企業法務のご相談も受付中。お気軽にお問合わせください。
風評被害とは?企業が風評被害を受けたときの対処法
風評被害とは、風評、つまり世間の評判により受ける被害のことです。この「被害」は、経済的被害のことを指すことが多いです。
現代では、インターネット上での風評による被害が顕著です。誤った情報を放置しておくと被害が拡大してしまいますし、企業にとっては信用の低下といった損害を被るおそれもあります。
そのため、風評被害などを受けたときには、早期に適切に対処することが重要です。
今回は、ベリーベスト法律事務所の弁護士が
- 風評被害とは
- 風評被害を受けたときの対処法
などについて解説をします。ご参考になれば幸いです。
[nlink url=”https://best-legal.jp/compliance-meaning-26636/”]
1、風評被害とは?
近年、企業に対する風評被害は増加しており、その影響も軽視できないものとなっています。
以下では、企業の風評被害の概要について説明します。
(1)風評被害とは?
風評被害とは、根拠のない噂や誤った事実を広められたことによって被る、経済的な被害のことをいいます。
(2)風評被害の被害類型
企業の風評被害としては、主に加害者側を以下の類型に分けることができます。
- インターネットの書き込み
- マスコミによる報道
- 他企業等による統計データ
以下では、それぞれの類型における風評被害による影響について、説明します。
①マスコミによる報道
マスコミによる報道は、
- 瞬く間に
- 不特定多数へ情報を与える
という特徴があります。
マスコミでは基本的にこの特徴を重くみていますから、発信前に、細かな規定に基づき情報を精査することが一般的です。
しかし時によって、
- 一方の意見に偏って報道することによる偏向報道
- 十分な裏取りをせずに推測だけで記事を書くといった誤報
などが起こるのです。
マスコミに報道される事実については、真実性が高いものと一般的に認識されていますので、読者や視聴者などはたとえ誤った情報であっても真実であると信じてしまいがちです。マスコミによる影響力の大きさから、一度誤った情報が配信されてしまうと、後から訂正したとしても、それ以前の状態に回復することが難しいという特徴があります。
マスコミによる風評被害として有名な事例は、テレビの報道番組で埼玉県所沢市の野菜がダイオキシン濃度が高いとの報道がなされたことで、所沢市の野菜の不買運動がおこるなどの社会問題となった事件です。
所沢市の農家は、マスコミによる風評被害であるとして、テレビ局を相手取って謝罪広告および損害賠償請求を求める裁判を起こしました。
1審、2審は、原告である農家の請求を退けましたが、最高裁判所は、「テレビジョン放送をされる報道番組においては、新聞記事等の場合とは異なり、視聴者は、音声及び映像により次々と提供される情報を瞬時に理解することを余儀なくされるのであり、録画等の特別の方法を講じない限り、提供された情報の意味内容を十分に検討したり、再確認したりすることができないものであることからすると、当該報道番組により摘示された事実がどのようなものであるかという点については、当該報道番組の全体的な構成、これに登場した者の発言の内容や、画面に表示されたフリップやテロップ等の文字情報の内容を重視すべきことはもとより、映像の内容、効果音、ナレーション等の映像及び音声に係る情報の内容並びに放送内容全体から受ける印象等を総合的に考慮して、判断すべきである。」として、原審に差し戻しています(最判平成15年10月16日)。その後、テレビ局が和解金1000万円を支払う内容で和解が成立しました。
②インターネットの書き込み
インターネットの掲示板やSNSなどで会社の悪い噂を書き込まれる、といった被害が代表的なものです。
インターネットの特徴は、マスコミの特徴に加え、
- 発信前に情報が精査されるルールがない
という恐ろしさが加わります。
さらに、
- 匿名での発信が可能
ということも重なり、より一層、偏見と憶測が飛び交い得る場所なのです。
2021年2月現在、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、新型コロナウイルス関連の風評被害も拡大しています。全く事実ではないにもかかわらず、「株式会社○○の社員が新型コロナウイルスに感染した」、「飲食店の○○で新型コロナウイルスの感染者が出た」などの情報が拡散されたことにより、倒産や閉店を余儀なくされるといった損害を被ることもあります。
③統計データによる風評被害
専門的機関や公的機関が発表する統計データであっても、それが異なる文脈で用いられてしまうと、それを見た人が誤った認識を持ってしまうことがあります。
また、独自の統計データであっても、「○○社の製品よりも性能がよい」など他社の製品を根拠なく批判するような内容であれば、それによって批判された会社は風評被害を受けることがあります。
統計データによる風評被害として有名な事例は、キシリトールガムの比較広告が争われた事件があげられます。
これは、A社が自社で販売するキシリトールガムが一般的なキシリトールガムの5倍の再石化を有するという広告を出したことに対して、暗に比較対象とされたB社が広告の差し止めを求めた事件です。
1審はA社の勝訴となりましたが、2審でA社の行った再石灰化実験の合理性が否定され、B社の勝訴となりました(知財高判平成18年10月18日)。
このように、統計データについても裏付けなく公表することによって他社への風評被害となることがあります。
2、風評被害への対抗手段
風評被害を受けた企業ができる対抗手段としては、以下のようなものがあります。
(1)発信停止、削除等の請求
風評被害を受けていることがわかったときには、速やかに当該情報の発信停止や削除などを求めていくことです。
インターネットに限らず、情報は一旦広まってしまうと、訂正し、誤解を解くことは非常に困難な作業です。そのため、自社に関する虚偽の情報や悪い噂などに触れたときには、ただちに削除などの対策をとることが重要です。
誤った情報を発信している当事者(インターネットの場合はサイト管理者でも可)に対して、情報の削除や発信停止を求めましょう。
任意の要請に対して相手が従わないときには、仮処分などの法的手段を検討していくことになります。
(2)損害賠償請求
情報の発信停止や削除などを請求し、それに応じてくれたとしても、それだけでは既に被った損害を回復することはできません。
明確に金銭的な損害が発生している場合は、情報を発信した加害者に対して、損害賠償請求をすることができます。
ここで、損害賠償請求をする前提として、まずは、情報を発信した加害者を特定しなければなりません。マスコミや競業他社による加害行為であれば、相手方となる者の特定は容易ですが、問題なのはインターネット上での風評行為の場合です。
インターネット上での書き込みについては、匿名性が高いため、加害者を特定することが困難なケースがあります。そのような場合には、後述する発信者情報開示請求という手続きを踏むことで、書き込みをした者の氏名や住所を特定することができます。
もっとも、風評被害について損害賠償請求をするには、被害者の側で
- 「損害」
- 「損害との因果関係」
の2点を立証しなければなりません。
まず、「損害」ですが、風評被害を受けて会社のイメージや信用が低下したということ自体が損害だと考える方もいるかもしれませんが、損害賠償請求をするためには、風評被害から生じた損害が具体的にいくらであるかを立証しなければなりません。企業イメージや信用といった無形の価値が被害を受けたとき、その算定は容易ではないのが実情です。
そして、「損害との因果関係」ですが、たとえば、風評被害によって売り上げが減少したという場合、発生した利益の減少の原因が当該風評被害であるということを証明することは、なかなか難しいものです。そのため、営業損害や無形利益の賠償請求は、かなりハードルが高いことは、頭の片隅においておきましょう。
(3)刑事告訴
風評被害によって企業の社会的評価が低下することになったときには、名誉棄損罪(刑法230条)を根拠として加害者を刑事告訴することが考えられます。名誉棄損罪については、個人だけでなく企業や団体などの法人に対しても成立します。
また、風評被害によって信用が害されたり、業務に支障が生じたときには、信用棄損罪や業務妨害罪(刑法233条)を根拠に刑事告訴することも可能です。
刑事事件とすることによって、企業の被った経済的損失が回復されるわけではありませんが、加害者が逮捕され処罰されたということが明らかになることで、誤った情報によって被害を受けたということを世間の方々が認識するきっかけとなります。
なお、名誉棄損罪の法定刑は、「三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金」、信用棄損罪と業務妨害罪の法定刑は、「三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金」と規定されています。
3、対抗手段をとるなら事前準備が必要
風評被害に対する対抗手段としては上記の手段がありますが、このような対抗手段を有効に行うためには、一定の事前の準備が重要となります。
以下では、対抗手段をとるために必要な事前準備について説明します。
(1)流布された情報のモニタリング
企業の風評被害の原因となる情報を発見したときには、
- どのような情報が
- どれくらい広まっているのか
- それによる影響はどれくらいあるのか
- どのような具体的な対策が必要となるのか
について、社内で検討することになります。
そのために、流布された情報について、誰が、何の目的で発信しているのか等、細かくモニタリングをしていきます。
日頃から、定期的に企業名、役員名、商品名などをインターネット上でキーワード検索するなどして風評被害の兆候を把握しておくと早期に発見ができ、発見が遅れて被害の回復が困難になることを防げると言えます。
(2)自社の見解の公表
インターネットやマスコミなどによって誤った情報が発信されたときには、企業としては自社の公式見解をプレスリリースすることが有効な手段となります。
情報が真実に反するときには、
- どの部分が真実に反するのか
- そのような情報が発信されるに至った経緯
- 今後の民事手続き、刑事手続きといった法的対応策
などについて、公表することになります。これらを正確かつ早急に発表することによって、風評被害に対して断固たる態度をとる企業精神をアピールすることができますし、将来的な風評被害の防止にもつながります。
もし、情報が真実であったとしてもそれを真摯に受け止め、改善や改良に努める旨公表することで、被害を最小限に抑えることが可能となります。
(3)違法行為の存在、および損害の発生についての証拠揃え
風評被害の原因となった情報を削除するだけでなく、加害者に対して損害賠償請求や刑事告訴を検討しているときには、その原因となった情報を保存しておくことが必要になります。
たとえば、インターネット上の情報については、匿名性が高いため、書き込みをした人物を特定するためには、後述する発信者情報開示請求を行わなければなりません。
そのためには、風評被害の原因となっている書き込みを特定して、それを保存または印刷しておく必要があります。
具体的には、
①書き込みの存在およびその内容
②書き込みがあったウェブサイトのURL
が必要となります。
ウェブページを印刷物として保存するときには、ヘッダーやフッターの部分にURLが末尾まできちんと表示されるようにしましょう。また、ウェブページを画像として保存することもできますので、状況に応じて適宜組み合わせて証拠を残しておくとよいでしょう。
また、風評被害による損害が発生したことも証明しなければなりませんので、慰謝料以外に営業損害を請求しようとする場合には、以下のような証拠を準備しておきましょう
- 事業内容や売上額などを確認することのできる資料・決算書
- 風評被害の前後の売上額の変動を確認できる帳簿
- 風評被害の対策のために要した費用の明細
これらの証拠がなければ、後述する発信者情報開示請求が認められないこともありますので注意が必要です。
(4)発信者情報開示請求
インターネット上での風評被害について、損害賠償請求をするためには、当該情報を書き込んだ人物を特定する必要があります。
このような書き込んだ人物を特定する手続きのことを発信者情報開示請求といいます。
発信者情報開示請求は、裁判外で請求したとしても応じてくれることはほとんどありませんので、基本的には、裁判によって求めていくことになります。
その具体的な手続きについては、以下の記事を参考にしてください。
[nlink url=”https://best-legal.jp/request-for-caller-information-disclosure-17737″]
4、風評被害の相談はまずは弁護士へ
風評被害を受けたときには、まずは弁護士へ相談することを強くおすすめします。
弁護士に相談するメリットは以下のとおりです。
(1)風評被害を最小限に抑えることができる
風評被害の対策は早期に行うことが重要で、少しでも対応が遅くなれば、それに伴い被害がどんどん拡大していってしまいます。
自社が風評被害に遭ったときの対応策をしっかりと準備している企業は少ないといえますので、自社が風評被害を受けていることに気付いたとしても、どのような手段を講じればよいかがわからず、時間だけが過ぎていくということも珍しくありません。
風評被害を最小限に抑えるためには、被害に気付いたらすぐに風評被害に対応することができる弁護士に相談をすることが重要です。専門家である弁護士であれば、直ちに必要な対策をアドバイスしてくれるだけでなく、実際に被害回復に向けてサポートしてもらうことも可能です。
(2)違法行為への対抗手続きを適切かつスムーズに行える
風評被害の原因となった情報の発信停止や削除を求める際には、法的な根拠に基づいて適切に行う必要があります。
たとえば、インターネットの掲示板での書き込みについては、専用の削除フォームが設置されているものもありますが、単に「風評被害を受けた」という申出だけでは削除に応じてもらえないことがあります。具体的にどのような内容の書き込みがどのような権利を侵害しているのかを論理的に説明しなければなりません。
弁護士に依頼することで、情報の削除から損害賠償請求までの一連の手続きをすべて任せることができます。これによって、企業としては普段の業務に集中することができるといったメリットもあります。
(3)警察への相談のタイミングもアドバイス
風評被害を受けた場合には、加害者に対する民事上の手続きだけでなく、刑事上の手続きもとることが可能です。
ただし、警察へ相談するにあたっては、刑事上の違法行為に該当するものでなければ、対応してもらうことができません。
警察がなかなか告訴状を受理したがらないという現実もあります。
弁護士であれば、風評被害の原因となった情報のうち、刑事告訴の対象となり得るものを適切に判断することができます。また、刑事告訴をすることになったときにも、必要な証拠をそろえたうえで、警察が事件として受理しやすい内容の告訴状の作成まで対応してもらうことができます。
(4)弁護士費用は加害者への請求も可能
弁護士費用については、弁護士を依頼した人が負担するものとされていますので、原則として相手に対して弁護士費用の負担を求めることはできません。しかし、不法行為を理由に損害賠償請求をする場合には、損害額の1割程度については、弁護士費用として相手に請求できる可能性があります。
また、インターネット上の書き込みをした人物を特定する手続きについては、発信者情報開示請求などの手続きをとらなければならず、弁護士に依頼して行うにあたっては、被害者が弁護士費用を負担しなければなりません。しかし、これらの費用についても加害者に損害賠償請求するにあたっては、調査費用として負担を求めることが可能です。相手の資力にもよりますが、相手から損賠賠償として金銭の支払いを受けることができれば、弁護士を依頼することによる金銭的負担は少なくなるといえます。
まとめ
風評被害を受けた企業としては、早期に被害を発見し、対策をとることが重要となります。そのためには、専門家である弁護士のサポートを受け連携して進めることが有効な手段となります。
風評被害による被害を最小限に抑えるためにも、弁護士に相談をし、早期に有効な対策をとってもらうようにしましょう。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています