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事業譲渡と会社分割の違いとして知っておきたい5つのこと

2021年12月14日
事業譲渡と会社分割の違いとして知っておきたい5つのこと

事業譲渡と会社分割の明確な違いはご存じでしょうか。

多角経営をしている会社で、不採算事業をどうすればよいか悩まれている経営者の方は多いと思います。自力再建できるのが理想ですが、どうしようもない場合には、当該事業を切り離すことも検討しなければならないでしょう。

今回は、会社の事業部門を他の会社へ移転する代表的な手段としての「会社分割」と「事業譲渡」とについてご説明します。ご参考になれば幸いです。

1、事業譲渡とは?会社分割とは?

(1)会社分割とは

会社分割とは、株式会社(又は合同会社)が、その事業に関して有する権利・義務を分割して他の会社に承継させる手続のことを言います。

そして、会社分割の中でも、すでに存在している会社(既存会社)に承継させる場合を「吸収分割」、新しく設立する会社(新設会社)に承継させる場合を「新設分割」と言います。

(2)事業譲渡とは

事業譲渡とは、会社が、取引(要するに、売買のことです。)によってその事業を他の会社に譲渡することをいいます。

会社分割も事業譲渡も会社の事業を他社に移転する方法であるため一見同じように見えますが、「2、会社分割と事業譲渡の違い」で説明するように、手続や効果等には様々な違いがあります。

2、会社分割と事業譲渡はどこが違う?両者の違いについて

事業譲渡は、原則として、取締役会決議ですることが可能ですが、会社分割は、株主総会の特別決議がなければすることができません。

また、会社の事業を別会社に引き継ぐという効果は、事業譲渡と会社分割で変わりありませんが、会社分割が事業に関する財産・権利義務を一括移転する(包括承継)のに対し、事業譲渡は事業に関する財産等を個別移転する(特定承継)ため、以下のような差異が生じます。

(1)契約関係(債権・債務)の移転について

契約関係を移転するには、事業譲渡では、契約関係(債権・債務)の移転は個別に移転必要があります。債権(売掛金等)の移転には債権譲渡の手続が、債務(借入金等)の移転には債権者の承諾が必要です。

これに対し、会社分割では、契約関係が丸ごと全て相手方に移転されるますので、相手方の同意等を得る必要はありません。

もっとも、会社分割の場合は、債権者の利益が害されるおそれがあるので、債権者保護の手続が設けられています。具体的には、分割会社は、分割後に分割会社に対して債務の履行を請求できなくなる債権者等がいる場合には、債権者が一定期間(1ヶ月以上)内に異議を述べることができること等の所定の事項を官報で公告し、各債権者に個別に催告しなくてはなりません。

また、債権者が異議を述べると、分割会社は、債務の弁済や担保の提供、財産の信託等をしなくてはなりません。

(2)雇用関係の移転について

事業譲渡の場合には、雇用関係を移転につき、個別に従業員の同意を得なくてはなりません。

これに対し、会社分割では、従業員の同意は不要ですが、労働承継法が適用されるため、労働承継法所定の手続を経る必要があります。なお、この手続は、正社員はもちろんのこと、嘱託職員やパートタイマーにも必要になります。

①労働承継法の手続

まず、分割会社は、事前に、労働者と話し合う必要があります。

次に、分割会社は、労働者(労働組合)に対して、会社分割について書面で通知する必要があります。

②労働契約の承継

承継される事業に主として従事している労働者との契約は、分割契約中に承継される旨の定めがあるときは、そのまま承継されます。他方、承継される旨の定めがなければ、労働者は、異議を申し出ることができ、そして実際に異議の申出がなされれば労働契約が承継されます。

他方、それ以外の労働者との契約は、分割契約中に承継される旨の定めがあり、かつ異議の申出がなければ承継会社に承継されますが、異議の申出がなされたときには承継されません。

(3)許認可の移転について

会社分割では、許認可ごとに取扱いが異なります。具体的には、以下の通りです。

①承継されるもの※事後的な届出等は必要です。

  • 浴場業の許可(公衆浴場法第2条の2第1項)
  • 興行場営業の許可(興行場法第2条の2第1項)
  • 飲食店営業の許可(食品衛生法第53条第1項)
  • クリーニング業法の許可(クリーニング業法第5条の3第1項)

②行政庁の許可等が必要なもの

  • 一般自動車運送事業の許可(道路運送法第36条第2項)
  • 旅館業の許可(旅館業法第3条の2第1項) 

③承継が認められていないもの※新たに取得する必要があります。

  • 宅地建物取引業の免許
  • 貸金業の登録

他方、事業譲渡では、行政庁の許認可は、譲受会社の方で新たに取得しなくてはなりません。

(4)課税関係について

事業譲渡の場合、課税資産の合計額(譲渡価額ではありません)に対して消費税が課税され(消費税法第2条第1項8号)、登録免許税・不動産取得税等の軽減措置も受けられません。

これに対し、会社分割の場合、消費税は課税されない(消費税法施行令第2条第1項4号)ほか、登録免許税・不動産取得税等で軽減措置を受けることが可能です。

事業譲渡と会社分割の違いについては、以上の通りです。事業譲渡にするか会社分割にするか悩まれている方は、双方のメリット・デメリットを踏まえて判断するといいでしょう。

3、事業譲渡と会社分割のどちらの手続を選択すべきか

事業譲渡は、取締役会決議で行うことができますが、債権者や労働者の個別の同意が得られないリスクもあります。

これに対し、会社分割は、債権者や労働者の個別の同意は不要ですが、株主総会の特別決議が必要なので、株主の同意を得られないリスクがあります。

どちらの手続を選ぶかは、法律や税務が複雑に関係しており、一概にどちらが良いとは断定できませんので、事業部門の移転をご検討されている方は、事前に専門家にご相談することをおすすめします。

事業譲渡と会社分割についてのまとめ

事業譲渡と会社分割の違いについてご説明させていただきましたが、いかがでしたでしょうか。お伝えした内容がご参考に頂ければ幸いです。

※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

ベリーベスト 法律事務所弁護士編集部
ベリーべスト法律事務所に所属し、企業法務分野に注力している弁護士です。ベリーベスト法律事務所は、弁護士、税理士、弁理士、司法書士、社会保険労務士、中国弁護士(律師)、それぞれの専門分野を活かし、クオリティーの高いリーガルサービスの提供を全国に提供している専門家の集団。中国、ミャンマーをはじめとする海外拠点、世界各国の有力な専門家とのネットワークを生かしてボーダレスに問題解決を行うことができることも特徴のひとつ。依頼者様の抱える問題に応じて編成した専門家チームが、「お客様の最高のパートナーでありたい。」という理念を胸に、所員一丸となってひたむきにお客様の問題解決に取り組んでいる。
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