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フランチャイズ契約―加盟店となるときの転ばぬ先の杖5ポイント
サラリーマン生活から足を洗い、新しい人生を歩みたい。
そう思って踏み出したフランチャイズの世界。
メディアから流れてくるニュースでは、フランチャイズ本部とのトラブルが報じられることもあり、フランチャイジーとして加盟店契約をする際に気をつけるべきことはなんなのか、気になっているのではないでしょうか。
そんなあなたのために、本記事では、
- 加盟店となるための基本的な心構え
- フランチャイズ契約書の勘所
など、加盟店になる前に知っておくべきことを弁護士がわかりやすく解説します。
ご参考になれば幸いです。
1、そもそもフランチャイズ契約とは
フランチャイズ契約とは、どのようなものでしょうか。独立開業等の他の経営形態と、どこが違うのでしょう。
以下、簡単に確認しておきましょう。
(1)フランチャイズ契約の定義
フランチャイズ契約とは、一般に次のような事業形態とされています。
- 本部が加盟者(フランチャイジー:出店後の店舗は「加盟店」)に対して、特定の商標、商号等を使用する権利を与えるとともに、加盟者の物品販売、サービス提供、その他の事業・経営について、統一的な方法で統制、指導、援助を行う
- 加盟者は、これらの対価として本部に金銭(加盟金・ロイヤルティ等)を支払う
フランチャイズ取引では、基本的にこれらの契約内容が取りまとめてパッケージ化されており、加盟するには、そのパッケージ契約を受け入れるかどうかだけ決めることになります。下の図で、まずイメージをつかんでください。
(定義の参考情報及び図解の出典:中小企業庁「フランチャイズ事業を始めるにあたって」)
(2)独自開業その他の経営形態との違い
フランチャイズ契約を理解いただくために、他の類似の経営形態との違いをご説明します。
①独自開業
独自開業では、業種・業態を決める、店舗・サービスの方向性を決める、開業に必要な資金を算出する等をすべて自分で検討して、決定する必要があります。その分、独自性のある店舗を作ることができるといえます。
一方、フランチャイズ契約の場合は、「業種・業態」、「店舗サービスの方向性」について、本部から情報がパッケージ化されて提供されます。加盟者としては、どのフランチャイズを選ぶかだけを決めれば良いことになります。開業資金の算出も、本部で参考情報を提供してくれます。
②代理店
代理店は、商品の販売等を委託契約によって受託する営業形態です。
本部が、加盟者との契約で一定の地域内の販売権や商標の使用権を与え、商品・サービスを供給するものです。
フランチャイズ契約と異なり、契約内容は、商品の販売に関する必要項目のみです。本部から代理店への指導は、継続的には行われず、販売方法等の規制も緩やかです。ロイヤルティ等は徴収しないのが一般的です。
代理店側は、同時に数社の商品・サービスを扱うことが可能になります。
③直営店(レギュラーチェーン)
本部が資本を出し、直接の指示や命令を行う形態です。本部そのもののお店です。
これに対し、フランチャイズでは、加盟者自身が資本を出し、経営についての最終的な決定権を持ちます。
④ボランタリーチェーン
ボランタリーチェーンは、一店舗では弱い独立小売店が、経営の独自性を保ちながら、仕入、販売促進活動を共同化して、規模の利益と分業の効率性を得ようとするチェーン組織です。要するに、店舗側が寄り集まってチェーンを作るものです。
2、フランチャイズ加盟店となるための基本的な心構え
あなたが、実際に加盟店として出店するなら、まず、基本的な心構えが必要です。
(1)独立した事業者
フランチャイズ契約は、加盟店と本部が独立した事業者として、対等の立場で締結するものです。独立した事業者としての自覚を持って契約する必要があります。
(2)事業者としてのリスクがある
事業が軌道に乗るまでには、一定の時間がかかります。事業がいつまでも軌道に乗らなかったらどうなるか、そんなケースも想定して検討しなければなりません。
事業が成り立たず、契約を解除しようとして、予想外の出費なり、負担が生ずることがないのか等、契約解除の条件等は必ず把握してください。
(3)フランチャイズ事業の内容を十分検討すること
フランチャイズ契約は、本部が用意した事業内容を加盟店が受け容れ、契約期間が比較的長期にわたることが通常です。
事業内容について、しっかり検討してください。契約締結前に、既存の加盟店から話を聞いてみるとか、専門家等からアドバイスを受ける事等も大切です。
(4)本部の説明を受ける際のチェックポイント
契約書のチェック等、詳細は次項でご説明しますが、本部からの説明を受けるに当たって、次のポイントもしっかり確認してください。
①経営理念のチェック
本部の経営理念に賛同できるかどうか、ご自身が消費者として利用したいと思うかどうか、といった視点でチェックしてみてください。
②立地や商圏をチェック
フランチャイズ契約上のトラブルでもっとも多いのが、本部の売上予測や経費予測の説明と現実の乖離です。主な要因は、立地環境や商圏についての評価です。
自らも、立地や商圏について検討・調査しましょう。現地を曜日や時間帯を変えて、幾度も往訪する等は当然必要です。テリトリー権の有無、内容についても確認しましょう。
③収益予測のチェック
本部から示された売上予測については、納得がいくまで説明を求めましょう。予測の基礎の来店者数、売上高、商品構成等、具体的な説明を求めます。同業他社のフランチャイズ本部の予測値と比較したり、近いエリアの既存店から話を聞いたり等、慎重な検討が必要です。
また、必要経費はどれくらいか、ご自身で現実に近い数字を事前に算出しておきましょう。自分で算出する収益予測は、あくまで保守的に見積もります。売上を最小に、必要経費は最大に見積もることです。
開業後に売上が上がらなかった場合等に経営破綻に陥らないよう、投資金額や借入金額には十分留意しましょう。
3、フランチャイズ契約書の勘所
次に、実際のフランチャイズ契約を締結する際の具体的な注意点をご説明します。
フランチャイズ契約は、本部側に圧倒的に有利、加盟店側に不利に作られていると考えた方が無難です。疑問の点は、ご自分で理解できるまで、本部の担当者にしっかり確認してください。
(1)フランチャイズ契約についての公的な規制等
①中小小売商業振興法に基づく本部の開示説明義務
フランチャイズ契約については、中小小売商業振興法に基づく情報の開示、説明が本部に義務付けられています。主な項目は次の通りです。
- 本部の概要(株主、子会社、財務状況、店舗数の推移、訴訟件数等)
- 契約内容のうち加盟店に特別な義務を課すもの等、加盟店にとって重要な事項
- テリトリー権の有無
- 競業避止義務、守秘義務の有無
- 加盟金、ロイヤルティの計算方法等、金銭に関すること
- 商品、原材料等の取引条件に関すること
- 契約期間、更新条件、契約解除等に関すること
(詳細は中小企業庁「フランチャイズ事業を始めるにあたって」)別表1参照)
②独占禁止法に基づく規制
フランチャイズ契約では、本部が加盟店に対して、実質的には非常に強い立場にあります。
不公正な取引方法が用いられた場合は、独占禁止法上問題となります。
公正取引委員会では、「フランチャイズ・ガイドライン」を公表し、どのような行為が、「ぎまん的顧客誘引(本部が加盟店募集に当たり虚偽若しくは誇大な開示を行うこと等により、競争者の顧客を不当に誘引すること)」や「優越的地位の濫用(本部が加盟店に不当に不利益を与えること等)」といった問題になるか、具体的に明らかにしています。
例えば、「ぎまん的顧客誘引」については、予想売上・予想収益の算定根拠又は算定方法が合理的かどうか、ロイヤルティの算定方法に関し、必要な説明を行わず、ロイヤルティが実際よりも低い金額であるかのように開示していないか等、様々な観点でチェックされます。さらに、独占禁止法違反の未然防止の観点から、加盟店の募集に当たって開示が望ましい事項も定めています。
(詳細は中小企業庁「フランチャイズ事業を始めるにあたって」)4(1)、5、別表2 公取委のガイドブック参照「フランチャイズ・システムと独占禁止法」)
③(社)日本フランチャイズチェーン協会(JFA)
JFAでは、上記「中小小売商業振興法」及び独占禁止法の「フランチャイズ・ガイドライン」に基づいて、会員各社が作成した「フランチャイズ契約の要点と概説」を必要に応じて公開しています。「フランチャイズ契約の要点と概説」をネットで検索いただければ、各本部の公開情報をご覧いただけます。
(2)フランチャイズ契約書の実際のチェックポイント
実際のフランチャイズ契約書で、特に注意すべきポイントをご説明します。
①契約期間
契約期間は、本部によって様々ですが、期間途中で解約した場合には、解約金が発生することが多いです。契約期間が長いと、投下資本の回収に資する面もありますが、リスクになる点もありますので、注意してください。
契約期間の算定の仕方にも注意が必要です。「契約日から5年」か「オープン日から5年」か等です。前者であれば、契約後に物件を探している期間も契約期間になり、営業できる期間が短くなってしまいます。
また、契約期間満了後の更新も自動更新か、手続が必要なのか、更新料はかかるのか等を確認します。更新料は、将来の費用の一部として、事業計画に組み込んでおく必要があります。
②商標使用許諾
加盟店にとって、本部のブランド名称やマーク等の商標は、事業上の最大の強みといえます。本部は、商標を特許庁に登録して、保護を図っています。
契約書でも、商標のブランドイメージを損なわないよう、細かな使用条件が定められています。商標の不正利用も、誤用も大きな問題につながります。使用条件を必ず確認し、理解するようにしてください。
③テリトリー性
テリトリー制は、特定の地域(商圏)で、他の加盟店や本部直営店の開業を制限することを言います。加盟店の商圏が守られるメリットがある一方で、他地域での営業活動や出店が許されないという縛りがかけられるのが通常です。
本部により、制度内容はまちまちです。詳細を確認し、納得できるまで本部に説明を求めましょう。
④商品供給
フランチャイズ契約では、加盟店が仕入れる商品や材料、備品等は、本部に指定されます。ブランドイメージの統一や、提供サービスの品質確保が目的です。
商品供給の内容次第では、「優越的地位の濫用」として、不公正な取引方法に該当する事があります。たとえば、「仕入れ数量の強制」や「正当な理由のない仕入れ品目の制限」等、加盟店にとって不利な内容を正当な理由なく強いる場合です。このような内容が含まれていないかどうか、しっかりチェックしてください。
⑤加盟金・保証金・ロイヤルティ
加盟金は、フランチャイズ加盟時に本部に支払う金銭です。商標利用権等の対価であり、研修費や開業支援費等の費用を含む場合もあります。加盟金にどのような費用が含まれているか、確認しましょう。
また、「加盟金は返還しない」と規定されることが多いでしょう。それでも、「本部の都合等で開業できなかった場合」等がどうなるか、様々なケースを想定して本部に確認しましょう。
保証金は、加盟店の金銭未払い(金銭債務の不履行)に備えて、本部に対して支払われる一種の預り金です。不動産賃貸借の敷金と同じようなものです。どのような債務への引き当てになっているのかを確認しておきます。
また契約終了時には、保証金残額を本部は加盟店に返還しなければなりません。返還の時期や方法も確認しましょう。
ロイヤルティは、加盟店が本部に対して毎月継続的に支払う金銭です。「売上の数パーセント」とか「定額方式」、「利益分配方式」等、算出方法は様々です。
ロイヤルティと異なる名目で、毎月何らかの利用料や分担金が発生する場合もあります。これらを含め、加盟店が実質的に負担すべき内容・項目・算定方法をしっかり把握してください。
⑥競業禁止
フランチャイズ契約では、契約期間中や契約終了後の一定期間、加盟店が同種もしくは類似事業を営むことを禁止する「競業禁止義務」が規定されるのが通例です。本部の経営ノウハウ流出を防ぎ、既存加盟店の優位性や利益を保護するためです。
将来的に、ご自身で同様の事業やサービスを展開されるつもりなら、競業禁止の範囲を具体的に確認しましょう。契約終了後の禁止期間も、不当に長期間になっていないか、確認してください。
⑦解除・損害賠償
本部または加盟店に違反行為があれば、他方当事者から契約を一方的に解除できることが規定されているでしょう。加盟店の違反行為については、本部が請求できる損害賠償金額や違約金の定めが設けられていることもあります。
これらは、不当な拘束と感じられるかもしれませんが、これにより、加盟店の違反行為が抑止されているともいえます。
⑧中途解約
フランチャイズの契約期間は3年、5年といった複数年にわたる契約が一般的です。期間内での中途解約については、契約で規定があればそれに従います。
通常、中途解約を行う場合は違約金が発生しますが、金額の算出方法を明確に確認しておきましょう。定額の中途解約金とか、残りの契約期間に支払われるはずだったロイヤルティ相当額等、いくつかのパターンがあります。中途解約の規定の有無、および違約金の金額・算出方法について必ず確認しましょう。
4、トラブル事例を検討してみよう
以上述べてきたことは、いわば一般的・原則的な注意です。この注意を怠っていると、様々なトラブルが生じます。
以下は、その一例です。前述の様々な注意こそが、トラブルを防ぐ転ばぬ先の杖となっていることをご理解いただけるでしょう。
(1)開業前の問題
①説明会に出ただけで、契約成立と言われた
加盟希望者向け事業説明会で、契約書以外の書類に住所や氏名を記載しただけで、後日、本部事業者から、「契約書に署名をされたので、解約には違約金を支払ってください。」などと金銭を要求する。そのような悪質事業者もいます。すぐ後述の相談窓口にご相談ください。また、署名や捺印を求められたときには、どのような性質の書類なのかを本部に確認し、安易に署名や捺印をしないようにしましょう。
②説明が不十分
上記3、(1)の中小小売商業振興法等に基づく十分な説明が行われない、予想売上・予想収益の算定根拠又は算定方法が判然としない等、欺瞞的な勧誘の可能性もあります。
③加盟金を払ったのに、実際に開店できず、加盟金の返金もない
店舗候補の物件が確定前に契約を締結し、加盟金と同趣旨の金銭の支払いが求められるケースがあります。このような契約形態では、店舗を開店できないのに、金銭は返還されない等のトラブルになることがあります。
(2)開業後の問題
①経営を始めたが、当初の売上予測の半分に満たない
本部が、加盟店を募集する際に提示する「売上予測」、「経費予測」等と加盟後の経営実態が異なり、トラブルになるケースです。
本部が提示する売上予測等は、既存店の過去の平均値とか、一定の前提に基づく算出値であり、これらと同様な売上等を上げられるとは限りません。そもそも、本部がでたらめな売上予想を提示していたという場合さえありえます。
②思ったよりロイヤルティが高かった
ロイヤルティの算出方法について、例えば、売上高の○○%。売上総利益の□□%等といった定めの場合に、廃棄ロス(見切り処分等)や棚卸ロス(万引き等により紛失した商品のロス)を仕入額から控除した額を、売上原価として売上総利益等を計算する場合があります。
売上原価が低めに出て、売上総利益が予想外に大きくなる可能性があります。
このような細かな算出方法も、本部が事前に明確に説明しておくべきものです。加盟店側でも、しっかりと確認しましょう。
③売上げが落ちて赤字になった月に、本部から知らないうちに利息付の貸付をされていた
一部のコンビニエンス・ストアにおいて採られている仕組みで、一般に「オープンアカウント」と呼ばれます。納得がいくまで、事前に説明を受けておくべきです。
(中小企業庁「フランチャイズ事業を始めるにあたって」では図解で説明されています。)
④自店の商圏内に同じフランチャイズの店舗が開店した
最近、特にコンビニエンス・ストアでよく発生している問題です。コンビニでは、加盟店にテリトリー権(一定商圏内に本部が他店を出店させない)を認めないケースが多く、本部が商品配送等の都合で、一定商圏に集中出店してしまう、という事例です。本部の方針や契約条項をしっかり確認しておく必要があります。
⑤経営がうまくいかないので解約を申し出たら、多額の違約金を請求された
これも、契約締結時に中途解約時の定めについて明確に確認しておくべきものです。
⑥その他
予想もしていなかった違約金や損害賠償が発生した。
ロイヤルティの割にサポートが充実していない等。
(3)契約終了後の問題
例えば、契約が終わった後に、同業や類似事業での開業ができない等の競業禁止義務の問題です。契約終了後の義務について、契約前にはっきりと確認しておくべきです。
5、いざというときの相談窓口
トラブルの相談窓口としては、次のものがあります。
(1)JFA相談センター
一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会(JFA)が開設している相談センターです。相談は無料、協会の会員でなくても、相談にのってもらえます。トラブルにあったら、最初に相談してみると良いでしょう。
(2)公的機関
①近隣の商工会議所・商工会
地域毎の商工業者によって組織された団体で、各地域の中小規模事業者に経営や取引等に関する相談や指導を行っています。相談や指導は無料です。
②中小企業庁(または経済産業局)
中小企業庁は、経済産業省の外局として、中小企業の育成や発展をはかる機関です。
④公正取引委員会
独占禁止法を所管しています。前述の通りフランチャイズ・ビジネスにとって関係の深い重要な組織です。電話や来庁により、相談を受け付けています。
(3)弁護士
フランチャイズについて力を入れている弁護士事務所に相談してみてください。
フランチャイズ契約は、形の上では対等な事業者同士の契約ですが、現実には力の弱い加盟店オーナーと圧倒的に力の強い本部との契約であり、加盟店は大変弱い立場にあります。
中小企業庁や公正取引委員会、さらに、一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会(JFA)が手を尽くしてはいますが、加盟店オーナーの立場に立って、様々な視点を踏まえて交渉してもらうには、やはり弁護士が一番です。
まとめ
あなたがフランチャイズの加盟店として第2の人生を歩み出すためには、しっかりとした準備が必要です。万一の紛争に備えた予備知識も欠かせません。
そのような準備を整えた上で、ご家族ともよく相談し、勇気をもって乗り出してみましょう。
あなたとあなたのご家族の新しい人生の門出に、この記事がお役に立てれば幸いです。
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