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36協定違反は常に報告義務あり?罰則回避のポイントと弁護士活用のメリットを解説
36協定は労働者の時間外労働及び休日労働に関する重要な決まり事であり、36協定違反が生じた場合には企業側に重いペナルティが科されます。
ただし、36協定違反が生じたからと言って常に企業側に報告義務が課されるわけではないので、36協定違反が生じても迅速かつ適切な対応をすればペナルティの回避・軽減が可能です。
そこで今回は、
- 36協定違反発生時の報告義務の在り方
- 報告義務の対象になる36協定違反の事例
- 36協定違反を予防するための対策
などについて分かりやすく解説します。労働基準法違反に対するリスクヘッジは企業の社会的評価を大きく左右するものなので、この機会に労使管理の在り方などを再度見直しましょう。
1.36協定違反時の報告義務について
36協定違反は「6カ月以下の懲役刑または30万円以下の罰金刑」の罰則の対象です(労働基準法第119条第1号)。
ただし、36協定違反を理由に罰則が科されるには、36協定違反が労働基準監督署に発覚するのが大前提となる点に注意しなければいけません。
つまり、36協定違反に関する報告義務の有無次第では、労働基準監督署に報告せずに自社内だけで36協定違反トラブルについて対応できるということです。
そこで、36協定違反発覚時の報告義務の有無という観点から、どのような流れで36協定義務違反に対する手続きが進められ、また、36協定違反に対する改善を行うべきかについて解説します。
(1)原則として36協定違反について企業側に報告義務は課されない
社内調査や労務管理体制の見直しなどのタイミングで、会社自身が社内における36協定違反の労働実態を把握するケースは意外と多いです。
「労働者の労働時間に関する厳格なルールである『36協定』に違反したのだから、正直に労働基準監督署や厚生労働省に報告して、違法状態の是正を目指すのが筋だろう」と考える方も少なくはないでしょう。
しかし、このようなケースにおいて、会社側に36協定違反発生に関する報告義務が課されることはありません。
つまり、会社が自分自身で36協定違反を発見した場合には、自主的に従業員と交渉を進めて違法状態の改善・是正をし、未払いの残業代等の支払いを済ませることによって、36協定違反トラブルを社内の問題として解決する余地があるということです。
(2)例外的に36協定違反について報告義務が生じるケース
労働者は、自分が勤続する事業所において36協定違反の事実がある場合、その事実をいつでも厚生労働省や労働基準監督官に申告することができます(労働基準法第104条第1項)。
また、労働基準監督署が実施する臨検監督(臨検)によって事業所における36協定違反が発覚することもあるでしょう。(同法第101条第1項)。
このように、社内における36協定違反が労働基準監督署に発覚して、厚生労働省または労働基準監督官から36協定違反に関して必要事項の報告を求められた場合には、会社側に報告義務が発生します(同法第104条の2)。
そして、厚生労働省または労働基準監督官に対する報告義務を無視したり、虚偽の報告をしたりした場合には、「30万円以下の罰金刑」が下されます(同法第120条第5号)。
2.報告義務の対象になる36協定違反の具体例
以下のような36協定違反が労働基準監督署に発覚した場合、報告義務が課されたうえで罰則の対象になる可能性が高いです。
- 36協定に関する手続きを履践していないケース
- 36協定一般条項に違反する労働実態があるケース
- 36協定特別条項に違反する労働実態があるケース
(1)36協定を締結していない場合、届出なしの場合
従業員に「1日8時間、1週間40時間」を超える時間外労働・休日労働をさせるには36協定の締結が不可欠ですが、36協定が適法なものとして当該事業所に適用されるには、以下の手続き要件を満たす必要があります。
- 労使間で書面による合意に至っていること(労働組合もしくは労働者の過半数を代表する者と使用者間)
- 会社全体ではなく事業所ごとに36協定が締結されていること
- 所管労働基準監督署長宛に36協定を届け出ていること
- 36協定に関する事項を労働者に周知していること
これらの要素を欠いた状態で従業員に時間外労働・休日労働をさせてしまった場合、労働基準監督署から説明を求められると報告義務が生じます。
(2)36協定の上限規制を超えた労働実態がある場合
36協定の一般条項を締結した場合でも、従業員が従事できる時間外労働・休日労働の上限時間は「1カ月につき45時間まで、1年につき360時間まで」という制約が課されています(労働基準法第36条第4項)。
したがって、36協定を締結した場合においてこれらの時間制限を超過した労働実態がある場合、労働基準監督署から報告を求められた場合には、就労実態等に関して報告義務が生じるでしょう。
なお、「1カ月につき45時間まで、1年につき360時間まで」という36協定一般条項の上限規制の範囲内の労働時間であったとしても、実際に36協定で規定されている時間外労働・休日労働の範囲を超える労働実態がある場合には、36協定違反として労働基準監督署に対する報告義務の対象になる点にご注意ください。
(3)36協定の特別条項違反の場合
36協定では、「臨時的に残業・休日労働をさせる必要性が高まったとき」を対象として、以下の範囲で時間外労働・休日労働の上限時間を拡張するための特別条項を定めることができます(労働基準法第36条第5項)。
- 時間外労働時間の総計が年720時間を超えない
- 時間外労働と休日労働の合計時間が月100時間未満
- 時間外労働と休日労働の合計時間が2カ月~6カ月平均でそれぞれ月80時間を超えない
- 時間外労働時間が月45時間超になっても良いのは年6カ月まで
したがって、「臨時的に残業や休日労働をさせる必要性が高まった場合」に該当しないのに36協定の特別条項の条件で過大な労働時間を強いた場合や、特別条項の上限労働時間を超える労働実態を強いた場合には、36協定違反として労働基準監督署に対する説明義務が課されるリスクに晒されます。
3.36協定違反に関する報告義務への対処法
(1)36協定の届出関係の手続きは適切に履践する
36協定などの就業規則に関する手続きはかならず適切に履践するように心掛けましょう。
弁護士などの専門家に相談すれば現行の就業規則のチェックから届出の手続きに至るまで対応してくれるので、適宜ご相談ください。
(2)従業員の労働時間などの適正管理に努めて36協定違反を予防する
36協定違反を生じないためには、充実した労務管理体制を整えたうえで日常的に勤怠状況を管理する必要があります。
また、過度な労働時間が発生しないように、普段から業務効率化や適正な人員配置も心掛けるべきでしょう。
企業法務を専門に扱う弁護士へ相談すれば、バックオフィス環境の構築アドバイスを期待できるだけではなく、36協定違反を未然に予防できるので、定期的に専門家の知見をお役立てください。
(3)36協定違反が生じた場合には自社内ですぐに改善する
万が一36協定違反の労働実態が発生してしまった場合、自社内で速やかに察知することが重要です。
弁護士に相談すれば、36協定違反状態の改善策を提示してもらえるだけではなく、違法な就労実態で勤務している従業員と話し合いの場を設けて、合意による労使紛争の解決を目指せるでしょう。
(4)36協定違反に関する報告要請には誠実に対応する
36協定違反について労働基準監督署から報告を求められた場合には、可能な限り誠実に対応するのが重要です。
なぜなら、報告段階で36協定違反を適正に是正できれば、罰則や社名公表などの重いペナルティを回避できる可能性があるためです。
弁護士に相談すれば、労働基準監督署への報告内容に関するアドバイスを期待できるだけではなく、労基署の理解を得るための改善策を提示してもらえるでしょう。
まとめ
36協定違反は労働者の権利を侵害する重大事案なので、労働基準監督署が介入する事態に発展すると、報告義務の履践や改善策の提示などの多大なコストを費やす必要に迫られます。
したがって、企業基盤を強固なものにしながら順調な経営を目指すなら、普段から従業員の労働時間等について適切に管理・チェックする体制の整備が不可欠だと考えられます。
企業法務や労使紛争に強い弁護士に相談すれば、36協定違反を未然に防ぐための体制構築についての助言を期待できるので、この機会に外部専門家への相談をご検討ください。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています