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同一労働同一賃金とは?働き方改革の重要事項のメリット・デメリットを解説
多様な働き方が認知・普及している昨今において、同一企業・同一団体に所属しているにもかかわらず、雇用形態などによって不合理な待遇差がある点が問題視されてきました。
不合理な待遇差がある状況では、働きやすい形で就労することが難しくなり、結果として多様な働き方が実現しなくなってしまいます。
そこで、2021年4月から「同一労働同一賃金」がすべての企業に適用されることになり、雇用形態の如何を問わず、すべての労働者が合理的な就労環境・就労条件で満足したワークライフを目指せるようになりました(「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(「パートタイム・有期雇用労働法」))。
今回は、同一労働同一賃金制度の概要や、導入するメリット・デメリットなどについて、分かりやすく解説します。
1.同一労働同一賃金とは
まずは、同一労働同一賃金とはどのような考え方なのかを確認していきましょう。
(1)同一労働同一賃金とは不合理な差別解消を目的とする考え方のこと
同一労働同一賃金とは、同一の事業主に雇用される通常の労働者(以下、ここでは便宜上、「正社員」とします)とパート・アルバイト、有期雇用社員、短時間勤務正社員、派遣労働者等(以下、ここでは便宜上、「非正社員」とします)との間には、不合理な待遇の差があってはならず、正社員ではないことをもって差別的な取り扱いをしてはならないという考え方のことです。
労働環境における不合理な格差を排除する目的で掲げられている制度として位置付けられます。
この点、「同一労働同一賃金はすべての労働者の給与等を同一条件にする制度」というのは間違いです。
同一労働同一賃金の考え方が提示しているのは、あくまでも、「雇用形態(パート・アルバイト・派遣契約社員・派遣労働者など)による不合理な差別を禁止すること」、そして、「均衡待遇・均等待遇を実現すること」である点にご注意ください。
したがって、雇用形態等を理由とする不合理な差別は全面的に禁止される一方で、合理的な根拠のある区別は同一労働同一賃金の考え方に違反するものではありません。
(2)同一労働同一賃金を導入するメリット・デメリット
同一労働同一賃金制度を導入すると、労働者側・企業側それぞれにメリット・デメリットが生じます。
①労働者側のメリット・デメリット
同一労働同一賃金を導入すると、労働者側に以下のメリット・デメリットが生じます。
メリット | ・職務の内容や転勤の有無、責任の重さ等が同じであれば、非正社員も同等の正社員と同等の待遇が受けられるのでモチベーションが上がる。
・働きや貢献に見合った待遇が確保されるので、ライフスタイルに合わせて働き方を選択しやすくなる。 ・正社員との待遇の違いの内容や理由について、企業側に説明を求めることができるので、納得感を得やすい |
デメリット | ・収入があがると各種控除を受けられなくなる可能性がある。 |
②企業側のメリット・デメリット
同一労働同一賃金を導入すると、企業側に以下のメリット・デメリットが生じます。
メリット | ・非正社員の士気が高まるので企業活動に活気が出る
・ライフスタイルにあわせて働きやすくなるので、人材確保が容易になる、意欲・能力の高い人材を採用しやすくなる。 |
デメリット | ・人件費や福利厚生費などの負担が増える可能性がある。
・就業規則、社内規則、人事評価制度などを見直す必要がある。 |
2.同一労働同一賃金の具体的な適用例
同一賃金同一労働制度は企業活動全般において不合理な格差を排除する趣旨で設けられる制度ですが、特に、基本給・賞与・各種手当・福利厚生の場面で顕在化します。
以下では、それぞれの場面における同一労働同一賃金制度の考え方を具体的に解説します。
(1)基本給
基本給や昇給額を決定するにあたって、労働者の能力・経験、業績・成果、勤続年数などに応じて支給する場合には、同一であれば同一の支給を、一定の違いがあればついて、違いに応じた支給をしなければなりません。
正社員と非正社員とで、賃金の決定基準・ルールに違いがあるときは、その違いが不合理な理由であってはなりません。
たとえば、基本給の支給額は「労働者の能力・経験」によって決定するものとされている場合、正社員Aと非正社員Bが、職務の内容が同じで、昇進の範囲や経験する部署、転勤の有無等も同条件であり、能力も経験も同じであれば、基本給は同じでなければなりません。
これに対して、正社員Pと非正社員Qとの間に基本給の差があったとしても、合理的な根拠がある場合には、同一労働同一賃金制度の違反するものではないと考えられます。
(2)賞与
賞与のうち、業績や会社への貢献度に応じて支給額が決定される部分について、雇用形態によって差を設けることは同一労働同一賃金違反です。これに対して、貢献度などによって一定の相違がある場合には、それに比例して賞与額に違いを設けなければいけません。
たとえば、賞与について会社の業務等への労働者の貢献度を考慮するA社において、正規雇用Xよりも非正規雇用Yの方が貢献している状況であるにもかかわらず、XYの賞与額が同額であったり、Xの方が高い賞与額を受け取っていたりすると、同一労働同一賃金に違反すると考えられます。
(3)手当
手当の支給の有無・手当の支給額について正規雇用と非正社員との間で不合理な違いを設けるのは同一労働同一賃金違反です。
- 役職手当
- 特殊作業手当
- 特殊勤務手当
- 精皆勤手当
- 時間外労働手当
- 深夜労働手当
- 休日労働手当
- 通勤手当
- 単身赴任手当
- 地域手当など
たとえば、残業代等の割増率などについて、雇用形態によって差を設けてはいけません。
また、全国展開をしている企業A社において正社員Xと非正社員Yはいずれも全国一律の基本給の体系が適用されており、かつ、いずれも転勤があるにもかかわらず、Yにのみ地域手当を支給していない場合には、同一労働同一賃金に違反することになります。
(4)福利厚生など
どのような福利厚生制度を用意するかは企業側の裁量次第ですが、福利厚生は給与・賞与などの基本的な労働対価に加えて労働者に対して支給される”非金銭型の報酬”であることを踏まえると、基本給や賞与と同じように、同一労働同一賃金の考え方が及ぶべきです。
したがって、以下のような福利厚生などの内容は、正規雇用と非正規雇用、派遣労働者、有期雇用契約者などの雇用形態によって不合理な違いを設けてはいけませんし、合理的な理由なく雇用形態に基づく差を設けると同一労働同一賃金違反に該当すると考えられます。
- 福利厚生施設(給食施設、休憩室、更衣室)
- 転勤者用の社宅
- 慶弔休暇
- 健康診断に伴う勤務免除
- 病気休職など
3.同一労働同一賃金実現に役立つ制度
事業主と労働者との間には力関係があるので、同一労働同一賃金実現を完全に事業主の裁量に委ねるのは危険です。
そこで、同一労働同一賃金実現に向けて、以下の制度・方法が強化されています。
- 説明義務の強化
- 裁判外紛争解決手続の整備
(1)説明義務
事業主には、非正社員に対して、待遇差についての合理的説明を提供する義務が課されました。
非正社員から説明を求められたのに無視する、説明を求められた事項について合理的な理由を提示できないなど、説明義務違反が発生したとしても罰則等が科されることはありませんが、待遇差が不合理である場合には、非正社員から損害賠償請求をされるリスクがあります。
(2)裁判外紛争解決手続(行政ADR)
これまで述べた同一労働同一賃金の違反については、事業主が自主的な解決をするよう義務付けられています。
それでもなお解決しないときは、裁判外紛争解決手続(行政ADR)を利用できます。
都道府県労働局が紛争解決のための援助を行うこととされています。
同一労働同一賃金について不満がある場合には、総合労働相談コーナーや都道府県労働局・労働基準監督署などの行政機関までご相談ください。
まとめ
同一労働同一賃金の導入によって、非正社員の待遇格差は改善されれば、多様な働き方を選択できることになります。
非正社員は、正社員との間に不合理な差別があると感じる場合は、事業主に説明を尽くすように求め、納得できない場合には労働基準監督署に相談しましょう。
一方で、事業主は、同一労働同一賃金を適切に運用しなければ、さまざまな法的リスクに晒されます。
非正社員の待遇が改善されれば、働き手が増えたり、士気があがったりして、企業・団体にとっても大きなメリットが生じるでしょう。
事業主は、顧問弁護士などから助言を得ながら、違法を生じないような社内体制整備を目指してください。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています