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雇い止めで法的に問題なく辞めさせる条件とは?トラブルなく行うコツも紹介
期間を設けて雇用していた労働者について、期間満了を理由として雇用契約を終了させたい場合、どのように行えば法的問題を生じさせずに、辞めさせることができるのでしょうか。
折からの不況で、人員整理を進めなければならない人事の方も多いことでしょう。
日本の法律では、労働者の雇用については手厚い保護をしており、特に、労働者が仕事を失うことになる「解雇」や「雇い止め」については、会社側の自由を制限する法律が制定されています。
そこで、期間が満了したからと労働者との契約更新を漫然と拒否してしまうと、法律違反に該当してしまい、会社が思わぬ法的責任を負うという事態に発展しかねません。
そこで、今回はそのようなトラブルを未然に回避するために、
- 法的に問題を起こさないように「雇い止め」をスムーズに実施するためのコツ
について、法律上の問題と事実上の手続の両方から解説していきます。
また、雇い止め以外の方法で問題を解決できるかどうか、各種公的な補助金等についても併せて紹介していきます。
1、雇い止めの条件を見る前に〜雇い止めはなぜ問題なの?
雇い止めの問題点は、一体どこにあるのでしょうか。
まず、「雇い止め(やといどめ)」とは、契約社員等の有期雇用契約の労働者について、契約期間が満了した際に契約更新を拒否して、雇用契約を終了させることを指します。
「雇い止め」は契約が期間の満了により終了することですので、あくまで契約期間中に雇用関係を解消させようとする「解雇」とは本質的に異なります。
しかし、労働者にとっては、使用者との間の雇用契約が終了して仕事がなくなるという効果は共通しています。
そして、「雇い止め」の対象となる有期雇用の労働者の中には、雇用契約が更新されて継続して雇用されることを期待して生活設計を行っている人もいるでしょう。
そのような労働者の期待に反して、突如、使用者が契約更新を拒否して期間満了により仕事がなくなってしまっては、有期雇用労働者の生活に大打撃を及ぼしてしまいます。
そのような労働者の期待を保護しようと、雇い止めに関してはさまざまな法規制がなされることになっているのです。
2、雇い止めを合法的にする条件とは
それでは、「雇い止め」を合法的に実施するには、どのような条件を満たす必要があるのでしょうか。
有期雇用契約の労働者を雇用する段階でも、やっておく必要があるものがありますので、注意が必要です。雇用契約時にこれを実施していない場合には、契約をやり直す必要があります。
(1)雇用前に有期雇用であることを労働者に意識させる
契約の際に、期限の定めのある雇用である旨を明示的に説明しておきましょう。
契約の更新はありえるが、絶対に更新されるとはいえないことを強調しておくことも、後々のトラブルを回避するためには重要です。
(2)有期雇用契約を締結する
有期雇用契約の締結に際して、使用者は、有期雇用契約の労働者に対して、契約の締結時にその「契約の更新の有無」を明示しなければなりません。
明示すべき更新の有無の具体的な記載方法は、
- 自動的に更新する
- 更新する場合があり得る
- 契約の更新はしない
等の記載があり得ます。
「契約の更新はしない」と明示しておく場合には問題ありませんが、それ以外で契約の更新可能性を示した場合には、更新の「判断の基準」も明示しなければなりません。
更新の「判断の基準」としての具体的な記載方法としては、
- 契約期間満了時の業務量により判断する
- 労働者の勤務成績、態度により判断する
- 労働者の能力により判断する
- 会社の経営状況により判断する
- 従事している業務の進捗状況により判断する
等の記載がありえます。
(3)有期雇用契約は自動更新させない
使用者が有期雇用契約を締結する際には、契約を「自動的に更新する」という記載はしないようにするべきでしょう。自動更新を約束してしまうと、実質的には期間の定めのない雇用契約と同様の取り扱いであったと判断されるリスクが高いです。
(4)更新回数に制限を設ける
更新の回数に制限を設けておきましょう。
ここで重要なポイントは、更新された有期雇用労働者の契約期間を通算した期間が「5年」を超えないように注意してください。なぜなら、この通算契約期間が5年を超える場合、一定の条件を満たすと有期雇用契約が無期雇用契約に転換されてしまう可能性があるからです。
つまり、有期労働契約の通算契約期間が5年を超える労働者が使用者に対して、無期労働契約の締結の申し込みをしたときには、使用者はその「申込みを承諾したもの」とみなされます。
この場合、無期転換する労働契約の内容は、現に締結している有期労働契約の内容である労働条件(契約期間を除く)と同一の労働条件になります。
したがって、使用者は更新された有期雇用の期間が通算で5年を超えないようにしておくべきでしょう。
有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換についての詳細については、こちらの記事を確認してください。
[nlink url=”https://best-legal.jp/fixed-term-employment-contract-10613/”]
(5)雇い止めの予告をする
使用者は、
- 有期労働契約が3回以上更新されている場合
- 1年以下の契約期間の有期労働契約が更新または反復更新され、最初に有期雇用契約を締結してから継続して通算1年を超える場合
- 1年を超える契約期間の労働契約を締結している場合
には、少なくとも契約の期間が満了する日の30日前までに、雇い止めの予告をしなければなりません。
(6)理由証明書を交付
使用者は、雇い止めの予告後に労働者が雇い止めの理由について証明書を請求した場合には、遅滞なく証明書を交付しなければなりません。また、雇い止めの後に労働者から請求された場合も同様です。
雇い止めの理由として明示しなければならない事実は、契約期間の満了とは別の理由とすることが必要です。
例えば、以下のような雇い止め理由の記載が考えられます。
- 前回の契約更新時に本契約を更新しないことが合意されていたため
- 契約締結当初から更新回数の上限を設けており、本契約がその上限に達したため
- 担当業務が終了(中止)したため
- 業務を遂行する能力が十分ではないと認められるため
3、雇い止めを事実上トラブルなく行う条件(コツ)とは
有期雇用契約の労働者との雇用契約関係を終了させる手段は、なにも「雇い止め」に限られるものではありません。
(1)契約を終了させたい理由を労働者へ説明する
なぜ契約を終了させるのか、理由を真摯に労働者へ説明することです。
1点注意すべきは、「誰が説明するか」です。労働者が自分の気持ちを伝えやすい部署や人物にすべきです。
雇い止め予定の1か月以上前から、期間満了により雇用契約は終了する旨の説明を開始しておきましょう。雇い止め予告が必要な場合には、雇用契約期間満了の30日以上前に行う必要がありますが、そうでない場合であっても、無用なトラブルを避け円滑に雇い止めを実施するためには、契約終了を前もって説明しておくことが有効でしょう。
(2)労働者の合意を得る(合意解約)
合意解約とは、使用者と労働者が話し合いによって雇用契約を終了させることを言います。
契約関係の終了の類型では、もっとも穏便な手段であるということができるでしょう。(1)とのセットによる方法は多くの会社で行われており、実際にトラブルになる確率も低いようです。
(3)場合によっては金銭的解決も視野に
ケースによっては労働者に解決金を支払って、雇用契約を終了させる手段も検討の余地があるでしょう。解決金の金額は、労働審判における解雇の解決金の相場が参考になるでしょう。
当該労働者を解雇する場合の「正当性」の判断によって、解決金相場は異なります。以下、解決金相場の水準を紹介します。あくまで一例ですので、具体的ケースによって金額は変動するため、その点は留意してください。
- 解雇に正当な理由がある 賃金1か月分程度
- 解雇の正当性が否定できない 賃金3か月~6か月分程度
- 解雇の正当性に疑義がある 賃金6か月~12か月分程度
- 解雇に正当性が全くない 賃金12か月分以上
4、できれば雇い止めはしたくない!コロナ禍でも雇い止めせずに雇用継続する方法
コロナ禍において、できれば雇い止めは回避したいと考えている企業も多いでしょう。そのような場合には、公共団体から援助が受けられないかを雇い止めに先立って検討してください。
(1)雇用調整助成金の活用
まず、「雇用調整助成金」です。
「雇用調整助成金」は、「新型コロナウイルス感染症の影響」により、「事業活動の縮小」を余儀なくされた場合、雇用維持を図るために「労使間の協定」に基づき、雇用調整(休業)を実施する事業主に対して休業手当などの一部を助成するものです。
また、事業主が労働者を出向させることで雇用を維持した場合も、雇用調整助成金の支給対象となります。
「雇用調整助成金」は、特例措置により助成率及び上限額の引き上げを行っています。
1人1日13,500円を上限として労働者に支払う休業手当等のうち最大10/10助成されます。
この特例措置は令和3年5月以降の場合です。
申請手続は事業所の所在地を管轄する都道府県労働局またはハローワークで受け付けていますので確認してみてください。
「雇用調整助成金」お問い合わせ先はこちらのリンクを確認してください。
(2)緊急雇用安定助成金の活用
「緊急雇用安定助成金」は雇用保険被保険者ではない従業員を休業させる場合に支給される助成金です。「緊急雇用安定助成金」は令和2年4月1日から令和3年9月30日までの休業が対象となります。
様式のダウンロードはこちらのリンクからできます。
(3)新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金の活用
「新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金」は、新型コロナウイルス感染症及びその蔓延防止の措置の影響により休業させられた労働者のうち、休業手当の支払いを受けることができなかった人に対し、当該労働者の申請によって、給付される助成金です。
対象者は上記措置により
(ア)令和2年10月1日から令和3年9月30日までに事業主が休業させた中小企業の労働者
(イ)令和2年4月1日から6月30日まで及び令和3年1月8日以降(令和2年11月7日以降に時短要請を発令した都道府県はそれぞれの要請の始期以降)から令和3年9月30日までに事業主が休業させた大企業のシフト労働者等のうち、休業期間中の賃金(休業手当)の支払いを受けることができなかった労働者です。これは、雇用保険被保険者でない労働者も対象です。
申請期限については(ア)で令和2年10月~令和3年6月に休業した労働者の申請期限は「令和3年9月30日」です。令和3年7月~9月に休業した労働者についての申請期限は「令和3年12月31日」です。
必要書類はこちらのリンクから確認することができます。
5、雇い止めしたい場合には弁護士に相談を
雇い止めをスムーズに行いたい場合には、弁護士に相談しましょう。
まず、弁護士に相談するメリットとして、会社にできるだけ有利な解決へと導くことが可能になります。労働問題に精通した弁護士であれば、多くの専門的な知識や解決実績を有しています。
そのような知識・実績を用いて、あなたの会社に応じたベストな解決策を提示してくれることでしょう。
また、弁護士に相談することで、労働者側に適切な説明をすることができるようになります。話合いの段階で、会社の主張を事実をもとに説得的に説明することができれば、事後的に労働者側から不服が噴出するというリスクも軽減することができるでしょう。
まとめ
この記事を読んで雇い止めを問題なく進めることができるかどうかご不安な場合には、まず企業の労働問題に精通した弁護士に相談しましょう。
あなたの会社の個別具体的な事案に応じた適切な解決方法をアドバイス・サポートしてくれるでしょう。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています