企業法務のご相談も受付中。お気軽にお問合わせください。
テレワークでうつに?|なったときの対処とさせない備え6項目
新型コロナウイルス蔓延が続きます。
感染予防のため、出勤ではなく2社員が急なテレワークに追い込まれました。不眠、不安、食欲不振、イライラが募る、といった社員も増えています。仕事のミスも増えてきたようです。
管理職が心配して、人事部に相談に来ました。
人事部担当のあなたは、どのように対処すべきでしょう。うつにかからないための備えとして、どんなことがあるのでしょうか。
テレワークでのうつの発症メカニズムや対処策・防止策について、弁護士がわかりやすく説明します。あなたの会社の従業員の皆様が、ワークライフバランスを重視しながら健やかに長く働くために、この記事がお役立に立つことを切に願っています。
[nlink url=”https://best-legal.jp/telework-18017/”]
1、テレワークでうつになる?
(1)テレワークがもたらす様々な健康障害
テレワークが続くと、中でもフルタイムの在宅勤務が3か月以上続くと様々な健康障害が出ると言われています。心にも体にも、様々な問題が生じます。
①心の問題
心の問題には、2つの側面があります。
1つには、社会的な孤立や働きがいの低下です。 1人で自宅等で仕事をしているうちに孤立感を味わい、働きがいも低下していきます。
もう1つの側面は、環境変化によるストレスです。仕事の進め方が変わっています。上司・同僚と打合せ・意見交換し、情報を共有しながら仕事をしていたのに、自律的な仕事を強いられます。
自分の仕事ぶりをチェックしてくれる人もいないままに、休憩も十分取らずに長時間労働に陥りがちです。連日のビデオ会議、上司からの頻繁なメール・・積もり積もって大きなストレスとなっていきます。
②体の問題
体にも様々な問題が起こります。
1つは、腰痛、肩こり、眼精疲労、腱鞘炎等です。
照明や周囲の騒音等、在宅環境の問題、パソコンやデスク、椅子が体に合わない、モニター画面が見づらい等があります。
休憩時間も十分に取らず、長時間労働に陥る傾向が見られます。
例えば、座っている時間を減らす、といった簡単なことでも予防に役立ちます。
もう1つは、生活習慣病です。肥満、高血圧、高脂血症、糖尿病等です。運動不足や間食等をはじめ、摂取量の増加が原因です。運動を心がける等の工夫が必要でしょう。
(2)テレワークうつの発症メカニズム・症状の見分け方等
前述の体の問題は、原因も対処法も比較的明確だと思います。
問題は心の病です。テレワークうつの発症のプロセス等を確認しておきましょう。
①うつ病とは何か
うつ病は脳のエネルギーが欠乏した状態と説明されています。
これが憂うつな気分や意欲(食欲、睡眠欲、性欲等)の低下等の心理的症状をもたらします。身体的な自覚症状を伴うこともあります。「エネルギーの欠乏により、脳というシステム全体のトラブルが生じている状態」と考えれば良いでしょう。
(参考 厚生労働省ポータルサイト「こころの耳」より「うつ病とは」
②テレワークうつの発症メカニズム
では、テレワークうつとは、どのようなものでしょうか。
テレワークを始めた当初は、通勤のストレスが無くなった等と考えていたのに、2週間、1か月、と長引く間に、「やる気が出ない」、「気持ちが休まらない」、「眠れない」、「上司の評価が気になる。」、「同僚がどうしてるのだろうか心配だ。」等といった訴えを起こす人が増えています。
脳疲労とでもいうべき症状です。次のような原因が考えられます。
1:オンとオフの切り替えが難しい。
職場では通勤や食事等で、自然にオン・オフの切り替えができていました。
1人で自宅にいると、切り替えが難しくなってきたのです。
2:慣れない環境、変化への対応がストレス
パソコン作業、オンライン会議、次々と新しいツールを使いこなす必要があります。すぐ近くで教えてくれる人もいません。これが大きなストレスとなっています。
3:人とのコミュニケーションの煩雑さ
パソコン操作で困っても、職場なら周りの人が助けてくれました。自宅からなら、相手は忙しいのでは等と思い、ちょっとした質問をすることもためらって、これがストレスになってしまいます。
4:「現実のストレス」から「幻想のストレス」へのシフト
職場のストレスは、上司の指示とか、同僚の仕事の進捗具合等、現実に目に見えるものでした。
テレワークでは、現実が見えません。上司や同僚の姿も見えないうちに、自分勝手な幻想を作り上げてしまいます。上司の期待通りに仕事ができない、同僚より能率が落ちている等と、根拠のない幻想が起こってストレスに陥っていくのです。
5:仕事というストレッサーと、新型コロナウイルス関連ストレッサーへの連続暴露
日中は仕事のストレスに晒されます。仕事が一段落し、パソコンを閉じてテレビを見ると、新型コロナウイルスの報道に次々と晒されます。学校等の休校で、お子様も家にいれば、お子様のお世話で気が休まるときもないでしょう。夫婦揃って在宅ワークをしていれば、家事の分担をめぐって夫婦喧嘩、といったストレッサーもでてくるでしょう。様々なストレスに晒されて、脳疲労が蓄積していくのです。
2、テレワークうつを防ぐためには
テレワークうつを防ぐには、どのようにすればよいでしょうか。
(1)テレワークうつ防止は、会社の義務(安全配慮義務)
テレワークうつは、労働者本人だけの問題ではありません。
テレワークうつ防止は、会社の安全配慮義務の一環です。「本人の気合いが欠けている」、「心が弱い」、「自己責任だ」等と放置できないのです。
さらに、貴重な戦力がテレワークうつで疲弊していくことは、会社としての重大な損失です。
(2)テレワークうつの発症メカニズムや早期発見方法についての社内周知
①発症メカニズムの周知
前述1(2)の発症メカニズムについて、全従業員にわかりやすく伝えましょう。
「そういえば、自分は幻想のストレスに怯えていた」とか、「余計な遠慮でコミュニケーションをためらっていた」等とわかってもらえればしめたものです。対策が取りやすくなります。
②特徴的な症状を知っておく
うつの特徴的な症状を全従業員に周知しましょう。思い当たることがあれば、早期発見につながります。簡単な目安は次のようなことです。
- 疲れやすい
- 力が抜けない(常に緊張している)
- 寝てもすぐ起きてしまう
- 食欲がない
- メールや電話に敏感になり気持ちが休まらない
- 頭の疲れが取れず集中力が低下している
- 物事の優先順位がつけられない
③自己診断や職場内診断の方法を知っておく
厚生労働省のこころの耳ポータルサイトでは、簡単なチェック方法で、ストレスチェックができるツールが用意されています。短時間で明確な分析ができるように工夫されています。活用してみてください。
(3)テレワークうつの回避策
テレワークうつは誰にでもありうることです。社内に回避策を周知しましょう。
①オンとオフの切り替え
始業・終業の時刻、休憩時間、あるいは家事・育児・介護等の中抜け時間、といった労働時間とプライベートな時間の区分けを明確にしましょう。
周りに誰もいないことから、休みも取らずに長時間労働に陥る人がいます。残業時間を申告しない人も見受けられるようです。
もってのほかです。法令違反であり、厳しく注意すべきです。
会社として、在宅勤務等のテレワークでも労働時間管理は必要です。労働基準関係法令が適用され、会社としての労働時間把握義務も当然適用されます。
「本人が勝手に休みも取らずに長時間働いていた」という言い訳は通用しないのです。
勤怠管理、プレゼンス管理、業務管理等のアプリを導入されておれば、会社としてもオンとオフの状況は把握できるはずです。
管理者として適時・的確にモニタリングして、必要に応じて本人に注意しましょう。
②能率低下はありうる前提で考える
在宅で能率が上がる人も能率が下がる人もいます。やむを得ないことです。
能率が下がったから、その分を長時間労働でカバーする、休憩も取らずに仕事を続ける、これではますます能率が下がります。本人が気持ちの上で追い込まれ、うつになりかねないのです。作業能率を客観的に把握するためにも労働時間管理は必須です。その上で、業務の分担やスケジュール等を調整しましょう。
③答えの出ないことは考えない
いつになったら常態に復するのか、会社は大丈夫なのか、従業員が悩んでも解決しようのない問題です。こんな悩みに無駄なエネルギーを使うのはやめましょう。
④会社の仲間、家族との交流等
孤独感が人をうつに追い込みます。
毎日の定時ミーティング、業務の区切りごとの打合せ等、適宜にやりとりをして従業員を孤立させないようにしましょう。
せっかくの在宅ワークです。従業員には、家族との触れ合いを大切にするように伝えましょう。中抜け時間等、遠慮なく使ってもらうよう促しましょう。
⑤下手な励ましは逆効果
うつは、脳の活動エネルギーの低下です。疲労が蓄積しているのです。
そんなときに、頑張れ、期待している等と下手に励ますのは逆効果です。
例えば、仕事の分担やスケジュールの変更等を話し合い、皆で助け合いましょう。
⑥会社としての組織的なサポート
産業医と連携し、メンタルヘルス対策に力を入れましょう。ストレスチェックはテレワークだからこそしっかりやるべきです。
3、管理者からの働きかけをルール化
ここでは、現場管理者から部下への働きかけについて、具体的なやり方を整理しておきましょう。
(1)基本的な考え方―プロアクティブな対応
プロアクティブとは、事前の積極的な対応を指す言葉です。
うつにかかったり、かかりかけている人は、自分からは会社に相談してきません。
会社から積極的に問いかけるなどの対応、すなわちプロアクティブな対応が必要です。
大切なのは現場の管理者からの働きかけです。
(2)定期的なミーティング
管理者からの働きかけで、職場の仲間と定期的に話し合うのは、簡単で、効果が大きいものです。悩んでいるのが自分だけではないとわかれば、脳の活力も蘇るでしょう。
現場管理者任せにするのではなく、会社として基本的なルールを定める方が良いでしょう。
次のような方法が考えられます。
- WEBミーティングで、お互いの顔を見ながら打合せること。音声だけでなく、顔出しでお互いの表情を見ながら話し合いましょう。
- チーム全体の打合せのほかに、その業務に関係している人の小チームでのミーティングを行う。
- 時にはズーム飲み会等も考えてみましょう。
(3)個別の面談のルール化
とはいえ、定期的なミーティングの中では、仲間にも話しづらいこともあるでしょう。
管理者から、個別面談を試みましょう。管理者として部下のことを気にかけている姿勢を示します。
①業務遂行中に個別面談を組み入れる
例えば、1つの仕事について、着手時、中間でのチェック時、終了時、といったタイミングで本人の意見や希望を聞いてみましょう。そのときの反応で、本人が平静な状態かどうかも、把握できるでしょう。
②心身の健康状態についての個別面談
次のような進め方が考えられます。
1:頭出しの言葉
「在宅等による仕事環境の変化は心身の健康に影響を与えます。気になる点があれば何でも話してください。」
「あくまで業務の上で必要なことをお尋ねしています。プライベートの事情や家族の事情等、話したくないことは話していただかなくても結構です。」
2:具体的な質問事項
- 生活習慣(睡眠の状況、食事の状況や食欲、運動の状況)
- 体の症状(頭痛や肩こりがないか、消化器系の症状、疲れの状況)
- 困っていることや悩み(仕事や家庭・プライベート)
(4)4つのサポート(「情緒的サポート」「情報的サポート」「道具的サポート」「評価的サポート」)
部下から悩みを聞き取ったときには、管理者は次のような4つのサポートを行います。
①情緒的サポート
「お疲れ様。感染拡大を防ぐためにお互いに助け合おう」といった情緒的な言葉でサポートします。
部下が困り事を相談してきたり愚痴をこぼしたりしてきたなら、あなたを信頼している証拠です。口を差し挟まず、部下の言うことを一生懸命に聞きましょう。それだけで部下の気持ちが安定するでしょう。
②情報的サポート
問題解決に役立つ情報を部下に提供します。
「それならば、〇〇さんが詳しいよ」といったことです。
③道具的サポート・お役立ちサポート
その仕事がうまく進まないのなら自分が手伝おう、誰々さんに頼んで手伝ってもらおう、といった物理的な手助けです。
④評価的サポート
「よくやってくれた。ありがとう。」
ともかく、適切な評価を行っていることを感謝の気持ちを込めて明確に伝えます。
少し大げさなほど褒めても構わないでしょう。それで部下が脳の活力を回復してくれたなら安いものです。
(5)オンラインミーティングでの注意サイン
オンラインミーティングの際、部下がカメラを起動させずにツールを使っている場合、服装や身だしなみ、業務への姿勢が「仕事モード」になっていない可能性があります。
メンタルヘルス不調の兆候ということもあり得ます。必ずカメラを起動させて、お互いに顔を見て打ち合わせすることを進めましょう。
従業員の変化に気付いたら、WEB面談の頻度を上げ、感度を上げて観察をします。
変化が長期間継続したり、徐々に心配な状況が悪化したりしていくなら、産業医に相談し、意見をもらいましょう。
4、相談窓口の設置・産業医との連携・ストレスチェック制度の活用
テレワークうつを防ぐためには、
- 相談窓口の設置
- 産業医との連携
- ストレスチェック制度の活用
は、欠かせません。
この程度のこともしていなければ、実際に従業員がうつにかかったりしたときに、会社として直ちに安全配慮義務違反が問われる、と覚悟しておく必要があります。
ただし、前述の通り、うつの特徴は自分から進んで相談窓口に相談しない傾向があるということです。
相談窓口を設置しただけで、会社の義務を果たしたと錯覚しないようにしてください。
5、従業員がテレワークうつになってしまったら
それでも従業員がうつになってしまったら、会社としてできる限りのサポートをしましょう。
具体的には次の通りです。
(1)休養が仕事と心得よ
うつの治療は時間がかかります。しかし、早期に発見し、適切に対応すれば、決して怖い病気ではありません。
治療の概要を把握しておきましょう。うつ病の治療には、「休養」、「薬物療法」、「精神療法・カウンセリング」という大きな3つの柱があります。
①「休養」
うつ病は脳のエネルギー欠乏によるものです。まずは脳をしっかり休ませます。
②「薬物療法」
うつ病では、脳内の神経細胞の情報伝達にトラブルが生じています。脳の機能的不調を改善し、症状を軽減するために薬物療法が行われます。
これは、例えば、筋肉痛を起こしている場合、軽微な症状であれば休めば治りますが、回復をサポートするためにシップ薬等を使うのと同じことです。
③「精神療法・カウンセリング」
再発を防ぐための生活習慣上の対応を考えていくことです。
この点も、生活習慣病の再発防止のために、日常生活・食生活の改善についてカウンセリングを行うことと変わりはありません。
(2)産業医と連携をとる
うつの治療は極めて専門的なものです。産業医との連携が必須です。
本人だけの問題でなく、組織的な問題が背後にあるかもしれません。
ストレスチェック、集団分析等も参考に、産業医のアドバイスを受けてください。
(3)精神面と経済面でサポートを受ける
①精神面でのサポート
産業医に相談して、精神科や心療内科を紹介してもらいましょう。
また、厚生労働省の「こころの耳」ポータルサイトの「相談窓口案内」では、相談先がすぐにわかるように整理されています。
②経済面でのサポート
経済面でのサポートは様々あります。概要は次の通りです。
1:労働災害の認定請求
うつ病が労働災害に該当する可能性があるなら、労働基準監督署に労災の認定請求をします。療養給付が全額サポートされたり、休業給付も期間制限がない等、非常に有利な内容です。
2:健康保険の傷病手当金
精神疾患での労災認定は、結構ハードルが高いものです。認定されるのは3割程度ともいわれます。うつに罹患したならば、まずは健康保険の傷病手当金を申請しましょう。最長1年半にわたって給付が得られます。
3:その他公的な支援
医療費の助成、生活費の補償、税金が安くなる制度等、様々なサポートがあります。
6、大切なことは専門家への相談
(1)医学的な知見の活用
①テレワークうつの専門家の知見の活用
在宅勤務等のテレワークが進むにつれて、精神科・心療内科等の専門家が大変役に立つ情報を次々発信してくれています。厚生労働省の「こころの耳」も様々な情報で至れり尽くせりです。
②テレワークうつはごく普通の病気と理解すること
テレワークうつを恥ずかしがったり、隠したりしてはなりません。
専門家と相談し、周囲の協力のもと、希望を持ってゆっくりと対処していくことです。
(2)人事担当者として従業員への注意
①本人が1人で抱え込まない、管理者が自分だけで解決しようとしない
うつへの対応は大変デリケートな問題です。専門的な知見を活用して慎重に対応します。
とりわけ、管理者が気をまわしすぎて、独りよがりな解決策を提案するようなことは、やめさせなければいけません。
一例ですが、「頑張って」は禁句です。辛い思いで脳のエネルギーが枯渇している人には耐えられない言葉なのです。
②おかしいと思えばすぐ人事部に相談
会社として早期発見が遅れたり、従業員への不断のケアが欠けていたりすると取り返しのつかない事態になりかねません。
なお、労災になる可能性があるなら、会社として労災認定請求に万全の協力を惜しまないことです。決めるのは会社ではなく、労働基準監督署です。
いわんや現場の管理者が労災は難しい等と勝手に判断するような事は、絶対に許してはなりません。
まとめ
テレワークうつは十分にありうる事態です。気がつかないうちに事態が深刻化していることが多い、と覚悟しておきましょう。メンタルヘルスやストレスチェック等をしっかり行って予防、早期発見、早期治療の体制を整えておきましょう。
気が付いたら、ともかく速やかに専門家に相談することです。
うつにかかっても、大概の場合はもとの生活に無事に戻れます。
後になってその日々のことは、本人にとっても会社にとっても、単なるエピソードとして残るでしょう。
従業員の辛い経験を会社として共有しましょう。そのような辛い体験こそが、人への本当の思いやり・優しさへと繋がり、働きやすい職場風土を生んでいくでしょう。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています