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譲渡制限株式とは?発行のメリット・デメリット、売却方法などを弁護士が解説
譲渡制限株式は株式の種類のひとつで、日本の会社ではよく利用されています。譲渡制限株式を発行することは会社側にメリットがあるからです。しかし譲渡制限株式の発行はメリットだけでなく、デメリットや株主が株式譲渡するときの問題点などもあります。そこで今回は
- 譲渡制限株式とは
- 相続や売却の可否
- 価格決定の流れ
などを中心にベリーベスト法律事務所の弁護士が説明します。
1、譲渡制限株式とは「制限つきの株式」である
譲渡制限株式とは譲渡について制限がついた株式のことです。
株式は基本的に市場で自由に売買できます。株式を安値のときに購入し、高値のときに売却するなど、市場で自由に売買できるからこそ、譲渡益を狙った株式投資がよく行われています。これは原則的に株式を自由に売買できるからです。
譲渡制限株式は譲渡に制限が設けられていますから、市場で売買される一般的な株式のように自由に譲渡できません。譲渡の際は会社から承認を受けなければならないのです。
譲渡制限株式には、会社の発行株式をすべて譲渡制限株式にするパターンと、一部の株式を譲渡制限株式にするパターンがあります。
(1)なぜ会社法は譲渡制限株式を定めているのか
会社法が譲渡制限株式を定めている理由は「会社が自分の判断で自分を守るため」です。会社にメリットがあるため譲渡制限株式を定めています。
たとえば、小さな会社がすべての株式について、譲渡に制限を設けなかったとします。
この小さな会社は社員の技術力も高く、業界でも注目されていました。ほぼ家族経営のようなかたちで、少しずつ業績を上げてきた会社としても知られています。会社の代表者たちや従業員の結束は固く、今後も堅実に歩もうという社内の意思は一致していました。しかし、ある財力を持つ投資家がこの会社に目をつけます。
投資家は会社の株式が自由に売買されていることを良いことに、買い占めをはじめました。
この会社の株式には譲渡制限などついていませんから、投資家は容易に株式を集めることができました。結果、大量の株式を保有するにいたった投資家に、会社の経営を握られてしまったのです。会社側が株式の譲渡を制限していれば、防げた可能性のある事態ではないでしょうか。
譲渡制限株式を会社法が定めているのは会社の自衛のためなど、会社側に発行のメリットがあるからです。譲渡制限株式を発行するメリットについては、後の見出しで詳しく説明します。
(2)公開会社と非公開会社の違い
公開会社とは発行する株式の全部あるいは一部について譲渡の制限を設けていない会社のことです。非公開会社(譲渡制限会社、株式譲渡制限会社)はすべての株式に譲渡制限がついている会社になります。
よく勘違いされるのは上場会社や大会社です。
公開会社には、一部の株式について譲渡制限がある会社も含まれますから、上場会社とは別の意味です。上場会社とは審査に合格して、株式を証券取引所で売買できるようになった(上場した)会社のことを意味します。上場会社と公開会社は同じ意味ではありません。
大会社と公開会社も意味が違います。最終事業年度に係る貸借対照表に計上する「資本金が5億円以上」か「負債が200億円以上」の会社のことです。公開会社と大会社、上場会社を混同しないように注意してください。
なお、日本の会社の99%は株式に譲渡制限を設けています。
2、譲渡制限株式を発行する会社側のメリット
譲渡制限株式は譲渡・売買が会社側に制限されてしまうため、株主にとってはデメリットのある株式です。会社の承認を得なければならないため、売却や譲渡の際は時間がかかりますし、譲渡を巡って会社側と揉める可能性もあります。
一般的な株式であれば、タイミングを見て一気に売却して資金調達などもできますが、譲渡制限株式の場合は譲渡に制約がついているせいで、迅速な資金調達には使いにくい株式です。
株主は「譲渡しにくい厄介な株式」、「なぜこのような制限付株式を発行したがるのか」と思うのではないでしょうか。譲渡制限株式を売却したいときは、特に制約を厄介に感じられることでしょう。
日本の多くの会社が譲渡制限株式を発行する理由をメリットの面からわかりやすく説明します。
(1)譲渡制限株式の発行は会社の乗っ取り防止になる
譲渡制限株式は、譲渡の際に会社側の承認が必要なことから、会社の乗っ取り対策として使えるというメリットがあります。
すでにお話ししましたが、普通の株式の場合は、市場で自由に売買できてしまうため、会社にとって都合の悪い人が株式を購入しても、阻止する術はありません。しかし、譲渡制限株式の場合は、会社にとって都合の悪い投資家などが入手しようとしたら、会社が承認しなければ譲渡を阻止できます。
譲渡制限株式にすることで、会社乗っ取りを企てている人やリスクのある人を排除できるわけです。
(2)譲渡制限株式の発行により役員の任期を伸ばせる
譲渡制限株式により非公開会社にしておけば、役員の任期を伸ばせるというメリットがあります。役人の任期は、取締役と会計参与は2年、監査役に関しては任期4年と定められているのです。しかし譲渡制限株式による非公開会社の場合は、任期を2年と4年から10年に伸ばせます。
中小企業の場合は家族経営や、役員の顔触れがほぼ変わらないことも珍しくありません。任期が2年や4年だと、ほぼ役員のメンバーが変わらないのに短期で選び直さなければいけません。非公開会社になることにより役員の任期を伸ばせますので、短期で役員の選び直しをする手間をカットできます。
また、非公開会社は、取締役を株主の中から選ぶなど役員選出時の制限的ルールを設けることも可能です。現在の友好関係にある株主同士の中から会社の代表を決められるわけです。
(3)取締役会や監査役を置かなくてよい
公開会社の場合は取締役会を設置しなければいけません。取締役会は取締役3人以上で構成する組織です。非公開会社の場合は、取締役会を設置する必要はありません。取締役を1人置けば会社を経営できるというメリットがあります。
非公開会社が取締役会を設置する際は、監査役あるいは会計参与の設置も必要です。取締役会を設置する必要がないということは、監査役や会計参与も不要ということになります。非公開会社は役員をコンパクトにできるというメリットがあるのです。
(4)株主総会の手続きが簡便になる
株主総会は、会社の経営方針を決める最高の意思決定機関です。会社の経営において重要な役割を持つのが株主総会だからこそ、招集のためのルールは厳格に決まっています。
株主総会を開くときは2週間前に書面などで通知しなければならないのがルールです。しかし、非公開会社は1週間前やさらに短い期間など、株主総会の招集ルールが緩和されています。
非公開会社(取締役会を設置していない場合)は、株主総会を口頭や電話で招集することも許されているため、株主総会の手続きが全体的に簡便になるというメリットがあります。
(5)株式を渡したい人(後継者)への集中が可能
会社が株式の譲渡に対して承認するかどうかを決められるということは、渡したくない人に株式を取得されることを防止できるということです。反対に株式を渡したい人のところに株式を集中させられるということでもあります。
株式を悪意のある者のところに分散させず、後継者などに集中させることが可能です。会社の承継時などにメリットがあります。
3、譲渡制限株式を発行する会社側のデメリット
譲渡制限株式には、組織のコンパクト化や渡したくない人に株式を取得されないなどのメリットがある反面、発行にはデメリットも伴います。
デメリットの最たるものは、株主が自由に株式を譲渡できないことです。会社には自衛などのメリットがあっても、そのために譲渡に制限がかかるわけですから、株主にとっては取得に迷い、売却に困る株式になります。また、譲渡制限株式には会社側にも2つのデメリットがあります。
(1)譲渡制限株式だけでは会社の乗っ取りを完全に防げない
譲渡制限株式で悪意のある投資家などに株式を入手されないようにしても、会社の乗っ取りを完全に防げるわけではありません。
たとえば、会社に協力的な態度を見せている投資家がいたとします。この人なら株主にしても大丈夫だろうと株式の譲渡の承認をした結果、本性を表して乗っ取りに動く可能性もゼロではありません。このような可能性も視野に入れる必要があります。
また、注意しなければならないのは譲渡制限株式の相続です。この点については後述します。
譲渡制限を設けたとしても会社の株主を100%コントロールできるわけではないというデメリットがあります。
(2)決算公告が必要になるなど手続き的な手間がある
非公開会社になるためには決算公告を要するなど手続き的な手間があります。定款変更を行うなど、譲渡制限株式の発行のためには必要な手続き・手順をクリアする必要もあります。
4、譲渡制限株式でも相続や売却はできる
譲渡制限株式の場合、問題になるのは誰かに譲渡することです。
たとえば譲渡制限株式の株主であるAが亡くなったとします。株式は相続対象になる財産ですから、通常であれば、相続人が株式を相続することになるはずです。しかし、譲渡制限株式の場合は譲渡、つまり株主から誰かの手に渡ることに制限がかかっているわけですから、被相続人から相続人の手に渡る相続は可能なのかが問題になります。
また、譲渡制限株式は売却できるのかが問題です。
譲渡制限株式が制限により売却がほぼ不可能となれば、株主は嫌でも株式を持ち続けなければいけません。株式を持っているということは、経営権争いなどに巻き込まれるリスクがあるということです。会社と縁を切りたいと思っても、譲渡制限株式の売却が極めて難しいとなれば、株式の保有は負担になるため、株主になりたがらない人も出てくることでしょう。
譲渡制限株式の相続や売却は可能なのでしょうか。
(1)譲渡制限株式は相続できる
譲渡制限株式は相続できます。譲渡に制限がついていても、株式を相続することは制限に反しません。相続発生時に承認を受けなくても、株式の相続が可能です。自動的に相続人のものになるということです。
相続では譲渡制限株式が自動的に相続人のものになってしまうため、会社にとって不利益な人が株主になるというリスクがあります。
たとえば、相続人自体が会社にとって敵対的な人物だったらどうでしょう。また、現経営陣と折り合いの悪い人物が相続人だったらどうでしょうか。このようなケースでは、譲渡制限株式の相続により会社がトラブルに巻き込まれてしまうリスクがあります。そのため、あらかじめ定款に記載することで、相続人に対して譲渡制限株式の売渡請求ができるというルールになっています。
なお、この売渡請求では、相続人の議決権はありません。相続人が多くの株式を相続している場合、相続人が自分に有利な議決をするからです。しかし、相続人に議決権がないために、仮に相続人が後継者の場合は、別の株主たちが結託して売渡の決議を下すなど、後継者である相続人に不利な決議をする可能性もあります。相続時の売渡請求には注意が必要です。
(2)取得時は第三者や会社などに売却できる
譲渡制限株式は必要な手続きさえ踏めば、売却も可能です。あくまで譲渡に承認が必要なだけで、譲渡すること自体が違法というわけではありません。
5、譲渡制限株式を売却するときの流れと価格
譲渡制限株式を売却したいときは、会社の承認を得るため申し出なければいけません。また、譲渡制限株式は市場で自由に売買できる株式ではないため、売却する際に市場価格を参考にできないという特徴があります。そのため、株式をいくらで売却するかが問題になります。
(1)譲渡制限株式を売却するときの流れ
譲渡制限株式を売買により譲渡するときの基本的な流れは以下の通りです。
- 株式の売主と買主が共同して会社に承認するよう申し入れる
- 会社の意思決定機関(株主総会など)が承認の可否について判断する
- 会社が株式譲渡を承認する場合はその旨を通知する
- 譲渡制限株式の譲渡を実行する
- 株主名簿の名前を新株主の名前に変更する
譲渡制限株式の譲渡承認請求は基本的に売主と買主が共同で行うことになっていますが、買主あるいは売主の片方から行うこともできます。
譲渡承認の申し入れが行われると、会社側が判断のうえで通知します。この通知は2週間以内にしなければいけません。2週間を超えたときは、会社が譲渡制限株式の譲渡を承認したものとみなされます。
株主名簿の名義を書き換えた後は、株主名簿記載事項証明書の申請も可能です。新株主が譲渡により確かに株主になったという証明書になります。
(2)譲渡制限株式の価格はどうやって決めるのか
譲渡制限株式には市場の株価がありません。株式譲渡のときは、価格をどのように決定するかが問題になります。譲渡時の株価決定方法は3つです。
- 話し合いで株価を決める
- 裁判で株価を決める
- 供託価格になる
譲渡承認の申し入れを行う場合には、売主と買主との話し合いで、譲渡価格に合意できているかと思います。もっとも、会社が譲渡を承認せずに、会社が買い取る場合や会社が買取人を指定するような場合には、売主は高く買って欲しく、買主は安く買いたいという思いが衝突しがちです。そのため、話し合いでは株価決定にいたらないことも少なくありません。
話し合いで譲渡制限株式の株価が決まらないときは、裁判所に申し立てて価格決定します。裁判所に申し立てがない場合は、会社法に定められたルールに従い、供託価格による株式譲渡になります。
株価の決定は、基本は話し合いで、揉めたら裁判所という流れです。
6、譲渡制限株式の譲渡や売却価格で困ったら弁護士に相談を
5(1)で説明した株式譲渡の流れは、あくまで承認されることを想定した基本的な流れです。ただし、譲渡制限株式は譲渡に制約が設けられており、会社に譲渡の拒否権があります。譲渡を申し入れても、会社側から拒否される可能性を視野に入れて譲渡の計画を立てるべきです。
また、譲渡制限株式の株価はトラブルになりやすいポイントです。譲渡制限株式の株価算定方法には純資産価格方式や配当還元方式など、さまざまな算定方法があります。個人で価格を算出し、買主に株価算定のプロセスを筋道立てて説明することは容易ではありません。
譲渡制限株式の譲渡や株価で迷ったら、スムーズに譲渡を進めるためにも、弁護士に相談することをおすすめします。
まとめ
譲渡制限株式は、譲渡のために会社の承認が必要な株式です。譲渡したいと思っても、会社側が承認しないリスクもあり、仮に譲渡できそうな場合でも、市場価格がないことから株価決定で揉める可能性があります。
譲渡制限株式の扱いには、専門的な知識や実務経験を要します。困ったことがあれば、まずは弁護士に相談してください。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています