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債権回収の時効期間は?効力がなくなる前に債権回収する方法も解説
債権回収では、「時効」に注意する必要があります。
債権には「時効」というものがあるため、取引先が売掛金などを支払ってくれない場合、そのままにしておくと時効にかかり、契約したお金を回収できなくなってしまう可能性があるのです。
とはいえ、取引先に対していくら催促しても、なかなか支払ってもらえずに困ってしまうこともあるでしょう。
そんなとき、債権回収における時効に関する手続きなどの法律知識を正確に知っていれば、時効を更新(中断)させたり、一時猶予させたりして、債権消滅という最悪の事態を回避することが可能になります。
そこで今回は、
- 債権回収の時効期間
- 債権回収の時効を更新(中断)や一時猶予させる方法
- 債権回収の時効が迫ったときにやるべきこと
などについて、債権回収に詳しいベリーベスト法律事務所の弁護士が解説していきます。
他にも、万が一、時効が完成してしまった場合に債権回収のためにできることもご紹介します。思うように債権回収ができず、時効が気になる方のご参考になれば幸いです。
債権回収の方法についてもっと詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。
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1、債権回収における時効とは
そもそも時効とは、ある事実状態が一定の期間にわたって継続した場合に、真実の権利関係がどうであるかとは関係なく、法律上においてもその事実状態を尊重して権利の取得や喪失といった効果を認める制度のことです。
債権に時効があるということはほとんどの方がご存じのことと思いますが、漠然と「10年以内に債権を回収すればいいだろう」とお考えの方も多いのではないでしょうか。
しかし、債権の種類によって時効期間は異なりますし、民法改正によって変更された点もあります。
ここでは、債権回収における時効期間や、時効がいつからスタートするのかについて詳しくご説明します。
(1)民法改正によって時効期間は変更された
債権回収における時効について最も基本となる民法の規定は、第166条1項です。
第百六十六条 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。
引用元:民法
つまり、相手方に対して支払いを請求できる状態になったことを知ったときから5年、知らなくても法律上の請求が可能な状態になったときから10年が経過すれば、債権は時効で消滅するということです。
この規定は、2020年4月1日から施行されている新民法のものです。改正前の旧民法においては、以下のように規定されていました。
第百六十七条 債権は、十年間行使しないときは、消滅する。
引用元:旧民法
旧民法では、シンプルに10年で時効消滅すると規定されていました。今でも時効といえば「10年」というイメージをお持ちの方も多いかと思いますが、現在は変更されていますので、ご注意ください。
なお、2020年3月31日以前に発生していた債権には旧民法が、同年4月1日以降に発生した債権には新民法が適用されることにも注意が必要です。
(2)【債権の種類別】時効期間の一覧
旧民法では、上記の一般規定とは別に、債権の種類別に異なる時効期間が細かく定められていました。しかし、新民法においてはその規定の多くは廃止され、上記の新民法第166条1項の規定に統一されました。
もっとも、新民法においても、いくつかは債権の種類別に異なる時効期間が定められているものもあります。以下に、旧民法における時効期間と対比してまとめた一覧表を掲げておきますので、参考になさってください。
債権の種類 |
旧民法 |
新民法 |
定期給付債権 |
5年 |
・権利を行使することができることを知った時から5年 ・権利を行使することができる時から10年 |
医師・助産師・薬剤師の職務に関する債権 |
3年 |
|
弁護士・公証人の職務に関する債権 |
2年
|
|
売掛金 |
2年 |
|
給料債権・自営業者の報酬請求権・運送料・旅館や飲食店等の料金等 |
1年 |
|
不法行為に基づく損害賠償請求権 |
・損害及び加害者を知った時から3年間行使しないとき ・不法行為の時から20年を経過したとき |
・損害及び加害者を知った時か3年間行使しないとき ・不法行為の時から20年間行使しないとき |
人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権 |
・不法行為については同上・債務不履行については10年 |
不法行為、債務不履行とも、 ・損害及び加害者を知った時から5年間行使しないとき ・不法行為の時から20年を経過したとき |
(3)時効期間はいつからスタートするの?
新民法では、債権の時効期間の起算点(スタートする時期)が2種類あります。
ひとつは「債権者が権利を行使することができる時」(客観的起算点)で、このときから10年の時効期間がスタートします。
もうひとつは「債権者が権利を行使することができることを知った時」(主観的起算点)で、このときから5年の時効期間がスタートします。
例えば、A社が2021年1月にB社へ商品を納品し、代金は末日締めの翌月15日払いの契約をしたとしましょう。この場合、売掛金の支払期限は2021年2月15日となります。
ただし、民法には「初日不算入の原則」(第140条)がありますので、支払期限の翌日である2021年2月16日が時効の起算点となります。
通常はこの日が客観的起算点であり、かつ、主観的起算点でもあるということになります。しかし、何らかの事情で債権者が後で権利を行使できることを知った場合は、その日の翌日が主観的起算点となります。
そして、客観的起算点から10年または主観的起算点から5年のどちらか早い方の期間が経過するまでに債権者が権利を行使しなければ、時効が完成します。
一方で、旧民法における債権の時効の起算点は客観的起算点のみです。
例えば、A社が2019年1月にB社へ商品を納品し、代金は末日締めの翌月15日払いの契約をした場合、売掛金の支払期限は2019年2月15日であり、翌16日が時効の起算点となります。
この場合は新民法の施行前に債権が発生していますので、旧民法が適用されます。したがって、債権者がいつ権利を行使できることを知ったかにかかわらず、10年後である2029年2月15日の24時までに権利を行使しなければ時効が完成します。
2、債権回収のために時効を更新する5つの方法
債権の時効は、いったんスタートすれば止まらないというものではありません。一定の事由があれば、時効を更新することも可能です。
時効の更新とは、一定の事由がある場合に、それまで進行していた時効期間リセットされてゼロになり、また新たに時効期間がスタートすることをいいます。
時効の更新が認められる事由は、以下の5つです。これらの事由によって時効が進行された場合、新たに進行する時効の期間は10年となります(民法第169条1項)。
(1)訴訟
相手方に対して訴訟を提起して、裁判上で債権の請求を行えば、その時点で時効の進行が一時停止し、時効完成が猶予されます。
そして、判決や和解で債権が認められた場合は、判決が確定した時または和解が成立したときから新たに時効の進行がスタートします(民法第147条1項1号、2項)。
なお、訴訟を途中で取り下げた場合時効は更新されず、一時停止していた時効が再び進行しますのでご注意ください。
(2)支払督促
訴訟の他に、支払督促を申し立てることによっても時効を更新できます。
支払督促とは、簡易裁判所を通じて債務者に対して金銭債権の支払いを督促してもらえる手続きのことです。仮執行宣言支払督促が発付されると時効が更新され(民法第147条1項2号、2項)ます。
支払督促の場合は、2週間以内に債務者が異議を申し立てれば訴訟に移行することに注意が必要です。
支払督促について詳しくは、こちらの記事をご覧ください。
[nlink url=”https://best-legal.jp/payment-reminder-11692/”]
(3)民事調停
民事調停を申し立てることによっても、時効の更新が可能です。
民事調停とは、裁判所において調停委員を介して、債権者と債務者が争いを解決するための話し合いをする手続きです。
話し合いがまとまると調停が成立し、調停調書が作成されます。このときに時効が更新され(民法第147条1項3号、2項)。
調停が不成立となったり、調停を途中で取り下げた場合時効は更新されず、一時停止していた時効が再び進行しますのでご注意ください。
(4)債務者の承認
債務者から債務の承認を得ることでも、時効を更新させることができます(民法第152条1項)。
債務を支払ってもらえなくても、債務者が債務を認めて「わかりました」「支払いますが、もう少し待ってください」などの言葉を発すれば、時効が更新されます。
口頭での承認でも時効更新の効果は発生しますが、証拠がなければ「言った・言わない」の争いが生じ、裁判をしても債務者から時効を主張されるおそれがあります。
そのため、債務者の承認を得るときは、書面を作成しておくか、債務者の発言を録音しておくようにしましょう。
書面を作成するときは、「債務残高確認書」を作成するのが一般的ですが、簡易な念書や誓約書などでも有効です。ただし、承認する債務の内容や作成日付、債務者の氏名・住所は必ず明記する必要があります。
(5)債務者の一部弁済
債務者が債務の一部を弁済したときも時効が更新されます。なぜなら、一部でも支払うことで債務を承認したことになるからです。
したがって、売掛金のうち一部でも相手方が時効期間内に支払えば、それで時効更新となります。
そのため、なかなか支払わない相手方に対して「請求しても無駄だ」と思わずに、しっかりと請求することが大切です。
3、債権回収のために時効の完成を一時猶予させる3つの方法
前項でご紹介したのは、それまで進行していた時効期間をなかったことにする方法でした。
一方で、時効の進行がリセットされるわけではないものの、時効の完成を一定期間だけ猶予できる方法もあります。
以下の3つの方法によって、一定期間だけ時効を延長することが可能になります。
(1)催告
相手方に対して支払いを催告することによって、時効を6ヶ月延長することができます(民法第150条)。
催告とは、裁判外で債務者に対して支払いを求めることをいいます。
内容証明郵便を使わなくても、普通郵便で請求書を送付したり、口頭で支払いを求めることによっても催告の効果は発生します。しかし、やはり証拠がなければ「言った・言わない」の争いとなり、裁判をしても相手方から時効の完成を主張されるおそれがあります。
内容証明郵便で催告をしておけば、催告の内容と、その催告が相手方に送達されたことを郵便局が証明してくれます。ですので、証拠を残す意味でも、内容証明郵便によって催告をした方がいいでしょう。
ただし、時効が延長されるのは6ヶ月だけです。催告をしても相手方が支払わない場合は、6ヶ月以内に訴訟や支払督促など、前項でご紹介したいずれかの方法によって時効を更新させる必要があります。
6ヶ月ごとに催告を繰り返しても時効が延長され続けるわけではないことに注意が必要です。
(2)協議を行う旨の合意
債務の存否や債務額について相手方と争いがある場合は、債務について協議することを合意することによって時効を延長できます。ただし、この合意は書面でしなければならないことにご注意ください(民法第151条)。
この方法によるときは、次のいずれか一番早いときまで時効が延長されます。
- 合意があったときから1年
- 協議期間として1年に満たない期間を定めたときはその期間
- 当事者の一方から協議続行を拒絶することを書面で通知したときは、そのときから6ヶ月
この方法は改正民法によって新たに認められたものですので、2020年4月1日以降に発生した債権についてのみ適用されます。
(3)仮差押え・仮処分
仮差押え・仮処分を申立てることによっても、時効を延長することができます(民法第149条)。
仮差押え・仮処分とは、訴訟などの結果を待っていては差し押さえるべき相手方の財産が失われるおそれがある場合に、緊急的に財産の処分を制限する裁判所の命令のことです。
裁判所が仮差押決定・仮処分決定を発令すると、そのときから6ヶ月、時効が延長されます。
この場合も、6ヶ月以内に訴訟などによって時効を更新させる必要があることにご注意ください。
4、時効が完成した場合でも債権回収はできる?
時効が完成してしまうと、もはや債権の回収は一切できなくなると思われがちですが、その理解は正確ではありません。
次の2つの場合には、時効が完成した後でも債権を回収することが可能です。諦めずに検討してみましょう。
(1)相手方が時効を援用しないとき
時効が完成しても、自動的に債権が消滅するわけではありません。債権が消滅するのは、債務者が時効を「援用」したときです(民法第145条)。
援用とは、時効の法律効果を受けようとする債務者の意思表示のことで、簡単に言えば「時効期間が過ぎたので債務は支払いません」と債務者が主張することです。
時効を援用するかどうかは債務者の自由です。したがって、債権者としては時効を援用されるまでは請求もできますし、支払いを受けることもできるのです。
時効の完成後に債務者が「承認」や「債務の一部弁済」をしたときは、債務者はもはや完成した時効を援用することはできなくなる可能性が高いです。そのときから新たに10年の時効期間がスタートします。
(2)相手方に対する債務と相殺するとき
時効が完成した場合でも、完成前に相殺できる状態になっていた反対債権があるときは、時効が完成した債権をもって相殺できます(民法第508条)。
例えば、相手方に対する500万円の売掛金について時効が完成した場合で、その前に相手方に対する300万円の買掛金が発生したとしましょう。この場合、売掛金の時効が完成した後でも、買掛金と相殺することができるのです。
つまり、300万円については相手方に対する支払い義務を免れますので、300万円の限度で債権を回収したのと同じ効果を得ることができます。
5、債権回収の時効が迫っているときの対処法
時効が完成した後でも債権を回収する方法があるとはいえ、確実とはいえません。そのため、債権は時効完成前に回収することが大切です。
では、時効の完成が迫っているときにはどうすればよいのでしょうか。
(1)内容証明郵便を送付する
時効を延長して時間を稼ぐためには、相手方へ内容証明郵便を送付して催告する方法が考えられます。6ヶ月の猶予があれば、訴訟などの時効更新措置をとることができるでしょう。
もっとも、訴訟手続きに慣れていない方が準備に手間取っていると、6ヶ月はあっという間に過ぎてしまいます。その場合は、早めに弁護士に相談した方がよいでしょう。
(2)相殺できる債務があれば相殺する
相殺できる債務がある場合は、時効完成前でも相殺してしまった方がよい場合もあります。
相殺すれば、相手方の支払い能力には関係なく債権回収効果を得ることができます。
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(3)債権譲渡を受ける
債務者が第三者に対して有する債権を譲渡してもらうという方法も有効です。
債権は、その性質に反しない限り、債務者の意向にかかわらず、譲渡人と譲受人の合意のみによって譲渡できます(民法第466条1項)。
例えば、A社がB社に対して債権をもっていてこれを回収したいが、B社に資力がなく支払ってくれないという場合、B社のC社に対する売掛金債権をA社に譲渡してもらうことによって、A社は自己の債権としてC社から取り立てることが可能になります。
なお、債権譲渡を受けただけでは、譲り受けた債権の時効は完成猶予も更新もされないことに注意しましょう。
例えば、B社がC社に対して売掛金債権を行使できることを知ってから4年後にその債権を譲り受けた場合、あと1年以内に時効の完成猶予措置または更新措置をとらない限り、時効が進行し続けて1年後に消滅時効の完成を迎えてしまいます。
6、債権回収で時効が気になるときは弁護士へ相談を
債権回収では、時効期間内に相手方から金銭を回収してしまうか、時効の完成猶予措置または更新措置をとらなければ回収できなくなってしまいます。
とはいえ、これらの措置をとるにも手間と時間を要するため、手間取っていると時効が完成してしまうおそれもあります。
そんなときは、早めに弁護士へ相談することをおすすめします。債権回収に詳しい弁護士に相談すれば、状況に応じて最適な措置についてアドバイスが受けられます。
債権回収を弁護士に依頼すれば、時効の完成猶予・更新も含めてすべてを任せることができます。
まず、内証証明郵便による催告書も弁護士が作成して相手方に送付してくれます。心理的なプレッシャーを与えることが出来るため、弁護士名義の催告書を送付するだけで、相手方が早期に債務全額を支払うこともよくあります。
訴訟などの法的手続きが必要となった場合でも、弁護士が正確な書類を作成して迅速に手続きを行ってくれますので、手間取っている間に時効が完成してしまうという心配もなくなります。
訴訟手続きも有利に進めやすくなるので、債権を十分に回収できる可能性が高まることでしょう。
まとめ
債権回収においては、時効が完成し、相手方に時効を援用されてしまうと、相殺できる債務がない限り、弁護士に依頼しても金銭を回収することはできなくなってしまいます。
また、売掛金などの債権は、時効期間にかかわらず時間が経てば経つほど回収できる可能性が下がっていきます。
そのため、債権回収が思うようにいかない場合には、早めに弁護士に相談するなどして適切に対処することが重要です。
お困りのときは、弁護士のアドバイスを受けてみましょう。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています