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育児介護休業法とは?改正のポイントや企業がやるべきことを解説
育児介護休業法は、子育てや家族の介護を担う労働者が働きやすくなるように、育児休業・介護休業等の制度を定めた法律です。
少子高齢化が進む社会において、労働者が育児や介護と仕事を両立していくためには、今までよりも、柔軟な働き方ができる環境が必要です。
育児介護休業法は1992年から施行されていますが、まだまだ休業・休暇等に関する制度が十分に活用されているとはいえません。
育児介護休業法は、数次の改正を経て、2022年4月からまた新たな改正法が施行されます。事業主としては、当該規定に対応する準備を今から進めておく必要があるでしょう。
今回は、
- 育児介護休業法とは
- 育児介護休業法の改正ポイント
- 改正育児介護休業法の施行に向けて企業がやるべきこと
などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が分かりやすく解説していきます。
本記事が、そもそも育児介護休業法とは、どのような法律なのか、そして改正法の施行に向けて、何をすればよいのかが気になる企業の経営者や、人事担当者等の手助けとなれば幸いです。
1、育児介護休業法とは
育児休業法の正式名称は「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」といいます。
まずは、この法律の意義と目的、現時点における制度の概要などを確認しておきましょう。
併せて、今回の改正に至った経緯についても解説します。
(1)この法律の意義・目的
育児介護休業法の目的をひと言でいうと、育児・介護をする労働者を支援し、当該労働者の雇用の継続や再就職を促進して、育児・介護と仕事の両立を容易にすることです。
この目的を達成するために、育児介護休業法は、事業主に対して、育児・介護をする労働者を対象とした、さまざまな支援措置を講じることを義務づけています。
法律でこのような制度を設けることには、以下の意義があります。
- 社会にとっての少子化対策
- 女性にとっての雇用の確保と活躍できる場の拡大
- 高齢者の増加に伴う介護への対策
- 企業にとっての雇用継続・雇用の安定化
単に労働者が休暇を取りやすくなるだけではなく、社会全体および経済の発展につながるという、重要な意義が育児介護休業法にはあるといえるでしょう。
(2)改正前の育児介護休業法の制度内容
2022年4月から施行される改正法の内容を見る前に、改正前の育児介護休業法の制度内容を確認しておきましょう。
この法律における労働者に対する支援制度は、大きく分けて次の3種類に分類できます。
- 育児のための支援制度
- 介護のための支援制度
- 両方に共通する支援制度
労働者が、これらの制度を利用、または利用の申し出をしたことを理由として、解雇や降格、減給などの不利益な取り扱いをすることは禁止されています。
①育児のための支援制度
育児のための支援制度としては、主に以下の2つがあります。
- 育児休業(第5条)
原則として1歳まで、最長2歳までの子どもを養育するために休業できる制度です。
- 子の看護休暇(第16条の2)
未就学の子の看護のために必要があるときは、年間5日(未就学の子が2人以上いる場合は年間10日)まで休暇を取得できる制度です。
②介護のための支援制度
介護のための支援制度としては、主に以下の2つがあります。
- 介護休業(第11条)
要介護状態にある家族を介護するために、休業できる制度です。対象家族に1人につき、通算93日まで休業可能とされています。
- 介護休暇(第16条の5)
要介護状態にある家族を介護するために、介護休業とは別に、年間5日(対象家族が2人以上いる場合は年間10日)まで休暇を取得できる制度です。
③共通する支援制度
育児と介護の両方に共通する支援制度としては、主に以下の6つがあります。
- 所定外労働の制限(第16の8、第16条の9)
3歳未満の子を養育する労働者および要介護状態にある家族を介護する労働者について、勤務先の所定労働時間を超える労働の免除を可能とする制度です。
- 時間外労働の制限(第17条、第18条)
未就学の子を養育する労働者および要介護状態にある家族を介護する労働者について、法定時間外労働の制限を可能とする制度です。
- 深夜業務の制限(第19条、第20条)
未就学の子を養育する労働者および要介護状態にある家族を介護する労働者について、午後10時から午前5時までの時間帯における労働の免除を可能とする制度となります。
- 短時間勤務制度(第23条)
3歳未満の子を養育する労働者および要介護状態にある家族を介護する労働者について、育児休業・介護休業をしない場合には、時短勤務を認める制度です。
- 転勤等への配慮(第26条)
労働者に就業場所の変更を命じる場合には、育児や介護が困難とならないように配慮することを事業主に義務づける制度です。
- 再雇用特別措置等(第27条)
妊娠、出産、育児、介護を理由として退職した人について、その退職者が希望する場合には、再雇用を容易にする措置をとる努力義務を事業主に課す制度となります。
(3)改正に至った背景
育児介護休業法は、1992年から施行されています。
しかし、育児や介護を担う労働者の職業生活と家庭生活の両立を促進し、社会や経済の発展を図るという法の理念・目的はまだ十分に達成されているとはいえません。
そのため、既に数次の改正を経ていますが、今回は、特に男性の育児休業の取得率が低調であるという背景に注目し、主に育児休業に関する改正が行われました。
男性の育児休業の取得率は、年々上昇してはいるものの、女性の取得率と比べて、圧倒的に低いことが問題視されています。
厚生労働省の「令和2年度雇用均等基本調査」によると、2020年度は女性の取得率81.6%に対して、男性の取得率は12.65%にとどまっています。育児の負担が依然として女性に偏っていることが、データ上明らかです。子育てに積極的に参加したい男性のワークライフバランスを充実させるためにも、男性の育休取得をさらに促進することは、急務といえるでしょう。
さらにいえば、女性の育休取得率も、まだ十分というわけではありません。
以上のような実情を背景として、育児休業制度を強化した改正法が2022年4月から段階的に施行されます。
2、育児介護休業法の改正(2022年4月~)のポイント
今回の育児介護休業法の改正における重要ポイントは、以下の5つです。
(1)育児休業を取得しやすい雇用環境整備等の義務化
労働者が、育児休業を適切に取得するためには、取得しやすい環境がなければなりません。改正法では、育児休業の申出および取得が円滑になるように、雇用環境を整備する措置をとるべきことが、事業主に義務づけられます。
具体的には、以下のような措置の中から、最低1つを選択して、実施しなければならないこととされます。
- 育休に関する社内研修を実施すること
- 育休に関する相談窓口を設置すること
- 育休取得事例を収集し、従業員に提供すること
- 育休に関する制度と育休取得促進に関する方針を従業員に周知すること
労働者本人またはその配偶者が妊娠や出産をした場合には、以下のことが義務づけられます。
- 個別に育児休業制度について周知すること
- 休業等を取得するかどうかの意向を確認すること
(2)有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和
改正前は、有期雇用労働者は、次の2つの要件を満たす場合のみ、育児休業を取得できるとされています。
- 継続して1年以上、雇用されていること
- 子供が1歳6か月になるまでに雇用契約が満了することが明らかでないこと
改正後は、前者の要件が原則的に廃止されます。
後者の要件を満たす限り、入社直後であっても、育児休業の取得が可能となるのです。
ただし、労使協定によって雇用期間1年未満の労働者を対象外とすることは可能とされる予定です。
(3)出生時育児休業(産後パパ育休)の創設
2022年10月から施行されるものですが、男性の育児休業取得を促進するための「出生時育休制度」が導入されます。
この制度は、俗称「産後パパ育休」と呼ばれるものです。
現行の育児休業制度とは別で、産後パパ育休を取得することが可能とされるので、男性もより柔軟に育児のための休業を取得できるようになります。
新制度(産後パパ育休)と現行制度(育児休業)の関係は、以下の表のとおりです。
|
新制度(産後パパ育休) |
現行制度(育児休業) |
対象期間、 取得可能期間 |
子の出生後8週間以内に、4週間まで取得可能 |
原則として子が1歳(最長2歳)になるまで |
申出期限 |
原則として休業する2週間前まで |
原則として休業する1ヶ月前まで |
分割取得 |
2回まで分割取得が可能 |
原則として分割取得不可 |
休業中の就業 |
労使協定を締結すれば可能 |
不可 |
(4)育児休業の分割取得が可能に
産後パパ育休だけでなく、通常の育児休業についても、2022年10月以降は、2回まで分割して取得することが認められるようになります。
(5)育児休業取得状況を公表することの義務化
「育児休業取得状況を公表することの義務化」は、2023年4月から施行予定の制度です。
常時雇用する従業員数が1,000人を超える企業に対しては、従業員の育児休業等の取得状況を公表することが義務づけられます。
この制度によって、企業社会における育児休業への意識が強化され、育児休業取得の促進につながることが期待されます。
3、育児休業・介護休業の取得を促進することで事業主が得られるメリットは?
育児休業・介護休業を取得しやすくなると、労働者にとってはメリットが大きくても、企業・事業主にとっては、負担が増えるばかりだと思われるかもしれません。
しかし、育児休業・介護休業の適切な取得を推進することによって、企業・事業主も以下のように多くのメリットが得られます。
(1)従業員のモチベーションがアップする
業績を上げ、企業を発展させていくためには、従業員のモチベーションが大切です。
子育てや家族の介護を抱えていても、なかなか休めないようでは、従業員の心身が疲弊し、モチベーションが低下してしまう可能性が高くなります。
たとえ休めたとしても、上司から不満を言われたり、職場で無言の圧力をかけられたりすると、気持ちよく仕事をすることは難しいでしょう。
必要に応じて、快く育児休業・介護休業を取得できる環境であれば、育児・介護を抱えた従業員の心身にかかる負担が軽減されます。
会社のために頑張って働こうというモチベーションも、アップすると考えられます。
(2)従業員と家族の会社に対する満足度が高まる
労働者にとっては仕事も大切ですが、子育てや家族の介護もそれ以上に大切なことです。会社にとって業績が第一であることは理解できても、家庭の事情を理解してもらえなければ、会社に対する不満がたまってしまうはずです。
気兼ねなく育児休業・介護休業を取得することができれば、従業員は「会社も家族のことを考えてくれている」と感じ、会社に対する満足度が高まるのではないでしょうか。
従業員の家族も、会社に対して好印象を持つことでしょう。
以上のように、労使の信頼関係が深まることによって、労働者は安心して働けるようになりますし、業績の向上も期待できると考えられます。
(3)業務の効率化につながる
特定の業務を任せていた従業員が育児休業・介護休業を取得すると、一時的に業務が停滞したり、その職場にいる他の従業員にかかる負担が増大したりする可能性は否めません。
今までどおりに業務を遂行するためには、業務フローを見直し、無駄な作業を廃止することも必要となるでしょう。
このような工夫によって、業務の効率化につながることが期待できます。
気兼ねなく育児休業・介護休業を取得できる風土が社内に根付けば、従業員同士が「お互い様」の精神でフォローし合い、連携が強化され、業務が効率化する可能性があります。
(4)企業イメージのアップが期待できる
近年では、大企業を中心に、育児休業・介護休業の取得を推進する動きも強まってきています。
社会全体で見ると、十分な体制を整えている企業はまだ多くないのが現状です。
そんな中で、休業等を取得しやすい雇用環境を整備し、取得を勧奨すれば、企業イメージのアップが期待できます。
優秀な人材を確保しやすくなったり、顧客や取引先からの印象も良くなったりするため、業績が向上することも期待できるでしょう。
4、育児休業・介護休業で事業主が活用できる助成金制度は?
労働者が育児休業・介護休業を取得すると、事業主にとっては負担となる面もありますので、政府は事業主に対して、「両立支援等助成金」という制度を用意しています。
この助成金制度には以下の3つのコースがあり、それぞれ、育児休業・介護休業制度の利用者が発生した場合に、事業主が申請し、助成金を受けることができます。
- 出生時両立支援コース
- 介護離職防止支援コース
- 育児休業等支援コース
事業主としては、助成金制度を十分に活用しつつ、従業員の福利厚生として、育児休業・介護休業の取得を推進するとよいでしょう。
給付金制度の内容は、年度ごとに変更される可能性が高いので、こちらの厚生労働省のページでご確認ください。
5、改正育児介護休業法の施行に向けて企業がやるべきこと
改正育児介護休業法は、2022年4月1日から施行され、事業主は否応なく改正法に対応しなければなりません。
施行後に慌てないよう、準備を進めていきましょう。
特に重要な準備事項は、以下の3つです。
- 就業規則等の改訂を検討する
- 育児・介護休業を取得しやすい環境を整備する
- 制度内容を社内に周知する
(1)就業規則等の改訂を検討する
改正法では、産後パパ育休の制度が新設されるほか、既存の休業・休暇制度についても、変更点が含まれています。
休業の取得要件や分割取得などが変更されるため、多くの企業で就業規則や労使協定などの見直しが必要と考えられます。
改正法の内容を正確に把握した上で、自社の就業規則等の改訂が必要かを検討し、必要であれば、施行日までに改訂作業を行っておきましょう。
(2)育児・介護休業を取得しやすい環境を整備する
前記「2」(1)でご説明したように、改正法では従業員が育児・介護休業を取得しやすいように、雇用環境を整備することが事業主に義務づけられます。
単に、休業・休暇の取得を可能とする社内ルールを整備するだけではありません。
取得した従業員や取得の申出をした従業員が、マタハラ・パタハラ・時短ハラスメントなどの嫌がらせを受けないように、職場の環境を整備することも不可欠といえます。
今まで育児・介護休業制度を強く意識していなかった企業においては、この機会に抜本的な環境整備を図った方がよいでしょう。
(3)制度内容を社内に周知する
育児・介護休業の取得を推進するためには、従業員に制度内容を周知することも重要です。
改正法で規定される義務としては、妊娠や出産の申出をした労働者に対する個別の周知および意向確認の措置をとること(前記「2」(1))だけです。
しかし、社内ルールを整備した後は、その内容を社内に周知しておくべきでしょう。
社内で研修を行う際には、厚生労働省のパンフレットやリーフレットを利用するのもよいでしょう。
こちらのページからダウンロードできますので、必要に応じてご利用ください。
育児介護休業法に関するQ&A
Q1.育児介護休業法の目的とは?
育児介護休業法の目的をひと言でいうと、育児・介護をする労働者を支援し、当該労働者の雇用の継続や再就職を促進して、育児・介護と仕事の両立を容易にすることです。
この目的を達成するために、育児介護休業法は、事業主に対して、育児・介護をする労働者を対象とした、さまざまな支援措置を講じることを義務づけています。
Q2.育児介護休業法の改正(2022年4月~)のポイントとは?
- 育児休業を取得しやすい雇用環境整備等の義務化
- 有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和
- 出生時育児休業(産後パパ育休)の創設
- 育児休業の分割取得が可能に
- 育児休業取得状況を公表することの義務化
Q3.育児休業・介護休業の取得を促進することで事業主が得られるメリットは?
- 従業員のモチベーションがアップする
- 従業員と家族の会社に対する満足度が高まる
- 業務の効率化につながる
- 企業イメージのアップが期待できる
まとめ
従業員が育児休業・介護休業を取得することは、企業にとって負担となる面は否定できません。改正法への対応にも、手間と時間を要することでしょう。
しかし、従業員の子育てや家族の介護と仕事の両立を支援することは、企業にとっても大きなメリットとなるはずです。
改正法は2022年4月1日から施行されますので、準備を進めていきましょう。
育児介護休業法の内容には複雑で難解なところもありますので、分からないことがあれば、お気軽に弁護士にご相談ください。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています