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時短ハラスメント(ジタハラ)に注意!ジタハラについて弁護士が解説
時短ハラスメント、略して「ジタハラ」という言葉を耳にする事が多くなったようです。
昨今、働き方改革で時間外労働の上限規制が厳しくなり、罰則まで設けられています。「ともかく定時で終わらせろ」、「さっさと帰れ」上司の怒号がオフィスに溢れ、泣く泣く仕事を家に持ち帰る、といったことがあるようです。
人事総務の担当者ならば、経営者から時短、時短と厳しく言われ、やむなく全社に号令をかけ、自らが時短ハラスメントの共犯者、加害者になっているなどと悩む人もいるのではないでしょうか。
そこで今回は、
- 時短ハラスメントとは何か。
- 時短ハラスメントが起きる理由
- 時短ハラスメントが引き起こすリスク
- 時短ハラスメントの本当の対策(真の働き方改革)
等について、弁護士がわかりやすく解説します。
この記事がジタハラに悩む人事労務担当者のお役に立てば幸いです。
1、時短ハラスメントとは
(1)時短ハラスメント(ジタハラ)の定義
時短ハラスメント(ジタハラ)とは、職場において、労働時間の短縮を強要するハラスメントを意味します。
働く人の労働時間を無理に短縮する等の嫌がらせ、といってもよいでしょう。
労働時間が短くなるならば良さそうなものですが、これが時短ハラスメントと言われるのは、現実の業務量が削減されていないのに、見かけ上の労働時間を無理に短縮させられるためです。
例えば、定時に会社を追い出されるので、仕方なく自宅に仕事を持ち帰る、といったことが起こります。
この点は、サービス残業、ヤミ残業そのものと思われますが、後述の通り、時短ハラスメントには、さらに広範な問題が含まれています。
(2)本当の労働時間短縮なら時短ハラスメントとは言わない
なお、例えばスーパーマーケットで営業時間を短縮して、レジ担当者の労働時間が短くなるというなら、単なる労働時間短縮であり、時短ハラスメントとは言いません。
ホワイトカラーの仕事でも、本当に定時で終了できて退社できるなら、時短ハラスメントではありません。
これがハラスメント・嫌がらせと言われるのは、実際の業務量や労働時間を会社側が的確に把握しようとせず、労働者に見かけ上の労働時間の減少を強制しているからです。
2、時短ハラスメントはいつごろから、なぜ起きたのか
(1)時短ハラスメントはいつごろから現れてきたのか
これは、働き方改革実行計画による長時間労働是正が本決まりとなり、罰則つきで時間外労働の上限を規制するという大変厳しい内容が示されたころから、と言われています。
要するに、「労働基準監督署に目をつけられたくない」、「長時間労働のブラック企業とされると、企業イメージが損なわれる」といったことから、経営者が形ばかり労働時間が短縮されたように見せかけようとしたからでしょう。
(2)時短ハラスメントが起きたのは働き方改革の本当の意味を理解していないから
時短ハラスメントが起きる理由は、働き方改革の長時間労働是正の趣旨が理解されていないからかもしれません。
本来、働き方改革における長時間労働是正の趣旨は次のようなものでした。
- 「長時間労働が労働者の健康を阻害し、仕事と家庭生活との両立を困難にし、少子化の原因や、女性のキャリア形成を阻む原因、男性の家庭参加を阻む原因となっている。」
- 「長時間労働を是正すれば、ワーク・ライフ・バランスが改善し、女性や高齢者も仕事に就きやすくなり、労働参加率の向上に結びつく。経営者は、どのように働いてもらうかに関心を高め、単位時間(マンアワー)当たりの労働生産性向上につながる。」
要するに長時間労働是正の趣旨は、「残業代を減らせ」、「労基署に目をつけられるな」といったレベルのものではないのです。
3、時短ハラスメントが起こすリスク
時短ハラスメントが引き起こすリスクは広範なものです。概観すれば、次のようになります。
(1)はじめに現れる現象
①持ち帰り残業、サービス残業、ヤミ残業が行われるようになる。
所定時間内に仕事が終わらないのに、会社を追い出されたら、持ち帰り残業になります。あるいは、早出したり、昼食時間を削ったり、また、パソコンを一旦ログオフして、記録上は定時退社にした上で、そのまま仕事を続けたり、といった行動が見られるようになります。
②業務品質が低下する。あるいは、納期に間に合わなくなる。
必要な時間をかけずに仕事をするなら、業務の品質が低下するでしょう。
納期に間に合わなくなることも起こるでしょう。
なお、メーカー等の品質偽装の原因には、納期に追われて、必要な品質検査をごまかした、といったものが頻繁に見受けられました。必要な仕事の工程を省略したことが原因の一つです。
必要な時間をかけなければ、品質確保はできないのです。見かけだけの時間短縮が大きなリスクをはらむことは、時短ハラスメントの問題としても捉えておくべきです。
(2)会社業務に与える影響
①業務品質低下や納期遅れなどによる顧客や取引先からの信用低下
品質偽装のために、一流のメーカーが次々信用失墜したことは記憶に新しいところです。
②優秀な労働者への過重負荷・管理職へのしわ寄せ
時短ハラスメントが進めば、管理職は優秀な労働者に頼って仕事を回すようになります。優秀な労働者に過重な負荷がかかります。本人の本来の仕事ができなくなるでしょう。
さらに、労働時間の制約のない管理職が、やむなく部下の仕事を引き取るということも起こります。これでは、管理職としての本来業務であるマネジメントもできなくなるでしょう。
③生産性の全体的な低下・イノベーションの気風の喪失
このようなことが続けば、会社全体の生産性も低下していくかもしれません。
今の時代には、創造的な働き方が求められます。イノベーションを起こす気風が必要です。時短ハラスメントで、目先の時間短縮に経営者や管理職が血眼になっていれば、創造性もイノベーションも起こるはずがないのです。
(3)労働者への影響
労働者への影響は、例えば次のようなものですが、一つ一つはそのまま会社のリスクにもつながるものです。
①残業代カットによる収入減
本当に時間外労働が減少して残業代が減るのはやむを得ないことですが、実際の労働時間が減っていないのに、残業代が少なくなるというのは、労働者として辛い事です。
労働者から未払い残業代の請求が行われることも十分に予想されます。
会社には、労働者の労働時間適正把握義務があります(労働安全衛生法第66条の8の3)。
残業代計算のためだけでなく、労働者の健康を守るための義務です。
時短ハラスメントが横行している会社は、監督当局からも厳しい目で見られることになるでしょう。
②労働者のモチベーション低下
業務量が変わらないのなら、労働者はサービス残業を余儀なくされるだけです。
それにもかかわらず、中間管理職が経営者に、「残業削減目標を達成しました」等と報告していれば、労働者はどのような気持ちになるでしょう。
モチベーションが低下する可能性があります。
このような状況が長く続けば、労働者の離職率アップといったことも起こるでしょう。
このような問題は、最近ではSNS で容易に外部流出します。新卒採用にも影響してくるでしょう。
③過重労働による体調の悪化・メンタル不調
時短ハラスメントが継続すると、過重労働が蔓延しているのに、経営者がこれに気がつかなくなります。
労働者が体調を悪化させたり、メンタル不調を起こすこともあるでしょう。
4、時短ハラスメントを起こさずに、真の働き方改革をするには
それでは、時短ハラスメントを起こさずに、真の働き方改革を実現するにはどのようにすればよいでしょうか。
(1)まず、時短ハラスメントのリスクをしっかりと認識する。
時短ハラスメントのリスクは、前述の通り広範かつ深刻なものです。
人事の担当者としては、これをしっかり認識して、経営者に意識をかえてもらわないといけません。
(2)長時間労働の真の原因をつきとめて対応する。
所定労働時間内で仕事が終わらないのなら、何が原因なのか、しっかり突き止める必要があります。そのためにも、労働時間を適正に把握しなければなりません。そうでないと、事実の認識を誤ることになります。
長時間労働の原因を突き止めて対策をとるには、例えば、内閣府両立支援のひろばポータルサイトの「仕事と生活の調和推進室作成」「ワーク・ライフ・バランスの実現に向けた『3つの心構え」と『10の実践』」が大変参考になります。
次のチェックリストを見るだけでも様々なヒントが得られるでしょう。
①-1 会議を開く際、目的やゴールを示している。 (はい・ いいえ)
①-2 会議の終了時間が守られている。 (はい・ いいえ)
②-1 職場内で作成されている資料の分量は適切である。 (はい・ いいえ)
②-2 作成した資料が無駄になることは少ない。 (はい・ いいえ)
③-1 共有キャビネットは整理整頓され、必要なものをすぐに探し出せる。(はい・ いいえ)
③-2 ホワイトボードやスケジューラーを活用し、情報共有をしている。 (はい・ いいえ)
④-1 大きな仕事が終わった際には、概要報告をまとめている。 (はい・ いいえ)
④-2 業務の手順書やメモは、他人が見てもわかるように作成している。 (はい・ いいえ)
⑤-1 上司は部下の日々の労働時間を把握している。 (はい・ いいえ)
⑤-2 上司は、負荷が集中している部下のサポートをしている。 (はい ・ いいえ)
⑥-1 業務分担に偏りがないか、常に見直している。 (はい ・ いいえ)
⑥-2 特定の人のみが残業や深夜業を行うようなことはない。 (はい ・ いいえ)
⑦-1 担当業務だけでなく、周辺の業務に関する知識を身につけている。 (はい ・ いいえ)
⑦-2 意思決定に時間がかかり、業務が遅れることはない。 (はい ・ いいえ)
⑧-1 上司と部下、部下同士で、日々、スケジュールを確認している。 (はい ・ いいえ)
⑧-2 週間予定や月間予定を、職場で定期的に確認している。 (はい ・ いいえ)
⑨-1 電話対応等に遮られず、担当業務に集中できる時間がある。 (はい ・ いいえ)
⑨-2 上司と部下、部下同士で十分コミュニケーションをとれる時間がある。(はい ・ いいえ)
⑩-1 パソコンの得意な人の知識が、他の人の業務にも活かされている。 (はい ・ いいえ)
⑩-2 仕事が早い人の仕事の進め方を、職場内で共有している。 (はい ・ いいえ)
引用:ワーク・ライフ・バランスの実現に向けた仕事の進め方『10 の実践』チェックリスト
(3)国の支援策をしっかり活用する。
働き方改革は、国を挙げての重要な施策です。真の労働時間短縮のために、様々な支援が用意されています。
時短ハラスメントを起こさず、真の働き方改革を求めるのであれば、このような支援策をしっかりと活用しましょう。中小企業の働き方改革の実践事例もぜひ参考にしてください。
次が厚生労働省の特設サイトです。
参考:「働き方改革推進支援センター」では4つの取組をワンストップで支援します!
まとめ
時短ハラスメント(ジタハラ)は、放置すると深刻な問題を引き起こします。
会社が労働者から訴えられることもあります。
しかし、一方で、時短ハラスメントの現状を冷静につきとめて、適切な対策をとれば、生産性の向上も労働者のワーク・ライフ・バランスも同時に達成できます。
なお、時短ハラスメントが原因で、例えば未払い残業代の支払いを請求される、労働者のメンタル不調等で会社が訴えられる、そのようなことは十分に考えられます。
残念なことですが、これは、会社に大きな責任があります。
速やかに適切な解決を図る必要があります。
ぜひ、人事労務問題の経験が豊富な弁護士にすぐご相談ください。
そのような問題は、誠実に解決した上で、本当に会社のために、どのように対応していくべきかを本稿も参考にしっかりとお考えください。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています