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退職代行サービスに対する対応について

2019年5月10日

現在は、空前の人出不足といわれ、必要な人材の確保に苦労されておられる方も少なくないと思われます。

実際、厚生労働省「一般職業紹介状況(平成30年12月分及び平成30年分)」をみると、有効求人倍率の2018年平均が1.61倍と、1973年以来45年ぶり高水準を記録しています。

他方、個別労働紛争の相談件数は、2009年度以降、「解雇」や「労働条件の引き下げ」が減少する一方、「いじめ・嫌がらせ」や「自己都合退職」が増加し、2017年度以降は、「自己都合退職」に関する相談件数が、かつて最も多かった「解雇」を上回っています(厚生労働省「平成29年度個別労働紛争解決制度の施行状況」)。

このような社会情勢を背景として、足許、「退職代行サービス」が急速に広がりを見せつつあります。
近時の報道を見る限り、業種や企業規模の大小を問わず、ある日突然「退職代行サービス」から連絡を受けてもおかしくない状況となっています。

そこで、本稿では、企業側(使用者側)の立場から、「退職代行サービス」に対する対応策について検討していきたいと思います。

1.「退職代行サービス」の意義

退職代行サービスの意義

「退職代行サービス」とは、一般に、退職希望がありながら、何らかの理由により自ら退職の申し出ができない従業員から依頼を受けて、その使用者に対する退職の連絡を上記従業員に代わって行うものを指します。

具体的には、退職代行の依頼を受けた場合、まずは、主として電話や書面等の方法で、従業員の退職意思を使用者に伝達するのが一般的です。
その際、退職日までの年次有給休暇の取得申請などを併せて行う例も多くみられています。

「退職代行サービス」を提供する主体は、これまでは一般事業法人が中心でしたが、最近では弁護士や弁護士法人が取り扱う例も散見されるところです。

2.「退職代行サービス」への初期対応

(1)権限の確認

①最初に確認すべき事項

「退職代行サービス」から連絡を受けた場合、まずは、「退職代行サービス」を名乗る相手方(以下「相手方」)が弁護士であるか否かを確認することが適切です。

なぜなら、弁護士又は弁護士法人(以下「弁護士等」)でない者は、報酬を得る目的で法律事件に関して代理や和解等の法律事務を取り扱うことを業とすることができないという法律上の厳格な制約があります(弁護士法72条本文)。

そのため、相手方への対応方針を検討する上で、相手方が弁護士等であるか否かは、交渉の開始に先立って確認すべき事項といえるのです。

②具体的な対応策

具体的な対応策としては、相手方から連絡を受けた場合には、話し合いを始めるのに先立ち、依頼者とされる従業員の署名押印のある委任状の提出を求めることが適切です。

委任状の記載を検討することによって、依頼の有無をはじめ、相手方の権限や受任の範囲等を確認することができます。

その際、相手方が弁護士等を称している場合には、日本弁護士連合会ホームページ内の弁護士情報・法人情報検索システムを用いて、その真実性等を確認することが勧められます。

③確認要求に応じない場合の対応

仮に、相手方が委任状を提出しない場合には、その者が依頼者と称する従業員との関係性が確認できないため対応できないことを告げ、対応を拒絶することが考えられます。

もっとも、とるべき対応は、具体的な事情に即して変化します。そのため、このような場合には、できる限り早期に弁護士に相談し、貴社のご事情等に即して適切に対応することをお勧めします。

(2)弁護士等でない場合の基本方針

①弁護士法上の制限を踏まえた対応

委任状による確認の結果、弁護士等でない者であれば単なる使者(メッセンジャー)に過ぎず、その権限は、単に従業員によって決定された意思を使用者に伝達することに限定されており、交渉することなどはできないことになります。

なお、弁護士法72条に違反した場合には、2年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処せられる可能性があります(同法77条3号)。

②実務上のポイント

相手方が弁護士等でない場合には、その者が単なる使者(メッセンジャー)に過ぎないことを念頭に置いて、従業員本人の意思を十分確認しながら、慎重に対応していくことが適切です。

具体的には、必要な都度、従業員の署名押印ある意思表示の内容を記載した書面等(例えば退職届など)を要求するなどして、従業員の意思を事後的に検証できる証跡を残す工夫をすることが考えられます。

(3)弁護士等である場合の基本方針

①弁護士等の対応

委任状による確認の結果、弁護士等であることが判明した場合には、従業員に代わって交渉する権限を有する代理人として取り扱うことになります。

②実務上のポイント

相手方が弁護士等であっても、基本的には是々非々の対応を実施します。

ただし、弁護士等と交渉するのに際しては、合意した内容はもちろん、交渉過程についても、交渉が決裂した場合などに、従業員側にとって有利な証拠として使われる可能性があることに十分留意して慎重な対応を行う必要があります。

そのため、弁護士等による「退職代行サービス」から連絡を受けた場合には、今後の対応策について弁護士に相談することが推奨されます。

3.「退職代行サービス」を通じた退職申し出への対応

退職代行サービスを通じた退職申し出への対応

(1)退職の申し出を受けた際の基本方針

「退職代行サービス」を通じて、退職の申し出を受けた場合、まずは退職の意思表示をした従業員の雇用形態(労働契約)を確認します。

その上で、雇用形態(労働契約)に応じて、次のように対応を行うのが適切と考えられます。

(2)無期契約の場合

①基本的事項

まず、期間の定めのない従業員(いわゆる正社員)の退職に関する基本事項について概観します。

(ア)期限の定めのない労働契約の場合

民法の定めている原則的なルールによれば、期間の定めのない従業員は、2週間の予告期間をおけば、「いつでも」労働契約を終了させることができる建前です(民法627条1項)。

なお、就業規則等の定めで予告期間を延長して運用している例をしばしば見受けますが、その有効性については争いのあるところですので注意を要します。

(イ)期間によって報酬が定められた場合

もっとも、期間の定めのない従業員であっても、完全月給制(給与の月額が一定額とされ、欠勤控除等による調整もない報酬制度)など、期間によって報酬が定められている場合には、退職の意思表示は、次期(完全月額制であれば翌月)以降についてしかすることができません。
しかも、その場合には、退職の意思表示が前記期間の後半になされるときは、退職日は、最短で、次々期(完全月額制であれば翌々月)以降となります(民法627条2項)。

なお、6か月以上の期間によって報酬を定めた場合には、退職の意思表示は、期間満了の3か月前までに行う必要があります(民法627条3項)。

②対応方針

期間の定めのない従業員は、法律上「いつでも」解約申入れが可能であることから、退職の意思表示が確認された場合には、基本的に、予告期間満了後の退職を認めることになります。

(ア)退職申し出の承認

いったん「退職代行サービス」を通じて申し出た退職の意思表示について、後になって当該従業員が撤回を求めることも考えられます。

このような場合、仮に復職したとしても従前の労使間信頼関係の回復は困難となるとみられることに加えて、後任者が決定していたときなどには人事上も少なからぬ問題を生じることになります。

この点、一般に、従業員から会社に対してなされる退職の申し出は、労働契約の合意解約の申込みと解され、使用者の承諾(承認)の意思表示が到達するまでの間は撤回できると考えられています(福岡高判昭和53年8月9日労判318号61頁など)。

そこで、退職の申し出の撤回を巡るトラブルを予防するため、「退職代行サービス」を通じて退職の申し出を受けたときには、速やかに、本人(又は弁護士等)に対して、上記申し出を承諾(承認)する旨の書面又はメールにより通知することが適切です。

(イ)年次有給休暇の取り扱い - 時季変更権

予告期間中は出勤して労務を提供すべき義務が残るものの、現実的には、「退職代行サービス」を通じて退職の申し出をしている従業員が出勤してくるとは考え難いところです。

そうした中で、退職の申し出に併せて、年次有給休暇(以下「年休」)の取得申請が出される例がしばしば見られます。

その際、使用者としては、業務の引継ぎなどの事情もあることから、「事業の正常な運営を妨げる場合」(労働基準法39条5項但書)に当たるとして時季変更権を行使し、相手方の申し出を拒絶することの可否が問題となります。

この点、行政解釈として、「年次有給休暇の権利が労働基準法に基づくものである限り、当該労働者の解雇予定日をこえての時季変更は行えない」((昭和49年1月11日基収第5554号)と解されています。

確かに、使用者によって退職日が決定される解雇とは事情が異なる面もあるものの、年休は本来「労働者の請求する時季に」(労働基準法39条5項本文)付与すべきとの原則に照らせば、やはり時季変更権の行使は困難とみられます。

なお、この場合であっても、使用者が従業員に対して協議を求めること自体は妨げられないと考えられるため、年休の買上げ制度に関する規程がある場合は、業務の引継ぎを要求した上で、時季の変更とともに、退職時における未消化の年休を買い上げる旨の反対提案を行うことも考えられます。

(ウ)業務の引継ぎの要求

突如として、「退職代行サービス」を通じての退職の申し出がなされたような場合、上記(イ)のとおり有給休暇を取得することもあり、必要な業務の引継ぎが未了であることが多いと思われます。

本来であれば、予告期間中に出社した上で、しかるべく業務引継ぎを行うことを求めたいところですが、やはり「退職代行サービス」を通じて退職の申し出をしている従業員がこれに応じる可能性は低いとみられます。

そこで、退職に際する業務の引継ぎについては、その履行を求める根拠を確保すべく、予め就業規則などの社内規定において義務付けておくことが推奨されます。

その上で、直接従業員に対して(弁護士等が相手方である場合には、相手方を通じて)、引継ぎ書面の作成・交付など所要の引継ぎ業務を命じることが適切と考えられます。

社内規定に基づく引継ぎの業務命令を受けたにもかかわらず、正当な理由なく応じない場合には、当該従業員に対する損害賠償請求を検討することになります。

(エ)即時解約の申し出への対処

「退職代行サービス」が利用される場面では、「今日にでも辞めさせてほしい。」などと、即時に労働契約を解約したい旨の申し出も少なからず行われています。

これは、早期に退職の目的を実現するメリットに加えて、年次有給休暇の取得などの手続を取ることもないまま出社しない場合には懲戒処分を受けるおそれがあるため、これを回避する趣旨もあります。

まず、相手方が弁護士等でない場合には、法律上、弁護士等でない者とは交渉することができない旨告げて、拒絶することが妥当であると考えられます。
この場合、従業員が年次有給休暇取得などの適正な手続を取ることなく漫然と欠勤するときには、使用者としては、上記従業員について、懲戒処分を検討することになります。
なお、懲戒処分の検討は、「退職代行サービス」からの連絡に先立ち、漫然欠勤することを就業規則上の懲戒事由として規定しておくことが前提となる点には注意が必要です。

他方、相手方が弁護士等である場合には、法律上の理由の有無や、前記申し出を拒絶した場合における展望などを考慮した上で、個別に対応していくことになります。

(3)有期契約の場合

①基本的事項

期間の定めのある従業員(いわゆる契約社員やパート等)についても、まずは退職に関する基本事項について概観したいと思います。

期間の定めのある従業員については、その期間の経過によってのみ労働契約が終了するのが原則であり、期間途中の退職は「やむを得ない事由」がある場合に限定されています。
他方、「やむを得ない事由」があれば、期間の定めのある従業員は、予告期間を設けることなく、直ちに退職することができる建前です(民法628条前段)。

②対応方針

こうした中で、「退職代行サービス」が利用される場面では、ハラスメントがあったなどと主張した上で、「やむを得ない事由」による労働契約の即時解約の申し出がなされることも想定されます。

このような場合、相手方の申し出を安易に認めれば、事後にハラスメントなどを理由とした損害賠償請求訴訟の提起などの可能性も生じるため、慎重な対応が求められるところです。

そのため、「やむを得ない事由」による労働契約の即時解約の申し出を受けた場合には、場当たり的な対応をすることなく、速やかに弁護士に相談することが強く推奨されます。

なお、雇入れ後間もない時期であれば、労働条件通知書記載の労働条件と異なっていることを理由として、労働契約の即時解除の申し出が行われる可能性もありますが(労働基準法15条2項)、この場合も、労働条件明示義務違反には罰則(同法120条、パート労働法31条)もあることなどから、やはり慎重な対応が必要です。

4.結語

(1)事前の備えの大切さ

本稿では、「退職代行サービス」を通じた退職申し出を受けた使用者が、一般的に直面すると考えられる問題点と基礎的な対処法について概観してきました。

突然の「退職代行サービス」を通じた退職申し出についても、平素から物心両面の準備を整えておくことによって、的確な対応が可能となります。

具体的には、本稿において、「退職代行サービス」から突然連絡を受けることを想定して、社内態勢(弁護士等あるいは弁護士等でない者に対する対処方針の決定など)や、社内規程(退職時の業務引継ぎ義務、年休買取制度、懲戒事由等の明文化など)を事前に整備しておくことの重要性についてお話ししました。

(2)「退職代行サービス」と無縁な職場環境の整備

もっとも、対策の王道は、「退職代行サービス」と無縁な職場環境を、地道に構築していくことにあるものと考えます。
そのためには、経営陣や管理職が中心となって、風通しの良い職場環境作りを心掛けることが必要です。

さらに、単なる心構えのみに止まらず、有能な従業員の獲得、繋留に向けた仕組みを不断に研究し、構築していくことが求められています。
例えば、自社の業務特性や従業員の志向に合わせて、テレワークなどの柔軟な働き方を導入するなどの工夫が必要となってくると思われます。

伊藤蔵人
弁護士伊藤 蔵人
早稲田大学法学部卒業後,平成 14 年 4 月日本銀行入行。総合職職員として, 金融機関に対する検査監督,景気動向分析,行内規程整備等を担当。平成 22 年 3 月慶應義塾大学大学院法務研究科修了後,同年 9 月司法試験合格,平成 23 年 12 月弁護士登録。弁護士登録後は,中堅・中小企業法務(法律顧問業務 から企業内外の紛争処理まで)を中核として,一般民事事件,家事事件,刑事 事件など幅広い業務を手掛ける。
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