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著作権侵害にならないのはどんな場合?著作権活用のポイント5つ
著作権は企業の現場でも頻繁に出てくる問題です。
知的財産権には
- 商標権
- 特許権
等様々なものがありますが、著作権はその中でも一番ポピュラーな問題といえましょう。
しかし、著作権については、様々な誤解や理解不足が見受けられます。
企業としてどんな場合に著作権侵害にならずに利用できるのか、しっかり把握して有効な活用を図る必要があります。
そんなあなたのために
- 著作権侵害にならないのはどんな場合なのか
- 逆に、著作権侵害でないと思い込んでいて実は侵害になる、そんな落とし穴もある。どんなことが問題になるのか
- 迷った時にどんな資料を見れば良いのか。権威ある公的資料などを教えて欲しい
そのような、実務上大切な問題について、弁護士がわかりやすく整理してお話します。
著作権侵害について知りたい方は、以下の関連記事をご覧ください。
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1、著作権侵害にならない場合
著作権者は広範な権限を有していますが、文化の発展のために一定の場合には権利が制限され、第三者の自由な利用が許される場合があります(著作権法(以下、省略)第30条から50条)。
文化庁が次の資料でまとめています。
これに基づき、企業活動の上で大事な問題を整理してみましょう。
誤解が生じやすい問題などは次項2、にて解説します。
また、教育現場や図書館等では、広範な利用が認められています。後述3、で簡単にご説明します。
企業担当者としては「学校で認められているのだから、企業でも大丈夫だろう」などといった勘違いはなさらないよう、くれぐれもご注意ください。
(1)著作権の保護の対象にならない著作物(第13条)
次のものは、そもそも著作権の権利の目的とならないとされています。
公共的な性格が強く、誰もが活用すべきものだからです。
- 憲法その他の法令
- 国や地方公共団体、独立行政法人、地方独立行政法人などの告示、訓令、通達など
- 裁判所の判決、決定、命令、審判、行政庁の裁決及び決定などで裁判に準ずる手続により行われるもの
- 上記の翻訳物及び編集物で、国、地方公共団体、独立行政法人、地方独立行政法人等が作成するもの
(2)著作者の許諾があった場合
著作権は著作権者の権利を保護する定めです。
著作権者が許諾すれば様々な利用も許されます。
企業として、どうしても使いたい著作物があるなら、著作権者にお願いして使わせていただくのが、実務的には一番簡単で確実な解決策です。
なお、官公庁の資料などは、官公庁のホームページなどで自由な利用が認められている場合が通例です。これは、「包括的な許諾」が行われているものです。
なかには例外もあります。指定のルールに従って対応してください。
以下の(3)からは、著作権者の許諾有無にかかわらず第三者が利用できる場合の概要をご説明します。
(3)引用―厳格な要件がある(第32条)
「引用」とは自分の説を補強するため等の目的で、他人の論説を引いたり、図表を掲載したりすることです。
ご自分の説明などが主、引用部分は従、でなければなりません。
どこからどこまでが引用なのかを明確にし、出典も明記しなければなりません。
詳細は2、でご説明します。
(4)URL だけの掲載―著作権法上の問題はない
自社ウェブサイトで参考資料等のURL を紹介したり、ハイパーリンクを設けたりすること自体は著作権法上の問題になりません。
ユーザーは、URL をクリックする等でリンク先のウェブページを閲覧します。
リンク先データは、リンク先からユーザーのコンピュータへ直接送信されます。
自社ウェブサイトに送信されるわけではなく蓄積もされません。
従って、複製権侵害、公衆送信権侵害のいずれの問題にもならないとされています。
(5)飲食店・商業施設などでのテレビ放送(第38条3項)
飲食店や商業施設などでテレビやラジオが放映されていますが、著作権法の明文の規定で許されているものであり、営利目的であっても、著作権者の了解は必要ありません(第38条3項)。
ただし、例えば、ビルの側壁等に設置された大画面の装置で放送番組を流す場合は、著作権者の伝達権の問題であり、許諾が必要です(第23条2項)。
また、テレビ番組を録画して企業で使う場合には、放送事業者など著作権者の許諾を得る必要があります。
(6)プログラム著作権等の特例(第47条の3から8)
プログラム著作権等については、
- 利用
- 保守
- 修理
- 送信障害防止
- 情報解析
など様々な場面でプログラムの複製等が必要になります。
著作権法で複製その他の利用が許される場合が定められています。
(7)著作権の譲渡等を受けた場合(第61条)
著作物の作成を外注して納品してもらい、自社で自由に使いたい場合には、契約により、財産権としての著作権の譲渡を受け、著作者人格権については行使しない旨の特約を設けることが通例です。
なお、著作者人格権は一身専属であり譲渡できません(第59条)。
契約で著作者人格権を行使しないという特約を設けて、実質的に自社のものとして氏名表示したり、改変したりすることがよく行われています。
2、間違えやすい事例
以上が一般の企業活動で著作権侵害にならない場合の代表的な例です。
本項では、逆に、著作権侵害になりかねないなど間違いやすい事例をご紹介します。
(1)私的利用のための複製(第30条)―企業の現場では殆んどありえない
私的利用のための複製は自由にできると言われていますが、これは、家庭内等ごく少数の人を想定したものです。
会社の中では殆んど通用しません。
例えば、「同じ課の中の数人の間でコピーを配るだけだから私的利用だろう」とか「業務に使うのでなく社内のクラブ活動で使うから私的利用だ」という考え方も問題になり得ます。
現実には、著作権者がそこまで追跡して文句を言ってこない、というだけであり、本来は違法になる可能性がある使い方です。
(2)ウェブサイトやブログへの掲載は私的利用に当たらない
ウェブサイトやブログなどに他人の著作物を載せることは、個人が行う場合でも「私的使用」になりません。
公衆送信などの問題になりかねません。
従業員などが間違いやすい問題であり、社内に注意喚起しておくべきです。
(3)営利を目的としない上演等(第38条)―営利企業なら殆んど該当しない
営利を目的としない上演等として、許諾が不要なのは次の要件をすべて満たす場合です。
- 営利を目的としない。
- 観客から料金を取らない。
- 出演者などに報酬を支払わない。
営利企業が実施する場合は、殆んど該当しないでしょう。個別に許諾を求めるべきです。
例えば、商業施設でお客様向けに無料のコンサートや映画会を開催するのは、客寄せという営利目的です。
入場料を取らず出演料を払わない場合でも、著作権者に許諾を得る必要があります。
(4)引用については厳格な要件がある(第32条)
大事な問題なのでまず条文を確認しましょう。
「公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。」
引用:著作権法
この要件をもう少しご説明します。
質的にも量的にも、引用する側の本文が「主」、引用部分が「従」という関係にあること。著者自身の本文に表現したい内容が明確に記載されており、説明や補強材料として他の著作物を必要な範囲で引いてくる、というものでなければなりません。
量的にも、引用部分の方が本文より短いことが必要です。
例えば、新聞や雑誌の記事の丸写しとか、これらの著作物にごく短いコメントをつけただけ、などは引用には該当しません。
また、どこからどこまでが引用なのか明瞭に区分されなければなりません。
引用部分をカギかっこでくくる等です。出所の明示」も必要です。著作者名、著作物名を明確に示します。
なお、引用部分が長いので要約して引用することは公正な慣行の一つとして認められています。
その場合は、要約して引用したことを明確に記載しておくべきでしょう。
(5)新聞記事は原則として著作物であり、複製等の利用には新聞社の許諾がいる。
新聞記事について誤解している人がよく見受けられます。
「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道」は著作物に該当しないとされています(第10条2項)。
このため、新聞記事全般が著作物ではないという勘違いが見られるようです。
しかし「雑報」とか「時事の報道」は、死亡記事とか消息など、どの新聞社が報道しても同じ内容になるようなごく限定された記事のみです。
通常の記事は著作物であり、これを複製するなどの利用には新聞社の許諾が必要です。
この点は新聞著作権協議会で、厳しく注意喚起されています。
(参考)新聞著作権協議会
なお、「時事問題解説のための転載(第39条)」という定めがあります。
「政治上、経済上、社会上の時事問題に関する論説」は、禁転載の表示がない限り、他の新聞、雑誌等への転載ができます。
これは、企業では適用できない、と考えておくべきです。
新聞協会では、この「論説」に回答するのは原則として社説等に限られる、としています。
しかも、転載が認められるのは他の新聞,雑誌,放送などのみです。一般の企業ではまず関係ないと考えられます。
(6)新聞記事の利用のための注意点まとめ
新聞記事の利用については、よく問題が起こります。注意点をまとめておきます。
①自社についてのニュース報道も新聞社の著作物であり、無断で利用はできない。
自社のニュースだからといって、新聞社に断りなく社内外に複製配布することはできません。
自社に関するニュースでも、新聞記者が心血を注いで新聞記事という著作物を作り上げて新聞社の著作物になっているのです。
②転載丸写しだけでなく、切り抜きスクラップ、要約なども著作権侵害にあたる。
記事の一部を切り抜いてスクラップしたとか、記事を要約したといったものでも新聞社の許諾なく利用することはできません。
原作品を読まなくても内容がわかるような要約は、「翻案」に該当します(第27条)。
これも著作権の保護の対象であり、利用には著作権者の許諾が必要です。
③社内LAN などに掲載するのも不可。
社内の広報担当者が、社内の電子掲示板(イントラネット)に自社の製品に関する新聞・雑誌記事を3ヶ月に渡って掲載した問題について、新聞社や雑誌社から公衆送信権の侵害として損害賠償請求を受けて敗訴した事例があります。
また、社会保険庁が新聞記事を庁内のLAN に掲載した事件についての裁判例もあります。
当該記事の複製権侵害、公衆送信権侵害に該当するとして、社会保険庁が敗訴しています。
他人の著作物を組織内のLANシステム上の掲示板に掲載し、組織内の閲覧に供した行為が、公衆送信権侵害と判断された事例
④新聞のクリッピングなどをしたいなら、必ず新聞社と相談して使用料を払う事
広報担当者などが新聞記事をクリッピングして社内配布することがよく行われています。
これについては、新聞社に利用料を払って許諾を受ける必要があります。
なお、社内でクリッピング記事が回覧されることを見て、会社の従業員等が「新聞記事の複写配布が許される」と勘違いしている事も見受けられるようです。
広報担当者は、クリッピング配布には、新聞社に使用料を払って許諾を得ており、その範囲でしか使用できない、ということを社内に周知しておくべきです。
⑤新聞記事の利用についての相談機関
新聞記事の利用については、新聞著作権協議会で、「日本複製権センター」に委託されています。
さらに、継続的なクリッピングについては、同センターへの委託対象外であり、各新聞社と直接相談することが必要です。
3、学校などでは特例がある
学校などについては、教育・文化振興のためかなり広範囲に著作物の利用が認められています。
一般の企業とは取り扱いが全く異なります。
また逆に、自社の著作物等が学校や図書館で活用されるときに、著作権法の定めをよく知らずに許諾を求めるようなことは、なさらないようご注意ください。
(1)学校教育現場などで認められる対応
- 教科書などへの掲載(第33条)
- 著作者への通知と著作権者への一定の補償金の支払いが必要とされています。
- 視覚障害を持つ児童生徒のための教科書の文字・図形の拡大、複製など(第33条の2)
- 学校教育番組の放送など(第34条)
- 教育機関における複製(第35条)
- 試験問題としての複製(第36条)
- 視聴覚障害者など向けの複製など(第37条)
- 聴覚障害者などのための自動公衆送信(第37条の2)
(2)図書館など(第31条、著作権法施行令第一条の3)
国立国会図書館、公共図書館、大学、高専の図書館、大学等に類する教育機関の図書館、などでは一定の範囲で著作物の複製が認められています。
4、判断に迷ったときはここで確認
以上のような様々な問題について、文化庁などがわかりやすい解説を掲載しています。
ここでまとめておきます。
(1)文化庁の著作権ポータルサイト
すぐ役立つ基本仕様は次のようなものです。
(2)公益社団法人著作権情報センター
次の資料がわかりやすいでしょう。
(3)音楽著作権や映像著作権について
音楽著作権については、JASRACなどで、取り纏めて許諾が得られる仕組みが整っています。
リーガルモール記事を参照してください。
[nlink url=”https://best-legal.jp/music-copyright-38970″]
映像著作権については、それぞれの権利者で取り扱いを定めています。一例として、NHK サイト「放送番組の利用をお考えの方」で詳しい解説があります。
5、著作権について疑問があればまず弁護士に相談
著作権は知的財産権のうちでも実は一番身近な問題ですが、前述のように様々な誤解や思い込みも結構多く見受けられます。
そもそも、著作権法は大変技術的な法律であり、容易に理解することが難しいのです。
疑問があれば、知的財産権に詳しい弁護士に早めに相談するなど、十分な注意が必要です。
まとめ
著作物は文化の発展のために適切な利用が促されており、その限りで著作権者の権利も制限されています。
しかしその理解はなかなか難しいものです。
前述の通り、相当程度の問題は、著作権者に礼を尽くして挨拶すれば解決することも多いのです。
ぎりぎりどこまでならばセーフか、といった考えはとるべきではないでしょう。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています