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強制執行とは?知っておくべき法令や規則と利用する時の5つの注意点
強制執行は、相手方に約束を守ってもらえない場合に、強制的に相手方の財産を取り上げるなどして約束を実現させる最終的な解決方法です。
しかし、強制執行は、相手方の権利を大きく制限する手続といえるので、ただ単に「期日になっても約束を守らない」というだけで利用することはできません。
また、実際に強制執行を行う場合にも、無制限に相手方の財産を取り上げることができるというわけではなく、様々な制約・規則が課されています。
このように、法律に詳しい人でなければ、手続を正しくイメージすることは難しいといえます。
そこで今回は、強制執行を申し立てるとき(申し立てられた際)に正しく対応するために知っておいてもらいたい重要なポイントについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士がまとめました。
相手方と法的なトラブルを抱えて、強制執行で回収しようと考えている人、相手方から強制執行されそうと不安に感じている人は是非参考にしてみてください。
債権回収の方法や基本を知りたい方は、以下の記事もご覧ください。
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1、強制執行とは?
強制執行とは、履行しなければならない状態にある債務(例えば、支払期限が到来した借金)が履行(借金の問題であれば返済)されていないときに、債権者(借金の問題であればお金を貸した人)の申立てにより、国の公権力がその債権の内容を実現させる手続・方法のことをいいます。
強制執行が行われる典型例は、住宅ローンやカードローンを滞納してしまった場合などの、不動産・給料の差押えですが、強制執行自体は(執行可能な)あらゆる債務が対象となります。
たとえば、公害問題を解決する目的で行ういわゆる「差止め」や、親権者への子の引き渡しや家屋からの退去を求める明渡し(これらの債務のことを「なす債務」と呼ぶことがあります)も強制執行手続の対象となります。
(1)強制執行を行える機関
上でも書いたように、強制執行を行うことができるのは、法律によって権限を認められた機関(執行裁判所・執行官)に限られます。
したがって、返済期日を過ぎても借金の返済がないというときに、債権者が自らの手で債務者の財産を取り上げることは認められていません。このことを「自力救済の禁止」といいます。
(2)強制執行の種類
強制執行は、対象となる債権や財産の種類に応じて次のように区分されます。
①債権者が有する権利の違いによる区分
強制執行は、債権者が有する権利の違いによって、(通常の)強制執行手続と担保権実行手続とに分けることができます。
担保権実行手続の典型例は、住宅ローンを長期滞納した場合の住宅ローン債権者(保証会社)による抵当不動産の競売(土地などを強制的に売り、そのお金を返済されていなかった分に充てる)です。
担保権実行手続は、申立ての際に債務名義が不要となる点では、通常の強制執行手続と違いがありますが、そのほかの基本的な流れは、いずれの場合でも同じです(※債務名義については、「2」(1)で解説しています)。
②強制執行の方法や執行対象財産による区分
強制執行については、強制執行の方法によって金銭執行と非金銭執行に区分されます。金銭執行とは、財産を差押え、換価して満足を得るという執行方法です。他方で非金銭執行とは、例えば物の引き渡しを求めたり、何かをしてもらう又はしないでもらうことを求めたりする手続きで、金銭に対する執行でないため、何かを換価したりする手続きは不要となります。
上記の金銭執行について、対象となる財産の違いによって、次のように区分できます。
- 不動産執行手続
- 債権執行手続
- 動産執行手続
(3)強制執行の種類
強制執行には、次の3つの種類があります。
- 直接強制
- 代替執行
- 代替執行
①直接強制
直接強制とは、その債務の強制的な履行を実現させる強制執行のことで、原則的な強制執行の方法といえます(民法414条1項)。
直接強制の典型例は、金銭の給付(支払い)を目的とする強制執行において、債務者の財産を差押え・換価して債権者に配当する方法です。
②代替執行
代替執行とは、裁判所の決定によって指定された者が債務者に代わって債務を履行し、それに要した費用を債務者に請求するかたちで権利を実現する強制執行の手続きです(民法414条2項・3項、民事執行法171条)。
たとえば、「壊れた家屋を修繕する債務」のような、「なす債務」は、債務者に強制的に作業をさせるというわけにはいきません。そもそも、やる気のない人に無理やりやらせたとしても、目的は達成できないでしょう。
そのため、これのような債務の強制執行については直接強制の方法ではなく、代替執行の方法が用いられることになります。
③間接強制
間接強制とは、義務の履行をしない債務者に対して、裁判所が金銭の支払いを命じるなどの不利益を課すことで、義務の履行を事実上強制する方法による強制執行のことをいいます(民事執行法172条)。
子どもとの面会交流の実現を図る場合など、「なす」債務の執行の場面で、間接強制が用いられることがあります。
なお、「なす」債務であっても、例えば「原稿を書く債務」などについては、強制したとしても債務本来の目的を実現することは難しく、間接強制には馴染みません。
2、強制執行を申し立てるための要件
通常のケースでは、「期日までに約束を守らなかった」という事実だけで、強制執行を申し立てることはできません。
裁判所に強制執行(ここでは担保権実行手続きではない、通常の強制執行を前提とします。)を行うためには、次の要件を満たしている必要があるからです。
(1)債権者が債務名義を取得していること
強制執行を申し立てる際には、「執行文の付与された債務名義」が必要となります。
債務名義とは、ある当事者間で法律上確定している権利義務関係の具体的内容を記した、公証された文書のことをいいます。
債務名義として取り扱うことのできる文書は、民事執行法22条が列挙している以下の文書に限られます。
- 確定判決
- 仮執行の宣言を付した判決
- 抗告によらなければ不服を申し立てることができない裁判
- 仮執行の宣言を付した損害賠償命令
- 仮執行の宣言を付した届出債権支払命令
- 仮執行の宣言を付した支払督促
- 訴訟費用、和解・家事事件の費用の額を定める裁判所書記官の処分など
- いわゆる執行証書(債務者が強制執行に服することを承諾した上で作成された公正証書)
- 確定した執行判決のある外国裁判所の判決
- 確定した執行決定のある仲裁判断
- 確定判決と同一の効力を有するもの(和解調書・調停調書など)
金融機関などが、返済を長期間滞納し、任意の支払いに応じてくれない債務者に対して法的措置をとるのは、強制執行を行う前提として、確定判決などの債務名義を取得するためでもあります。
なお、私人間の私的な契約書は、当事者間で合意された権利義務の内容について記された文書ではありますが、公証されたものではないので債務名義とはなりません。
そのため、契約書に記載された債務を強制的に履行してもらうためには、上記の債務名義を取得する必要があるのです。
他方で、必ずしも裁判を起こして確定判決などを得なければ債務名義を取得できないわけではありません。契約の段階で、、債務不履行があったときに強制執行に服することについての記載をした上で、公正証書にて契約書を作成することで、当該公正証書を債務名義として、強制執行をすることができます。
詳しい債務名義の取得方法については以下の記事をご覧ください。
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(2)債務名義に「執行文」が付与されていること
執行文とは、債務名義に記された権利義務が「強制執行できる状態にある」ことを公証した文書のことをいいます。
「強制執行できる状態にある」というためには、権利義務が「法律上確定」していて、その義務が「未だ履行されていない状態」にある必要があります。
債務名義に執行文を付与してもらうためには、債務名義の作成機関などに「執行文付与」の申立てを行います。
3、強制執行について注意しておくべき5つのポイント
債権者としては、自分の権利が確かに存在する以上は、強制執行をすれば確実に権利を実現できると考えたいものです。
しかし、実際の強制執行の場面では、必ずしも債権者の思いどおりにいかないという場面も少なくありません。
以下では、債権者に生じうる強制執行の限界の具体例について紹介していきます。
(1)強制執行の方法・対象は債権者が特定しなければならない
強制執行を申し立てる際には、申立人(債権者)が強制執行の方法(差押えの対象)を特定するのが原則です。
つまり、強制執行を申し立てても、裁判所がそのケースに見合った方法(や差押え財産)を選択してくれるというわけではないということです。
たとえば、対象となる債務者の財産が全く特定できていない差押えの申立てや、直接強制が許されないケースで直接強制を申し立てるような場合は、裁判所の許可を得られないでしょう。
特に、債務者の財産を特定しなければ差押えの申立てができないことは、債権者にとって大きな負担といえます。
知人間の借金などの場合には、相手方の財産(どこの銀行に口座があるか、どの会社に勤めているか)ということを知らないまま契約関係に入ることも珍しくないからです。
特に、SNSなどを通じて知り合った知人などとのお金の貸し借りは、「相手方の本名すら知らない」ということもあり得るので注意する必要があります。
相手方が特定できなければ、債務名義を取得することすらも難しくなってきます。
(2)強制執行できない4つの場合
債権者が執行文の付与された債務名義を取得していても、次のような場合には、事実上強制執行で権利実現(債権回収)することは難しい場合があります。
①動産の差押えにおいて、債権額に対して過大な財産しかない場合(超過差押えの禁止)
たとえば、債務者が10万円の返済を怠っているというような場合に、1,000万円の価値のある債務者の宝石を差し押さえるのでは、債務者に著しく酷であると言え、禁止されます。これを超過差押えの禁止といいます。
②動産の差押えを行っても手続費用すら回収できない場合(無剰余換価の禁止)
①のケースとは逆の場合にも強制執行を行うことはできません。差し押さえをする意味がないからです。
③差押えが禁止されている財産
強制執行によって金銭の回収を行うときには、①②のケースとは別に、当初から差押えが禁止されている財産があることに注意する必要があります。債務者が義務を履行していないといっても、一定の生活レベルを保てるだけの財産は手元に残してあげなければならないからです。
たとえば、給料の差押えの場合には、手取り月給額の1/4までしか差し押さえることができません。
また、一般的な家具・家電の類いも基本的には差押えの対象外となります。
④差押えに多額の費用が必要となる場合~明渡しの断行のケース
上の3つのケースとは、少し意味合いが違いますが、強制執行をするために債権者が多大な費用負担をしなければならないケースがあることにも注意する必要があります。
強制執行の費用は、債務者が負担するものですが、金銭回収を目的とする強制執行以外の場合には、その費用を取り立てる方法は用意されていませんので、債権者が立て替えて支払う必要があるからです。
特に、このような問題は、建物の明け渡しの強制執行で生じます。
建物の明け渡しの場合には、建物内に存在する債務者の財産を債務者の同意なしに処分することはできないため、それらを運搬し適切に管理するための費用が必要となるからです。
(3)再度の申立てが必要な場合もある|預金の差押えと給料の差押え違い
預金の差押えは、1回の申立てでは、1度しか行われません。
つまり、裁判所が預金を差し押さえたときの口座残高に不足があれば、債権者は権利実現のために再度強制執行の申立てを行う必要があるということです。
他方、給料の差押えは、1度の申立てで債権額を充足するまでの(継続的な)差押えが可能となります(ただし、債務者が勤務先を変えた場合には、別途強制執行の申立てをする必要が生じます)。
(4)他の債権者に便乗される可能性
金銭回収を目的とした強制執行の場合には、別の債権者に便乗されるおそれもあります
たとえば、債権者Aが債務者Bの財産を差し押さえる強制執行が行われた場合には、Bに対する債務名義を有する別の債権者であるCは、Aが申し立てた強制執行の手続に便乗することができるというわけです。
このような手続を「(第三債権者による)配当要求」といいます。
第三債権者による配当要求が申し立てられたときには、強制執行の結果は、それぞれの債権額に応じて按分配当されることになります。
したがって、自分よりも多額の債権を有する債権者が便乗してきた場合には、申立債権者の取り分がかなり減ってしまうことも考えられます。
(5)債務者に債務整理されると対抗できない
強制執行は、配当要求がなされる場合を除けば、「早い者勝ち」になるのが原則です。
権利実現のために努力をした債権者は、そうではない債権者よりも優遇されるのは合理的と考えられるからです。
しかし、債務者が債務整理を行った場合には、この考え方を適用することができなくなります。
債務者が債務整理を行えば、残っている債務を完済することが不可能となってしまうため、「債権者による早い者勝ち」を認めることは、大きなモラルハザードを引き起こす可能性が高くなります。
したがって、債務者が自己破産・個人再生(民事再生)などの債務整理手続を申し立てた場合には、すでに着手している強制執行も停止されることになるのです。
4、強制執行は必ず弁護士の助言を受けてから
以上のように、強制執行を行うことは、実際には簡単なことではありません。
最も単純な強制執行といえる金銭回収を目的とした財産の差押えでも、かなり複雑なルールがあるからです。
また、近隣住民などによる迷惑行為を差し止めようという場合や、子の引き渡しなどの「なす債務」を強制執行で実現しようという場合には、具体的な方法(代替執行か間接強制か)を正しく選択するためにも、法律上の知識が必須となります。
したがって、強制執行を申し立てたいという場合には、事前に弁護士の助言を受けておいた方が良い場合がほとんどといえるでしょう。
他方、他人から強制執行を受ける可能性があるという場合にも、早めの相談が大切です。
裁判などが起こされるまでは差押えの可能性がないからといって、不誠実な対応をしてしまえば、債権者と和解をするきっかけを失いかねません。
また、差し押さえられる財産がない場合でも債務が消滅するというわけではありません。
解決を先送りにすれば、遅延損害金が膨らんでいってしまいます。
まとめ
強制執行は、相手方に義務を履行してもらえない状況にある債権者にとって「最後の砦」のような手続であるといえます。
しかしながら実際の強制執行は、複雑で難しいものです。
裁判所が介入したとしても、1円も持っていない債務者からお金を引き出すことはできませんし、債務者に義務を遙かに超える重い負担を強要するわけにもいかないからです。
他方、債務者側も、差押えは簡単ではないからといって油断すべきではありません。
差押えを回避することで義務を消滅させることはできないからです。
債権者側、債務者側のいずれの立場であっても、「強制執行」というものを想定した場合にはできるだけ早く弁護士に相談し、最善の対応を検討すべきといえるでしょう。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています