとしてIPO審査での障害になりもします。有期契約や業務委託契約といった形を用いる場合は、それが後からの法的評価にも対応できるよう良く準備して設計すべきです。そもそも簡単には後戻りできないという意識をもって採用するのも、考え方としては大事かもしれません。

2.多様な報酬体系

正式に雇うにしても、報酬の払い方にはいくつかヴァリエーションがあります。ここでは、ベンチャー企業で採用されることの多い報酬制度について、注意点を挙げておこうと思います。

(1)年俸制~年俸制で残業代や賞与のコストを減らせるのか~

ベンチャー企業では、報酬として年額を定め、それを月分割にして支払う企業も多いようです。これは、時間外手当の関係でメリットがあると考えられているのも、一つの理由のようです。ただこの点についても、法律上の本来のルールについては、色々誤解があるようです。

まず法定割増賃金、いわゆる残業代は年俸制であろうが発生します。これは大前提です。

良く用いられるのが「みなし残業代」です。「みなし残業代」を年俸に含めることで、一定額の割増賃金を既に支払ったことにすると共に、割増賃金を算定する際の基礎となる金額を、そのまま全額通常の給与として支払うよりも少なくすることができます。ただし、割増賃金に相当する額にあたる部分は明確に区別できるようにしておくと共に、法定割増賃金額以上を支払うようにしておくのは前提条件です(平成12年3月8日基収第78号)。

他に実務上見られるものとして、年俸額の一部を賞与として扱うという方法があります。これは、月払いの金額を減らして後払い効果を生み出せるというメリットがあり、活用する意味はあるのですが、法定割増賃金との関係では、あくまで算定の基礎賃金に含まれるという点に注意が必要です。基礎賃金から除外される賞与は、一か月を超える期間ごとに支払われる賃金であると同時に(労働基準法施行規則21条5号)、「その支給額が予め確定されてゐないもの」でなくてはならないと解されているところ(昭和22年9月13日発基第17号)、年俸制に賞与を組み込んだ場合はこの条件を満たさなくなるからです。

(2)ストックオプション

現在は利益を生み出しておらず十分な報酬も払えない、しかし、将来的に事業が成功すれば大きな利益を生み出す可能性がある。そのようなベンチャーの性質と、将来一定額で株式を取得できる権利を付与し、企業が成長したことによって上昇した企業価値の分を利益として取得できるストックオプションは、非常に相性が良いです。報酬を得る労働者側も、企業に貢献するインセンティブを持てます。

ストックオプションを用いる場合は、会社法や金融商品取引法に加え、適格税制と呼ばれる税法上のメリットも享受できるようにする必要があるため、各分野に通じた専門家の知恵を借りましょう。

3.労働契約を結ぶ際の注意点

契約は、双方の自由な合意で決められるのが原則ですが、労基法で定めた基準を下回る条件での労働契約は全て無効となります(労基法13条)。たとえば、労働契約の中には労働者に一定のペナルティを科すことで監督しようとする例も見られるのですが、仕事の不履行に違約金を設けたり、損害賠償額を予定したりすることは、労基法16条で禁止されているため、無効となってしまいます。

事後の紛争にも備えるため、雇用契約書は作成すべきですが、少なくとも主要な労働条件を原則として書面で通知することは、法律上の義務です(労基法15条1項、労働基準法施行規則(以下「労基則」といいます。)5条1項、4項)。違反した場合には、刑事罰も定められています(労基法120条1号)。この点については、義務だからというだけでなく、労働者の注意喚起のためにも積極的に行うべきと考えます。契約書、あるいは後述する就業規則において規定するルールは、会社のトラブルを予防するために設定するためのものでもあるはずです。違反による責任追及や制裁よりも、遵守の徹底の方が経営的にも望ましいのは当然ですから、入口でしっかり労働者に周知しておきましょう。

4.就業規則~会社のルールブックを作る~

労働者が増えてきたら、就業規則の作成を考えることになります。就業規則に定めたルールは、個別に契約を結ばずとも、就業規則制定後入社してくる労働者に適用されます。法律上、作成が義務となるのは、常時10人以上を雇うようになってからですが(労基法89条)、会社の機関設計がある程度できてきたら、義務でなくとも作成を検討して良いと思います。作成に際しては、労働組合、あるいは労働者の過半数を代表する者の意見を「聴いて」行うことが求められています(労基法90条)。過半数代表者は、管理監督者ではないこと、投票や挙手で選ぶことなど、選び方のルールが定められているため(労基則6条の2)、手続が適正であるかを法律家に相談して決めると無難でしょう。また、「聴いて」と強調したように、労使の納得の上で進める方が望ましいですが、最終的には企業側の判断で決定も可能であるため、自身の機関設計に自信を持って臨む姿勢も大事です。作成した就業規則は、過半数代表者の意見書を添付して、労働基準監督署に届け出ます(労基法89条・90条、労基則49条)。

会社のルールを、以後の労働者に適用できるようになるのが就業規則作成のメリットですが、定めたルールは当然、雇う側にも適用されます。就業規則には一定の労働条件を定めることが義務付けられており(労基法89条)、これを下回る契約は、個別で結んでも無効になります(労働契約法(以下「労契法」といいます。)12条)。また、就業規則の変更自体は、作成後も作成時と同じ手続で可能なのですが(労契法11条、労基法89条、90条)、既存の労働者に変更後の就業規則の効力を及ぼすには、原則として当該労働者との合意を必要とし(労契法8条、9条)、合意なしに変更後の就業規則の効力を及ぼす場合には法律上の要件を満たす必要が生じます(労契法10条)。そのため、専門家と協議して、就業規則を作成するときにどのような条項が必要かを事業上のニーズとあわせて良く検討し、後から変更する必要性を少なくしておく方が望ましいと言えます。

5.労働環境を整える

労働環境整理

(1)労働者の管理~法定時間外労働を把握する~

残業、正確に言えば朝早くから働くことも含んだ法定時間外労働の扱いについては、ある程度ご存じかもしれませんが、基本を確認しておきます。まず、法定時間外に働かせるには、労働契約か就業規則で、それを命じる根拠が必要です。その上で、36協定を結ぶことになります。36協定を結ぶ際に過半数代表者を選出する手法については、前記就業規則の際と同じです。

法定時間外労働には、割増賃金の支払が必要です。その計算、あるいは単純に労働者の健康管理のためにも、いくつかルールが存在します。元々、労働者を雇用する企業にとって、労働者名簿や賃金台帳の作成は義務でしたが(労基法107条~109条)、加えて労働時間を管理把握する義務も規定されるに至りました(労働安全衛生法66条の8の3)。タイムカードによる記録やPC使用時間の記録など具体的な方法や、3年間の記録保存を求めるなど条文にも明示がありますが(労働安全衛生規則52条の7の3)、細部については厚労省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」を参照していくことになるでしょう。特に、例外的に自己申告制を用いる場合については、ガイドラインに記載された実態調査の実施や、労働時間を超えて事業場内にいる時間の理由の把握、適正な申告を阻害する要因の排除といった点の遵守は必須でしょう。このような労働時間管理体制も、機関設計として重要となるため、起業の初期段階から法令を意識し取り掛かっておくと有益です。

(2)保険関係~加入が義務となる労災保険・雇用保険・社会保険~

労働者を雇ったら、各種保険に加入することが義務となっています。

まず、労災保険は、パートであろうがアルバイトであろうが、人を雇うなら加入し、保険料も負担しなければなりません。

さらに、雇用保険も原則として全ての労働者について加入することを想定しています。適用除外も存在しますが、パート・アルバイトといった社会における呼称ではなく、雇用保険法6条が明示する条件から、加入の要否を確認すべきです。

健康保険と厚生年金保険は、あわせて社会保険と呼ばれています。健康保険は、健康保険法3条1項にて除外されていない限り、原則全ての労働者が適用対象です。厚生年金保険は、同法6条の適用事業所に該当するなら、同法12条で適用除外になるなど例外にあたらない限り、原則全ての労働者が適用対象です。適用除外については、パート・アルバイトといった人が該当しうるのですが、その呼称ではなく、条文上の条件に該当するかを確認すべきです。

6.全てはIPOにつながる

これまで、様々な法律上の留意点に触れてきました。ここで、ベンチャー企業がIPOすることの多いマザーズ市場の上場基準を見てみましょう。なお、東証の市場再編が見込まれているところ、マザーズ市場は、「グロース市場」という区分に割り当てられることになるとされています。現状マザーズ含めたどの市場でも、上場審査において下記要素は審査対象であるため、グロース市場への上場時にも、この点を意識すべきことには変わりはないでしょう。

3「企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性」

(5)法令等を遵守するための有効な体制が適切に整備、運用され、また最近において重大な法令違反を犯しておらず、今後においても重大な法令違反となる恐れのある行為を行っていないこと。

日本取引所『2020〜2021 新規上場ガイドブック(マザーズ編)より)

という項目があります。これに基づき、上場審査における人事労務審査では、社員の人員が揃っているか、労務管理体制が整っているか、未払い残業代が存在しないか(財務にも大きくかかわるため重要です)、安全衛生に関する基準が満たされているか、労働保険・社会保険に加入できているかなどが審査されます。上場段階ともなると規模も変わってきますが、本稿で述べたはじめての雇用において意識すべき点は、後々にまで変わらず重視される要素なのです。事業が軌道に乗ってから審査に向けた体制整備を整えようとするより、最初から将来を見据えて進んでいく方が、思わぬ足止めを食うことも避けられます。

事業を立ち上げるにあたって、事業に専念するためにも、このようなバックオフィス的な部分については、専門家を利用することが望ましいです。

杉山大介
弁護士杉山 大介
幼少期に約8年間ベルギーで過ごす。慶應義塾大学では学問としての法学にも惹かれ、論文『集合動産譲渡担保と詐害行為取消のリエゾン』執筆、法律学研究に掲載。傍らで、パリ政治学院にてEU政治、オックスフォード大学にてシェイクスピア演劇なども学ぶ。東京大学法科大学院進学後は、オーソドックスな法律の傍ら、日欧米の競争法や、欧米式litigationについても学ぶ。特にプレゼンテーションの技法も多分に含んだ、陪審員などを意識した法廷技術には強い感銘を受け、日本においてその要素を強く含んでいる刑事裁判を一度は専門に選び、弁護士としては刑事専門の事務所でキャリアをスタート。ベリーベスト法律事務所に移籍後の現在は、刑事に限らず民事でも法廷に立つ案件を積極的に手掛け、外国語対応を要する案件にも対応している。慶應義塾大学を200単位近く取得して卒業しているなど、元より雑食な気質をしており、社会科学・ビジネス的な関心も広く、今でも上場企業の適時開示資料などのチェックを日課にしている。
↑ページの先頭へ
0120-538-016
0120-538-016