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特定商取引法とは?押さえておくべき初歩的なポイントを解説
商品を販売する際、適用される法律に、特定商取引に関する法律(以下「特定商取引法」といいます。)があります。
特定商取引法は、取引の形態の変化に伴い、たびたび改正されているため、理解しにくい法律の一つです。
今回は、特定商取引法とは、どのような法律であるのか、改正の歴史を含めながら概要を解説していきたいと思います。
コンプライアンスの意味について知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
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1、特定商取引法とは
(1)特定商取引法とは
ここでは、特定商取引法とは、どのような法律なのかを見ていきたいと思います。
①特定商取引法とは
特定商取引法は、「特定の商取引」を行う事業者による違法・悪質な勧誘行為等を防止し、消費者の利益を守ることを目的として1976年に制定された法律です。
一般的な商取引、つまり相対で売買をするなどの商取引では、民法や商法が適用されます。しかし、「特定の」商取引、つまり訪問販売や通信販売等については、一般的な法律である民法や商法では対応しきれない事態が想定されています。
たとえば、訪問販売では、欲しいと思っていないのに、突然、自宅に訪問され、長々と説明を受けるという特殊な状況が発生していますし、通信販売では、実際に物を手に取らずに購入するという特殊な状況が発生しています。
このような特定の商取引について、事業者が守るべきルールと、クーリング・オフ等の消費者を守るルール等を定めた法律が特定商取引法なのです。
②特定商取引法の改正
特定商取引法は、販売形態の変化に適合するために、過去何度も改正されています。
ⅰ 昭和59年改正
- クーリング・オフの期間を4日から7日に延長
ⅱ 昭和63年改正
- キャッチセールス、アポイントメントセールスが訪問販売に含められる
- 通信販売の誇大広告を規制
- 訪問販売及び通信販売による役務(サービス)提供を規制
- 紹介及び委託販売による場合も、「連鎖販売取引」に含め規制
- クーリング・オフの期間を7日から8日に延長
ⅲ 平成3年政令改正
- 指定商品に新聞紙を追加
ⅳ 平成8年改正
- 電話勧誘販売を独立の取引形態として規定
- 連鎖販売取引における規制を受ける者の範囲を拡大。また、クーリング・オフ期間も14日間から20日間に延長
- 消費者が行政機関に対して、調査及び措置を求めることができる「申出制度」の新設
ⅴ 平成11年改正
- 特定継続的役務提供(エステや英会話教室)に対する規制を新設
- 高額な違約金等に対する、クーリング・オフ制度及び中途解約制度等を導入
- 罰則の強化
ⅵ 平成12年改正
- 「訪問販売法」から、「特定商取引に関する法律」に改題
- 業務提携誘引販売取引(内職商法及びモニター商法)に関する規定を新設
- 連鎖販売取引における広告規制を強化
- 通信販売における広告規制を強化
ⅶ 平成14年改正
- 迷惑メールに対処するため、オプトアウト・メール規制(広告を拒否した者に対する送信の禁止)を新設
ⅷ 平成16年改正
- 業者は、勧誘に先立ち、業者の氏名等及び勧誘目的であること等を明示することを義務化
- 販売目的を隠して行われた訪問販売について、刑事罰の導入
- 不実告知の明確化及び刑事罰の導入
- 不実告知等による契約の取消し制度導入
- 適合性の原則に反する勧誘の禁止
- クーリング・オフの行使について、販売者から妨害があった場合、妨害がなくなり「クーリング・オフ妨害解消のための書面」を受領するまで、クーリング・オフ期間が進行しなくなった
- 連鎖販売取引に関する商品販売契約について、中途解約に関してルールを規定
- 行政機関の権限強化
ⅸ 平成20年改正
- 指定商品又は指定役務についてのみ特定商取引法が適用されることを廃止
- 訪問販売に関して、再勧誘禁止及び過量販売規制を導入
- クーリング・オフをした場合の使用利益の扱いを明確化
- 電子メール広告におけるオプトイン規制(事前承諾のない者に対する電子メール広告の送信禁止)への転換
- 15条の2の新設(通信販売で、返品の可否及び条件について広告に記載がない場合、8日間、契約の解除ができる)
- 訪問販売協会による会員除名規定及び被害者救済基金制度の創設
- 行政機関の権限強化及び罰則強化
ⅹ 平成24年改正
- 訪問購入の新設
- 原則、全ての物品を規制の対象に
ⅺ 平成28年改正
- アポイントメントセールスの誘引方法等の追加
- 規制対象の拡大(指定権利制の見直し)
- 金銭借入や預貯金の引出し等に関する禁止行為の導入
- 取消権の行使期間の伸長
- ファクシミリ広告への規制の導入
- 定期購入契約に関する表示義務の追加・明確化
- 過量販売規制の導入
- 美容医療契約の特定継続的役務提供への追加
- 業務禁止命令の新設
- 業務停止命令の期間の伸長
- 罰則の引上げ
以上、見てきたように、特定商取引法は時代に即して、定期的に改正が行われています。規制対象や罰則が大幅に変更されることもあるので、改正された場合、その都度しっかりと内容をチェックしましょう。
(2)対象となる取引の範囲
「特定の商取引」とされ、特定商取引法の対象となる取引は、次の表の通りです。
訪問販売 |
事業者が消費者の自宅を直接訪問して、商品や権利の販売又は役務の提供を行う契約を行う取引。 (キャッチセールス、アポイントメントセールスを含む) |
通信販売 |
事業者が新聞・雑誌・インターネット等のメディアを使って広告し、郵便・電話等の通信手段により申込みを受ける取引。 (電話勧誘販売に該当するものを除く) |
電話勧誘販売 |
事業者が電話で勧誘し、申込みを受ける取引。 (電話をいったん切った後、消費者が郵便や電話等によって申込みを行う取引も含む) |
連鎖販売取引 |
個人を販売員として勧誘し、更にその個人に次の販売員の勧誘をさせ、販売組織を連鎖的に拡大して行う商品・役務の取引。 具体的にはマルチ商法などが該当。 |
特定継続的役務提供 |
長期・継続的な役務(サービス)の提供をする取引。 (エステティック、美容医療、語学教室、家庭教師、学習塾、結婚相手紹介サービス、パソコン教室) |
業務提供誘引販売取引 |
「仕事を提供するので収入が得られる」と誘い、仕事に必要であるとして、商品等を販売して金銭負担を負わせる取引。 |
訪問購入 |
事業者の店舗以外(消費者の自宅等)での事業者による物品の買取り |
(3)消費者契約法との違い
消費者を保護するための法律は、特定商取引法以外にも、消費者契約法が存在します。
ここでは、両法の違いを説明していきます。
①消費者契約法とは
消費者契約法とは、平成13年4月1日に施行された、不当な契約から消費者の利益を守るために制定された法律です。消費者契約法では、消費者契約について、不適切な行為があった場合の契約の取消しと不当な契約条項の無効等を規定しています。
②特定商取引法と消費者契約法の違い
参考:特定商取引法 第 70 条
特定商取引法は、経済産業省が業者を取り締まるためのいわば「業法」です。上記のように、特定商取引法では、第70条から第76条にわたって罰則が定められています。禁止行為を行うと、行政処分だけでなく、刑事罰の対象となりうるので、注意が必要です。
これに対して、消費者契約法は、消費者を保護するために、一定の不当条項の無効と、一定の場合における消費者による契約取消権を定めたもので、あくまで民事上の権利関係について定めたものになっています。
また、契約解除を行う場合、特定商取引法や消費者契約法に優先・劣後関係はないので、最も有利な法律を使って、契約解除を行うことができます。
2、特定商取引法で事業者が守るべき主な内容
特定商取引法では、取引形態ごとに、事業者が守らなければいけないことが規定されています。
ここでは、ビジネスマンとして押さえておくべき重要な項目をご紹介していきます。
(1)氏名等の明示
事業者は、勧誘開始前に、事業者名や勧誘目的であることなどを消費者に告げなければいけません。特定商取引法では、以下の項目を明示しなければいけないとされています。
≪勧誘前に明示すべき項目≫
- 事業者の氏名(名称)
- 契約の締結について勧誘をする目的であること
- 販売しようとする商品の種類
(2)不当な勧誘行為の禁止
特定商取引法では、価格・支払い条件等についての不実告知(事実と違うことを告げること)又は故意に事実を告知しないこと、消費者を威迫して困惑させたりする不当な勧誘行為は禁止されています。
具体的には、訪問販売で、床下換気扇の勧誘で、本来3台で十分な効果があるのに、その事実を隠して、10台販売するようなケースが、不実告知に該当します。また、「買ってくれないと困る」と声を荒らげたり、「買わないと、この地域で住めなくする」などと脅すことは、消費者を威迫して困惑させたりする勧誘行為に該当します。
(3)広告規制
通信販売は、隔地者間(物理的に離れた場所にいる者同士)の取引なので、消費者にとって、広告が唯一の情報源になります。そのため、広告の記載が不十分であったり、不明確だったりすると、後日トラブルを生ずることになります。よって、広告に表示する事項を以下のように定めています。
≪広告で表示すべき事項≫
- 販売価格(送料も必須項目)
- 代金の支払い時期や方法
- 商品の引渡時期
- 商品若しくは特定権利の売買契約の申込みの撤回又は売買契約の解除に関する事項(特約がある場合は、特約も必須項目)
- 事業者の氏名(名称)、住所、電話番号
- 事業者が法人であって、電子情報処理組織を利用する方法により広告をする場合、販売業者等代表者または通信販売に関する業務の責任者の氏名
- 申込みの有効期限があるときには、その期限
- 販売価格、送料等以外に購入者等が負担すべき金銭があるときには、その内容及び額
- 商品に隠れた瑕疵(一見しただけではわからない不具合)がある場合に、販売業者の責任についての定めがあるときは、その内容
- ソフトウェアに関する取引の場合、ソフトウェアの動作環境
- 商品の売買契約を2回以上継続して締結する必要があるときは、その旨及び販売条件
- 商品の販売数量の制限等、特別な販売条件があるときには、その旨及び内容
- 請求によりカタログ等を別途送付する場合、有料であるときには、その金額
- 電子メールによる商業広告を送る場合には、事業者の電子メールアドレス
また、誇大広告や著しく事実と相違する内容の広告も禁止されています。
(4)書面交付義務
事業者は、契約の申込みを受けたときや契約を結んだときには、以下の事項を記載した書面を消費者に渡す義務が生じます。
≪書面に記載すべき事項≫
- 商品の種類
- 販売価格
- 代金の支払い時期や方法
- 商品の引渡時期
- 商品若しくは特定権利の売買契約の申込みの撤回又は売買契約の解除に関する事項(クーリング・オフができない部分的適用除外がある場合はその旨も必須項目)
- 事業者の氏名(名称)、住所、電話番号、法人ならば代表者の氏名
- 契約の申込み又は締結を担当した者の氏名
- 契約の申込み又は締結の年月日
- 商品名、商品の商標または製造業者名
- 商品の型式
- 商品の数量
- 商品に隠れた瑕疵があった場合、販売業者の責任についての定めがあるときには、その内容
- 契約の解除に関する定めがあるときには、その内容
- そのほか特約があるときには、その内容
書面に重大な不備がある場合、書面交付義務が履行されていないことになり、消費者は、商品や役務の提供を受けているのに、いつまでもクーリング・オフをして全額返金を求めることができることになります。ですから、法定書面に必要的記載事項が書かれているかを慎重にチェックしましょう。
(5)違反行為に対する罰則等
違反を行った事業者に対しては、業務改善の指示や業務停止命令・業務禁止命令の行政処分、または罰則の対象となります。
特定商取引法では、第70条から第76条にわたって、罰則が定められています。違反行為を行うと、行政処分だけでなく、刑事罰の対象となりうるので、注意が必要です。
3、特定商取引法で契約に関する主な特別のルール
特定商取引法で規定されている
- クーリング・オフ
- 意思表示の取消し
- 中途解約
について、解説していきます。
(1)クーリング・オフ
クーリング・オフは、消費者が申込みまたは契約の後に、法律で決められた書面を受け取ってから一定の期間内に、無条件で解約できるという制度です。また、通信販売は、クーリング・オフの適用外になっています
≪クーリング・オフ期間≫
取引形態 |
期間 |
訪問販売 |
8日間 |
電話勧誘販売 |
8日間 |
特定継続的役務提供 |
8日間 |
訪問購入 |
8日間 |
連鎖販売取引 |
20日間 |
業務提供誘引販売取引 |
20日間 |
また、同時に契約した関連商品(例 エステと同時に化粧品等を購入)も、同時にクーリング・オフすることが可能です。
(2)意思表示の取り消し
事業者が、不実告知や故意の不告知を行った結果、消費者が誤認し、契約の申込みまたはその承諾の意思表示をしたときには、消費者は、その意思表示を取り消すことができます。
また、意思表示の取消しを行うことができる期間が、平成28年の法改正により、消費者が誤認していたことに気付いた時から1年間に延長されています。
(3)中途解約
特定継続的役務提供取引は、サービスの質や効果が、短期間では分かりにくい取引です。このため、クーリング・オフ期間経過後も、将来に向かって特定継続的役務提供等の契約を解除することが可能です。これを中途解約といいます。
この中途解約の際、事業者が、消費者に対して請求し得る損害賠償等の額の上限も規定されています。
また、同時に契約した関連商品(例 エステと同時に化粧品等を購入)も、同時に解約することが可能です。
4、特定商取引法における迷惑メールに関するルール
特定商取引法では、迷惑メールに関するルールも規定されています。
(1)オプトイン規制
あらかじめ請求や承諾を得ていない限り、電子メールによる広告の送信は、原則的に禁止されています。
≪規制の例外事例≫
- 「重要な事項」を通知するメールの一部に、広告が含まれる場合
- 消費者からの請求や承諾を得て送信する電子メール(メルマガ等)の一部に広告を記載する場合
- フリーメール等に付随した広告
(2)電子メール広告の送信を拒否する方法の表示義務
消費者が、電子メール広告の送信を拒否する意思を表示するための方法を、消費者が、容易に認識できるように表示しなくてはいけません。
また、電子メールだけでなく、未承諾者に対するファクシミリによる広告の提供も禁止されています。
5、特定商取引法上の問題を事業活動上起こさないようにするために、気を付けるべきこと
特定商取引法上の問題を起こしてしまった場合、行政処分だけでなく、刑事罰の対象となりうるので、注意が必要です。
(1)特に注意すべきこと
①苦情そのものを少なくする
消費者から、苦情を受けるような行為は慎みましょう。
②法定書面のチェックを厳重にする
法定書面に不備がないようにし、事前にクーリング・オフの適用についての争いを回避するように心がけましょう。
③中途解約金の計算方法を明確化する
問題化する前に、中途解約金の計算方法を明確化して、提示しましょう。
④従業員への指導を徹底する
問題が起きやすい、不実の告知や事実不告知の内容をしっかりと従業員へ指導しましょう。
(2)万が一、トラブルに発展した場合
万が一、トラブルに発展した場合、行政処分や刑事事件での立件もありうるので、和解も含めた対応について、早急に弁護士に相談することをおすすめします。弁護士に相談し、違法行為に該当するのかを確認したうえで、事業者に非があるのであれば、消費者との示談交渉をスムース・スマートに進め、行政処分や刑事処分による被害を最小限に食い止めるようにしましょう。
まとめ
今回は、特定商取引法とはどのような法律であるのか、改正の歴史を含めながら、解説してきました。特定商取引法上の問題を起こしてしまった場合、行政処分だけでなく、刑事罰の対象となりうるので、注意が必要です。
万が一、問題化してしまった場合は、問題が複雑・深刻化しないうちに、初期段階で、弁護士に相談し、和解を含めた問題の解決を図ることが大事です。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています