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会社資金のプール - やり方次第では、取り返しのつかないことに
会社経営に関する日々の業務の中では、さまざまな理由から、ある程度の資金をプールする必要が生じ、それを実行している会社も多数あろうかと思います。
しかし、資金のプールも、その方法や使いみちによっては、犯罪に関連する裏金として、刑事処罰の対象となる「犯罪」として検挙される可能性がある場合もあります。
また、一旦犯罪として検挙され、捜査等が開始されると、会社自体や会社関係者には多大な負担が生じます。
そこで、今回は、会社の資金プールに関して、犯罪となってしまう場合や検挙された場合に生じる負担などについて、解説します。
1.会社資金のプール ― その方法や使いみちによっては重大な犯罪に問われるケースも
会社の日々の取引の中で、さまざまな方法で資金をプールし、それを裏金とし、表に出さずに個人的な遊興費や公務員に対する賄賂などに使ったりしているケースもあります。
そのような場合には、その行為を行っていた人は、状況に応じて、業務上横領罪や様々な重い犯罪に問われる可能性があります。
(1)重大な犯罪に至るケース - 徐々に罪悪感が薄れ常習化するケースも
これら会社での裏金つくりは、その作り方や使いみち次第では、様々な重い犯罪になりうるものですが、会社の従業員等、裏金作りを実行してしまっている人は、当初は多少なりとも罪悪感を感じながら実行していたものの、例えば、会社から営業担当者に支払われる接待費が少ないため、やむを得ず、自分のお金で取引先を接待し続けたあげく、その分を取り戻すために上司などに内緒で、自分のお金にするために裏金作りを始め、それを続けるうちに、徐々に罪悪感が薄れ、気付いたら、巨額の裏金つくりとその費消に至ってしまうというケースもあります。
そのような場合、それが犯罪に該当するようなケースであっても、裏金作りを続けていた人は、「営業成績を上げるためにはどうしても接待が必要なのに、会社が十分な接待費をくれないなのだから、しかたないのだ。」「公共工事を落札したり、指名業者に入れてもらうためには、どうしても表に出せないお金が必要。」「自分はこれだけ苦労しているのだから、これくらいもらってもいいはずだ。」「ほかの人もずっとやっていることだから大丈夫。」などと考え、結局、長い期間にわたってその行為を続けてしまうパターンが多くみられます。
(2)どのような理由があっても検挙されてしまえば致命的なダメージを受けることも
その人にとっては、その人なりの理由はあるかもしれませんが、ひとたび犯罪として検挙されてしまえば、その人自身や協力していた周囲の関係者が逮捕・勾留されたりするばかりか、裏金つくりに協力していた取引業者・下請け業者も共犯者として捜査対象者とされたり、さらに、その会社自体も犯罪に関係した会社として広く報道され、致命的なダメージを受けかねません。
2.裏金つくりが刑事事件として立件されてしまう場合とは
会社の正規の帳簿外に資金を流出させたとしても、それが会社の財産として会社内にとどまっているような場合は別ですが、そうでない場合には、裏金つくりからその使い方、裏金の処分の仕方によっては、業務上横領罪ないし特別背任罪などに問われる可能性もあります。
これから、以下の事例を使って、具体的に説明します。
A会社の甲さんが、懇意にしている仕入先会社のB会社の乙さんに裏金作りの協力を依頼し、実際の仕入れよりも多くの仕入れがなされたような嘘の形を作り(仕入れの水増し)、その仕入れ代金を自社(A会社)内の経理担当者などからB会社に支払わせ、後日、B会社から水増し分のお金をA会社に戻してもらい(還流させる)、戻ってきたお金をA会社や甲さんの裏口座などに入れてプール(管理)しました。 |
3.業務上横領罪に問われてしまう可能性について
この事例で、例えば、甲さんがB会社から還流された水増し分のお金をA会社のために使わずに、自分の用途に使ってしまう等すれば、業務上横領罪が成立する可能性があります。
(1)業務上横領罪の罰則
業務上横領罪(刑法253条)は「業務上自己の占有(「占有」の要件)する他人の物(「他人の物」の要件)を横領(「横領行為」)したものは、10年以下の懲役に処する。」とするものです。
(2)判断ポイント
この場合、水増ししてA会社からB会社に支払われ、B会社から還流させたお金は、A会社の物(甲さんにとって、「他人の物」)となります。
また、横領罪が成立するためには、甲さんが「占有」していたということがなければなりませんが、その還流させたお金が預け入れられた口座を甲さんが管理等している場合には、その預金は、甲さんが占有していたことになる可能性があります。その場合には、甲さんは、「他人の物」(A社の物)であるお金(預金)を「占有」していたことになります。
そして、甲さんが自己の用途に使ったのであれば、そのお金を「横領」したものとなり、犯罪が成立しますが、会社のために使ったのであれば、自己の用途に費用したのではなく、横領とはなりません。
ただ、自己の用途に使ったのか、会社のために使ったのかは事案によっては非常に微妙なこともあり、その事案が横領罪として起訴されるか否かは、検事がどのように判断し認定したかによります。
この事例の場合、甲さんが横領したといえるか否かは、甲さんによるその裏金の使い道のほか、そのお金を会社名義の裏口座に入れさせて還流させたのか、完全に甲さんの個人の口座に入れたのかなどを総合して検討されて判断されることになります。
4.特別背任罪や背任罪に問われてしまう可能性について
この事例で、そのA会社の甲さんが取締役で、当初から、後に還流させるお金を会社の業務とはなんの関係もない自分の遊ぶお金にしようとするなどの目的があって、A会社から水増し分の支払いをさせたような場合には、その取締役は、特別背任罪に問われる可能性もあります。
(1)特別背任罪と背任罪の罰則
刑法には、この特別背任罪に対して、一般の社員などの場合の罪として、「背任罪」(刑法247条)が定められており、「他人のためにその事務を処理する者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で(「図利加害目的」の存在)、その任務に背く行為をし(「任務違背行為」)、本人に財産上の損害(「財産上の損害」の発生)を加えたときは、5年以下の懲役または50万円以下の罰金に処する。」とされています。
そして、これを会社の発起人、取締役、監査役などの特別の身分を有する者が犯した場合には、それだけ大きな悪影響を与えるため、会社法960条で、刑法上の背任罪よりも重く処罰するとしたのが特別背任罪です。これに該当する場合には、10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金(又はその両方)という非常に重い罪に処せられることになります。
(2)判断ポイント
この特別背任罪は、不当貸付けや不良貸付けなど貸付業務に関連して発生することが多い犯罪ですが、どのような行為が前記の「任務違背行為」に当たるのかについては、一般論としては、法律の規定などのほか、取引上の慣習、条理、社会通念など様々な考慮要素を検討して判断されるため、その事案によって、その行為が任務違背行為に該当するかの判断は、非常に難しいものです。
また、「図利加害目的」(自分や第三者の利益を図り又は本人に損害を与える目的)をもって「任務違背行為」を始めたところ、「財産上の損害」が生じた場合には既遂となり、それがなければ、未遂罪となりますが、その「財産上の損害」をどのように考えるのかなどの点でも難しい問題があります。
近時、日産の関係で、カルロス・ゴーン氏が特別背任罪を含む件で起訴されたと報道されておりますが、今後法廷では、同氏の行った行為がこれらの要件に該当するか等について様々な主張や反論が出されて争われていくものと思われます。
なお、先ほどの事例で、水増しした契約については、取引先と通謀して締結しているため、民法の通謀虚偽表示として無効ではないかなども問題となり得ますが、民事上有効か無効かと、刑事上、特別背任罪における「財産上の損害」を加えたか否かは、別に考えられます。
5.それ以外に問われてしまう可能性のある罪とは ‐ 贈収賄罪・脱税など
(1)贈収賄罪
それ以外にも、前記のとおり、裏金を作ったのち、そのお金を公務員への賄賂に充てたような場合には、刑法上の贈収賄罪(贈賄罪)に問われる可能性が出てきます。贈賄罪に問われた場合、3年以下の懲役又は250万円以下の罰金となります(刑法198条)。
また、その賄賂をあげた相手が公務員でなく、民間会社の取締役などの場合でも、法律上は、一定の場合には、贈賄罪が成立する可能性があります(会社法967条。この場合、その賄賂をもらった取締役などには収賄罪が成立する可能性があります。)。
(2)脱税等
そのほか、裏金つくりに関するもので、刑事事件に発展していく可能性があるものとして、その裏金つくりの過程や方法などに関連して、脱税に問われる可能性もあります。
つまり、その裏金を会社の正規の帳簿から隠す中で、税の申告の際に、一定の売り上げを隠匿したり、架空の経費を計上したりして過少申告をすれば、それはいわゆる「脱税」となって、処罰される可能性もあるのです。
この場合は、「偽りその他不正の行為」を行って脱税した場合として、会社代表者など、その責任を負う人には、10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金(両方が課せられることもあります。)に処せられ(法人税法159条)、また、会社自体にも罰金刑が科せられたりします(同法163条)。
また、会社の会計帳簿に嘘の記載をしたことになれば、それ自体で、虚偽記載に関する秩序罰(過料)ないし刑罰を受ける可能性もでてきます。
6.刑事事件として立件された場合に生じる具体的な負担や影響など
会社資金の一部をプールする必要性は、どの会社でも、さまざまな場面で生じうることと思われますが、上記のとおり、そのやり方や使い方などによっては、警察、国税局、検察から、裏金つくりに関連した犯罪行為として検挙される危険性があり、また、その裏金の使い方によっては、贈収賄などの別の犯罪に発展する危険性もあります。
これらの犯罪では、その罪種によって、警察、検察庁、国税局の捜査(調査)の方法は異なりますが、いずれにしても、検挙される側からは、それがいつ、どのような形で発覚し、表沙汰になるかは通常予測がつきません。
そして、ひとたび、それが検挙されて表沙汰になったような場合には、その影響は、それを実行していた人が刑事責任を問われる可能性があるというだけにとどまりません。
(1)刑事責任以外に考えられる具体的な負担や影響
先の事例で、業務上横領罪を取り上げましたが、例えば、会社の中の一部の従業員が暴走することで会社の資金が奪われてしまったような場合でも、警察や検察庁による本店、支店、営業所などを含め会社自体への大規模な捜索・差押えがなされ、重要な資料等を捜査機関に押収されるなどして日常業務に重大な支障をきたしたり、会社幹部だけでなく、従業員や取引先を含め会社関係者への多数回にわたる取調べや事情聴取がなされたり、裁判への出廷を求められて、証言のため、さらに複数回検察庁に呼び出されるなどした上、公開法廷での証言を求められるなどの多大な負担が生じることもあります(それらの中で、司法取引等を検討しなければならない場面もでてくるでしょう。)。
また、そのようにして奪われたお金はすでに遊興費などに使われて戻ってこないことが多くあります。
さらに、その従業員が仮に起訴されたとしても、裁判で、横領されるようなシステムを放置していたためにそのような犯罪の発生を許したなどと、被害者であるはずの会社側の落ち度が指摘されてしまうこともあります。
(2)会社自体のイメージダウンといった影響も
そればかりでなく、その行為が、前記のとおり、一部の従業員の暴走によるものだったとしても、会社名とともに広く報道等されてしまえば、会社自体のイメージダウンなど今後の取引への甚大な会苦影響も生じかねません。
7.弁護士に相談すべき時期と防止体制の構築
もし、警察や検察の捜査や国税局の調査などが入ったり、お客様や取引先からの情報提供で何らかの不正行為が発覚した場合には、刑事事件は時間との闘いとなりやすいので、直ちに弁護士に相談すべきです。
ただ、そのような事態になる前に、会社のコンプライアンスに関するシステムを見直し、これら犯罪行為ないし犯罪行為と見なされかねない行為(違法行為等)が発生することを防止すべきで、例えば水増し契約締結の余地の有無やその確認手段の有無、取引先等への支払いのシステムの厳格さの確認、会社資金の管理方法等の確認などを行い、違法行為等が生じないようなシステムの構築を検討する必要があるといえます。
そこで、日ごろから弁護士に相談し、本社および各グループ会社のリスクマップを作成し、発生した場合の影響度が大きく、発生頻度の高いリスクから評価付けをし、監査役、内部監査室、経理部および法務部が連携・協力して、各部門の重複がなく、且つ、重要リスクから取り組む短期・中期の監査計画と教育計画を作成・実行することで時間や労力の無駄のない効率的なメリハリの利いた法律違反防止のためのリスクマネジメン体制の構築と運用を行うことが必要です。
このようなしっかりとしたリスクマネジメント体制やコンプライアンス体制が構築され、且つ、実際に運用されていることを説明できれば、違法行為等をした社員は例外的な存在であって、会社はやるべきことをやっており、その責任は非常に軽いと判断され、会社が受ける様々なダメージや負担を最小限のものにすることが可能となります。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています