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退職勧奨は穏便・適切を旨とせよ。会社が心すべき4つのポイント

2021年11月26日
退職勧奨は穏便・適切を旨とせよ。会社が心すべき4つのポイント

目次

あなたは人事の管理職です。
会社の労働者の中には、仕事ができないとか、ミスが多い、態度が悪い等、様々な理由で周りからけむたがられている人がいます。経営者が「あいつにはさっさと辞めてもらえ」とうるさくて仕方がありません。現場の管理職からも「あの人なんとかしてください」と矢の催促です。

とはいえ、解雇できるほどの理由でもありません。何とか退職勧奨して、お引き取りいただくことはできないだろうか。そう考えています。

しかし、退職勧奨の仕方をしくじって、不当解雇として紛争になった事例も結構多いと聞いています。ただでさえ忙しいときに、厄介事は抱えたくありません。うまく退職勧奨を進めるための注意点を知りたい、と思っています。

そのようなあなたのために、弁護士が本当に注意すべきことをわかりやすく語ります。

不当解雇の基本については以下の関連記事をご覧ください。

[nlink url=”https://best-legal.jp/unfair-dismissal-1372/”]

1、退職勧奨とはそもそも何か

そもそも退職勧奨とは一体何でしょうか。簡単に確認しておきましょう。

(1)労働契約が終了するパターン 

労働契約(雇用契約)は、労働者と会社の間で締結されている契約です。

労働者が会社を離れるとき、すなわち労働契約が解消されるのには、次のようなパターンがあります。

①辞職(契約期間の定めのない労働契約) 

「辞職」は、労働者の側から、労働契約を解約することです。契約期間の定めのない労働契約であれば、労働者は、理由を問わずいつでも労働契約の解約を申し入れることができ、解約申し入れから2週間が経つと、会社の承諾の有無にかかわらず、労働契約は終了します(民法第627条第1項)。

②辞職(有期労働契約の満期前)

有期労働契約は、その期間中働くことを、労働者と会社が約束しているものです。期間満了前に辞職するのは、基本的には契約違反です(就業規則や労働契約で異なる定めがあれば、それに従います)。ただし、1年を超える有期労働契約を締結している場合には、労働者からの申し出においては、いつでも辞めることができます(労働基準法第137条)。

一方で、会社側が契約期間途中で解約することは難しいとお考えください。

③合意契約(合意解約のついての会社からの申し入れが「退職勧奨」)

合意解約とは、労働者と会社が合意して労働契約を終了させることです。契約自由の原則がありますから、本当に合意があれば、いつでも労働契約は終了します。

会社の側から労働者に「退職してもらえないか」と申し入れることはできます。これを「退職勧奨」と呼びます。あくまでも、会社からの労働契約終了の申し込みであり、労働者が合意しなければ、会社だけで労働契約を終了させることはできません。

ここで行き違いが生ずると、「退職を強要された」とか「解雇された」等と疑われ、紛争のもとになります

④解雇 

会社から労働契約を解約する事です。要するにクビです。労働者の意思にかかわらず、会社側から一方的に労働契約を打ち切ることであり、労働者保護のため様々な制約があります。

制約その1:法律で禁止されている場合

  • 国籍・信条・社会的身分を理由とする解雇
  • 業務災害の被災労働者や産前産後休業中の女性労働者の解雇制限
  • 労働者が監督官庁等に申告したことを理由とする解雇
  • 労働組合に加入するとか労働委員会への申立てを理由とする解雇
  • 性別を理由とする解雇
  • 女性労働者の結婚・妊娠・出産・産前産後休業を理由とする解雇

等です。

制約その2:「客観的に合理的な理由」、「社会的相当性」、「適切な手続」を欠く解雇はできません。

制約その3:会社の経営上やむを得ない「整理解雇」(リストラ)の場合は、さらに厳しい要件があります。次の「整理解雇の4要素」を満たさなければなりません。

  1. 解雇の必要性
  2. 解雇回避努力
  3. 整理基準と人選の合理性
  4. 手続の妥当性

[nlink url=”https://best-legal.jp/company-fired-13256″]

[nlink url=”https://best-legal.jp/restructuring-10437″]

2、退職勧奨は、やり方を間違うと会社に厳しい責任追及が行われる

前述の通り、退職勧奨は、基本的に、労働者の自由な意思を尊重するように行う必要があります。会社が労働者に対して執拗に辞職を求めるなど、労働者の自由意志の形成を妨げるとか、名誉感情等の人格的利益を侵害するような場合には、不法行為として損害賠償請求が認められたり、そもそも退職を合意した場合であっても、合意が無効とされた事案さえあります。

本項では、以下、いくつかの不当な退職勧奨とされた事例をご紹介します。それぞれ詳細資料にリンクを貼っています。詳しく知りたい方はぜひご覧ください。

(1)労働者をだまして退職勧奨に応じさせた事案(昭和電線電纜事件横浜地川崎支部平成16年5月28日判決)

会社が労働者に対して勤務成績不良で解雇事由に当たるとして、退職勧奨に応じるように労働者に告げ、労働者がこれに応じた事案です。裁判所は、実際には解雇事由に当たるほどの問題はなく、労働者の退職合意の意思表示は無効と判断しました。その結果、会社に対して労働者の復職と未払賃金1,400万円の支払いが命じられました。

ありていに言えば、労働者をだまして退職の意思表示をさせたということです。

(2)労働者が退職を拒否しているのに長時間長期間の退職勧奨を繰り返した事案(全日本空輸事件:大阪高裁平成13年3月14日判決)

客室乗務員が勤務中の交通事故で労災認定され、4年間休職後に復職。復職後の復帰訓練中に、30数回の面談で時に大声をあげたりして退職を迫られ、最終的に解雇されたもの。

執拗な退職勧奨を受けたうえ、理由なく解雇されたとして提訴。

判決では、会社側の解雇権濫用として解雇無効としたうえ、退職勧奨についても「その頻度、各面談の時間の長さ、Xに対する言動は、社会通念上許容しうる範囲を超えており、単なる退職勧奨とはいえず違法な退職勧奨として不法行為にならざるを得ない」として、会社側に慰謝料80万円の支払いが命じられました。

(3)暴力や無意味な仕事の割り当てなどの嫌がらせで退職勧奨が行われた事案(エール・フランス事件:東京高裁平成8年3月27日判決)

会社の業績不振から希望退職募集を行った。会社が応募対象者と考えていたのに応じなかった労働者に対して、上司から嫌がらせや暴力行為が行われ、1人だけ別室に移したり、遺失物係に配置換えしたり、無意味な統計作業を命ずるなどしたものです。不法行為として、会社と職場の上司らの双方に損害賠償責任を認めました。

(4)労働者の名誉感情を害する執拗な退職勧奨 (兵庫県商工会連合会事件:神戸地裁姫路支部平成24年10月29日判決)

退職勧奨において「自分で行き先を探してこい。」、「管理職の構想から外れている。」、「ラーメン屋でもしたらどうや。」等、労働者の名誉感情を不当に害するような言辞を用い、労働者に不当な心理的圧力を与えたことについて、不法行為として約117万円の損害賠償が命じられました。

なお、退職勧奨の違法性のほか、転籍・出向命令、降格に伴う減給措置の違法性も争われ、いずれも違法と判断されています。

(5)厚生労働省からの注意喚起(職業紹介事業者が不当な対応をしたことへの注意喚起)

裁判例ではありませんが、厚生労働省が職業紹介事業者らに対して、退職強要と見られる事案があるとして注意喚起しています。国会審議等での指摘を受けたものです。

職業紹介事業者ら自身が退職強要する場合もあれば、事業者が会社に退職強要のマニュアルを提供して退職強要させたということもあるようです。注意しておくべきです。

(参考)

企業が行う退職勧奨に関して職業紹介事業者が提供するサービスに係る留意点について

3、退職勧奨、その前に

上記、退職勧奨の紛争事例をいくつかご紹介しました。

本当に退職勧奨をするのであれば、これらを他山の石として、次の通り慎重な準備が必要です。

(1)まずは事実の正確な確認から 

会社として辞めてもらいたいなら、それなりの理由があるはずです。本人に明確に通知できるよう、事実を正確に把握しておく必要があります。経営者や管理者が「あいつは気にくわない」というだけでは、退職勧奨の正当な理由にはなりません。

(2)事実の適切な評価 

事実関係が確認できても、本当に辞めてもらうにふさわしいのか、会社や管理職等の思い込みがないのか、人事の管理職として、適切な評価をしておく必要があります。万が一、紛争になったときに、監督当局や裁判所に対して、説得的な説明ができるでしょうか。会社として退職勧奨するだけの理由があると、理解してもらうことは可能でしょうか。そのような視点で考えてください。

(3)代替手段の検討

例えば、配転、出向、降格等、雇用関係を事実上維持しながら、穏便に解決する方法がないのか、ということも考えてください。

(4)会社として譲れるところはどこか 

退職勧奨は、あくまで労働者の同意を得て、労働契約の合意解約に持ち込むためのステップです。交渉事です。会社として退職金はどれだけ出しても良いと思っているか等といったことをしっかり検討して、覚悟を決めておいてください。紛争になってから慌てて小出しにするのでは、事態をこじらせるだけです。

(5)情報管理の徹底

人事に関わることであり、情報管理を徹底することです。会社の中で「あの人、退職勧奨されるそうよ。」といった噂話が流れたら、本人が反発するのはもちろん、他の労働者の士気も損ないます。

(6)弁護士との相談は必須

必ず弁護士と事前相談をして、アドバイスを受けてください。紛争にならないように万全の備えが必要です。経営者や管理者が「退職勧奨にふさわしい」と思い込みで暴走していることはよく見受けられます。

専門家の客観的な視点によるアドバイスは必須と考えてください。万が一、紛争になっても、専門家がついていることで、的確かつ速やかな対処が期待できます。

(7)退職勧奨のNGワード

次のような注意点を、社内関係者で徹底してください。

これらの重要性は、前項2、で紹介した事例で、ご理解いただけると思います。

注意点1: 「退職届を出さなかったら解雇する」という発言はしてはならない。

これでは、退職強要そのものです。

解雇にふさわしい理由があるのであれば、しっかり説明して、退職勧奨する事はあり得ます。しかし、発言には慎重な配慮が必要です。

注意点2: 退職を目的とした配置転換や仕事の取り上げ等をしてはならない。

典型的なのは「追い出し部屋」に配置転換して、仕事を与えない等です。

本人の経歴や能力にふさわしくない仕事をさせるのも問題になります。

注意点3: 長時間多数回にわたる退職勧奨は、退職強要と判断される危険があります。

上記2、のように大企業ですら間違いを起こしています。心すべきです。

注意点4相手の人格や名誉を傷つけるような発言をしてはならない。

退職勧奨の場面では、しばしば嫌がらせ的な発言が見受けられるようです。

問題をこじらせるだけです。

4、いざ退職勧奨へ

以上のような準備の下で、いざ退職勧奨を行うときには、次のような点に注意してください。

(1)本人との面談の注意点

①そもそも誰が面談するのがふさわしいのか

退職勧奨は、会社として、労働者に対して労働契約の合意解約を申し入れることです。

相当の重みがあります。現場管理者に任せるのは、一般的には不適切です。

人事労務の管理者等、会社の代表としてふさわしい人が対応すべきでしょう。

そもそも現場の管理者が対応すると、これまでの経緯から、主観的な思い込みで本人に不当に厳しく当たるといった懸念もあります。労働者の立場でも、これまで自分に辛く当たってきた人から「辞めてくれ」と言われれば、それだけで反発を買うことになるでしょう。

もちろん、これもケースバイケースです。本人が現場管理者を信頼している場合なら、まずは、現場管理者から説明してもらうのがふさわしいこともあるでしょう。

②本人のプライドを尊重する

本人のために退職勧奨していることを、はっきりと打ち出すのがベストです。

会社として厄介払いをしたいというような姿勢は、絶対にとってはいけません。

あくまで交渉事です。本人のプライドを傷付けては、まとまる話もつぶれてしまいます。

③事実の正確な告白

これは一番大切なことです。勤務成績が不良で、これまで会社として様々な努力をしたが、残念ながら改善が見られなかったこと等です。本人が納得できるように説明します。

④本人のためのアドバイスを心がける

例えば、遅刻が目立つ労働者について「遠隔地からの出勤が大変なのではないか、自宅近くの勤務先を探す方があなたのためではないか。」といったような具合です。

「遅刻が多いから辞めてくれ。」というのが仮に本音であったとしても、あくまで本人の将来を考えて、会社として退職を勧める、という姿勢を取ってください。

本人のためになる第2の道をアドバイスできるなら、それに越したことはないのです。

(2)会社としての条件提示

退職勧奨に基づく合意解約は、会社都合退職として扱います。

退職金は、会社都合で算出した場合の退職金額を把握した上で、ある程度の上積みを考えるか等、方針をはっきりしておいてください。使い残しの有休をどうするか等は、本人の裁量に任せるべきでしょう。

なお、自己都合退職にすると、雇用保険の基本手当(いわゆる失業保険)について不利な扱いになってしまいます。仮に労働者が自己都合退職と扱われることを希望したとしても、失業保険のこと等を正確に説明して、本人の不利益にならないように配慮してください。

ハローワークの次の説明資料等も適宜ご活用ください。

失業等給付とは?

基本手当とは?

(3)本人納得後の対応

①速やかな退職が望ましい

本人が納得していただければ、できるだけ速やかに退職に持ち込むのがふさわしいでしょう。

時間を置くと、本人の気が変わったり、社内外から余計な口出しをする人が出てくる懸念があります。

②実務手続を迅速的確に行う 

退職関係の実務手続は、速やかに間違いなく行います。

退職勧奨による合意解約というのは、決して円満退職ではありません。手続で間違ってしまうと、無用の紛争を生じさせます。

特に、次のような点に注意してください。

〇情報管理の徹底

会社情報、特に営業秘密等のノウハウを持ち出されたり、顧客情報や社員情報等にもアクセスさせないように注意してください。業務用パソコンのロックをかけてしまうといった技術的対応も検討してください。

〇会社貸与物の的確な返還

パソコン、スマートフォン等の情報機器、マニュアル類、ID カード、ハンコ等です。

〇本人私物の確実な持ち帰り

会社の中に残されたままになっていると、紛争の種になりかねません。持ち帰らなかったものを会社が勝手に処分したなどと、難癖をつけられたりしかねないのです。

まとめ

以上に述べた通り、退職勧奨というのは紛争になりかねない点があります。紛争防止のために、ぜひ弁護士を活用してください。

そして、基本的な姿勢に注意してください。
退職勧奨は厄介払いではありません。本人のための新しい人生の選択肢を提案するものと考えて、会社として可能な限り誠実な対応を心がけてください。そのような姿勢をしっかりと持っていれば、退職勧奨を受けた本人もまた周囲の人も、会社への信頼を新たにする事ができるでしょう。

※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

ベリーベスト 法律事務所弁護士編集部
ベリーべスト法律事務所に所属し、企業法務分野に注力している弁護士です。ベリーベスト法律事務所は、弁護士、税理士、弁理士、司法書士、社会保険労務士、中国弁護士(律師)、それぞれの専門分野を活かし、クオリティーの高いリーガルサービスの提供を全国に提供している専門家の集団。中国、ミャンマーをはじめとする海外拠点、世界各国の有力な専門家とのネットワークを生かしてボーダレスに問題解決を行うことができることも特徴のひとつ。依頼者様の抱える問題に応じて編成した専門家チームが、「お客様の最高のパートナーでありたい。」という理念を胸に、所員一丸となってひたむきにお客様の問題解決に取り組んでいる。
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