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是正勧告に従わないとどうなる?弁護士に相談するメリットを解説
労働基準監督署の是正勧告に従わないと、是正勧告の根拠になっている法令違反を理由に刑事事件化する恐れがあります。
また、違法状態を是正しないままだと、従業員との間での民事トラブルも深刻化しかねません。
したがって、労働基準監督署からの是正勧告は決して無視してはならず、労働基準法違反などの法令違反を可能な限り早いタイミングで改善する必要があります。
そこで今回は、労働基準監督署から是正勧告書を受け取った経営者の方のために、以下の事項について分かりやすく解説します。
- 是正勧告書とは
- 是正勧告に従わないとどうなる?
- 是正勧告への対処法
- 是正勧告が下される流れ
是正勧告の内容を踏まえた改善策を講じるには、専門家の支援が効果的です。
ぜひ企業法務に強い弁護士へ相談のうえ、是正報告書の作成や今後想定される従業員との示談交渉などに向けたアドバイスを求めてください。
1. 是正勧告とは
まずは、以下の内容に沿って、是正勧告の法的性質や是正勧告が下されるケースなど、前提知識について解説します。
- 是正勧告は行政指導のこと
- 是正勧告が下される一覧
- 是正勧告と指導票の違い
(1)是正勧告は行政指導のこと
是正勧告とは、「労働基準監督署の調査(臨検監督)の結果、企業が労働基準法違反などの法令違反を生じていることが判明した場合に、労働基準監督署から下される『行政指導』」のことです。
そして、行政指導とは、「行政機関が一定の行政目的を達成するために特定の者に一定の作為・不作為を求める指導・勧告・助言その他の行為であって、行政処分に該当しないもの」を意味します(行政手続法第2条第6号)。
つまり、行政指導である是正勧告には一切強制力が存在しないので、企業側は是正勧告に応じるかどうかを自由に決定できるということです。
また、仮に是正勧告に従わなかったとしても、それを理由にペナルティや不利益な扱いを受けることはありません(行政手続法第32条各項)。
(2)是正勧告が下される一覧
労働関係法令(労働基準法・労働安全衛生法・最低賃金法・家内労働法・じん肺法・賃金の支払の確保等に関する法律など)では企業側が遵守すべきさまざまな規制が定められています。
そして、是正勧告は「労働関係法令などの法令違反」が存在する場合に発されるものです。
例えば、是正勧告が下される具体例として、以下のケースが挙げられます。
- 労働時間に関する違反(36協定違反の労働実態があるなど)
- 賃金未払いに関する違反(残業手当の上乗せ分を適切に算定していないなど)
- 労働契約・就業規則に関する違反(就業規則の手続きに瑕疵がある、周知方法に問題があるなど)
- 年次有給休暇に関する違反(違法に有給休暇を取得した形跡があるなど)
- 最低賃金に関する違反(最低賃金を下回る賃金条件を設定しているなど)
- 健康診断に関する違反(定期健康診断を実施していないなど)
- 帳簿関係に関する違反(法定三帳簿の保管期間を遵守していないなど)
(3)是正勧告と指導票の違い
労働基準監督署が臨検監督を実施した結果、「是正勧告書」ではなく「指導票」が発されることがあります。
指導票とは、「事業所に明確な法令違反は存在しないものの、法令違反の疑いがある場合や従業員の安全面などを考慮すると経営上改善すべき点がある場合」を対象とする書面です。
「明確な法令違反がある場合」を対象とする是正勧告と違って、指導票は「明確な法令違反は存在しないが改善点がある場合」を対象とするものです。
なお、是正勧告書も指導票もどちらも行政指導に分類されるので、理屈上は、労働基準監督署の指導票を無視してもペナルティが課されることはありません。
2. 是正勧告に従わないとどうなる?
是正勧告自体に法的拘束力はありません。
しかし、是正勧告に従わないと、現実問題として次のようなデメリットが生じる可能性があります。
- 是正勧告が繰り返される
- 刑罰が科される可能性が高まる
- 従業員との間で民事トラブルが生じる可能性が高まる
- 企業名公表のリスクに晒されかねない
(1)是正勧告が繰り返される
労働基準監督署が法令違反を発見して是正勧告を下された場合、企業側は是正報告書の提出を求められます。
上述のように、労働基準監督署の是正勧告は行政指導に過ぎないので従う必要はありません。
しかし、是正勧告に従わないまま是正報告書の未提出状態が継続すると、繰り返し臨検監督が実施される可能性が高まります。
労働基準監督署の立ち入り検査が実施されるときには、会社代表や部門担当者などが常に対応を強いられます。
労基対策に時間・労力を奪われると、通常業務にも支障が生じかねません。
(2)刑罰が科される可能性が高まる
労働基準監督署の是正勧告は「法令違反」を前提として下されます。
つまり、是正勧告に従わない状態が続くと、各労働関係法令違反を理由に刑罰を科される可能性が高まるということです。
例えば、残業代の不払いは、「6カ月以下の懲役刑または30万円以下の罰金刑」という法定刑が定められている犯罪です(労働基準法第119条)。
そして、企業側が法令違反を犯している場合、労働基準監督官には司法警察官の職務権限が与えられるので、捜査活動だけではなく、強制処分である逮捕・勾留や、起訴などが実施される可能性も否定できません(労働基準法第102条)。
(3)従業員との間で民事トラブルが生じる可能性が高まる
労働基準監督署の是正勧告に従わない状態が続くと、従業員との間での民事トラブルが深刻化する可能性が高まります。
例えば、労働基準監督署に密告した従業員との間での残業代未払い問題を早々に解決しなければ、他の従業員との間でも示談交渉や損害賠償請求訴訟に対応する必要があります。
また、是正勧告の内容を改善するタイミングが遅れるほど、解決金・慰謝料・遅延損害金などの金額が高騰して企業経営に悪影響が生じかねません。
(4)企業名公表のリスクに晒されかねない
是正勧告に従わずに深刻な労働関係法令違反状態を継続する企業に対しては、「企業名公表」というペナルティが科されることがあります。
企業名公表では、厚生労働省HPに違反事実と企業名がセットで掲載されます。
つまり、一度でも企業名を公表されると、将来にわたって企業の社会的信用を毀損する情報がインターネット上に残り続けるということです。
企業名が公表されることによるデメリットは以下の事項が挙げられます。
- 社会的評価が失墜する
- 株価や企業価値が下落する
- 業績や売上げが低下する
- 所属従業員のモチベーション低下、離職者が増加する
- 優秀な人材が集まりにくくなる
- 新規事業に挑戦しにくくなる
3. 是正勧告への対処法
労働基準監督署の是正勧告への対処法は次の3つです。
- 労働基準監督署の調査に対する事前準備を怠らない
- 労働基準監督署から指摘を受けた内容を精査する
- 是正勧告をめぐるトラブルの穏便解決を目指して弁護士に相談する
(1)労働基準監督署の調査に対する事前準備を怠らない
労働基準監督署の臨検監督の実施日は事前に予告されるのが一般的です。
そのため、労働基準監督署の調査へスムーズに対応するには、入念な事前準備が必要になります。
労働基準監督署の臨検対策用の事前準備として以下のものが挙げられます。
- 労働基準監督署の聴取に向けて社内で想定問答を実施する
- 労働基準監督署側から提出を求められた書類を準備する(就業規則・労働者名簿・タイムカード・36協定など)
- 客観的な資料に表れていない主張すべき事実関係がある場合にはこれらの情報をまとめておく
(2)労働基準監督署から指摘を受けた内容を精査する
労働基準監督署の臨検監督の結果、是正勧告書が交付された場合には、指摘内容を精査したうえで丁寧な対策が必要です。
是正勧告書には「違反事項・指示内容・改善対応の期限」が記載されています。
期日までに必要な改善策を講じて労働関係法令違反状態を是正しなければ再度立ち入り検査が実施されたり民事・刑事紛争に発展する可能性が高まったりするので、必ず是正勧告には従うようにしてください。
(3)是正勧告をめぐるトラブルの穏便解決を目指して弁護士に相談する
労働基準監督署の立ち入り検査を経て是正勧告が下された場合には、労働紛争や企業法務に強い弁護士に相談することを強くおすすめします。
なぜなら、是正勧告が下された段階で弁護士に相談することで、以下4点のメリットを得られるからです。
- 刑事事件化を防ぐために是正勧告に記載された改善点を精査してくれる
- 是正勧告に従うための具体的な改善策を提示してくれる
- 従業員との示談交渉や民事訴訟に向けた対策を実施してくれる
- 今後是正勧告が実施されないような健全な社内体制構築に向けたアドバイスを提供してくれる
是正勧告の対象になるような事象が発生した場合、「違法状態の除去」「違法問題の予防に向けた体制構築」の2点を同時並行的に検討しなければいけません。
企業側の弁護に強い専門家は企業経営に役立つさまざまなノウハウを有しているので、出来るだけ早いタイミングでご相談ください。
4. 是正勧告が下される流れ
是正勧告が下される流れは以下の通りです。
- 労働基準監督署からの事前調査予告
- 労働基準監督署による調査
- 法律違反が存在する場合に是正勧告書が交付される
- 期限までに是正報告書を提出する
(1)労働基準監督署からの事前調査予告
労働基準監督署が立ち入り調査を実施する場合、事前に調査日時が予告されることが多いです。
これは、臨検監督当日の調査をスムーズに行うためです。
立ち入り検査当日までに必要書類などの準備を行いましょう。
なお、労働基準監督署の立ち入り検査は、事前予告なく突然実施されることもあります。
臨検監督自体を拒絶することはできません。
(2)労働基準監督署による調査
労働基準監督署の調査は以下4種類に分類されます。
項目 | 詳細 |
定期監督 | ランダムに抽出された企業を対象に実施される立ち入り検査 |
申告監督 | 従業員からの通報・相談をきっかけに実施される立ち入り検査 |
災害時監督 | 労災事故が発生したときに原因究明目的で実施される立ち入り検査 |
再監督 | 初回の臨検監督実施後に改善状況を確認する目的で実施される立ち入り検査 |
(3)法律違反が存在する場合に是正勧告書が交付される
労働基準監督署の臨検監督によって労働関係法令違反が発覚すると、是正勧告が下されます。
また、法令違反以外に改善すべき点が存在する場合には、是正勧告書と同時に指導票が交付されることもあります。
(4)期限までに是正報告書を提出する
是正勧告書には「改善期限」が記載されているので、指定期限までに是正報告書を提出してください。
是正報告書に決まったフォーマットは存在しません。
ただし、改善内容を踏まえた適切な報告書を作らなければ再臨検への対応を強いられます。
そのため、可能な限り是正勧告が下された時点で弁護士に相談し、是正報告書の作成を依頼することをおすすめします。
まとめ
是正勧告に従わないと刑事事件・民事事件双方の法律トラブルに発展する可能性が高まります。
例えば、違反内容次第では企業経営に支障が出るほどの賠償責任を問われかねません。
したがって、労働基準監督署から是正勧告が下された場合には、誠実な対応が不可欠です。
当サイトで紹介している企業法務に特化した弁護士に相談すれば、是正勧告への適切な対応を期待できるので、速やかにお問い合わせください。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています