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「合弁契約」新しいパートナーとの協働での新事業展開6つのポイント
会社経営者が、他の事業者との共同事業として、合弁契約により、合弁会社設立を考えることがあるでしょう。
しかし、通常の業務提携とは違います。新しい法人を設立するのです。
具体的にどのようにしていけばよいのだろうか。何か注意しておくべきリスクはないのだろうか。
今回は、そのような不安を持つ経営者や会社の管理者のために
- 合弁契約とはそもそも何か
- 合弁契約のメリット・注意すべきリスク
- 実際に合弁契約を締結するための手順と注意点
- さらに、海外との合弁について注意すべき点
などについて弁護士がわかりやすく解説します。
あなたの会社の新しい事業展開にお役に立てれば幸いです。
1、合弁契約とはそもそも何か
(1)合弁契約(ごうべんけいやく)とは何か
複数の会社が共同事業を行う場合には、いろいろなやり方があります。単純に業務提携契約を締結する、という方法もあります。
合弁契約は、複数の会社で共同して事業展開するための会社に出資する、というやり方です。事業展開のための新会社を設立し、共同出資する、というのが典型的な例です。既存の会社に別の会社が出資することで結果として合弁になる、といったこともあります。
業務提携契約よりもさらに進んだ形であり、協力して強固な事業展開を進めることが期待できます。
(2)合併とは異なる
よく似た言葉で「合併」がありますが、「合併」と「合弁」は違います。
合併は、複数の会社が1つの法人格にまとまってしまう事です。甲社が乙社を吸収合併すれば、甲社だけが存続し、乙社は消滅します。
よく合併を「結婚」になぞらえる人がいますが、適切ではないでしょう。結婚と違って、合併の場合は一方の会社の法人格は消滅してしまいます。
これに対して、「合弁」というのは、例えば、甲社と乙社が共同出資して合弁会社丙社を設立します。子供を生むようなものだとお考えになればわかりやすいでしょう。
2、合弁契約のメリットと注意すべきリスク
(1)合弁契約の狙い・メリット
合弁契約によって合弁会社を設立するのは、単なる業務提携契約以上のメリットを狙うからです。
出資会社は、合弁会社に対して高い比率の出資を行い、かつ人員派遣等も行います。
出資会社が合弁会社を通じて積極的・能動的に活動することになります。
しかも、合弁会社は出資会社と別法人です。
万が一のときも、当該合弁会社を解散するなどして、出資会社が最終的なリスクを負わないようにすることも可能です。
一方では単なる業務提携契約と異なり、自分の会社の都合だけで合弁会社をたたむことはできません。
お互いに逃げないで取り組む覚悟が必要です。
合弁会社は次のような目的をもっていることが通常です。
①新規分野への進出のコスト節減・リスク分散
1つの会社だけでは新分野進出へのリスクを負い切れないと思えば、他社と協働して合弁会社をつくってリスク分散を図ることができます。
②得意分野の相互補完
例えば、技術力のある企業と販売力のある企業が相互補完の目的で合弁会社を設立する、といったことです。
異なった技術を持つ会社が合弁会社を設立して、お互いの技術を出し合って相互補完するということもありうるでしょう。
③海外進出の足がかりとする
発展途上国などで外国企業単独の直接投資を認めない、といったところもあります。
その場合、現地の会社と合弁契約を結んで合弁会社をつくりその国への進出の足がかりにするようなこともよく行われます。
(2)合弁会社の内部統制が行き届かないと不祥事に繋がりかねない。
とはいえ、合弁会社は独立した法人です。出資者である本社のコントロールが効かなくなる可能性もあります。
一方当事者の独走ということも生じえます。
合弁会社には戦略的な役割を負わせていることが通常でしょう。
しかし、規模が小さく内部管理体制が不十分なことはしばしば見受けられます。
不祥事を起こして親会社(出資会社)に大きな負担をもたらすということも、決して少ないわけではありません。
最近でも、日本の一流企業が中国の合弁会社で現地の役職員による巨額の不正流用の被害を受けた事例があります。
国内での合弁であっても、お互いの得意を補完し合うと言いながら、相手任せになって大きな損失をこうむる、などといった可能性はありうるでしょう。
(参考記事):大和ハウス、中国の関連会社で234億円不正流用か
3、合弁契約の前の準備
合弁契約締結の前には必要な準備があります。ごく簡単に触れます。
(1)目的の明確化・合弁相手の決定
何を目的として、どの会社と一緒に合弁契約を結び、合弁会社を設立するのかを、明確にします。
前述2、(1)に示したのは目的の一例です。その目的にふさわしい相手を選ぶ必要があります。
(2)事前調査
相手の技術力、ノウハウ、販売力などをお互いに守秘義務契約を結んで検討し合うことになるでしょう。
狙いとするマーケットの調査も協力して行うことになるでしょう。
(3)出資比率・人員派遣などの検討
お互いにどの程度の出資を行うのか、出資比率をどうするのか、役員や幹部社員などの派遣についてどうするのか、合弁会社の実質的な支配権をどちらが持つのか、そのような事もしっかり検討する必要があります。
4、合弁契約書の重要項目を確認しよう
ここでは、合弁契約書に盛り込むべき一般的な内容を解説します。
重要な内容については、契約書条項の案文も示しています。
甲、乙が出資して合弁会社丙を設立するものとして説明します。
甲、乙を出資会社と呼ぶことにします。
(1)目的の明確化
契約書の前文、第1条などで合弁事業の目的を明示します。
(参考案文)
株式会社〇〇〇〇(以下「甲」という。)と株式会社〇〇〇〇(以下「乙」という。)は、〇〇〇〇の運営事業に関して、共同出資による合弁会社を創設することについて、以下のとおり合意し、本合弁契約を締結する(以下「本契約」という。)。
第1条 (目的)
本契約に基づき、甲及び乙は、〇〇〇〇の運営事業(以下「本事業」という。)に関して、共同出資による合弁会社(以下「丙」という。)を創設する。
(2)合弁の概要
次のような合弁の概要を定めます。
- 合弁会社の商号
- 合弁会社の事業目的
- 合弁会社の本店所在地
- 合弁会社に設置する機関(株主総会、取締役会等の機関構成)
- 合弁会社が発行する株式数
- 合弁会社の事業年度
(3)出資比率
お互いの出資比率を明確にします。
(参考案文)
丙の資本金は、金X円とし、甲がY円、乙がZ円を出資し、1株金◯万円の発行価額により、甲は49株、乙は51株を引き受けるものとする。
(3)意思決定機関・役員構成・重要な要員の出向など
合弁会社の取締役の人数を規定し、出資会社が、それぞれ何名の取締役を選任する権利を持つかを定めます。
合弁会社の代表取締役を甲乙どちらから出すのかということも定めます。
これにより、甲乙いずれが優先的な支配権を持つのか、対等なのかが実質的に決まることになります。
特に、技術や内部管理などのキーパーソンについては、両社から出向させることなども決定しておきます。
(参考案文)
丙には取締役会を設置し、取締役の員数は〇名とする。このうち、甲は2名、乙は3名を指名することができるものとする。丙の代表取締役は乙が指名する者1名とし、甲は乙が指名した者が代表取締役に選定されるよう、その指名した取締役をして丙の取締役会において議決権を行使させるものとする。
(4)重要事項決定における本社の関与
合弁会社の重要な意思決定に関しては、出資会社甲・乙がともに関与することを明確にします。
これについては、丙の決定についてあらかじめ甲乙が協議する、という定め方をしたり、甲乙いずれかが出資比率などで有利な場合、重要事項については、劣後する出資者の承認を必要とする、といった定め方も考えられます。
(参考案文1)
第〇条(重要事項の決定)
丙が、次の事項を決定するに当たっては、甲乙が事前に書面で同意することを要するものとする。
(1) 株主総会で決すべき事項
(2) 甲または乙と競業関係にある会社と取引しようとする場合
(3) 増資または減資
(4) 金1億円以上の借入または投資
(5) その他業務上の重要な事項
(参考案文2)
第〇条(重要事項の決定)
丙が、以下の事項を決定するにあたっては、甲(劣位の会社)の承認を得なければならないものとする。
(1) 金1億円以上の設備投資
(2) 重要な人事
(5)株式売却オプション・譲渡禁止条項など
合弁会社は、出資会社の相互の信頼関係により成り立っています。
出資会社の一方が合弁会社の株式を自由に譲渡することは認めず、相出資会社(甲にとっての乙、乙にとっての甲)の同意を必要とする、といった定めを設けます。
一方で、一定の事由があったときには出資会社の一方が他方に株式を買い取らせたり、第三者に売却することを認める等の定めを設けることがあります。
例えば、合弁契約上の債務不履行とか、設立後一定期間が経過した場合などです。
(6)競業禁止
出資会社が合弁会社と同種の事業を新規に立ち上げると、不測の事態が生じ得ます。
そのため、例えば、出資会社は一定期間そのような競業行為を行わない、といった条項を盛り込むことがあります。
(7)秘密保持
合弁に関する具体的な取り決め事項は、通常、外部に公表することを想定していません。
秘密保持規定を設けることが通例です。
(8)合弁解消
合弁会社は一定の目的を持って設立・運営されます。
当初の目的が達成できない時には、合弁契約を解約するという定めを設けることが通例です。
以下では、出資会社のうち劣位の甲が契約解除を請求できる、という案文を掲げました。
(参考案文)
第〇条(本契約の解除)
1.甲は、以下の事由が発生した場合、本契約を解除することができる。
(1) 丙の経常損益が、設立後〇年内に黒字にならなかったとき
(2) 乙の支払停止または乙についての破産等法的倒産手続開始の申立てがあったとき
(3) 乙の債務不履行により本事業に重大な影響が生じたとき
(4) その他、甲乙間の信頼関係が破壊されたと甲が判断したとき
2.甲が本契約を解除した場合に、甲が丙の株式を有する場合、甲は、乙に対して、自らが保有する丙株式の全部を買い取らせることができる。
3.前項の場合において、甲の売却する丙株式の売却価額及び手続については、第〇条(株式売却オプション)に準じて決定するものとする。
(9)デッドロック
重要事項の決定などで出資会社間の意見が対立するなど、合弁事業を進めることができない事態が生ずることがあります。
そのようなときには、まずは協議や調停による話し合いでの解決を試みますが、それでも事態が解決しない場合には、合弁会社を解散するか、一方当事者が株式を買い取るなどで合弁会社を存続させる、といったことを、あらかじめ取り決めておきます。
(参考案文)
第〇条 (デッドロック)
1.本契約第〇条の重要事項の決定に関し、甲乙間に見解の相違が生じ、かつ、協議開始から〇〇日経過しても解消されない場合、甲及び乙は、他方当事者に対し、丙の解散を請求できる。
2.前項の場合において、相手方当事者が丙の解散を望まない場合には、当該当事者は、解散請求をした当事者の保有する丙株式を自ら買い取るか、第三者に買い取らせることができる。
3.前項の場合、丙株式の買取り価格は、第〇条に準じて決定するものとする。
5、海外との合弁を考える場合
海外への事業進出のため、現地の会社と合弁会社を設立することはよく行われます。
発展途上国などで外国の会社が直接乗り出すことを制限している場合などには、合弁会社設立がひとつの進出方法です。先進国への進出に当たっても、現地事情に詳しい現地会社と合弁会社を設立することは頻繁に行われています。
当然のことですが、海外進出に当たっては入念な事前準備が必要です。海外法制・現地事情などをしっかり把握しないと大きな失敗をすることになりかねません。
海外法制について言えば、例えば次のようなことです。
- 中国における知的財産権の保護状況
- 欧州における個人情報保護の厳格な規制
- 米国における反トラスト法
現地の役職員の気風やものの考え方といったところでも、国が変われば大きな相違があります。
自国の常識が通じないことが少なくありません。
よほどの覚悟を決めてしっかり準備しないと、海外進出は大きな痛手にもつながりかねません。
6、合弁契約には検討段階から弁護士の関与を
以上にお話したのは合弁契約についての、ごく簡単なイメージです。
実際には検討のはじめの段階から、この問題に詳しい弁護士等の専門家に助言を求めるべきです。実際に合弁契約を締結する準備を進める中で、例えば、守秘義務契約も締結しておく必要もあるでしょう。
このようにして、お互いの手のうちを見せ合い、新しい合弁会社を作ったり、相手方の子会社に出資するのです。
信頼関係の上に立って誠実に交渉するのは当たり前のことですが、それでも、うまくいくとは限りません。
合弁契約締結に当たっては、うまくいかなかったときのことも想定しての検討が欠かせません。そのような備えがあるからこそ、新分野へのチャレンジが可能になるのです。
まとめ
合併と異なり、合弁では特定の事業分野に機動的な進出が可能になります。
新分野への思い切ったチャレンジとして、ぜひ検討してみてください。
自社だけではできなかった新しい世界が開けるでしょう。
さらには、例えば、優秀な社員を出向させて将来の経営者として育てていくという貴重な機会にもなりうるのです。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています