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コロナ禍で注目が高まっている電子契約とは?その概要とメリット・デメリットを解説
「電子契約」とは、従来の「紙+押印」に代わり、電子データに電子署名やタイムスタンプを付与することで契約を締結できる契約方式を指します。
新型コロナウイルスへの感染防止対策として、テレワークや在宅勤務を実施した企業が多くあります。しかし、紙と印鑑を使う業務のために出社せざるを得ない人も少なくないことが問題となりました。そんな中で注目が高まっているのが、契約を締結する際に紙も印鑑も要らない「電子契約」です。
そこで今回は、
- 電子契約とはどのようなものか
- 電気契約のメリット・デメリットは
- 電子契約を導入するにはどうすればよいのか
などについて解説していきます。
旧来の紙と印鑑を使う業務に疑問を感じていたり、業務の負担に悩んでいる方のお役に立つことができれば幸いです。
1、電子契約の前に|書面による契約の問題点
企業活動においては、取引先や顧客との間でたくさんの契約を締結しなければなりません。
今までは契約をする際には紙の契約書を作成して、双方が署名や押印をするのが当たり前とされてきました。しかし、今回のコロナ騒動をきっかけに、このような契約方法に疑問を持つ人も増えてきました。
そこでまずは、書面による契約にどのような問題点があるのかを確認しておきましょう。
(1)業務効率が悪い
まず第一に、紙の契約書を交わすことは業務効率が悪いという問題点をあげることができます。
契約書の枚数によってはホチキスや製本テープを使った製本作業も必要になります。割印を押す手間がかかる場合もあります。契約書を作成したら、社内稟議にかけて何人もの役員の確認印が必要になることもあるでしょう。
出来上がった契約書は封筒に契約の相手方に送付し、返送してもらわなければなりません。返送されてきた契約書は社内のキャビネットなどに保管することも必要です。
このようにして契約が完了しても、後に契約内容を確認したいときや監査、税務調査の際に契約書を探し出すことに手間がかかる場合もあります。
今までは当たり前とされてきた業務でも、改めて内容を見直すと、ひとつの契約のために多くの手間がかかっていることがわかるでしょう。
(2)コストがかかる
紙の契約書を作成するには手間だけでなく、コストもかかります。
用紙代やインク代、製本にかかる費用などはひとつの契約にかかる費用は少額でも、数が多くなると金額も大きくなります。
契約内容によっては印紙代もかかります。契約の相手方に送付し、返信してもらうためには切手代もかかります。書留を利用すると郵送費の負担も重くなってしまいます。
さらに、手間がかかる分、人件費もかかりますし、契約書を保管するためのスペースの確保や鍵付きのキャビネットを備えるためにも費用がかかります。
(3)コンプライアンス上のリスクが高い
さらに、紙の契約書には管理上の問題もあります。
まず、契約書が改ざんや複製によって悪用されるおそれがあります。現在では3Dプリンターなどを使うことで印鑑の印影も肉眼で見破ることは難しい模倣品を作ることが可能になっています。
契約書の管理が不十分であれば盗難される危険もありますし、紛失することによって情報が漏れてしまうおそれもあります。
(4)テレワークに向いていない
なにより、書面による契約はテレワークに向いていません。
契約書に使用する印鑑を担当者が会社から自宅に持ち帰ればテレワークでも書面契約は不可能ではありませんが、手間やコスト、コンプライアンス上のリスクなどは余計に高まるでしょう。
会社としての契約書には通常、社印や代表者の印鑑を使用するため、それを担当者が自宅に持ち帰るのは難しい場合も多いはずです。
現に、テレワーク中でありながら、印鑑を押すためだけに出社をするという例もあるようです。
これでは、テレワークの利点を生かし切れていないと言わざるを得ません。
2、電子契約の概要
以上にご説明した書面による契約の問題点は、電子契約を導入することで解消することができます。
ここではまず、電子契約とはどのようなものなのかをご説明します。
(1)電子契約と書面による契約の違い
電子契約とは簡単に言うと、契約書を紙に印刷するのではなく、電子データのままで当事者双方が確認し、管理する契約方法のことです。
書面による契約では署名や押印が必要ですが、電子契約では電子署名やタイムスタンプを用います。
契約締結後はその電子データを社内のファイルサーバーや外部のデータセンターなどに保存するため、保管スペースは必要ありません。後に契約内容を見直す際には、必要な契約書を瞬時に検索することが可能になります。
ただ、このような電子データのみによるのでは、契約締結の事実が証明されないのではないか、また、改ざんや複製をされるおそれが高いのではないかという疑問が出てくることでしょう。
このような問題点を解消するのが、「電子署名」と「タイムスタンプ」です。
(2)電子署名とは
電子署名とは、電子データ化された契約書などの書類に付与する署名のことです。
従来から法律上、書類に作成者の署名または押印があるときは、その作成者によってその書類が作成されたものと推定されてきました。
(文書の成立)
第228条 4項 私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。
引用元:民事訴訟法
「推定する」とは、裁判で特段の立証をしなくても本人がその書類を作成したものとされることを意味します。この場合、書類が偽造等されていることを主張する人がいる場合は、その主張する側が偽造等の事実を証明しなければなりません。
日本ではこの規定があるために、長年にわたって紙と印鑑を使った契約書が重要視されてきました。
しかし、2001年に施行された電子署名法(電子署名及び認証業務に関する法律)によって、電子署名が付与された電子データにも署名または押印がなされた紙の書類と同様の推定力が与えられています。
(電磁的記録の真正な成立の推定)
第3条 電磁的記録であって情報を表すために作成されたもの(公務員が職務上作成したものを除く。)は、当該電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)が行われているときは、真正に成立したものと推定する。
引用元:電子署名及び認証業務に関する法律
ただし、単なる電子署名は改ざんされやすいのも事実です。そのため、電子署名を作成したら指定認証局で認証を受け、「電子証明書」を発行してもらうことが大切です。
電子署名と電子証明書を合わせることで、次の2点を証明することができます。
- 本人が契約書を作成したこと
- 契約書が改ざんされていないこと
(3)タイムスタンプとは
一方、タイムスタンプとは電子署名が付与された日時を証明するものです。
契約書は作成日時を証明することが重要になることもありますが、電子文書にタイムスタンプを付与することで次の2点を証明することが可能になります。
- タイムスタンプに刻印された時刻においてその電子文書が存在していたこと
- その時刻以降に当該文書が改ざんされていないこと
タイムスタンプも指定認証局によって発行されるものなので、これを付与することで電子文書の証明力を高めることができます。
3、電子契約のメリット
電子契約の概要をご説明しましたが、企業によっては慣れ親しんだ書面による契約を取りやめて電子契約を導入することに抵抗を感じるかもしれません。
しかし、電子契約には以下のように大きなメリットがあるので、多くの企業にとって導入する意義があるはずです。
(1)業務効率の改善
前記「1(1)」でご説明したように、書面による契約には多大な手間がかかります。相手方と契約書を取り交わすだけで数週間を要することも少なくないでしょう。
電子契約を導入すれば、当事者間でのメールなどでのやりとりによって契約内容を確認し、そのまま電子署名などを付与して契約を締結することができます。
また、後に契約内容を確認する必要があるときにも、電子データを検索することによってたちどころに必要な契約書を取り出すことが可能になります。
契約の締結や契約書の保管、管理において労力を大幅に削減することができます。
(2)コストの削減
また、電子契約を導入することでコストの削減にもつながります。
書面による契約と異なり、電子契約では印刷や製本が不要です。郵送料もかかりませんし、印紙代も電子帳簿保存法によって不要とされています。
契約書を保管するスペースを確保する必要もありませんし、さまざまな手間が省略されることで人件費もかからなくなります。
企業によっては、毎月数万円~数十万円のコストを削減できる場合もあることでしょう。
(3)コンプライアンスの強化
電子データは改ざんされやすいと思われるかもしれませんが、実はこのリスクは書面による契約の方が大きいともいえます。
紙で作成された契約書の場合、現在の高度な技術を用いれば容易に改ざんされてしまい、また、改ざんを見破ることも困難です。
一方、電子契約の場合は前記「2(2)」と「2(3)」でご説明した電子署名とタイムスタンプを付与することで、万が一改ざんされた場合でも誰でも簡単に見破ることが可能です。
また、保管・管理の面でも、紙の契約書のように紛失・盗難や災害による消失などのおそれがありません。
適切に保管・管理を行う限り、電子契約の方が安全でコンプライアンスの強化につながるといえます。
4、電子契約のデメリット
以上のようにビジネスに有効で便利な電子契約ですが、一方ではデメリットも存在します。
ここでは、導入前に注意しておくべき電子契約のデメリットをご説明します。
(1)導入に手間がかかる
新たに電子契約を導入する際に、さまざまな手間がかかるのは事実です。
これまで慣れ親しんできた書面による契約を取りやめて電子契約を導入するためには、まず社内におけるさまざまな業務フローを変更しなければなりません。従業員に説明し、理解を求める作業も必要です。
社内で電子契約導入の準備を整えたとしても、契約は相手方あってのものです。取引先や顧客に対しても説明して理解を求め、必要な準備を進めてもらわなければなりません。
この点、電子契約サービスを提供する業者において、サポートとして社内外への説明会の開催なども行っているようです。
自社のみで対応が難しい場合は、業者によるサポートも積極的に活用すると良いでしょう。
(2)利用できない契約もある
現在の日本において、あらゆる契約書の作成に電子契約を利用できるわけではありません。
以下の契約等については、各法令によって紙で作成した契約書が必要となっています。
- 定期借地契約(借地借家法第22条)
- 定期建物賃貸借契約(同法第38条1項)
- 投資信託契約の約款の内容等を記載した書面の交付(投資信託及び投資法人に関する法律第5条)
- 訪問販売等における書面の交付(特定商品取引法第4条等)
ただし、現在は紙の書類が必要な契約等であっても、今後は不要となる可能性もあります。現に、労働条件通知書の交付については、以前は紙の書類が必要でしたが、2019年4月以降は法改正により電子交付が可能となっています。
時が経てば経つほど、電子契約を利用できる場面が広がっていくことは間違いないでしょう。
(3)サイバー攻撃のリスクはある
電子契約の最大のデメリットとしては、サイバー攻撃によって情報が漏洩してしまうリスクがゼロとはいえないことです。
業務の効率化やコストの削減ばかりに目を奪われ、セキュリティがおろそかになってしまうと多大な損失が発生するおそれもあります。
セキュリティについては常に注意を払い、最新のシステムによって情報を守ることが重要です。
5、電子契約を導入する方法
最後に、電子契約を導入する手順を簡単にまとめておきます。
(1)社内の業務フローを整える
電子契約を導入する前に、まずは社内の業務フローを見直して変更すべき点を変更することが必要です。
その際、いきなり全ての書類のやりとりを電子化するのではなく、まずは一部の契約書類について電子契約を実践してみるのがおすすめです。重要度の低い書類から試してみて、徐々に適用範囲を広げていくようにしましょう。
また、機密性保持の観点から電子契約のアカウントの管理者としては少数の担当者を決めておいた方が良いでしょう。
(2)電子契約サービスと契約する
社内での準備が調ったら、電子契約サービスを提供する業者と契約しましょう。
現在のところ、定評がある大手の電子契約サービスとして以下のようなものがあります。
- クラウドサイン(弁護士ドットコム株式会社)
- Agree(GMOインターネット株式会社)
どちらも、導入に関するさまざまな準備についてもサポートしてもらえるようなので、困ったときは相談してみると良いでしょう。
(3)取引先や顧客の理解を求める
最後に、取引先や顧客にも電子契約の導入について説明し、理解を求めましょう。
電子契約の導入に難色を示す取引先や顧客もまだ多いかもしれませんが、お互いにとってメリットが大きいので、じっくりと理解を求めることが大切です。
電子契約サービス提供会社のサポートも活用しつつ、丁寧な対応を心がけましょう。
6、過去の契約を電子化する方法
これから締結する契約は電子化するとしても、今までの契約を電子化するにはどうすればいいのかとお考えの方も多いことでしょう。
ひとつの方法としては、新たに取引先や顧客と電子契約をして、従前の契約書を破棄することもできます。しかし、このやり方では多大な労力がかかってしまいます。
そんなときは、既に作成した契約書を電子化して保存するとよいでしょう。
(1)契約書の電子化とは
契約書の電子化とは、紙で作成された契約書を複合機などでスキャンして電子化し、データとして管理・保管することをいいます。
保存義務がある書類の電子化に関して、以前は「電子帳簿保存法」によって契約書については契約金額3万円未満のものしか電子化できないこととされていました。
また、管理責任者などが電子署名を行わなければならないという規制もありました。
しかし、電子帳簿保存法の改正によって2015年からは金額にかかわらず契約書の電子保存が認められるようになり、電子署名も不要となりました。
さらに2016年からは、スマホやデジカメで領収証や請求書などを撮影したものをデータとして保存することも認められるようになっています。
今後もオフィスにおける業務は、さまざまな面で電子化が進むと考えられます。電子化に対応していくことで、業務効率がアップすることは間違いないでしょう。
(2)契約の電子化と電子契約の違い
「契約書の電子化」は、上でご説明したとおり既に紙で作成された契約書をスキャンして電子データとして管理・保管することです。
これに対して「電子契約」は初めから紙の契約書は作成せず、電子署名やタイムスタンプを用いて電子データのみで契約を結ぶことをいいます。
形式は異なりますが、既に交わした契約もこれから交わす契約も電子データ化することができます。
まとめ
電子契約を導入しても、契約代金や納期などをめぐるトラブルは書面による契約の場合と同様に発生するでしょう。導入当初は電子契約の取り扱いになれていないぶん、契約内容の確認が不十分となり、トラブルが発生しやすいかもしれません。
だからこそ、事前に契約内容を明確にして、相手方に対して十分な説明を行うことが重要となってきます。
電子契約に関して困ったことがあれば、気軽に弁護士に相談してみましょう。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています