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改正民事執行法で何がかわった?3つの改正点を弁護士が解説

2021年11月26日
改正民事執行法で何がかわった?3つの改正点を弁護士が解説

改正民事執行法が今年(令和2年)の4月より施行されました。

この改正民事執行法が施行されたことによって、民事執行手続(差押え)の実効性はさらに高まったといえ、今後の債権回収実務等にも大きな影響を与えそうです。

そこで今回は、改正民事執行法の概要について、特に財産開示手続を中心に解説していきます。

 

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1、改正民事執行法の概要

改正民事執行法の概要

まずは、改正民事執行法の全体像を簡単に確認しておきましょう。今年(令和2年)4月に施行された改正民事執行法によって改められたのは、次の4点です。

  • 債務者の財産開示手続が使いやすくなった
  • 不動産競売で暴力団が物件を買い受けることを防止する方策が導入された
  • 債権執行についての若干の改正
  • 子の引き渡しにかかる強制執行制度の創設

本記事では、このうち債権回収にかかる最初の3点について解説を加えていきます。

2、財産開示手続の改正点

財産開示手続の改正点

財産開示制度に関する改正は、今回の改正民事執行法の重要項目の一つといえます。 

まずは、制度概要およびこれまでの問題点を確認した上で、改正点について、解説していきます。

(1)財産開示手続とは

財産開示手続とは、強制執行の申立てを予定している(あるいはすでに行って、失敗に終わった)債権者が、債務者本人もしくは第三者機関に対して、債務者の財産に関する情報の提供を求めることのできる手続です。 

強制執行(差押え)を行う際には、その対象となる財産を債権者自身が特定して、申立てを行う必要がありますが、他人の財産を具体的に把握する(どこに、どのような財産があるかを正確に調べる)ことは、簡単なことではありません。

財産開示手続は、債務者の財産に関する情報に、債権者がアクセスできないことが原因で、権利の実現がはばまれることを回避するための制度として、平成15年の民事執行法改正において創設された手続です。

(2)これまでの財産開示手続の問題点 

しかし、この財産開示手続は、債権者にとっては便利な制度であるにもかかわらず、実際の利用は、以下のような点がネックとなり、年間1000件程度で推移しており、かなり低調といえる状況でした。

  • 債務者が財産開示に応じない場合の罰則が軽く、実効性に欠けていた
  • 仮執行宣言付き判決や支払督促・公正証書を債務名義とする場合の利用ができなかった
  • 債務者本人以外の第三者機関(銀行等)に情報開示を求めることができなかった

そこで、今回の法改正において、これらの問題点を改善するための措置が設けられることになったのです。

(3)財産開示手続の重要改正点3つ 

今回の改正民事執行法で、財産開示手続に加えられた改正点のうち、重要な改正ポイントは以下の3つです。

  • 申立て要件の緩和
  • 罰則の強化
  • 第三者機関から債務者の財産にかかる情報を取得できる手続の新設

①申立て要件の緩和

これまでの財産開示手続では、次の債務名義を取得しているに過ぎない場合には、財産開示手続を利用することは認められていませんでした。

  • 仮執行宣言付判決
  • 支払督促
  • 公正証書(いわゆる執行証書) 

今回の改正では、債務名義の種類による制限は完全に撤廃されることになりました。上記に挙げた債務名義でも、財産開示手続を利用できるようになることは、早期の権利実現(債権回収)に大きな効果があるといえます。

②罰則の強化

改正前の財産開示手続では、債務者が期日を無断で欠席した場合(手続を無視した場合)や、財産についての虚偽の陳述や陳述それ自体を拒絶した場合であっても、30万円以下の過料がかされるに過ぎませんでした。

そのため、高額な財産が差し押さえられる可能性がある場合には、「過料を払った方が良い」と考える動機づけにもなってしまい、実際に、財産開示に応じない債務者は少なくありませんでした。

そこで、今回の改正においては、債務者が上記のような対応をした場合の罰則を、6月以下の懲役または50万円以下の罰金という刑事罰へ引き上げることになりました。これにより、債務者が不誠実な対応をした場合のリスクはかなり増大するといえ、財産開示手続の実効性も強化されることが期待されています。

③第三者機関からの情報取得 

これまでの財産開示手続では、債務者本人からの情報提供という形でしか、財産に関する情報の開示を受けることができませんでした。
しかし、債務者が保有する財産の情報は、第三者機関が保有している場合も多く、今回の改正では、以下の3つの情報について、財産に関する情報を保持している第三者機関に情報の提供を求めることができる制度が新設されました。

情報の種類

情報提供機関

取得できる情報

不動産に関する情報

法務局(登記所)

債務者が所有権の登記名義人である土地・建物等の所在・地番等の情報

給与に関する情報

市区町村・年金機構

勤務先の名称・所在等の強制執行の申立てに必要な情報

預貯金・株式等に関する情報

国内の銀行等(外国銀行の国内支店を含む)

預貯金債権の存否、取扱店舗、預貯金債権の種別、口座番号、金額

3、反社会的勢力による物件買受けを防止する方策の導入

反社会的勢力による物件買受けを防止する方策の導入

平成19年6月に、国が不動産取引から暴力団等の反社会的勢力を排除する方針を打ち出して以来、反社会的勢力は、通常の取引では、不動産を取得することが非常に難しくなりました。

その煽りを受けてか、反社会的勢力等が身分を偽って、不動産競売によって不動産を買い受ける事例が目立つようになり、今回の改正では、これらの問題を解決するために、以下のような方策が導入されました。

(1)売却不許可事由についての改正

第一の改正点は、不動産競売が行われた結果、暴力団員等が最高価格を入札し、最高価買受申出人となったことがわかった場合には、裁判所は「売却不許可決定」をしなければならないという規定が新設されたことです(民事執行法71条5号)。

なお、いわゆる名義貸し等が発覚した場合も、暴力団員等が買受人となった場合と同様に、売却不許可決定の対象となります。

(2)暴力団員等に該当するかどうかの調査

裁判所が売却不許可決定をすることで、暴力団員等による不動産買受けを予防するためには、その前提として、最高価買受人が暴力団員等に該当するかどうかを適切に調査できるだけの仕組みが備えられていなければなりません。

そこで、改正民事執行法では、裁判所に最高価買受申出人等が暴力団員等に該当するか否かについての調査を、競売を行った裁判所を管轄する都道府県警察に嘱託しなければならない義務があることを定めました(民事執行法68条の4第1項本文)。

(3)買受申出に際しての陳述 

上記の点にあわせて、改正民事執行法では、不動産の競売に参加する人は、その申出に際して、「自分が暴力団員等ではない」旨の陳述をしなければならないことが定められました(民事執行法65条の2)。 

万が一、買受を申し出た人が虚偽の陳述をした場合には、6月以下の懲役または50万円以下の罰金が科される可能性があります(民事執行法213条1項3号)。

4、債権執行における主な改正点

債権執行における主な改正点

債権執行は、預貯金や給料、売掛金等、債務者が第三者に対して有する債権(金銭を支払ってもらえる権利)を差し押さえることで、債権者の権利を実現する方法です。債権執行は、不動産等の執行に比べて手続コストも抑えられ、継続的な取引関係にある間柄であれば、すでに債権の存在を知っていることも多いことから、実際の債権回収でもよく用いられる方法です。

しかし、規定の不備等が原因で、裁判所・債務者の負担が重すぎる等の問題点が指摘されており、今回の改正民事執行法では、以下のような改正が行われました。

(1)債権執行事件の終了に関する規定の創設 

債権執行が行われた場合には、債権者が差押えた債権を取り立てた上で、裁判所に取立て完了届を提出することによって、強制執行手続が終了するものとされています。

しかし、実際の執行事件では、債権者がこの届出を怠ってしまうケースや、執行が空振りに終わった場合や、差押え額がわずかにすぎなかったために、取立てがなされずに放置されてしまうケースも少なくなく、裁判所の事件管理コストや不当に長い期間にわたって、差押えの拘束を受けかねない第三債務者の負担が過大になっていることが問題視されていました。

この場合には、債権者が申立てを取り下げることで、事件が終了するものとされていたのですが、債権者に対して取下げ義務が定められているわけでもないので、放置されたままになってしまうケースも珍しくなかったのです。

そこで、今回の改正民事執行法では、新たに次のような規定が設けられることになりました。

  • 債権者による裁判所への届け出の義務化(取立てが可能となった日から支払いを受けることなく2年を経過したとき)
  • 上記の届出が行われなかった場合には、裁判所による取消決定によって、執行事件が終了する規定の創設

(2)差押禁止債権のルールについての見直し

これまでの債権執行では、債権者は、債務者に差押命令が送達された日から1週間が経過した場合に、その債権を取り立てることが可能になることになっていましたが、改正民事執行法では、この期間が「4週間」に改められることになりました。

債権者にとっては、債権を満足させられる時期が遅くなってしまうので、不利益な変更といえますが、財産開示制度等が拡充されたことで、債権者の地位が強化されたこととのバランスを取るための改正であるとされています。

なお、差押債権が、定期金債権(婚姻費用や養育費のように、即時に支払われるべき債権)である場合には、この規定は適用されず、従来どおり、差命令が送達された日から1週間での取立てが可能です。

まとめ

強制執行に関する規律は、社会の情勢変化に応じて適切に改められる必要があり、今回の改正も、そのような目的に基づくものといえます。今回の改正法によって、一般的には、民事執行手続は、今までよりも使いやすくなったといえますが、法律の専門家ではない人にとっては、それでもわかりづらい部分が多いかもしれません。民事執行に関する規律は、一般的な法律に比べて、かなり技術的で、込み入った規定が多いといえるからです。

債務者の財産を差し押さえる場合には、最初の申立てで確実に成功させることが特に重要といえます。その意味では、強制執行手続で債権回収を図りたいという場合には、弁護士に相談・依頼した方がよい場合が多いといえるでしょう。

※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

ベリーベスト 法律事務所弁護士編集部
ベリーべスト法律事務所に所属し、企業法務分野に注力している弁護士です。ベリーベスト法律事務所は、弁護士、税理士、弁理士、司法書士、社会保険労務士、中国弁護士(律師)、それぞれの専門分野を活かし、クオリティーの高いリーガルサービスの提供を全国に提供している専門家の集団。中国、ミャンマーをはじめとする海外拠点、世界各国の有力な専門家とのネットワークを生かしてボーダレスに問題解決を行うことができることも特徴のひとつ。依頼者様の抱える問題に応じて編成した専門家チームが、「お客様の最高のパートナーでありたい。」という理念を胸に、所員一丸となってひたむきにお客様の問題解決に取り組んでいる。
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