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アルハラとは?5つの定義や刑事罰のリスク・具体的対策について解説
アルハラとは「アルコール・ハラスメント」の略称で、飲酒に関連した嫌がらせや迷惑行為を意味します。
具体的には
- 飲めない人に飲ませようとする
- 分解できない程過剰な飲酒をさせようとする
などが該当します。
お酒を飲み交わすことは、上司と部下がコミュニケーションを図る一つの手段ではありますが、コミュニケーションを図っていたつもりなのに、その行為がアルハラに該当してしまうことは少なくありません。
また、何がアルハラに該当するのか判断基準に迷う人も多いでしょう。
そこで今回は
- アルハラの5つの定義
- アルハラの具体的リスク
- アルハラ対策
についてご紹介します。
1、アルハラとは?5つの定義と事例を紹介
アルハラとは「アルコール・ハラスメント」の略称です。以下5つの定義を確認していきましょう。
(1)上下関係などにより飲酒を強要する
上司と部下が飲酒の場を共にすると、社外であっても上下関係が発生しやすい傾向にあります。
お酒を飲むことは、業務とは関係ない場合が多いですが、それでも上司から飲むように言われれば、部下からすれば断りづらい部分はあるでしょう。
上司が部下に対し、「酒を飲め!」と直接的に強制するだけでなく、「一緒に飲もう」と同じペースでお酒をすすめることが強要にあたる場合もあります。
また、単なる飲酒の強要だけでなく、罰ゲームなどと言った心理的圧迫により、飲まざるを得ない雰囲気に持ち込むことも飲酒の強要にあたり得ます。
(2)一気飲みをあおる
飲み会の場を盛り上がらせるために、「一気!一気!」などとコールをかけて、一気飲みをあおることもアルハラに該当します。
一気飲みを直接あおるだけでなく、「どちらが早く飲めるか競争!」などのように、早飲みを競わせるゲームを部下にやらせることも、アルハラにあたり得ます。
(3)泥酔させることを意図した飲み会を開催し、泥酔させる
親睦を深めることやコミュニケーションを目的とした飲み会ではなく、初めから泥酔させることを目的とした飲み会を開催する人もいるでしょう。
泥酔させることを意図しているので、
- 吐くためのバケツ
- 泥酔した人用の部屋
などを準備しておくケースさえあります。
このような飲み会には、主催側も参加する側も注意して避けるようにしましょう。
(4)お酒を飲めない人やお酒に弱い人へ配慮しないこと
お酒は、誰もが飲めるわけではなく、体質によっては、アルコールを受け付けない人もいます。
そのような
- 体質
- 本人の体調
などに配慮せずに、お酒に強い人と同様の飲酒をすすめることも、アルハラにあたり得ます。
(5)酔った勢いで暴言をはいたりセクハラをしたりすること
上司が酒を飲み、酔った勢いで暴言をはいたり、セクハラをしたりすることもアルハラにあたり得ます。
普段は言動や行動に注意している人でも、酔った勢いでハメをはずしてしまい、その言動・行動が後に大きな問題になる可能性もあるので注意しましょう。
2、アルハラを起こしやすい人の特徴
ここからは、アルハラを起こしやすい人の特徴について見ていきましょう。
自分自身はアルハラだと感じていなくても、他の人からすると、アルハラに該当することもあるので注意してください。
(1)お酒を飲むことでコミュニケーションを図れると考えている
アルハラを起こしやすい人は、コミュニケーションを図るには、お酒を飲むことが最も有効であると勘違いしている傾向にあります。お酒の好みは人によって違いますし、全員がお酒でコミュニケーションを図りたいとは思っていない現実をしっかり認識しておきましょう。
(2)昔ながらの文化を大切にしている
昔ながらの文化を大切にしようとしている人も、アルハラを起こしている自覚が少ない傾向にあります。社内の昔ながらの文化には、「先輩からお酒をすすめられたら断ってはいけない」「先輩に一気飲みをするように言われたらどんなに苦しくても先輩の要求に従う」等の文化があるかもしれません。
しかしながら、時代の変化と共に、人間の価値観やどこまでの行為が許されるかという社会の認識は変わってきます。自分も同じことをされたから、同じことを部下にやっても許されるだろうと安易に考えるのはやめましょう。
(3)部下が上司の言うことを聞くのは当たり前だと思っている
自分自身が上司の言うことに服従してきた人からすると、部下が上司の言うことを聞くのは不自然でも何でもなく、むしろ当たり前だと思っている一面があります。
社内での仕事に関して、部下が上司の指示に従うのはもちろんのこと、お酒の場面でも、部下は上司の指示に従い、お酒を飲まなければならないという考えに何の違和感も持っていない人は、アルハラを起こしやすい傾向にあります。
(4)上下関係に厳しい
上下関係の厳しい人も、アルハラを起こしやすいです。上の立場の人からの指示命令には、絶対に従うべきであるという厳しい上下関係を大切にしていると、ちょっとくらいお酒を強要することに何の抵抗感も感じません。
(5)飲み会の場で自分の存在意義を示そうとする
自分の承認欲求が満たされていなかったり、仕事上では自分の価値を見いだせていなかったりする人は、飲み会の場で、自分の存在意義を示そうとします。お酒の場では、仕事の不出来で存在価値を図られにくいので、普段自分の価値を示せていない人にとって、存在価値を示す格好の場が飲み会なのです。
(6)ストレスがたまっている
単純に普段の仕事や私生活でのストレスがたまっており、ストレス発散のために、部下に威圧的な態度でお酒を強要する人もいます。ストレス発散のはけ口に飲み会を使うのは、他の人にとって迷惑なので、控えるように注意しましょう。
3、アルハラを受けやすい人
ここからは、アルハラを受けやすい人の特徴を見ていきましょう。
(1)気が弱い、空気を異常に読んでしまう
気が弱い人や場の空気を異常に読んでしまう人は、自分の気持ちよりも、周りの人の気持ちやその場の空気を優先してしまいがちです。「今自分がお酒を飲まないと、場の空気が悪くなるな」と感じれば、自分はお酒を飲みたくないときでも、お酒を無理やり飲んでしまいます。
(2)お酒をすすめられると断れない
お酒をすすめられたときに断れない人も、アルハラを受けやすいです。「あいつはお酒を強要しても断らないから」などと言うレッテルを一度貼られてしまうと、その後もずっとお酒を飲まされるキャラになってしまいがちです。
(3)上司の言うことには従うべきだと考えている
仕事以外の飲み会の場であっても、上司の言うことには絶対に従うべきだと考えている人は、アルハラの対象になりやすいです。上司としても、自分の言うことを聞いてくれる人は、気分が良くなったり、ストレス発散の対象となったりします。
(4)いじられ役
いじられ役の位置付けになっている人も、アルハラの対象となりやすいので注意しましょう。場の雰囲気を盛り上げるために、いじられ役の人は使われやすいです。
4、アルハラ度チェックリスト
ここからは、あなたのアルハラ度をチェックしていきましょう。以下のチェックリストを元に、いくつ該当するか確認してみてください。
なお、以下の項目については
- 「そんなに問題がある内容ではない」
- 「大げさな」
と感じる人ほど要注意です。
感じ方は人によって違うので、自分の感覚だけでなく客観的な視点も身に付けるようにしましょう。
- アルコールに弱い人は、単なる経験不足で、誰でもお酒を飲めるようになる
- 先輩からお酒をすすめられたら、飲まなければいけない
- お酒を飲むことで、コミュニケーションがとれて、一体感が生まれる
- 飲み会の場は、ハメをはずしたり、無茶をしたりするからこそ楽しい
- ソフトドリンクを飲む人は非常識
- お酒の場では、いつもは許されない暴力や暴言も許されやすい
- 女性は男性にお酌をするのが飲み会の場だ
- 盛り上がるためなら、未成年者にもお酒を飲ませていいだろう
- 一気飲みをさせるコールを3つ以上知っている
- アルコールを飲めない体質の人はいない
- 男性は酒を飲めてこそ一人前
- 吐く人のための袋・バケツ・つぶれ部屋を用意している
5、アルハラにより個人や会社が負う責任
ここからは、アルハラにより、アルハラ行為をした個人や会社が、どのような責任を負う可能性があるかについて、見ていきましょう。
(1)刑事責任を問われる可能性
「ただの飲み会ごときで大げさな…」と感じるかもしれませんが、お酒の場でのアルハラ行為は、刑事責任にまで発展する可能性があります。
- お酒を無理やり強要することは強要罪
- お酒を強要して部下が酔い潰れた場合には傷害罪
などに該当する可能性があります。
また、飲酒が原因で、部下が倒れたのに、救急車を呼ばず、そのまま死亡させた場合には、保護責任者遺棄致死罪に該当する可能性があります。
(2)民事責任を問われる可能性
刑事責任だけでなく、アルハラ行為は民事責任を問われる可能性もあります。
- お酒を強要した本人は不法行為責任
- 企業は使用者責任を負い、損害賠償の支払義務
などが発生する可能性がありますので、十分注意しましょう。
(3)従業員の離職のきっかけや訴訟の原因になることも
アルハラが原因で、従業員が離職することとなったり、刑事責任や民事責任が問われなかったとしても、深刻な事態になったりすれば、メディアで報道され、企業イメージが低下することもあり得ます。
一度低下した企業イメージを取り戻すには、莫大な時間と労力が必要になりますので、酔った勢いでアルハラ行為をしないよう、十分な対策が必要となります。
6、アルハラの2つの判例〜事件の流れや訴訟の結果について
続いて、アルハラ行為により、訴訟に発展したケースを具体的に見ていきましょう。
(1)ザ・ウィンザーホテルズインターナショナル事件
ザ・ウィンザーホテルズインターナショナル事件(東京高裁平成25年2月27日判決)は、ホテル経営会社Y1に雇用され、営業本部セールスプロモーション部門に所属し、休職期間満了による自然退職扱いとされた従業員Xが、上司Y2からパワハラを受けたことにより、精神疾患等を発症し、その結果、治療費の支出、休業による損害のほか多大な精神的苦痛を受けたとして、不法行為に基づく損害賠償の支払を求めるとともに、この精神疾患等は業務上の疾病だとして、地位確認及び賃金支払を求めた事案の控訴審判決です。
この事件では、アルコールに弱い体質のXに対し、上司Y2が飲酒を強要したこと等がパワハラであるとして、不法行為に該当し、違法であると認定されました。
その結果、上司Y2個人の不法行為責任だけでなく、会社Y1の使用者責任も認められました。
(2)神戸学院大学飲酒学生死亡事件
神戸学院大学における部活動の合宿において、当時ユースホステル部の2年生部員であった20歳の男子学生が、上級生らから心理的な圧力をかけられ飲酒を強要されました。
3年生が、4リットルの焼酎を2年生13人で飲み干すよう強要し、被害学生は、急性アルコール中毒で倒れ、翌朝まで病院へ搬送されず、死亡しました。
男子学生の両親が、神戸学院大学と当時の学生20人に損害賠償を請求し、大学と学生が、飲酒の強要があったことを認め、
- 大学が見舞金
- 学生が和解金
をそれぞれ支払う合意内容で、神戸地裁において和解が成立しました。
7、アルハラ防止のために企業・上司が取るべき対策
以上のように、お酒の場での行為がアルハラとなれば、個人が責任を問われるだけでなく、会社も責任を負う可能性があります。
アルハラ防止に向けては、従業員はもちろん、企業全体で対策をとっていく必要があります。
(1)社内での酒の場におけるルール作り
お酒に対する考え方は、人によって個人差があります。良かれと思ってやったことが、別の人にとっては、大きな苦痛になることもあるでしょう。
社内では、たとえば
- お酒を飲むかどうかは、各自の自由であることを周知徹底させる
- 一気飲みの禁止
- 飲酒を強要しない
などのルールを作り、実際にリストの形にして、社内で提案していくことも必要でしょう。
(2)何がアルハラに該当するのか、社内で研修する
何がアルハラに該当するのかは、事前に知っておかないと、個人によって認識に大きな違いが生じます。
例えば
- アルハラの具体的内容
- 社内でのルール
- アルハラは死亡すら招く重大な行為であること
- 訴訟事例等
を踏まえ、社内で周知していくことが大切でしょう。
(3)飲み会の際にはその都度責任者を明確にする
飲み会の際には、その都度責任者を明確にし、責任者が責任を持って飲み会のルールを決めたり、お酒の強要が行われていないかの確認をしたりするようにしましょう。
アルハラに関するQ&A
Q1.アルハラとは?
- 上下関係などにより飲酒を強要する
- 一気飲みをあおる
- 泥酔させることを意図した飲み会を開催し、泥酔させる
- お酒を飲めない人やお酒に弱い人へ配慮しないこと
- 酔った勢いで暴言をはいたりセクハラをしたりすること
Q2.アルハラを起こしやすい人の特徴とは?
- お酒を飲むことでコミュニケーションを図れると考えている
- 昔ながらの文化を大切にしている
- 部下が上司の言うことを聞くのは当たり前だと思っている
- 上下関係に厳しい
- 飲み会の場で自分の存在意義を示そうとする
- ストレスがたまっている
Q3.アルハラを受けやすい人とは?
- 気が弱い、空気を異常に読んでしまう
- お酒をすすめられると断れない
- 上司の言うことには従うべきだと考えている
- いじられ役
まとめ
もしも、アルハラをしたことが問題となっていたり、罪に問われそうになっていたりする場合は、できる限り早めに弁護士に相談するようにしましょう。
問題解決が遅くなるほど事態が深刻になり、大きなトラブルを予防できなくなります。
アルハラが原因となり、企業全体のイメージが低下すると、取り返しのつかない事態にも発展しかねないので、まずは弁護に相談をしてみてください。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています