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株主代表訴訟とは?株主代表訴訟の基本を弁護士が解説

2021年11月25日
株主代表訴訟とは?株主代表訴訟の基本を弁護士が解説

目次

こんなご質問がありました。 

私は企業法務部に所属する38歳の男性です。

上司から突然「株主代表訴訟について至急調べてくれ!」と言われました。 

現在、自社製品に欠陥が見つかり、リコール手続を進めています。ところが、『有力な株主が、取締役の責任追及のため株主代表訴訟を考えているらしい』という情報が入ってきました。事業部統括役員から法務部に、「株主代表訴訟とは何だ、何をすればよいのだ。説明してくれ、弁護士事務所にも相談してくれ。」と依頼があったようです。 

お恥ずかしいですが、私は契約書のチェック等が主な仕事で、株主代表訴訟についてはよく知りません。弁護士事務所に相談するにも、基本的な知識は持っておきたいと考えています。初歩から教えてください。

こちらのご相談をくださった男性のように、法務部に所属していても、普段の仕事とは直接関係のない知識が必要になった場合、何から手をつければ良いのか、専門用語もわからないなど37戸惑われる方も多いのではないかと思います。 

そこで今回は、 

  • そもそも株主代表訴訟とは?制度の基本と実際の事例

  • 株主代表訴訟への対応ポイント

  • 株主代表訴訟の決着の形


について、それぞれ詳しくご紹介していきます。 

会社で、株主代表訴訟に関する対応を任されたみなさんにとって、この記事が、起こり得るリスクを把握し、適切な対処を行うためのお役に立てば幸いです。

株主の権利について知りたい方は、以下の関連記事をご覧ください。

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1、株主代表訴訟とはどのような制度か?

(1)株主代表訴訟―「役員への責任追及訴訟」を株主が会社を代表して行う 

株主代表訴訟とは、簡単に言えば、役員が会社に対する義務をきちんと果たさなかったときに、その責任を追及するために、株主が起こす訴訟のことです。 

そもそも役員(=取締役、監査役)は、会社に対して次のように様々な義務を負っており、これらの義務に違反して会社に損害を与えた場合は、会社への損害賠償を行う責任があります。 

このような、役員に対する損害賠償請求のことを法律では、「責任追及訴訟」と呼び、通常 、取締役への責任追及訴訟については、監査役が、会社を代表して訴訟を起こすことが基本となっています(監査役設置会社の場合)。 

しかし、現在の日本では、取締役と監査役のいずれも従業員から選任されることが、まだまだ多く、監査役として、自分の先輩や同僚を訴えるという状況には、多かれ少なかれ躊躇してしまうケースも多いのが実情です。 

そこで、監査役が訴えを提起しない場合に、株主が会社を代表して、役員の責任追及の訴えを提起できるよう作られた制度が、今回ご紹介する「株主代表訴訟」で、

会社法第847条では、この株主代表訴訟を適用できるケースについて、次のように定められています。 

①役員らの会社に対する責任を追求する訴え(役員らの任務懈怠責任、会社との取引で負担する債務についての責任等) 

②株主の権利行使に関して利益供与がなされた場合の利益返還を求める訴え(会社法第120条第3項) 

③不公正な払込金額で株式・新株予約権引受がされた場合の株主等に不足額の支払いを求める訴え(会社法第212条第1項、第285条第1項) 

実際に問題になるのは、上記①の役員が会社に対する任務を怠った場合(任務懈怠に基づく損害賠償請求(第423条第1項))の責任追求が主なもので、今回の記事でも、こちらの内容をメインに解説を行っていきます。 

(2)株主代表訴訟の手続の流れ―会社が訴訟提起しないときに、株主代表訴訟を提起 

株主代表訴訟とはいえ、実際のところ、株主がいきなり訴訟を提起するわけではありません。 

訴訟を起こしたい株主は、まず監査役が(監査役設置会社の場合)、役員への責任追及訴訟を行うよう、会社に対して請求します。 

その上で、会社が60日以内に、訴訟を提起しない場合、または提訴しないという回答を得た場合に初めて、株主自身が会社を代表して、役員の責任を追及する訴訟を起こすことができるのです。

(下図参照) 

株主代表訴訟の一般的な流れ 

ちなみに、この株主代表訴訟を起こすことができるのは、会社の株式を6か月以上前から継続して保有している株主のみとなっています。 

(3)訴訟の狙いは?株主には一銭の得もないのになぜ提起されるのか 

株主代表訴訟で株主が勝っても、役員は、会社に損害賠償をするだけであり、株主には、お金は一銭も入りません。それどころか、株主代表訴訟で、会社の株価が下落して(場合によっては、株価暴落に至り)、株主として、損害をこうむる可能性すらあります。また、役員の支払能力等の問題から、会社の損害額と比べて、ごく少額での和解で終わるケースもよく見受けられます。 

それでも株主が株主代表訴訟を起こすのは、一体なぜなのでしょうか。 

それは、問題が起こったときに、役員にも直接の痛みを負わせることによって、「役員が義務違反をすれば、自分の身にもデメリットが降りかかる。」と知らしめ、将来の義務違反を抑止する効果を期待している、というのが答えのひとつです。現に、違法な企業活動を監視しているNPO 法人や活動家等が、株主代表訴訟を支援していることもあります。 

株主の立場からすれば、いわば「義憤に駆られて」とも言うこともでき、不祥事が起こったにも関わらず、会社の対応が不誠実な場合に、役員への直接的な責任追及を求める株主代表訴訟が提起されることも少なくありません。 

また、中小規模の会社で、経営権をめぐる内部紛争から、株主代表訴訟が提起される例も見られます。

2、これが株主代表訴訟だ!(参考例)

ここからは、株主代表訴訟の内容をより具体的にイメージできる、実際の事例をいくつかご紹介していきます。 

取締役をはじめ、役員の責任は、とても重いものです。自分が引き起こした不祥事について責任を問われるのはもちろん、会社で発生した不祥事等について、きちんと把握できていなかった、未然防止措置を講じていなかった、事後の対処に問題がある、などという場合も、責任を追及される可能性があります。 

「他の役員がやったことだ。自分の担当ではない。」
「現場が勝手にやったこと事だ。自分は知らなかった。」
そんな言い訳は、通用しないのです。 

というのも、取締役等、役員には、会社の内部統制システムを構築・運用する責任があります。会社の中で起こっていることを把握して、コントロールすることが役員の義務です。善良なる管理者として、それだけの高度な責任が求められているのです。 

その一方、どんなに有能な役員でも、社内で起こっているすべての物事を知り尽くして対応することはできません。一体、どこまでが役員の責任の範疇になるのか、今回は、役員の責任が認められた事例、責任が否定された事例を、それぞれ2つずつご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。 

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(1)大和銀行ニューヨーク支店巨額損失事件(現在の「りそな銀行」) 

当時の大和銀行ニューヨーク支店で、現地の行員が、運用の失敗から無理な取引を重ね、最終的に11億ドル(当時の為替レートで約1100億円)の損失を出しました。行員が、上層部宛の手紙で自白しますが、その後の上層部の対応のまずさから、同行は、米国連邦政府から「隠蔽」と断じられ、3億4000万ドル(当時の為替レートで約350億円)の罰金を払うこととなり、米国から完全撤退、頭取らは辞任します。 

当時の取締役らに対し、日本の株主は、「銀行に損害を与えた」として、株主代表訴訟を提起。平成12年9月20日、大阪地方裁判所は、総額829億円の損害賠償を命ずる判決を下しました(その後、旧経営陣49人が、総額およそ2億5000万円を銀行に支払うことで和解)。 

大阪地裁判決では、「取締役には、『内部統制システム』を構築する責任がある」と判断し、取締役は、リスク管理体制を構築し、自分の担当業務のみならず、互いの業務を相互に監視する責任があること、そして従業員の違法行為を防止するための法令遵守体制を確立する義務があることが明確に示されたのです。 

(2)ダスキン肉まん事件―製品の欠陥を公表しなかった責任を問われる 

こちらは、平成12年10月から12月にかけて、ダスキン傘下のミスタードーナツで販売していた「肉まん」に、国内で無認可の添加物が使われていた事件です。ダスキンは、取引業者に口止め料を払う等の隠蔽工作まで行い、平成14年5月まで、この事実を伏せていました。 

株主代表訴訟において、平成19年1月18日、大阪高等裁判所は、取締役らに合計53億円の損害賠償責任を認める判決を下しました。また、平成19年6月9日、大阪高等裁判所は、隠蔽に直接加担した役員のみならず、それ以外の役員も、積極的な損害回避の方策の検討を怠った、として責任を認めています。

(3)ヤクルト本社事件 デリバティブ取引での巨額損失の責任を問われるが、行為者以外の役員の責任を否定

ヤクルト本社の取締役副社長の指示によるデリバティブ取引で、同社が500億円を超える損失を被ったとして、株主代表訴訟になったものです。 

平成20年5月21日、東京高等裁判所は、当該副社長の責任は認めましたが、他の役員らの責任は否定しました。同社のリスク管理体制は、他の事業会社には劣らず、当時の知見を前提とすれば、相応のリスク管理体制があったと認定され、他の役員の監視義務違反は認められませんでした。 

(ただし、各社のリスク管理体制は日進月歩です。かつて適切であると認められた水準が、必ずしも現在に通用するとは限らず、適宜見直しを行っていくことが役員の責任追及を回避するための重要なポイントになるでしょう。) 

(4)アパマンショップホールディングス事件―取締役の経営判断を尊重し、責任を否定 

株式会社アパマンショップホールディングス(以下「A社」といいます。)が子会社のアパマンショップマンスリー(以下「M社」といいます。)を完全子会社化する過程において、M社の他の株主(フランチャイズ加盟店等)からの株式買取または株式交換を行うこと事となりましたが、その対価が高すぎるとして、同社株主が、取締役らの善管注意義務違反による損害賠償を請求したものです。 

平成22年7月15日、最高裁判所は、「取締役に、株式買取価格決定について、善管注意義務違反はない」として、取締役の責任を否定しました。 

判旨は次の通りで、これは後ほどご紹介する「経営判断の原則」を明確にした、画期的な判決とされています。 

①A社によるM社の完全子会社化は、A社事業再編計画の一環であり、完全子会社化のメリットの評価や将来予測にわたる経営上の専門的な判断に委ねられている。 

②M社株主には、事業の遂行上重要なフランチャイズ事業の加盟店等が含まれる 

③M社の非上場株式としての評価額には相当の幅があり、事業再編による企業価値増加も期待できた。 

④買取価格決定に至る過程で、経営会議の検討、弁護士意見の聴取等の手続が履践された。 

3、株主代表訴訟には濫用等を防止する制度がある 

ここで、株主代表訴訟の濫用等を防止する制度についても、簡単に見ていきましょう。 

(1)訴えの却下 

訴えを提起する株主や第三者の不正な利益を図った場合、または、会社に損害を加えることを目的とする場合には、株主代表訴訟は認められません。ただし、不当な訴訟として訴えが却下される事例は、あまり多くないと言われています。 

(2)濫訴の防止-担保提供命令 

訴えられた役員が、責任追及訴訟が「悪意」のものであることを疎明した(事実が一応確かなことらしいという裁判官の心証を得た)場合には、裁判所は原告株主に、一定額の担保を立てることを命じることができます。ただし、この担保提供命令も、あまり利用されていません。 

なお、ここでの「悪意」とは、「請求に理由がないと知りながら提訴した」場合や、「代表訴訟を手段として、不当な目的のために提訴した」場合のことを指します。 

4、株主代表訴訟リスクへの対応 

続いて、株主代表訴訟に対して会社側は、どのような対応を取るべきなのか、事前・事後の対策について、それぞれポイントをチェックしていきましょう。

(1)事前の対策(取締役や会社が取っておくべき対策) 

①内部統制システム・リスク管理体制の構築 

前述2で、株主代表訴訟の具体例を挙げましたが、取締役等の役員には、「内部統制システム」を構築・運営する責任があります。すなわち、社内のリスク管理体制を構築し、自分の担当業務のみならず、他の役員の担当業務を相互に監視する責任がある、従業員の違法行為を防止するための法令遵守体制を確立する義務がある、ということです。 

逆に、内部統制システム・リスク管理体制を適切に構築・運営して、責任を果たしていれば、たとえ会社に巨額の損失等の問題が生じても、株主代表訴訟で敗訴して、賠償責任を負うことはありません。

(前述2、(3)ヤクルト事件が、そのわかりやすい例です。リスク管理体制をしっかり構築・運営していたと認定されたので、問題となる取引の指示を出した役員の責任は認められましたが、それ以外の役員は「監視業務を怠った」とは認定されなかったのです。) 

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②「経営判断の原則」を考慮した意思決定 (参考:日産自動車はどうなる?) 

前述2、(4)株式会社アパマンショップホールディングス最高裁判決で確立された考え方です。 

会社の役員は、日々変動する不確実な経営環境のもとで、経営的な判断を下す必要があります。しかも、限られた時間、限られた経営資源のもとで、意思決定を下さなければなりません。 

結果として、その決定が良い結果を招かないことは十分にあり得ることで、もし仮に上手くいかなかったという結果だけで責任追及されるのであれば、役員の行動は萎縮し、会社が積極的に経営を行うことはできなくなるでしょう。 

そのため、次の要件を満たしていれば、会社役員は、善管注意義務違反にならない、という原則が「経営判断の原則」です。 

1.経営の意思決定のために、十分な情報を集める。 

2.様々な選択肢を検討して、意思決定を行う。 

3.意思決定においては、会社の意思決定機関や外部弁護士等の専門家の意見を聞く等、適切な手続を行う。 

要するに、情報収集のアンテナをしっかりと張り、様々な選択肢を冷静に比較し、社内の意思決定手続を遵守し、専門家の意見等もしっかりと聞くことで、意思決定の過程や内容が、著しく不合理なものにならないように注意することが重要です。 

(参考)日産自動車はどうなる? 

経営判断の原則に関して、日産自動車の問題を考えてみましょう。 
ワンマン経営者が勝手な判断をして、周りの役員が、見て見ぬふりをしていればどうなるでしょうか。その役員たちは、「相互監視義務を怠った」等として、株主代表訴訟で、責任追及されることにもなり得るでしょう。 
日産自動車の事例は、その点で注目しておくべきです。 

③役員の責任の免除と限定 (総株主の同意、株主総会決議、取締役会決議、責任限定契約) 

会社法には、役員の責任を免除したり、限定したりする次のような制度もあります。 

しかし、手続が厳格であったり、一部の責任免除にとどまるなど、さまざまな制限があることに注意が必要です。なお、事前の対応としては、下記4のみですが、便宜上、4つの制度をここでまとめて紹介します。 

  1. 総株主の同意:すべての株主の同意が得られた場合は、役員の責任の限定や免除を行うことができますが、現実的には、ごく小規模な会社でしか適用できないでしょう。
  2. 株主総会特別決議:役員が、任務懈怠について重過失がない場合に、「最低責任限度額」を超える部分のみ免除することができる制度です。最低責任限度額は、取締役の役職や退職慰労金、ストックオプション等の条件によって異なります。
  3. 取締役会決議による免責:役員が、任務懈怠について重過失がなく、定款に定めがある場合に、「最低責任限度額」を超える部分のみ免除することができる制度です。
  4. 責任限定契約:業務を執行しない役員について、重い責任を課すと、役員のなり手がいなくなるということからできた制度です。役員が、任務懈怠について重過失がないという要件を満たす場合、会社に対する損害賠償責任が一定の額に制限されます。

④会社役員賠償責任保険(D&O保険) 

役員が、責任追及を受けたときのリスクをヘッジする方法として、「会社役員賠償責任保険」(D&O保険)があります(D&OはDirectors and Offcersの略です)。 

これは、法律上の損害賠償の補償や訴訟に要した費用等を保険金として支払うもので、 会社が保険契約者となり、全役員を被保険者として、保険会社と契約します。 

一部の役員だけを被保険者にすることは許されず、役員が、個人的に保険契約を締結することもできません。 

退任した役員や、役員死亡後の相続人への責任追及も考慮して、これらの方々も被保険者とみなされるように設計されています。 

また、被保険者には、執行役員等の重要な使用人や、子会社役員等も加えることができます(親会社の株主は、一定の要件を満たす子会社役員に対して、責任追及の訴えを提起することができます(多重代表訴訟)。これへの対応ともなります)。 

ただし、役員の公序良俗違反に係る行為については補償しない、といった免責事由もあるため、注意が必要です。 

⑤不祥事発生時の誠実な対応 

前述の通り、株主代表訴訟は、義憤にかられた株主から提訴されることが多いものです。そのため、不祥事発生時の誠実な対応が、株主代表訴訟を抑止することに繋がる、と考えることもできるでしょう。 

冒頭でご紹介した男性の質問にあったリコール問題も、お客様の目線に立った速やかな情報提供や、記者会見での誠実な対応等が、株主代表訴訟を避けるために有効な対処法のひとつになります。人命に関わるような重要な問題であれば、なおさらのことです。危機管理のあり方については、様々な成功事例・失敗事例がありますので、法務・総務等の管理部門の担当者の方は、このような問題にも、普段から関心を持って情報を集めておくことをおすすめします。 

(失敗事例) 

  • 前述2(2)ダスキン肉まん事件 
  • 雪印乳業集団食中毒事件:事件の記者会見において、社長が、「わたしは寝ていないんだよ。」と放言して、ますます世の怒りを買いました。危機管理の失敗事例として、よく取り上げられます。 

(成功事例) 

ジョンソン・エンド・ジョンソン「タイレノール事件」

同社の鎮痛頭痛薬について、服用した人が、次々に突然死する事件が発生。 
原因不明な中で、同社トップは、「まず顧客を守ることが大切」と判断し、「タイレノールを一切服用しないこと」という警告を発信、自主的に商品回収を行いました。原因は、いまだに判明していませんが、同社の行動は、「ビジネス史上最も優れた危機対応」として語り継がれています。 

(2)発生時の対応 

①弁護士との速やかな協議 

株主代表訴訟は、対応を誤れば、会社にも、役員にも、甚大な影響を及ぼします。 しかも、多くの会社にとっては、ほとんど馴染みがないものです。 

事態発生時には、速やかに専門の弁護士と相談して、対応を行っていきましょう。 

②証拠書類等の確実な保存(廃棄・隠蔽はもってのほか) 

発生した問題に関する証拠書類や記録等は、確実に保管してください。 

都合の悪いものを隠したり、廃棄したりすることは、訴訟の際に、会社に著しい不利益をもたらします。 

これについては、民事訴訟法第220条で文書の提出義務が、第224条でも、以下のように定められていますので、よくよく注意しましょう。 

第二百二十四条 当事者が文書提出命令に従わないときは、裁判所は、当該文書の記載に関する相手方の主張を真実と認めることができる。 

 当事者が相手方の使用を妨げる目的で提出の義務がある文書を滅失させ、その他これを使用することができないようにしたときも、前項と同様とする。

(参考)http://elaws.e-gov.go.jp

③会社の補助参加(被告側(役員等)への参加)(会社法第 849条第1項)  

株主が、株主代表訴訟を提起した場合には、会社に対して訴訟告知をし、会社は、他の株主にも、その事実を知らせなければなりません。これは、会社や他の株主にも、訴訟に参加する機会を与えるためです。 

会社は、当該役員に責任がないと考えていても、役員が敗訴してしまうと、会社の意思決定方法に問題があったということになり、今後の業務にも、多かれ少なかれ影響が出てくるでしょう。 

そのため、会社は、役員の訴訟遂行を助けるために、被告役員側に訴訟参加(補助参加)するのが通例です。ちなみに、この場合は、監査役等の同意が必要になります。 

④危機管理の広報の大切さ 

会社で不祥事が発生した場合は、適切なタイミングで記者会見を開く、ホームページで公式にアナウンスを行う等、誠実に対応を進める意思があることを、世間に理解してもらうことが何より大切です。 

世論・マスコミを敵に回すと、後々の会社のイメージにも大きな悪影響が出てしまいますので、出すべき情報はきちんと提示していきましょう。 

5、株主代表訴訟はどのように決着するのか

株主代表訴訟が提起されたとき、最終的には「和解」または「判決」で決着することになります。 

(1)和解 

大和銀行の例で見られるように、役員の資力等も考慮して、和解という結末を迎えるケースも珍しくありません。和解には、会社も当事者として加わることができ、その場合には、会社と株主間でも、同時に株主代表訴訟が決着することになります。 

なお、会社が和解の当事者になっていないときには、裁判所は、会社に対して和解内容を通知し、異議があれば2週間以内に、その旨を述べるよう催告します。会社が和解内容を承認すれば、通知された和解内容で決着し、異議を述べたときには、和解の効力は、会社や他の株主には及びませんので、新たな訴訟の提起等の可能性も残ることになるでしょう。 

(2)判決 

判決が出された場合には、原告の勝訴・敗訴に関わらず、その効力は、会社にも及びます。 

株主が勝訴した場合には、会社が利益を受けられますので、株主は会社に対して、弁護士費用等の請求もできます。一方、役員が勝訴した場合には、役員が会社に対して、弁護士費用等の請求ができると考えられています。 

まとめ

以上の通り、株主代表訴訟は、大変込み入った内容です。 

万が一、訴訟が提起されれば、速やかに弁護士と相談することが、1番の対処法となります。

それに限らず、普段から専門の弁護士と緊密に連絡を取り、会社のリスク管理のあり方等の助言を受けて、日常的な管理体制の構築・運営を心がけていきましょう。 

※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

ベリーベスト 法律事務所弁護士編集部
ベリーべスト法律事務所に所属し、企業法務分野に注力している弁護士です。ベリーベスト法律事務所は、弁護士、税理士、弁理士、司法書士、社会保険労務士、中国弁護士(律師)、それぞれの専門分野を活かし、クオリティーの高いリーガルサービスの提供を全国に提供している専門家の集団。中国、ミャンマーをはじめとする海外拠点、世界各国の有力な専門家とのネットワークを生かしてボーダレスに問題解決を行うことができることも特徴のひとつ。依頼者様の抱える問題に応じて編成した専門家チームが、「お客様の最高のパートナーでありたい。」という理念を胸に、所員一丸となってひたむきにお客様の問題解決に取り組んでいる。
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