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団体交渉権の行使は拒否できる?誠実交渉義務と弁護士活用法を解説
団体交渉権は従業員・労働組合に与えられた法律上の権利なので、企業側は原則として団交の申し出を拒否できません。
ただし、すべての団体交渉権行使に対して絶対的に応諾義務・誠実交渉義務が課されるわけでもありません。
なぜなら、正当な理由なく団体交渉を拒否することは不当労働行為として禁止される一方で、正当な理由があれば団体交渉を拒否することは可能だからです(労働組合法第7条第2号)。
そこで今回は、労働組合から団体交渉を通知された経営者の方のために以下の事項について分かりやすく解説します。
- 団体交渉は原則拒否できない
- 団体交渉を拒否できる例外的場面
- 団体交渉を申し入れられたときに弁護士へ相談するメリット
団体交渉が長期化すると企業経営自体に支障が生じかねません。
出来るだけ早いタイミングで労働問題に強い弁護士へ相談して、団体交渉における早期和解契約を目指しましょう。
1. 団体交渉は原則拒否できない
団体交渉の申し入れは原則として拒否できません。
ここでは以下の内容に沿って団体交渉の法的性質、団体交渉を拒否したときのペナルティについて解説します。
- 企業側には団体交渉に応じる義務が課されている
- 団体交渉を拒否すると罰則が科される
- 団体交渉を拒否すると賠償責任を問われる可能性もある
- 元従業員による団体交渉も拒否できない
(1)企業側には団体交渉に応じる義務が課されている
そもそも、団体交渉とは、「労働組合の代表者や労働組合の委任を受けた者が、労働組合や組合員のために、使用者や企業との間で、労働協約の締結その他の労働契約に関する事項について交渉をすること」です。
そして、団体交渉権は日本国憲法第28条及び労働組合法第6条において、具体的な法的権利として認められています。
この裏返しとして、企業側には団体交渉に対する応諾義務・誠実交渉義務が課されています。
つまり、「使用者は、雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由なく拒否することは許されない」ということです(労働組合法第7条第2号)。
したがって、労働組合から団体交渉を申し入れられたときには、原則として企業側は団体交渉に応じる義務が課されていると言えるでしょう。
(2)団体交渉を拒否すると罰則が科される
従業員側からの団体交渉権の行使を不当に拒否すると、労働組合側が労働委員会に救済を求める可能性があります(労働組合法第27条第1項)。
そして、労働委員会における審査の結果、団体交渉権の拒否が不当労働行為に該当すると判断された場合には、労働委員会から救済命令等が下されます(労働組合法第27条の12第1項)。
例えば、「労働組合からの団体交渉に誠実に対応しなければいけない、拒否してはいけない」という趣旨の救済命令が出るのが一般的です。
まず、労働委員会による救済命令が出された後、この判断に対して再審査請求や取消訴訟といった不服申立てがなされなかった場合、救済命令が確定し、これに従うべき義務が生じます。
それにもかかわらず、この命令に違反した場合には、「50万円以下の過料(緊急命令が作為を内容とするときには、命令の日の翌日から起算して不履行の日数が5日を超える場合、その超過日数1日につき10万円の割合で算定した金額を加算)」が科されます(労働組合法第32条、同法第27条の20)。
また、救済命令に対して取消訴訟を行った場合でも、最終的に取消しが認められずに救済命令が支持されることはあります。
そのような過程で救済命令が確定したにもかかわらず、なお救済命令に違反して更に団体交渉権を違法に侵害する状態が継続すると、「1年以下の禁錮刑もしくは100万円以下の罰金刑、または併科」の範囲で刑事罰が科されます(労働組合法第28条)。
このように、取消訴訟を経て救済命令が確定した場合、取消訴訟を経なかった場合と比べ、違反した際の罰則が重くなっているので注意が必要です。
(3)団体交渉を拒否すると賠償責任を問われる可能性もある
従業員側からの団体交渉権の行使を拒否したことによって労働組合や従業員に何かしらの損害が生じた場合、債務不履行に基づく損害賠償責任(民法第415条)、不法行為に基づく損害賠償責任(民法第709条)を追及される可能性があります。
例えば、団体交渉を拒否したうえで従業員に対して懲戒処分を下したときや、団体交渉の通知を無視したときには、民事裁判を経て高額な金銭賠償を強いられかねません。
(4)元従業員による団体交渉も拒否できない
団体交渉権を行使できるのは雇用関係継続中の従業員だけではない点に注意が必要です。
例えば、元従業員が退職後に労働組合・ユニオンなどに加入して団体交渉権を行使してきた場合、「雇用関係にないから」という理由でこれを拒否すると不当労働行為として刑事罰や民事責任を問われかねません。
団体交渉を拒否できるか否かを企業側だけで安易に判断するのは危険です。
必ず労働紛争に強い弁護士に誠実交渉義務を果たすべきか否かについてご相談ください。
2. 団体交渉を拒否できる例外的場面
「正当な理由」があるときには、団体交渉権の行使を拒否しても不当労働行為に該当しません。
団体交渉を拒否しうる例外的な場面の例として、以下6つが挙げられます。
- 複数回の団体交渉によって和解に至っていない場合
- 平和な団体交渉を期待できない場合
- 子会社従業員や関連会社従業員から団体交渉を申し入れられた場合
- 弁護士を代理人として参加させることを労働組合側が拒否した場合
- 感染症対策などの正当な理由がある場合
- 交渉内容が任意的団交事項に該当する場合
(1)複数回の団体交渉によって和解に至っていない場合
団体交渉は1回限りの交渉で和解に至ることもあります。
その一方で、企業側・労働組合側の提示する条件に乖離があり、妥協点を見出せない場合には複数回の団交期日が設けられるケースも少なくありません。
そして、複数の団体交渉を重ねても交渉が平行線のままなら、これ以上話し合いの場を設ける必要性は低いので、団体交渉を拒否する正当な理由があると言えます。
なお、「話し合うことに意味はない」と企業側が勝手に判断すると不当労働行為に該当すると反論されかねないので、交渉を打ち切るタイミングについては適宜弁護士の判断を仰ぐべきでしょう。
(2)平和な団体交渉を期待できない場合
団体交渉で暴力行為や威嚇行為がある場合には、企業側の参加者に危害が加えられるリスクが生じます。
このように、平和な話し合いを到底期待できないときには、団体交渉を拒否する正当な理由があると言えるでしょう。
なお、労働組合側から暴力行為等の防止措置が提示されたなら、それ以後の団体交渉権行使には応じる必要があります。
(3)子会社従業員や関連会社従業員から団体交渉を申し入れられた場合
子会社従業員や関連会社従業員からの団体交渉権の行使は拒否しても不当労働行為に該当しません。
なぜなら、親会社には子会社の雇用条件等に対する直接的な権限が存在しないからです。
子会社従業員は子会社に、関連会社従業員は関連会社に対して団体交渉権を行使するのが本来の姿でしょう。
(4)弁護士を代理人として参加させることを労働組合側が拒否した場合
団体交渉当日にどのような人物を同席させるかは双方の自由です。
例えば、円滑な団体交渉実現のために企業側が自社の顧問弁護士などの専門家の同席を希望することは何ら否定されるものではありません。
したがって、労働組合側が弁護士同席の団体交渉に応じない場合には、正当な理由があることを理由に団交を拒否することが可能です。
(5)感染症対策などの正当な理由がある場合
感染症対策など、団体交渉参加者の健康に配慮する必要があるケースでは、例外的に団体交渉を拒否することが可能です。
ただし、新型コロナウイルス感染症やインフルエンザなどの場合、参加者の数を厳選したり、パーテーションや換気設備を整えることによって団体交渉を実施することは難しくありません。
また、感染状況次第では、リモートの方法で話し合いの場を設けることも可能です。
したがって、「感染症対策の必要があるから」という理由だけで団体交渉を無期限で拒否し続ける対応は不当労働行為に該当するリスクがあるため、適宜弁護士と相談のうえ、現実的な開催方法を模索するべきでしょう。
(6)交渉内容が任意的団交事項に該当する場合
労働組合側が団体交渉の議題として選定したトピックが「任意的団交事項」に該当する場合、企業側には団体交渉に応じる義務はありません。
したがって、正当な理由の有無とは無関係に、団体交渉権の行使を拒否することができます。
なお、任意的団交事項・義務的団交事項に該当するテーマはそれぞれ以下の通りです。
事項名 | 詳細 |
義務的団体交渉事項 | ・賃金、退職金に関する問題
・各種手当に関する問題 ・労働時間や残業時間に関する問題 ・休憩時間、休日、有給休暇に関する問題 ・労働災害の補償に関する問題 ・教育訓練制度に関する問題 ・職場などの安全衛生に関する問題 ・団体交渉や争議行為の手続きに関する問題 ・配置転換や部署異動に関する問題 ・就業規則の懲戒規定の内容、実際の懲戒解雇処分などに関する問題 |
任意的団体交渉事項 | ・使用者に直接的には関係のない他社の労働条件に関する問題
・経営戦略や生産方法などの具体的な決定に関する問題 ・施設管理権に関する問題 ・他の労働者のプライバシーを侵害するリスクがある問題 |
3. 団体交渉を申し入れられたときに弁護士へ相談するメリット
労働組合側が団体交渉権を行使してきたときには速やかに弁護士までご相談ください。
なぜなら、労働紛争に強い弁護士へ相談することで、以下3つのメリットを得られるからです。
- 冷静な交渉によって和解成立を目指すことができる
- 議事録作成や録音によって今後の紛争に向けた準備をしてくれる
- 団体交渉を申し入れられない環境整備に向けてアドバイスをしてくれる
(1)冷静な交渉によって和解成立を目指すことができる
弁護士に依頼をすれば、労働組合側との冷静な話し合いによって団体交渉に対応し、早期の和解成立を実現できます。
そもそも、団体交渉は労働組合と企業側の利害が明白に対立する場面です。
場合によっては団体交渉当日に相当の紛糾が予想されるため、当事者同士がヒートアップすると交渉自体が困難になりかねません。
弁護士同席のうえで団交当日を迎えることができれば、労働組合側の条件を汲み取ったうえで、現実的かつ企業側に有利な条件を落としどころとする合意形成の確率が高まるでしょう。
(2)議事録作成や録音によって今後の紛争に向けた準備をしてくれる
団体交渉で和解成立が難しい場合には、労働委員会への申し立てや労働審判・民事訴訟などのステージに紛争が移行しかねません。
その際には、団体交渉当日の交渉内容などを証拠として活用する必要に迫られます。
弁護士は議事録の作成・録音などの方法によって、今後想定される紛争に向けて先手を打った準備活動に専念してくれるでしょう。
(3)団体交渉を申し入れられない環境整備に向けてアドバイスをしてくれる
労働組合側が団体交渉権を行使するのは、現在の就労条件や労働契約の内容等について不満を抱えているからです。
これを言い換えれば、従業員が不満を感じにくい環境を事前に整備しておけば、団体交渉を申し立てられるリスクを回避・軽減できるということです。
労働紛争に強い弁護士は、安定的な企業経営に資する環境整備のノウハウを有しています。
就業規則の在り方や平時の経営状況などについて、定期的に弁護士のチェックを入れておくことを強くおすすめします。
まとめ
労働組合側からの団体交渉権行使は原則として拒否できません。
団体交渉の申し入れを受けたときには、「どうすれば拒否できるか」ではなく、「誠実に対応して早期の合意形成を実現すること」に主眼を置いた対策が必要です。
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団体交渉に向けた準備活動や団体交渉決裂後の対応などのフルサポートを期待できるので、出来るだけ早いタイミングで信頼できる弁護士までお問い合わせください。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています