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未払い残業代請求への対策とは?トラブルを無視するリスクと弁護士へ相談するメリットを解説
従業員から未払い残業代を請求されたときには即時の対応を要します。
なぜなら、未払い残業代の請求への対応が遅れると、労働審判や訴訟に発展して紛争が長期化するだけでなく、刑事罰が科されたり労働基準監督署による立ち入り検査への対応を強いられたりするからです。
ただし、従業員からの未払い残業代請求をそのまま認諾する必要はありません。
会社側で残業代を再計算し、消滅時効・みなし残業代支給などの反論を検討しつつ、相手方と丁寧に交渉を進めるべきでしょう。
そこで今回は、
- 従業員から未払い残業代を請求されたときの対処法
- 未払い残業代に関するトラブルを放置するデメリット
- 未払い残業代を請求されたときに弁護士へ相談するメリット
などについてわかりやすく解説します。
未払い残業代に関するトラブルは論点が複雑で紛争が長期化するリスクを抱えているので、労使紛争に強い弁護士へご相談のうえ、早期解決を目指してください。
1.未払い残業代を請求されたときの対処法
従業員から残業代の未払い分を請求されたときに検討するべきポイントは以下3つです。
- 請求された未払い残業代が正確な金額かを再計算する
- 従業員からの未払い残業代の請求に対する反論を用意する
- 残業代未払いトラブルが発生しないように労務管理体制を抜本的に見直す
(1)従業員が請求する未払い残業代が正しいかを計算する
最初に、従業員から未払い分の残業代を請求されたときには、勤怠記録やタイムカードなどのデータを参考に、請求金額が正確かを確認する必要があります。
というのも、残業時間や残業代の割増賃金については労働基準法で細かくルールが定められているので、従業員側からの請求内容に誤りがある可能性も否定できないからです。
企業側に残業代の支払い義務が生じる場面及び残業代の金額は、以下のルールによって定められます。
- 「法定労働時間を超える時間外労働」に対して残業代として割増賃金を支払う必要がある
- 法定外労働時間の発生区分によって、残業手当として以下の割増率が個別に定められている
残業代が発生するシチュエーション | 割増率 |
時間外労働(1日8時間、週40時間を超える部分) | 25% |
深夜労働(22時~翌5時) | 25% |
休日労働(週1日、もしくは4週を通じて4日) | 35% |
1カ月の時間外労働が60時間を超えた分 | 50% |
深夜残業 | 50% |
深夜時間の休日労働 | 60% |
1カ月の時間外労働が60時間を超えて、かつ、深夜労働に該当する部分 | 75% |
さらに、残業代や深夜労働・休日労働に対する手当の算定方法については、就業規則でさらに修正が加えられているケースも少なくありません。
従業員からの未払い残業代の請求内容の正誤を確認するには、労働基準法及び就業規則の正確な理解を求められるので、かならず労使紛争や労働問題を専門に扱っている弁護士までご相談ください。
(2)未払い残業代の請求に対する反論を検討する
従業員から未払いの残業代を請求されたときには、会社側で反論を用意するのも大切な作業です。
以下のような反論を準備できれば、未払い残業代の請求に根拠がないことや、支払い義務がある未払い残業代の金額を大幅に減額できるでしょう。
- 残業時間とされる勤務時間帯に労働実態がない
- 従業員が指揮監督下にないのに勝手に残業をしていた
- 当該従業員が「管理監督者」に該当する
- 固定残業手当として残業代は全額支払い済みである
- 過去の未払い残業代の全部または一部について消滅時効が完成している
いずれの反論に対しても、従業員側からの再反論が予想されるので、これらの反論を利用して未払い残業代請求について争うときには、かならず労働問題に強い弁護士までご相談ください。
①未払い残業代の請求根拠となる勤務時間帯に労働実態がない
従業員が残業時間だと主張する勤務時間帯に労働実態がないケースでは、未払い残業代の請求を争うことができます。
たとえば、タイムカードの打刻通りに従業員が未払い残業代を請求してきたとしても、当該従業員が私用・副業をしていたり、雑談で時間を潰していたりする場合には、労働実態がないことを理由に残業代の支払いを拒絶できます。
②従業員が指揮監督下にないのに勝手に残業をしていた
たとえば会社側が残業を禁止しているにもかかわらず、従業員が残業禁止の指示に反して勝手に残業をしていた場合には、残業代の未払い請求を拒否できる可能性があります。
「残業をせずに定時でタイムカードを切らなければいけない。仕事が遅れて残業が発生しそうなときには、あらかじめ管理職に仕事を引き継いで定時帰宅をすること」と指示をして、多くの従業員が実際にそのようにしているようなケースでは、当該従業員が勝手に残業をしても残業代を支払う必要はありません。
ただし、従業員の残業を事実上黙認していた場合、管理職が仕事を引き継がないケースが横行していた場合、形式的には残業を禁止していたが事実上ほとんどの従業員が日常的に残業をしていた場合などでは、残業禁止の指示が形骸化していたと評価されるので、未払い残業代の請求に応じなければいけません。
③未払い残業代を請求する従業員が「管理監督者」に該当する
「監督もしくは管理の地位にある者(管理監督者)」には割増賃金のルールが適用されないので、「当該従業員が管理監督者に該当する」という主張によって未払い残業代請求を拒絶することができます(労働基準法第41条)。
ただし、労働基準法上の「管理監督者」に該当するか否かは役職名だけで判断されるのではなく、個別事情を踏まえて以下の要件が実質的に考慮されます。
- 労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な「職務内容」を有していること
- 労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な「責任と権限」を有していること
- 「実際の勤務態様」が労働時間等の規制になじまないようなものであること
- 「賃金等の待遇面」について管理監督者にふさわしい条件が設定されていること
たとえば、役職名だけ与えられて平社員と同じような労働しかしていない「名ばかりの管理職」については残業代が発生すると判断される可能性が高いです。
逆に、役職は与えられていなくても、業務に関して指揮監督権が与えられており、それに応じて高額の給与条件を提示されているようなケースでは、「管理監督者」に該当するとして残業代の未払い請求が否定されるでしょう。
働いている時間に応じて給料をもらっているという要素が強いほど残業代を認めるべきという観点からすると、勤怠の自由があるか等も重要な要素になります。
なお、管理監督者に該当するケースでも、「深夜割増賃金」は発生する点にご注意ください。
④固定残業手当として未払い残業代は支給済みである
会社の給与支払い方法として「固定残業手当(定額残業代・みなし残業手当)」を毎月支給している場合には、従業員からの未払い残業代請求に対して「固定残業手当として残業代は支給済みである」という反論が可能です。
ただし、固定残業手当制度が有効であるためには、割増賃金に当たる部分が明確に区分されて合意されており、労基法所定の計算方法による額がその額を上回るときはその差額を当該賃金の支払い期に支払うことが合意されていないといけません。
基本給部分の計算に基づかずにいい加減に固定残業代手当を作ったり、本来は別の趣旨を含む手当を固定残業代名目にした場合、固定残業手当制度自体が無効と扱われて、従業員からの未払い残業代請求に応じなければならなくなるリスクがあります。
固定残業手当制度を有効なものとして扱うためには、就業規則や労働契約書における記載方法や、固定残業手当制度が毎月の勤務実態と乖離していない内容になっているかなどに配慮する必要があります。
制度設計・制度運用を適切に行わなければいけないので、かならず定期的に弁護士のチェックを受けるようにしてください。
⑤未払い残業代について消滅時効が完成している
未払い残業代請求権が消滅時効にかかっている場合には、消滅時効を援用することで、従業員からの未払い残業代請求に対する反論にできます。
残業代の消滅時効期間に関するルールは以下の通りです。
- 令和2年(2020年)3月以前に支給すべき残業代:給与支払い日の翌日から「2年」
- 令和2年(2020年)4月以降に支給すべき残業代:給与支払い日の翌日から「3年」
(3)勤怠管理体制・労務管理体制を見直して残業代未払いを予防する
従業員から未払い残業代の請求をされた場合には、社内の勤怠管理体制や労務管理体制を抜本的に見直してください。
特に、会社側のミスによって「残業代の未払い」が生じていた場合には、今後のトラブル回避のために、ミスなく給与を支払うことができる体制を整備する必要があります。
労働問題に詳しい弁護士に相談すれば、就業規則や労働契約書の内容チェックだけではなく、バックオフィス部門の適正化や業務効率化に役立つアドバイスを期待できるでしょう。
2.未払い残業代を放置するリスクとデメリット
従業員から未払い残業代を請求されたときには、できるだけすみやかに対策に踏み出すことを強くおすすめします。
なぜなら、未払い残業代トラブルを放置すると、会社側が以下のデメリットに晒されるからです。
- 遅延損害金の支払い負担を強いられる
- 労働審判や裁判に応じる負担を強いられる
- 付加金の支払いを命じられる
- 労働基準監督署の立ち入り検査が実施される
(1)遅延損害金が発生する
従業員からの未払い残業代請求に応じなければ、「遅延損害金」の負担を強いられます。
遅延損害金利率は以下の通りです。
- 在職中の従業員からの請求:年利率3%
- 退職後の従業員からの請求:年利率14.6%(賃確法適用の場合)
遅延損害金は延滞日数に応じて算出されるため、紛争を解決しない期間に応じて会社の経済的負担が増え続けてしまいます。
したがって、遅延損害金の負担を軽減するには早期解決が不可欠なので、すみやかに労使交渉を得意とする弁護士までご相談ください。
(2)労働審判や裁判の負担が発生する
従業員からの未払い残業代請求に対して素直に交渉に応じなければ、労働審判や民事訴訟を提起される可能性が高いでしょう。
そして、労働審判や民事裁判は裁判所が介入する法的手続きなので、決して無視することはできません(無視すると従業員側の請求が全面的に認められて、強制執行によって会社財産が差し押さえられてしまいます)。
答弁書の準備や訴訟対応にコストを要することを避けたいのなら、従業員から未払い残業代の請求が行われた時点で直接交渉の場を設けて、当事者間の合意を前提とした民意的解決の糸口を探るべきです。
そして、示談交渉・和解交渉を円滑に進めるには、労働問題に詳しい弁護士の代理が不可欠でしょう。
(3)付加金を科される
従業員からの未払い残業代請求を放置し続けると、裁判所から「付加金」の支払いを命令される可能性があります(労働基準法第114条)。
付加金とは、「時間外労働などの割増金の支払い義務に違反した企業に対して科されるペナルティ」のことで、未払い額と同額までの付加金の支払い義務が生じます。
たとえば、未払い残業代が100万円ある場合には、最大100万円までの付加金がさらに上乗せされるということです。
付加金の支払いを回避するには、民事訴訟での判決に至る前に、未払い残業代トラブルを解決する必要があります。
早期の段階で弁護士に代理してもらい、従業員との間で円滑な合意形成を目指すべきでしょう。
(4)労働基準監督署の立ち入り検査で他の違法行為が発覚する
残業代の未払いについて従業員が労働基準監督署に通報すると、労基署からの立ち入り検査が実施される場合があります。
労基署による立ち入り検査ではさまざまな書類や勤務実態等について調査が入るので、残業代の未払い以外の労使トラブルが発覚する可能性も否定できません。
労働問題や労働基準法違反が芋づる式に明らかになることを回避したいなら、できるだけ早いタイミングで弁護士に調査に入ってもらいましょう。
まとめ
未払い残業代問題は他の従業員にも派生するリスクがあります。
そのため、従業員から未払い残業代を請求された場合には、当該従業員への対応だけではなく、現在の社内体制を抜本的に見直す必要があります。
社内の労働基準法違反を早期発見して、労基法違反を予防する勤怠管理体制を構築するには、労働問題や内部体制構築に精通したプロのサポートが不可欠です。
すみやかに弁護士に相談のうえ、社内リスク除去に向けて動き出してもらいましょう。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています