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従業員に訴えられたら!?使用者が知っておくべき知識と対応
従業員に訴えられたら、どのようにすれば良いのでしょうか。
対応を誤ると、紛争はより一層拡大してしまいます。
より良い形で紛争を収めるためには、ポイントを押さえた対応が不可欠になってきます。
本記事では、
- 従業員に訴えられたら、使用者がとるべき手段
を紹介していきます。8
本記事がお役に立てれば幸いです。
1、使用者が従業員に訴えられやすいトラブルとは
使用者が従業員に訴えられやすいトラブルを理解することで、事前に紛争の予防をすることができます。
本項では、使用者が従業員に訴えられやすい主なトラブルを見ていきましょう。
(1)賃金に関するトラブル
賃金に関するトラブルとは、
- 時間外労働における割増賃金が適切に払われていない
- 退職金が支払われていない
といったものになります。
従業員は、労働の対価として賃金を得ているものであり、従業員にとって賃金に関する事項には関心が強いといえます。
そのため、賃金に関する不払い等は、従業員とのトラブルに直結してしまいます。
このトラブルを未然に防ぐために特に気を付けるべきは、勤怠管理システムをしっかりとしておくことです。
勤怠管理が甘いことにより、適切な割増賃金が支払われていない会社もあり、注意が必要です。
(2)職場内の人間関係(ハラスメント)に関するトラブル
職場内での人間関係に関するトラブルも、使用者と従業員とのトラブルの多くの原因になっております。
特に問題になるのは、職場内でのいじめやパワハラ、セクハラ等、人格権を侵害されたという場面になります。
使用者には、就業環境配慮義務(労契法5条)があり、その内容として、従業員の「生命、身体等の安全」の確保に配慮しなければなりません。
また、近年改正労働施策総合推進法が成立し、使用者は、パワハラ防止のために、必要な措置を講じなければなりません(改正労働施策総合推進法30条の2)。
さらにセクハラに関しましても、雇用機会均等法11条1項により使用者に配慮義務を課しております。
このように、使用者は、職場内のハラスメント等に対する具体的な措置を講じる必要があり、そのような措置がない事は、従業員とのトラブルを誘引することになります。
(3)労働契約終了(解雇)に関するトラブル
解雇等、労働契約終了に関しても、使用者と従業員がトラブルになりやすい場面といえます。
解雇とは、使用者からの一方的な労働契約の解約であり、従業員の承諾なく行われるものです。
そのため、従業員にとっては、とても不満を感じる場面といえます。
また、従業員は、職場を離れる以上、使用者に抗議をしやすいというのも一要因となっています。
普通解雇、懲戒解雇いずれも、法律上の手続に則って行わなければ不当解雇となります。
慎重に手続を踏むようにしましょう。
(4)従業員からの請求が不当な場合もある
一方で、従業員からの請求が不当といえる場面もあります。
例えば、ハラスメントを受けていたと主張しながら、その内容は単なる被害妄想であり、具体的な内容が一切ないということもあります。
また、懲戒事由に該当するような非行を行っており、その指導を行ったことに対して、ねじ曲げた解釈するような従業員もいるでしょう。
このような従業員からの請求に関しては、まともに対応をすることが難しいかもしれません。
しかし、大切なのは、きちんとした事実確認です。
一方的に従業員の請求が不当であるなどと決めつけることは、リスクが高いと言えます。
2、企業側が従業員に訴えられるステップ
本項では、従業員に訴えられる場合、どういった流れになるのかを解説します。
通常、いきなり訴訟というケースは少なく、訴訟の前に「交渉」を行い、その上で話し合いで解決できない場合に訴訟になることが多いです。
各ステップごとに、しっかりとした対応を迫られることになります。
ただ、以下のステップはあくまでも一般的なものであり、いきなり訴訟提起をすることも可能ですので、参考としてご確認下さい。
(1)従業員からの内容証明郵便が届く
一つ目のステップとして、従業員から使用者に請求したい内容を盛り込んだ書面が届きます。
この郵便は、普通郵便で届くことももちろんありますが、「内容証明郵便」で届くことが圧倒的に多いでしょう。
内容証明郵便とは、差出人が受取人に文書を送付した事実と送付した文書の内容を郵便局が証明してくれる郵送方法のことで、請求の事実と内容について第三者が証明をしてくれるという点で、法律上のやりとりではよく利用されます。
なお、大切なのはあくまでも内容であり、内容証明郵便か普通郵便かではありませんので、普通郵便であるからといって無視をするような対応をしてはいけません。
(2)従業員からあっせんを申立てられる
従業員からの内容証明郵便が届いた後、使用者と従業員との間で話し合いがまとまらない場合、従業員から紛争調整委員会によるあっせんを申立てられることがあります。
このあっせんという手続は、第三者である労働問題の専門家(弁護士等)が使用者と従業員との間に入り、調整をしてくれるという手続になります。
裁判所外の紛争解決手続になります。
交渉が決裂した時点で、従業員が弁護士に依頼をしている場合は、あっせんを申立てること無く、労働審判等の手続に進むことが通常です。
そのため、あっせんが申立てられる場合、従業員が自ら申立てを行っているものと考えられます。
(3)労働審判を申立てられる
あっせん手続でも話がつかない場合は、労働審判を申立てられることがあります。
労働審判とは、裁判所で行う手続であり、1名の労働審判官(裁判官)と2名の労働審判員が組織する労働審判委員会において行われます。
労働審判では、原則として3回以内の期日で審理を行うことになり、使用者と従業員との間で、話し合いによる解決ができないか調整を行います。
話し合いでは解決できなかった場合、労働審判委員会による審判が出されることになります。
審判が出された場合であっても、2週間以内に異議を行うことで、通常の民事訴訟手続に移行し、審判はその効力を失います。
そのため、労働審判手続内での話し合いが難しければ、訴訟手続を見据えて争うしかないということになります。
3、従業員からの内容証明郵便の段階で行うべきこと
以上の流れから、紛争の早期解決のためには、従業員からの郵便(内容証明郵便等)が来た際に、適切な対応をすることが必要不可欠です。
本項では、この段階で必ず行って欲しいことを解説致します。
(1)まずは請求の内容を吟味しよう
従業員がどのような内容に不満を覚えていたのか、求めている内容はどのようなものなのか等を正確に吟味する必要があります。
例えば、解雇に関する請求では、
- 職場への復帰を望んでいるのか
- 賃金相当額の金銭的な支払を望んでいるのか
等、従業員によって請求内容は異なってきます。そこをしっかりと認識しなければ、上手く交渉を行うことができません。
なお、法的な内容で分からない部分がありましたら、すぐに専門家へ相談をすることが大切です。
(2)事実関係は正確に調査を
請求の内容を確認した後は、事実関係を調査する必要があります。
まずは、関係者に話を聞き、客観的な証拠があるか確認を行います。
また、請求してきた従業員と直接関わっていた人物以外にも聞き込みを行い、事実関係に間違いがないか慎重に検討をします。
未払賃金等は、会社内に客観的な証拠があることも多くありますので、そのような重要な証拠は大切に保存し、従業員の請求内容と比較してみることも求められます。
(3)無視をすることはNG!速やかな対応が必要
従業員からの請求が不当なものであると感じたとしても、請求を無視することは絶対にやめるべきです。無視することで、従業員との紛争が良い方向に向くことは絶対にありません。
不当な請求と考えた場合であっても、そう考えた理由を従業員に説明をする必要があります。
仮に民事訴訟を提起されれば、使用者側に有利な解決ができたとしても、半年から1年間は紛争が続くことになり、また弁護士費用等の出費も必要になります。
そのような事態をなるべく避けるために、速やかな対応をとることが必要不可欠なのです。
また、いきなり従業員との話し合いがまとまらなくても、請求内容や従業員の気持ちを理解するように努めることが大切です。
なお、内容証明に対する返答は、手紙でも良いですが、できれば一度しっかりと話をする機会を設けた方が良いケースもあります。
この点は請求内容等を吟味して決めましょう。
4、従業員からあっせん申立てをされたら行うべきこと
従業員からあっせん申立てをされた際は、ある程度準備をして臨む必要があります。
あっせん手続は、原則1回しか開かれませんので、ここでの話し合いでの解決は難しい印象です。
とはいえ、せっかく第三者に介入してもらえるので、しっかりと準備をして、より良い解決ができるようにしましょう。
(1)譲り合える部分を明確にする
あっせん手続に臨む際には、まず争いのない事実関係と争いがある事実関係を明確に区別する必要があります。
従業員の言っている事の中にも、争いのない事実は少なからずあるはずです。
ここを明確にしておかないと、争点を絞ることができずに、紛争が長期化してしまいます。
あっせんのポイントは、いかに話し合うべき点を少なくするかになります。
認めるべき所は認め、提示できる解決金がある場合には、その準備もしておくべきでしょう。
(2)解決案を検討しておく
あっせん手続では、最終的にあっせん案を提示されることがあります。
それに応じるかは、具体的事案に応じて決めることになるかと思います。
しかし、あっせん手続に臨む際には、自らも解決案を考えておくということが重要です。
解決案を考えておくことで、話し合いもスムーズにいきますし、解決案を提案することで、従業員との認識の差についても把握することができるからです。
5、従業員から労働審判を申立てられたら行うべきこと
次に、労働審判を申立てられた際に行うべき事について解説をします。
労働審判では、労働審判官である裁判官と2名の労働審判員がいることに加え、審判期日も3回程度開かれますので、話し合いをまとめやすいといえます。
(1)しっかりとした答弁書を作成する
労働審判は、話し合いではありますが、その中身は訴訟に近く、申立書も訴状の様なものが提出されます。
そのため、労働審判に挑む前の準備がとても大切になります。
事実確認については、言うまでもありませんが、法的に争いが生じる場面では、条文の解釈、過去の判例等を調べた上で答弁書を作成しなければなりません。
また、労働審判は、従業員が申立ててから原則として40日以内に期日が指定されますから、準備をする時間もかなりタイトになります。
そのため、内容証明郵便を受け取った交渉段階から、裁判所での手続を見据えて、事前に準備できる点は用意をしておくことが重要です。
(2)訴訟になるリスクを踏まえる
労働審判が出された場合でも、一方が異議を申立てれば訴訟に移行します。
使用者と従業員との話し合いが難しければ、訴訟に移行することもやむを得ないことです。
しかし、その場合でも、労働審判で争点を明確化しておくことが大切になります。
そうすれば、訴訟では、労働審判で明確になった争点のみを重点的に争うことができますので、訴訟に要する期間を短縮することができます。
6、従業員から訴えられて負けた場合のリスク
従業員から訴えられた場合は、常に負けた場合のリスクを考えておかなければなりません。
訴えられる内容によってリスクは異なってきますが、以下のようなリスクが一般的に考えられます。
(1)金銭の支払い
敗訴判決の場合、未払いになっていた賃金や割増賃金、ハラスメント事案等の場合には慰謝料の支払いを命じられることになります。
遅延損害金が生じている場合がほとんどですので、その金額の支払もしなくてはなりません。
慰謝料が認められるような場合には、従業員が弁護士に依頼した弁護士費用も損害と認められることがあります。
また、解雇が無効になった場合は、職場復帰までの期間の賃金の支払いも必要になります。
このように、多額の金銭の支払いを覚悟しておく必要があります。
(2)他の従業員への悪影響
敗訴判決の場合、他の従業員へ悪影響が生じることは容易に考えられます。
他の従業員も、同じような不満を感じているのであれば、集団訴訟等に発展することも考えられます。
(3)就業規則等の変更
訴訟で負けたということは、今の労働状況に何らかの問題があるということになります。
そのため、社内環境の整備を早急にしなくてはなりません。
最も大切なのは、就業規則の作成であり、あらゆる場面を想定して、しっかりと明文化をしておくことが大事になります。
就業規則の再構築は、自社での対応では難しいこともあるかと思いますので、そのような場合は専門家等にも相談をしつつ、作成をしましょう。
7、従業員から訴えられない組織にするためには
(1)細かな就業規則の作成
やはり最も大切なのは、会社内で適切なルールを定めることとなります。
ここに問題がある場合は、いずれ従業員との間でトラブルになるといえます。
また、就業規則等は、一度作成をしたら良いというものではなく、法改正や社会情勢に伴って、常により良いものに変更をしておくことが必要です。
(2)従業員への対応方法を徹底する
また、就業規則等に問題がない場合であっても、従業員の中には不満を持つ方もいます。
そういった従業員に対しては、定期的に面談を実施するなどして、対策をする必要があります。
また、ハラスメントをしている従業員等の情報を得たら、注意や指導、適切な処分等を行い、社内環境の整備をする必要があります。
8、従業員から訴えられたら、迅速に弁護士に相談
従業員に訴えられたら、迅速に弁護士に相談をしましょう。
労働問題は、どの会社にも起こりうるものです。
早期に弁護士に相談をすることで、紛争の拡大を防止することができますし、的確な法的アドバイスをもらうことができます。
また、日頃から、労働法の知識をしっかりと取り入れ、弁護士等にも相談をしておくことが大切です。
まとめ
以上のように、従業員に訴えられる原因や訴えられた場合に取るべき行動について解説をいたしました。
対応を間違えると、会社に対する損害は大きなものになってしまいます。
自分の会社は大丈夫なのか、しっかりと予防法務をし、トラブルが生じた場合でも、速やかに対応をできる環境を作りましょう。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています