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強制執行による債権回収|流れや失敗ケース7つを解説
支払いに関するトラブルは、取引を行う上で最も避けたい問題の典型といえます。
取引先がいつまでも代金を支払ってくれないことから、強制執行という法的手段による債権回収を検討している方もいるかもしれません。
しかし、強制執行の申立ては、すべてを裁判所に任せきりにできるというものではなく、債権者側の準備不足等が原因で、失敗に終わってしまうことも珍しくありません。
そこで今回は、
- 強制執行手続の基本的な流れ
- 強制執行に失敗してしまう7つのケース
について解説していきます。ご参考になれば幸いです。
1、強制執行とは
強制執行とは、判決等の内容に従わない債務者がいる場合に、公権力(裁判所の命令等)に基づいて、判決の内容を実現させるための手続です。
強制執行の典型例としては、債権者が長期間返済を滞納している債務者の財産を差し押さえ、債権者がそれを売却して得た金銭を借金残額に充当する、というケースが挙げられます。
本項では、強制執行の基本的知識を確認していきます。
(1)通常の強制執行と担保権実行
強制執行の手続は、大きく分けて「通常の強制執行」と「抵当権等の担保権の実行手続」とに分けることができます。
住宅ローンを滞納した場合に、抵当権者であるローン債権者(保証会社)によってマイホームが差し押さえられてしまうケースが担保権実行の典型例となります。
どちらも主として、金銭債権を回収するために行われるものであることにはかわりがありませんが、担保権実行の場合には、通常の民事執行とは異なり、強制執行の申立てに先だって民事訴訟や支払督促といった手続を行う(=債務名義を獲得する)必要がない点に大きな特徴があります。
(2)強制執行の種類
通常の強制執行は、その対象となる債務者の財産によって、次のように分類することができます。
- 不動産執行(競売・強制管理)
- 債権執行
- 動産執行
①不動産執行
不動産執行は、債務者が保有する不動産を対象に行われる強制執行で、競売による方法と、強制管理による方法の2つの執行方法があります。
競売は、読者の方のイメージ通り、不動産を差押えた上で裁判所が競売にかけ、その売得金(から費用を差し引いた額)を債権者に配当する方法です。
強制管理というのは、管理人を選任し、不動産から生じる賃料収入を管理人に交付させ、債権者への配当に充てるという強制執行の方法です。
②債権執行
債権執行は、債務者が有している第三者に対する債権を差押えて、債権者が取り立てる(配当する)強制執行の方法です。
債権執行の典型例は、債務者の給料債権や預貯金債権を差し押さえるケースですが、債務者が法人である場合には、売掛金債権等を差し押さえるケースも珍しくありません。
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③動産執行
動産執行は、不動産以外の有形の財産に対する強制執行のことです。
したがって、50インチを超えるような大型テレビ等の高額な家電製品や、ブランド品を差し押さえることで債権回収をはかれる場合もあります。
しかし、債務者の生活に欠かせない財産については、法律によって差押えが禁止されています(民事執行法131条)。
そのため、一般的な生活家電・家具の類は差押えることができないのが原則です。
また、動産は売却価値が低いものも多いため、動産執行は高額な債権を回収する方法としては馴染まない場合が多いといえます。
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2、強制執行の基本的な流れ
強制執行で債権回収をはかろうとする場合の基本的な流れは、下記のとおりになります。
履行期の到来(支払期限の到来、債務者の期限の利益の喪失)
↓
債務名義の取得(民事訴訟・督促手続)
↓
執行文付与の申立て(債務名義発行機関)
↓
強制執行の申立て
↓
裁判所による差押え
↓
換価・配当もしくは取立て
以下では、上記の流れの中で、重要になるポイントについて解説を加えていきます。
(1)強制執行申立ての要件
強制執行がなされると、公権力によって債務者の所有権が強く制限される(剥奪される)ことになってしまうため、強制執行が認められるためには、申立人が正当な権利者であることが明らかになっている必要があるといえます。
権利のない者の申立てによって、債務者(とされる人)の財産権が侵害されるようなことになってはいけないからです。
そのため、強制執行を申し立てる際には、申立人が正当な権利者(債権者)であることを明らかにするために、「債務名義」と呼ばれる書類が必須となります。
①債務名義とは
債務名義とは、権利関係(当事者名・権利の内容)が記載された上で、公証された書類のことです。
強制執行を申し立てる際には、民事執行法22条に定められている以下の書類(債務名義)のいずれかが必ず必要となります。
- 確定判決
- 仮執行の宣言を付した判決
- 抗告によらなければ不服を申し立てることができない裁判
- 仮執行の宣言を付した損害賠償命令
- 仮執行の宣言を付した届出債権支払命令
- 仮執行の宣言を付した支払督促
- 訴訟費用、和解・家事事件の費用の額を定める裁判所書記官の処分等
- いわゆる執行証書(債務者が直ちに強制執行に服することを承諾した上で作成された公正証書)
- 確定した執行判決のある外国裁判所の判決
- 確定した執行決定のある仲裁判断
- 確定判決と同一の効力を有するもの(和解調書・調停調書等)
一般的な強制執行では、確定判決もしくは確定した仮執行宣言付き支払督促によって申し立てられることがほとんどです。
なお、私的な契約書であっても、債務者が直ちに強制執行を受けることを受諾した内容を記載した上で公正証書にした場合(いわゆる執行証書を作成した場合)には、裁判等の手続を経ることなく、強制執行を申し立てることは可能です。
ただし、公正証書の作成には費用等の負担も生じるので、特に重大な契約を交わすような場合に限定されるのが一般的といえます。
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②執行文の付与
実際に強制執行を申し立てる際には、申立てに先立って債務名義に「執行文」を付与してもらう必要があります。
執行文というのは、わかりやすくいえば、「債務名義記載の権利関係が強制執行を行うことができる効力(執行力)がある」ことを公的に証明するものです。
債務名義は、あくまでも書面が作成された時点での権利関係を記したものにすぎないので、強制執行申立ての段階で、その権利を強制的に実現させることができるかということまで、債務名義に求めることはできないので、それを証明する手続を行うのが執行文の付与というわけです。
執行文の付与は、債務名義を発行した機関で行ってもらうことになりますので、民事訴訟・支払督促の手続を行った(確定判決を言い渡した)裁判所に申立てをします(執行証書は、その作成をした公証人が執行文を付与します)。
(2)強制執行手続の特徴
強制執行の手続は、債務者に知らされることなく迅速に進められます。
強制執行の申立てを債務者に知られてしまえば、差押え対象財産の散逸や、執行妨害をうける可能性も生じてしまうからです。
また、すでに法律上確定している権利は、迅速に実現されるべきともいえますので、手続もできるだけ迅速に行われることが大切といえます。
したがって、強制執行の手続においては、債務名義に記載された権利関係の存否をあらためて審理・調査するということはありませんし、債務者の意見を聴取するというような手続も用意されていません。
ただし、債務者がすでに弁済していると主張しているようなケースでは、裁判所が差押えを認めた後に、債務者によって異議が述べられる可能性があります。
(3)強制執行にかかる期間
上でも述べたように、強制執行手続は、できるだけ迅速に行われるように手続自体も設計されています。
しかし、金銭回収を目的とする強制執行の場合には、差し押さえた財産を売却するための手続を実施しなければならず、そちらに時間を要するケースも珍しくありません。
特に、不動産の差押えを行う場合には、厳格に定められた競売の手続によって売却しなければなりませんので、競売手続それ自体に半年以上かかってしまうのが一般的ですし、買受人がすぐに決まらない(入札者がいない、入札額が低すぎる)ことなどを理由に、さらに時間を要してしまう可能性があることも念頭に置いておく必要があります。
3、強制執行に失敗してしまう7つのケース
強制執行は、裁判所が行う手続であることから、「強制執行さえ申し立てれば、債権は確実に回収できる」と考えている人も多いかもしれません。
しかし、強制執行も万能な手続ではありませんので、申立人(債権者)の準備不足等が原因で、失敗に終わってしまうケースも珍しくはありません。
(1)債務者の財産がわからない場合
強制執行(差押え)の申立てをする際には、差押えの対象となる財産を債権者が特定しなければならないのが原則となっています。
つまり、「何でも良いから債権額に見合った財産を差し押さえて欲しい」というような強制執行の申立てはできないということです。
実は、他人の財産について、詳細な情報を得ることは簡単なことではありません。
そのため、実際にも債務者の財産の所在がわからないことを理由に、強制執行の申立てが断念されてしまうケースは少なくありません。
このような場合には、裁判所に財産開示手続を申し立てることで、債務者が所有する財産や、銀行口座の情報等を入手することが可能です。
ただし、債務者が罰を受けることを覚悟の上で、情報開示に応じないというケースも考えられないわけではないので、財産開示手続を利用しても、必要な情報が出てこない可能性もあることには注意しておく必要があるでしょう。
(2)債務者に執行可能な財産がない
債務者が所有している財産に「強制執行可能な財産がない」というケースも、強制執行が失敗に終わってしまう原因の典型例の一つといえます。
たとえば、債務者が個人である場合には、生活に必要な家具や家電以外にめぼしい財産がないというケースも珍しくありません。
債務者が現金を持っていた場合でも、2ヶ月分の生活生計費に相当する額(33万円×2ヶ月=66万円)までは差押えも禁止されていますし、家具・家電も原則として、差押えの対象とはならないからです。
また、強制執行で回収しようとする債権額に対して差押え対象の財産価値が大きすぎるという場合も、強制執行による回収を行うことができません。
これを「超過差押えの禁止」と呼んでいますが、100万円の債権を回収するために5000万円の財産を差し押さえるというようなことは、債権者・債務者間の公平に反するというわけです。
(3)債務者の口座残額が0円という場合
債務者の預貯金債権は、強制執行の対象としてよく選択される財産です。
継続的な取引先からの債権回収のケースであれば、すでに債務者の口座情報を知っている場合も多いといえますし、2020年4月から施行された改正民事執行法では、銀行から債務者の口座情報を開示してもらうことも可能となったため、手続の利便性も高くなりました。
しかし、預貯金債権(銀行口座)に強制執行をしても、その口座の残高が0円という場合には、その強制執行は空振りとして失敗に終わってしまいます。
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(4)債務者が占有していた財産が他人所有の場合
債務者が法人であるなどの場合、当該法人の販売品(売り物)に強制執行をかける場合があります。
しかし、この場合、当該販売品が債務者所有ではない、ということがあり得ます。
現代の販売経路は大変複雑で、商品を売っているからといって、その売主の所有品であるとは限りません。
どういうことかというと、例えば外国車の販売店等では、多くのケースで、店頭に並んでいる自動車はメーカーに所有権があることが多く、このような販売スタイルを「委託販売」と呼んだりします。
要するに、メーカーは所有権を留保しながら、車の販売を販売店に委託しているのです。
強制執行は、債務者の所有物にだけしかかけることはできません。
そのため、第三者が「それは私のものです」と名乗りをあげてくれば、強制執行は失敗に終わってしまうことになります。
(5)強制執行に多額の費用がかかってしまう場合
強制執行を行う場合には、裁判所での手続にかかる費用(申立手数料・郵便切手代)等のほかに、財産の売却それ自体に費用がかかる場合があります。
そのため、差押えの対象とする財産によっては、費用倒れになってしまったり、思ったような結果にならない(回収額が少なくなってしまう)ことも考えられます。
特に、不動産の差押えをする場合には、そこに設置されている動産(家具等)については、債務者から処分の承諾を得ていない限りは、債権者の責任で適切に搬出・保管する必要があり、それにかかる費用が莫大になってしまうケースも少なくありません。
(6)他の債権者に割り込まれてしまうケース
強制執行によって債権回収を考えるケースでは、その債務者が他の債権についても未払いとなっているケースも多いと思われます。
このような場合には、自らが申し立てた強制執行手続に、他の債権者が後から介入してくることがあります(これを第三債権者の配当要求といいます)。
配当要求がなされた場合には、換価して得られた配当金は、それぞれの債権者の債権額に応じて配当されることになりますので、当初見込んでいた回収額よりも大幅に減ってしまうことも考えられます。
(7)債務者が自己破産・個人再生を申し立てた場合
債務者が負債の支払いに完全に行き詰まってしまい、自己破産・個人再生を申し立て、手続が開始した場合には、すでに差押えが開始された場合であっても、強制執行は停止されることになってしまいます。
その債務者について、自己破産・個人再生の手続が開始されてしまったときには、債務者の財産はすべての債権者への配当に充てられなければならず、個々の債権者による強制執行は禁止されることになるからです。
したがって、強制執行の申立てを検討する場合には、債務者が自己破産・個人再生の申立てに踏み切る可能性等についても、丁寧に精査しておく必要があるといえます。
4、債権回収を弁護士に依頼するメリット
強制執行による債権回収は、法律が認めた権利実現のための仕組みではありますが、ここまで解説してきたように、どのような場合でも債権を完全に満足できるという仕組みではありません。
その意味では、裁判所の権限で債権を回収してもらえるといっても、強制執行の成功率を高めるためには、弁護士のサポートが欠かせないでしょう。
債権回収を弁護士に依頼した場合には、次のようなメリットがあるといえます。
- 債務者との交渉を代わりに行ってもらえる
- 債務者の財産状況を迅速に調査できる
- それぞれのケースに適した債権回収方法を選択できる
弁護士が債権回収に介入することで債務者との交渉の余地が生じれば、強制執行に至らずに、より早期に債権の実現をはかれる可能性も高くなるといえます。
また、弁護士に依頼をすれば、弁護士会照会制度を利用して、裁判所の財産開示手続よりも簡易迅速に債務者の銀行口座情報等を入手できる可能性が生じることも大きなメリットといえるでしょう。
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まとめ
強制執行は、いつまでも支払いに応じてもらえない債権を回収するための方法としては非常に有効です。
しかし、裁判所の手続であっても、あらゆるケースで債権が完全に回収できるというわけではないことには十分注意しておく必要があります。
その意味では、強制執行による債権回収を成功させるためには、その道のプロである弁護士に対応を依頼するのが最も有効な方法といえます。
当事務所では、経験豊富な弁護士が丁寧に対応させていただきますので、債権の回収でお困りの際にはお気軽にご相談ください。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています